第25話 おしっこの先にあるモノ
ジョンたちと一時的に分かれ、ミレイは一人で赤い泉を回るように進み、──その動きは歩く、ではなく木々や岩々の間を最短の動きで跳び回るように移動し──丁度木々がより密集し離れた所からは見えない位置で足を止めた。
そこは既にジョンたちがいた場所からは1km以上は離れている。そしていっそう巨大な木の裏に目を向け、口を開いた。
「出てきて」
その一言の後、数秒間沈黙が場を支配する。しかしミレイは大木から一切視線をそらさない。
埒があかないと思い、暗黒剣に手をかけた時、大木の後ろから二つの人影が姿を現す。
「驚きましたね、我々の気配に気がつくとは。出来ればやり過ごさせてもらおうと思ったのですが」
その内の一人、黒いローブに身を包んだ男がミレイに向かって賞賛の入った言葉を贈る。
「……貴方には用はない」
しかしその男の言葉を切って捨てるようにミレイは一蹴した。
ローブの男はそれに対し、顔色一つ変えることなく再び口を開く。
「これは大層な御挨拶で……ん? 金色の髪に漆黒のビキニアーマー、そして大層な暗黒剣……貴女まさか、あの暗黒女剣士ミレイ・ガーター、ですか?」
「……」
男の言葉にミレイは答えない。いや、ミレイはローブの男を見てもいない。ミレイの興味は完全にもう一人の男の方へ向いていたのだ。
そのもう一人の男、白銀の髪に、銀の鎧、羽織るマントに印字された文字までも銀色。その銀色づくしの男もまた、真剣な表情でミレイを見返していた。
「ラストクア副団長、彼女はもしや貴方の……」
黒いローブの男が銀色の騎士のほうへ問い掛ける。ラストクアと呼ばれた男は神妙な表情のまま口を開いた。
「ああ、先ほどは遠目でわからなかった。まさかここでお前と出会うとはな、ミレイ。まだお前と出会うべき時期ではなかったが」
ラストクアの言葉にミレイは視線を落とし、暗黒剣に掛けた手をわななかせる。
「……私は、貴方に会いたかった」
「ミレイ、俺はな……」
ラストクアが何かを言おうとしたが、それにかぶせるようにミレイが発狂するかのように叫んだ。
「ずっとずっと! 会いたかったッ!!」
普段寡黙なミレイが、涙を浮かべながらも鬼のような形相でかつてないほどの大声で叫ぶ。それと同時に躊躇せずに暗黒剣を抜剣した。ミレイの身体が黒い瘴気に覆われる。
《ひょー! 小娘! ようやくまともな相手を見つけたか! 我に任せておけ!》
抜剣と同時に暗黒剣が喜々と叫んだ。その様子をみてラストクアも剣を抜く。
「来るぞ! グリマルド! お前は下がれ!」
声をかけられた黒のローブの男、グリマルドは言われるままに、いや言われるよりも一瞬早くその場を跳び退いた。
次の瞬間、凄まじい速度で接近したミレイの暗黒剣とラストクアの剣がぶつかり合う。
《んンッ!? 痛ってぇ! コイツは聖剣か! おい小娘! ちょいと相性が悪りーぞ!》
「勝てないの?」
暗黒剣の冷静な状況分析に、ミレイは即座に挑発するような口調で暗黒剣に問いただす。それに対して暗黒剣は舌打ちのような音を出した。そして続ける。
《あークソッ! やってやるよ! せっかくのまともな獲物だ! ウニでも栗でもトゲはあらぁ! ぶち壊してアンデッドの口直しにしてやる!》
叫びと共にミレイは再び暗黒剣を振るう。
暗黒剣の瘴気により通常以上の力と速度で相手に乱打を仕掛けるミレイ。
それに対してラストクアは、速度ではミレイにやや劣るものの、生身でありながらミレイと変わらない力、そしてミレイには無い洗礼された剣術で一歩も引かずに対応していく。
《痛で! 痛だだだだだッ! やっぱ聖剣は痛えよチクショー! 大人しく喰われやがれ!》
「並の呪いの武器ならばとっくに浄化されている物を……! 流石は『七星鬼罪武具』かッ!」
金属がぶつかり合う、音風を切る音、そして暗黒剣の悲痛な叫びをBGMに、互いに一歩も引かない凄まじい攻防が続く。
ある程度続きラストクアがやや押され出した頃、状況は動いた。
「グリマルド! 援護しろ! ただし殺すな!」
「簡単に言ってくれますね副団長、『七星鬼罪武具』を二つも身につけて正気を保っているような化け物を殺さず戦闘不能にしろ、と」
やや遠巻きに二人の戦いを眺めていたグリマルドが涼しい顔をしながらもやや機嫌を悪くし呟く。
「早くしろッ!」
「やれやれ、今回の任務でもうあまり魔法力も残っていないのですがね……」
ラストクアの命令をグリマルドはしぶしぶ了承したようだ。
右手を前にかざし、その手の平をミレイの方へ向ける。
「束縛しろ」
グリマルドの手から縄状の黒い波動がミレイに向かって放たれた。通常のミレイであればこの程度の攻撃は簡単に避けれただろう。
しかし完全にラストクアに意識を集中している今、ミレイはその波動に捉えられた。絡み付くようにミレイに被さる縄状の波動がミレイの自由を奪う。
「くっ……!」
その隙を見逃さずラストクアが聖剣の峰でミレイの脇腹を殴打した。
「か……はっ……!」
その一撃にミレイは地面を転がされる。
縄にかかり身動きが取れず骨までダメージが響いているだろうミレイに、ラストクアが剣の切っ先を向けた。
「勝負あり、だ。おとなしくしろ、ミレイ」
ミレイはその様子を歯を食いしばりながら見上げる。
聖騎士の冷静冷徹な瞳と女暗黒剣士の怒りの無念に満ちた瞳、対照的な二つの視線が交差する。
その状態での硬直が数秒続いた後、ミレイが覚悟を決めたように瞳を閉じ、そしてフッと笑った。
「吸っていいよ」
その言葉と共にミレイは、愛用の暗黒剣を自らの脇腹に突き刺した。




