第18話 レッドスケルトン
可愛いものに目がないと聞いてはいたが、まさかあれがミレイにとっての可愛いものだとは思いもしなかった。現物を見ても尚信じられない、いや、信じたくないと言う気持ちの方が強い。
ジョンは「可愛い♥」を連呼しつつスケルトンの群れに向かっていくミレイを眺めつつそう思った。いや、そもそも何かに興味をもって接しているミレイが新鮮なだけかもしれない。
「あの暗黒剣とミレイさんってなんだかんだでお似合いのカップルなのかもしれませんね」
トルトの台詞に対して、トルトの鳩尾に仕込まれた短剣が「私たちもね」とでも言いたげにカタカタと小さく鳴った。
それに気付いたジョンは不安要素がここにもあったかと人差し指で頭を掻いた。目の前でスケルトン達を斬っている暗黒剣のような存在ではないことを祈りたい。暗黒剣だけでも不安はあるのに、あの短剣まで暴れ始めたら手に負えない。まぁ、暴れてるトルトを想像出来ない訳だが。
しかし、現状を見るに、これはこれで暗黒剣も大人しくなってくれるのではないかと期待はしている。アンデッドとはいえ、大量に斬ることができるのだから、満足してくれる事もあるだろう。
ああ、それにしてもエドガーと旅をしていた日々が懐かしい。あの頃の穏やかさたるや。今やミレイは「可愛い」と叫んで、スケルトンを破壊するマシーンと化しているし、トルトも色々と呪われてるし、かなりろくでもない状態になっている。
俺の気持ちの何を察したのかわからないが、トラヴィスが自信ありげに親指を立てている。いや、君もだよ?普通こんな所に裸で来ないし、そんなに武器を大量に持たないからね?
ジョンは適当に腕を組みつつ、自分の事を棚に上げてしょうもない事を考えていた。
「あの暗黒剣どうにかしてくださいよ。私の仲間が殺されまくってるじゃないですか」
「あんなの止める勇気はないな。そんなこと言うならお前が行ってこいよ。ん?おい、私の仲間ってどういうことだ」
ジョンが横を向くと、そこにはスケルトンが立っていた。殺されるも何も元々死んでるじゃないか。って……
「スケルトンが喋ったぁああ!」
ジョンは叫びつつも即座に剣を抜きスケルトンに斬りかかった。スケルトンの体は崩れたが、バラバラになった骨がそれぞれ意思を持っているかのように動いている。
「うわっ気持ち悪」
ジョンはあまりの気持ち悪さに半歩飛び退いた。その瞬間、骨の上に巨大なハンマーが振り下ろされた。トラヴィスのウインクと白い歯がちょっとウザい。
ハンマーが持ち上げられると骨は粉になっていた。粉となってしまっては、さすがのスケルトンもお手上げのようだ。まぁ手はないわけだが。
「助かったトラヴィス」
「気にするなお嬢さん。この辺は俺に任せろ。大抵のことはどうにかしてやろう」
ジョンは、トラヴィスは脳筋故に不器用なだけで実は良い奴なのではなかろうかと思った。
「あの、ジョンさん?ミレイさんがアンデッドを追いかけて落とし穴のほうに走っているんですが……。止めなくていいんです?」
ジョン達が物音からミレイの位置を捉えた時には20m程離れており、既に曲がりくねった森の奥に突き進んでいた。時々「アはっ♥」何て声が聞こえるからにはまだ戦闘中なのだろう。ともかく1人にしておくのは良くない。
「まぁ、落とし穴方向に進むのは気が引けるが仕方ない。ミレイを追い掛けよう」
「わかりました」
「おうよ!」
ジョン達は散っている骨の欠片を踏み締めながらミレイの進んでいった東の道へと進んでいく。
「ちょっと待て、あれは…!」
ジョンはミレイの戦闘相手に違和感を感じる。
「レッドスケルトンですね」
「あれ、大丈夫なのか?」
レッドスケルトンとは、ただその辺にある障気によって操られているスケルトンとは違い、地面に接している限り地の障気を無限に吸い取り再生する正真正銘の化け物だ。
勿論冒険者組合に常時お尋ね登録されている。討伐が難しい為に捕獲が推奨されているが、捕獲される事すらも少ない。
理由として、一介の冒険者並みに強い上に不死身でスタミナすら減らないと言うふざけた設定があるせいだ。
しかし、見た感じミレイが圧している様にも見える。スタミナすら無限のレッドスケルトンが何故…。
「もしかして、レッドスケルトンの不死の呪いを食べてるんですかね。あの暗黒剣」
「あ、なるほど」
「はっはっは、ミレイは全身をくまなく破壊している。もしかしたら本当かも知らんな」
トラヴィスは腕を組みつつ傍観している。
程なくしてレッドスケルトンは糸が切れる様にして倒れた。ミレイは死体蹴りよろしく倒れたレッドスケルトンを暗黒剣で細かく突いて行く。やがて骨は薄いピンク色から白に変わって行き、再生しなくなった。そして、レッドスケルトンではなくなった故に討伐証明も出来なくなってしまった。
「レッドスケルトンに討伐方法があったなんて、これ論文書いたら大儲けですよ」
「俺達誰か1人でも論文書ける奴が居たらな」
「はっはっは、フロントバイセプス!」
トラヴィスは筋肉を全面に押し出したポーズを行う。
「こう言うと後で怒られそうですけど、ミレイさんその……終わったようですね」
ミレイは満足そうな顔をしてレッドスケルトンの絨毯に倒れ込んだ。息が上がって顔は紅潮しているが、妙に艶々している。暗黒剣は聞き取れないレベルの独り言を言っており、泣き濡れて変な水溜まりまで出来ている。
「事後だな」
「あー、それ言わなかったのにー」
「ユニコーン捕まえられますかね?」
「まぁ、別に事後でも恥女でも大丈夫だろ」
すいません汗
なるべく読んでもらえればと手動更新しているたのですが、どうも時間がずれてしまいます。尚且つ昨日はお休みしてしまいました。
今後とも宜しくお願いします。




