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イクスアルディア戦記~俺とピエロと暗黒剣~  作者: 斎藤秋 & 弧滓 歩之雄 & 林集一 & 魔王さん
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第13話 ヘリミアが減リミア  

遅れましたすいません


 皆が買い物の方へ話を進める中、ヘリミアが突如違う話を切り出してきた。


「さて、キノコをとる、という依頼は達成しましたし私の役目はここまでですわね」


 その言葉にジョンがヘリミアの方へ振り向き、返す。

 

「ああ、『トルトが魔王の娘の婿になる代わりに広陵遺跡攻略を手伝ってくれ』って話だったよな。ヘリミア、どこか行くのか?」


「ええ、今回の事で魔法力を多く使ってしまいました。それの回復もしなければなりませんし、お嬢様にも報告しなければなりません。私はココで失礼させてもらいますわ。あ、トルト様」


「はい、何でしょう」


「その様な意思はないと思いますが、万に一つでも逃げられては困りますので、1つ魔法をかけさせてもらいますね」


 そういってヘリミアは右手をトルトの方へ翳す。その手から黒いオーラが放たれ、トルトの首筋を覆ったかと思うと、その首筋に黒い山羊のような生き物のマークが刻印される。


「これは……?」


「探知魔法の1つです。この印がある限り世界の何処にいてもあなたの大まかな位置はわかります。魔法の起源はおよそ1年。それまでにまた顔をお邪魔させてもらいますね」


 トルトは自分の首筋をおさえ、多少冷や汗をたらす。

 

 魔族などと言う物騒な相手との約束だ。一応ある程度の事は予測はしていた。むしろ強制的に魔王の娘の場まで攫われるような事も予想した位ではあったので、まだこの程度であればマシな方だろう。


「一応言っておきますと、魔法の解除方法は3つありますわ。1つ目は先ほど言いました通り1年の経過。2つ目は私の意思で解除する事。トルト様はあくまでお嬢様の『婿候補』ですから別の方で婿と確定することがあれば外させていただきます。そして3つ目は……」


 ヘリミアはいったんそこで言葉を区切った。

 

 そしてその時、何故か不吉な空気が辺りを支配する。まるで邪悪な怪物が、街そのものを呑みこんでしまいそうなそんな絶対的なナニか。


「魔法使用者である私を、殺すことですわ」



 いつものと変わらない筈の、ヘリミアの笑顔。過去に人間に逃げられた経験もあるヘリミアからのメッセージだろう。『逃げるつもりなら、今ここで自分を殺してみろ』と。


「わかりました。遺跡攻略に手伝って頂きありがとうございます」


 それに対してトルトは、何でもないかのように深々と頭を下げた。

 

 その様子に、辺りを支配していた不吉な気配はスッとなくなる。


「ええ、では皆様、次にお会いできる日を楽しみにしていますね」


 ヘリミアはそう言って本当にいつもと変わらない笑顔を向けると、初めて出会った時のようにスカートを小指と薬指で軽く摘まみお辞儀をする。


「あぁヘリミア、遺跡では助かったよ、またな!」


「元気でね、ヘリミア」


 先ほどの不吉な気配にやや警戒を覚え、それでも協力してもらった礼をキチンとするジョン。

 

 特に何も考えていない様に、ヘリミアに手を振るミレイ。


「ではこれで」


 そんな2人に一瞥しすると、次の瞬間ヘリミアの姿は影も残らず突然消えた。


「!」


 絶句する3人。


「……転移魔法ってヤツか? マジで凄いんだなヘリミアのやつ」


 ジョンが口を開き関心する。そしてトルトのほうを向き、話しかけた。


「とんでもないのに目をつけられたんじゃねーの? トルト。良かったのか? あのまま帰して」


「ええ。というか他に手はなかったでしょうね。もし私が抵抗すれば、それこそどうなっていた事か」


 トルトの問いに訳がわからずジョンは聞き返す。


「うん? ヘリミアはもう魔法力ねーんだろ? ……人道的にどうかは別として、お前が魔族に捉われる(婿入りする)のは本当は嫌なら、ヘリミアが言う通り、そのイレズミ解くのも選択肢にはあったんじゃないか?」


 ここでいう『イレズミを解く』とは、ヘリミアを力で屈服させ解除させる、もしくは殺害する事を意味する。

 

 協力してくれた相手との約束を破る行為ではあるが、話を聞く限りは『魔王の娘の婿入り』と言うのは命がけである。選択肢としてはあっても不自然ではないだろう。


「ヘリミアさん、本当にもう魔法力ないと思います?」


 そこまで言われてハッとした。

 

 ゴーレム攻略時に『もう帰りの分しか魔法力がない』と言っておきながら、ココで探知魔法と転移魔法を涼しい顔をして使っている。

 更に魔法力がないのであれば当然自分の身を守る手段はないはず。にも関わらずあの強気な態度。

 

 そもそも魔法力というものが魔法のない者にとって詳細はわからない。嘘を付く事など、いくらでも出来るのだ。


「……ホント、厄介なのに目をつけられたな、トルト」


 それらの事実にジョンはトルトに同情し声をかける。が、


「いいえ、おかげ様でようやくこの中年の人生も面白くなってきたところですよ。楽しくいきましょう、ジョンさん」


 トルトの不敵な返事にジョンは目を細めた。


「……また、なんか性格変わってねーか?」


「さあ、どうでしょうか。それはともかく、買い物に行きましょうか、次の目的の不死鳥やユニコーンって、なんだかよく分かりませんけどものすごく強そうですよね? いったいどんな準備をするのです?」


 そこでミレイが突如声を上げた。


「あ」


 その言葉に二人はそちらに振り向く。


「どうしたミレイ」


「ヘリミアにお金、払っていない」


 茸入手の報酬500,000G。そもそもトルトの婿入りの条件としての参戦ではあったが、常識的に考えれば十分な協力をしたヘリミアにも分け前は払うべきだっただろう。

 

 しかしそれでも魔族のヘリミアに必要なものかどうかはわからないし、本人も一切口にしてこなかったことから少なくとも重要な要素ではないのだろう。


「ま、次会った時にでも言ってみればいいだろう」


 深刻には考えずジョンは返事し、一行はその場を後にした。


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