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エクリチュール  作者: 綴葉
第一章
17/18

自問

ぎぃ……と聞きなれた音が鳴った。

今日の仕事は…何をしてたかな。

何度かやった事がある単純な仕事だったから、ずっと別の事を考えていた。

仕事前に見かけた首輪つきの人々。

痩せ細った体で永遠と荷物を運び続ける。

浮遊する箱に監視されながら永遠と動き続ける。

私の仕事は成果物を確認する人は居るけど、作業中ずっと見張られている訳ではない。

休憩だって3時間に10分程度は貰える。

偽善者、その言葉がずっと繰り返される。

私は、間違ったことをしたの?

目の前で苦しんでいる人が居て、助けることは間違っているの?

「かーれん」

「ひゃぁっ!!」

急に首筋に冷たい物が当たり、声を上げる。

くすくすとイタズラが成功した子供のようにキールが笑っている。

そうだ、私、拠点まで戻ってきてたんだ。

「ごめんね、キール。

ちょっとぼーとしてて」

苦笑を浮かべ、ネームタグを渡す。

なるべく彼の赤い髪が視界に入らないように、視線を下に向けて。

「カレン誰かにいじめられた?」

ポイントを換算しながらキールが聞く。

「ちょっと、仕事で疲れちゃって」

嘘をついた。

心配かけたくなくって、赤髪と向き合いたくなくって。

本当に心配してくれてる彼の言葉を聞き流して、ネームタグを返してもらう。

ネームタグにうっすらと映る赤い色。

その赤を隠すように握りしめ、逃げるように自室に戻った。

途中でキールが呼び止める声と、ぎぃと扉が開く音がしたけど、振り返らなかった。


自室に戻ると部屋は真っ暗だった。

リンが居なくて少しだけほっとして、ベッドに腰を掛ける。

弱ってる人を助けて、何が間違っていたのだろう。

赤い髪の何がいけないのだろう。

私と、彼らの違いは何……?

答えのない自問自答がぐるぐると繰り返される。

ほのかに視界が明るくなり、手のひらに乗せたネームタグが目に入る。

私の髪を映した、赤いネームタグ。

「仕事で疲れたんですって?」

隣に腰かけた人物が優しく声をかける。

視線を声の主へと向けると、

雲ひとつない空のような紺碧色の髪を高い位置で一つに結び、ゆらゆらと揺れている。

私とは真逆の色を持つ、私のエクリチュールで、レンの元エクリチュール。

「ちょっと、追加の仕事があってね」

また、嘘をついた。

上手く笑えてるかな、バレないかな。

リンは小さくため息をつく。

呆れられちゃったかもしれない。

「カレン、私に嘘ついてバレないと思ったの?」

「あはは……、やっぱりバレちゃった」

「言いたくないこと?」

リンの問いかけに私は言葉を詰まらせた。

リンなら私に答えをくれる。

だって、リンは才能のあるプレゼンターで、赤髪を持っていない。

だから、私は首を縦に振った。

この程度の事も解決できないの?と失望されるのが怖かった。

「そう。わかったわ。話せるようになったら話してね」

すくっとリンが立ち上がる。

彼女の動きに会わせて紺碧色の髪が踊る。

あぁ、どうして私はリンみたいな髪を持っていないんだろう。

彼女が立ち去った部屋に残されたのは戒めの赤だけ。


カレンを置いて部屋から出る。

小さくため息をついて、低い天井を見上げる。

いつもよりキールと目を合わせなかったらしいし、なんとなく想像できるけど…。

「リン今日の食事当番お前だろ?」

ダークブルーの髪をかきながら私たちのチームがリビングから顔を出す。

ほんと呑気なことね。

「ねぇレン。ソーレに依頼したいことがあるんだけど」


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