表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エクリチュール  作者: 綴葉
第一章
2/18

拠点へようこそ

窓1つない小さな家。

クリーム色だった塗装は長年手入れをしていないため黒ずんでいる。

ぎぃ…と音をたて、古い扉を開ける。

「いらっしゃいませー!!ってなーんだレンとカレンかー」

夕日色のツンツンとした人懐っこそうな少年がお帰りーと手を振る。

薄暗い店内には商品などひとつもなく、古い木製のレジカウンターの奥に少年が座っているだけだ。

俺の朝のへアセット仲間である彼の頭は今朝から何も変わっていない。

ずっといつか来る客をここで待っているのだろう。

ふんふーん♪と鼻唄を楽しげに口ずさみながら彼は手元で小さな赤い石を転がしていた。

ぼろぼろの黒いローブには不釣り合いの上質な革の首輪が彼に巻かれている。

それを見てカレンはいつも気の毒そうな顔をする。

「キール、その首輪外さないの?外していいって言われてるんだよね?」

首輪付き キールはそう呼ばれる身分の人間だ。

エデンに住むのが人生の勝者 天人。

地上に住む俺たちはその他大勢の平民。

そして、人に買われ、道具のように使用されている首輪付き。

首輪付きには人権なんてものはない。

命令された事を忠実にこなす存在。

首輪付きになる条件は様々だ。

天人に嫌われた者、お情けで受けさせてもらっている義務教育過程で成績が悪かった者、性格的に首輪付きに向いている者。

多くの首輪付きは錆びた銅製の冷たい首輪をしている。

彼らに比べれば上質な首輪を与えられ、首輪を外していい、とまで言われているキールはかなり恵まれている。

「いーんだ!これはソーレの皆がオレを買ってくれた証だから!!」

悲しげな表情をするカレンとは裏腹にキールは明るく笑った。

空気の微妙な温度差を払拭すべく、わざと咳払いをする。

「同居しているチームとしてポイントの換算してくれないか?」

作業着のポケットから銀色のネームタグを取りだし、レジカウンターに置く。

はいはーい‼とキールはネームタグを受け取り、タイプライターにカチカチと打ち込んでいく。

俺の分を打ち終わるとカレンからもネームタグを受け取り、同じ動作を繰り返す。

全てを終えると、びりっと紙を雑に破き、俺に渡す。

チーム リュイン ランクD 総ポイント51

カレンが紙を覗きこんでいるのに気付き、優しく笑いかける。

「先にシャワー浴びてきていいよ。疲れてるだろ?」

「…じゃあお言葉に甘えて…」

カレンがレジカウンターの後ろにある小さめの扉を体を屈めて潜っていく。

カレンの姿が見えなくなるのを確認してから深くため息をついた。

今日は工場での製品組み立て数の最高記録を立ち上げた。

カレンと合わせて7ポイントしか増えていない。

俺たち平民は6歳の誕生日から9年間、天人の情けで教育を受ける。

15歳の誕生日に教育過程を終え、一人立ちすることを強要される。

生活をするためにチームに属し、チームランクに応じた空き家でひっそりと暮らす。

チームのランクはFからAに分類され、ランクAのチームはランクSへの昇格試験を受けることができる。

見事昇格試験に合格した場合、エデンでの居住権利が認められる。

エデンで暮らすため…でもないが、せめてランクCの暮らしができるように仕事をしているが、中々ポイントが貯まらない。

ランクC未満のチームに仕事を依頼する場合、依頼主は日雇いの場合のみ報酬ポイントを提示しなくていい。

こんな条件のために俺たちは仕事内容から報酬ポイントを予想し、働く毎日を送っている。

「エデンへの道はまだまだとーいなー」

「そういうソーレはどうなんだよ」

「俺たちはランクEだよ!!」

ふっふーんとキールが鼻を鳴らす。

こんな薄暗い店で商品一つ並べず、いらっしゃいませー‼と言っているだけでは仕事とは呼べない。

キールに言わせれば身の丈に合った生活をしているから問題ないらしい。

「それよりさー、レンってカレンには態度違うよなー。

告白しねぇの?この石指輪にしたら買う?」

「無理よ。レンにそんな度胸ないもの」

俺が反論する前に耳障りな声がした。

すっと白い腕が伸びてきて、コトン、とレジカウンターに銀色のネームタグを置く。

「レン、あんた臭うわよ」

紺碧色の髪を高い位置で1つにまとめ、汗だくの俺とは違い、涼しい顔をしている。

薄花色の瞳分かりやすく嫌悪の色が落ちている。

この薄花色の悪魔め……。

「俺はリンみたいな単価の安い仕事してる訳じゃねぇんだよ」

「すげー!!リン1日で50ポイント稼いでる!!」

「私、単価の安そうな仕事はしないから。

キール、この前見せてくれた髪飾り買うわ」

「はいはーい!!まいどありー!!」

キールは俺が止める間もなく、素早くタイプライターに商品の単価を入れ、精算を終えてしまう。

リンは俺を横目に見て、軽く鼻で笑う。

その間キールはレジカウンターの中を覗き、正方形の木箱をレジカウンターに置く。

木箱の蓋を開けると、青い布の上に透明なガラス細工で作られたプルメリアの髪飾りが置かれている。

「これが欲しかったのよ。レン、あんたさっさとシャワー浴びなさいよね」

リンは満足げな顔をして商品を受け取り、奥に入る。

「安心しろよーどーきょ人だから50ポイントのところを45ポイントにしておいてやったから」

「そりゃどうも……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ