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イクスアルディア戦記~俺とピエロと暗黒剣~  作者: 斎藤秋 & 弧滓 歩之雄 & 林集一 & 魔王さん
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第11話 泥棒の帰還 きのこの股間


 

「もう何も無いな!?はぁ……はぁ」

 

「疲れた」

 

 ジョンはモーニングスターを手放して床に倒れ込む。五指には血が滲んでおり、皮膚の内側の色も良くない。

 

「もう、この手ではキノコ持つ事も出来ねぇ……。3体は……流石にキツイ……。はぁ。ジョンとヘリミアは責任もってキノコ取ってこい……俺達は少し休むわ……」

 

「……私も」

 

「今魔物に襲われたら死ぬな……」

 

「死ぬ」 

 

「行きましょうか、キノコ摘みに」

 

「ええ、そうしましょう」

 

 まるで山菜を取りに行く老夫婦が如くトルトとヘリミアは奥の部屋に入って行く。部屋の中は何故か燃えている篝火によって照らされており、トルト達のうっすらとした影がゆらゆらと揺れている。

 

 部屋の中央には開いている棺があり、その奥には黄金に輝く王座があり、骸骨が座っていた。近くに来て覗くと棺の中には何も入っていなかった。

 

「キノコとはこれで良いんですかね?」

 

 骸骨の下腹部には、天を目指して伸びる立派なカントン形のキノコが生えていた。全長24cm、ペットボトルの様な太さを持ったそれは、見事にそれとしか形容できない物だった。

 

「これは、迂闊に抜けませんねえ。心情的に根本から切るわけにもいきませんし……」

 

「化け物ですわ」

 

 トルトは口を押さえて驚愕しているヘリミアをちらりと見て、言いたい事を飲み込んだ。その際、ヘリミアの顔の向こう側、部屋の隅にも骨壷の様な物があるのに気が付いた。

 

「骨壷の中にあるって事はありませんかね?」

 

「探してみましょうか」

 

 探してみた結果、部屋にある骨壷14個全てにキノコが生えている事が分かった。真性、仮性、何かの博覧会の様な状態だったが、骨壷から生えている物が抜きやすかった為、骨壷のなかでも一番小さいものを選んで布を被せて抜いた。

 

 キノコは抜けると同時に白い粘液を出してみるみるうちに縮み始めた。

 

「これ……いいのですか?」

 

「良くないと思いますね、何といっても何も言えないくらい色々良くないと思います」 

  

「いや、そうではなくて、薬の素材として使うなら縮んでない状態が必要とかではないのですか?」

 

 トルトはハッと我に帰って思案する。しかし、考えながらも視界を占拠するそれを見て、これは手に終えないと言う結論に至った。

 

「ジョンさん達を呼んできます」

 

「そうして下さいませ」

 

 トルトは玄実の入口に立って2人を呼ぶ。

 

「沢山見つけたんですけれども、どう対処して良いか分からないので、来て貰えますかー?」

 

「悪ぃ、もう動きたくねぇ。ミレイ行ってきてくれるか?」

 

「わかった、私が行く」

 

「出来ればジョンさんに来て欲しいのですが……」と徐々に小声になっていく声で呼び掛けたが、ジョンからは返答がない。

 

 トルトはミレイと玄室に入り、例の壺を集めた場所に向かう。そこには驚愕の光景が広がっていた。

 

「何でヘリミアがベタベタしてるの?何この臭い」

 

「もしかして、キノコに触りました?」

 

 ヘリミアは無言で頷く。

 

「もしかして、こんな風に?」

 

 トルトは手で何かを掴むようにして上下に動かすと、ヘリミアはトルトのその手を掴んで頷いた。心なしかヘリミアの顔が赤い。

 

 集めた壺に生えていた全てのキノコが縮んでいた。ミレイは何の事か全く解っていない様子だった為、取り敢えず現状を把握している2人が骨壷から全てのキノコ(小)を取り出して、ゴソゴソと仕舞う。

 

「何これ、キノコ?」

 

 キノコを回収して、トルトのタオルにて身体を拭いていた2人にミレイからの声が掛かった。ミレイは王座に座った骸骨の立派なキノコを注視していた。

 

「あ、あー、それ触らないでね。出来ればそれに触らないで遺骸ごと外に運べたら良いんだけど出来る?」

 

「出来る筈。ただ、戦える人が居なくなる」

 

「帰りは、来来来た道だから大丈夫ですよ、私も戦いますし、ね?」

 

 トルトは短剣を出して微笑んだ。確かに遺跡に徘徊する昆虫系の魔物程度であればトルトでも戦える。まだ遭遇していないが、グールでもそれなりに戦えるだろう。それどころか小回りの効く短剣は素早い昆虫系の魔物には効果的で尚且つ短剣の攻撃力でも倒せると言う点を考えるなら適任とも言えるのだ。  

 

 トルトとヘリミアとミレイは副葬品を少しちょろまかした後、ジョンと合流し、広陵遺跡からの出口に向けて歩き出した。立派なキノコを生やした遺骸を見た瞬間、ジョンは目玉が飛び出るような表情をしていたが、誰とも目が合わない事に気付くと、納得したようにすたすたと歩き始めた。  

  

 ゴーレムとの死闘を終えて5時間後、ほぼ一本道の復路を終えてパーティーは遺跡の入口に立っていた。結局戦闘は発生しなかったが、その様子はグールと変わらないくらい疲れきっていた。比較的疲労の少ないトルトとヘリミアで交代の見張りを立てて一行は眠りについた。

 

 朝を迎えると崖を登り、ヘリミアの家で食料を補給し、道の途中で馬車を捕まえて町に帰って来た。広陵遺跡を攻略してから1週間後の事だった。魔法力が無いと言う割にはヘリミアは所々浮いていた気がする。

 

 

 


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