自問
ぎぃ……と聞きなれた音が鳴った。
今日の仕事は…何をしてたかな。
何度かやった事がある単純な仕事だったから、ずっと別の事を考えていた。
仕事前に見かけた首輪つきの人々。
痩せ細った体で永遠と荷物を運び続ける。
浮遊する箱に監視されながら永遠と動き続ける。
私の仕事は成果物を確認する人は居るけど、作業中ずっと見張られている訳ではない。
休憩だって3時間に10分程度は貰える。
偽善者、その言葉がずっと繰り返される。
私は、間違ったことをしたの?
目の前で苦しんでいる人が居て、助けることは間違っているの?
「かーれん」
「ひゃぁっ!!」
急に首筋に冷たい物が当たり、声を上げる。
くすくすとイタズラが成功した子供のようにキールが笑っている。
そうだ、私、拠点まで戻ってきてたんだ。
「ごめんね、キール。
ちょっとぼーとしてて」
苦笑を浮かべ、ネームタグを渡す。
なるべく彼の赤い髪が視界に入らないように、視線を下に向けて。
「カレン誰かにいじめられた?」
ポイントを換算しながらキールが聞く。
「ちょっと、仕事で疲れちゃって」
嘘をついた。
心配かけたくなくって、赤髪と向き合いたくなくって。
本当に心配してくれてる彼の言葉を聞き流して、ネームタグを返してもらう。
ネームタグにうっすらと映る赤い色。
その赤を隠すように握りしめ、逃げるように自室に戻った。
途中でキールが呼び止める声と、ぎぃと扉が開く音がしたけど、振り返らなかった。
自室に戻ると部屋は真っ暗だった。
リンが居なくて少しだけほっとして、ベッドに腰を掛ける。
弱ってる人を助けて、何が間違っていたのだろう。
赤い髪の何がいけないのだろう。
私と、彼らの違いは何……?
答えのない自問自答がぐるぐると繰り返される。
ほのかに視界が明るくなり、手のひらに乗せたネームタグが目に入る。
私の髪を映した、赤いネームタグ。
「仕事で疲れたんですって?」
隣に腰かけた人物が優しく声をかける。
視線を声の主へと向けると、
雲ひとつない空のような紺碧色の髪を高い位置で一つに結び、ゆらゆらと揺れている。
私とは真逆の色を持つ、私のエクリチュールで、レンの元エクリチュール。
「ちょっと、追加の仕事があってね」
また、嘘をついた。
上手く笑えてるかな、バレないかな。
リンは小さくため息をつく。
呆れられちゃったかもしれない。
「カレン、私に嘘ついてバレないと思ったの?」
「あはは……、やっぱりバレちゃった」
「言いたくないこと?」
リンの問いかけに私は言葉を詰まらせた。
リンなら私に答えをくれる。
だって、リンは才能のあるプレゼンターで、赤髪を持っていない。
だから、私は首を縦に振った。
この程度の事も解決できないの?と失望されるのが怖かった。
「そう。わかったわ。話せるようになったら話してね」
すくっとリンが立ち上がる。
彼女の動きに会わせて紺碧色の髪が踊る。
あぁ、どうして私はリンみたいな髪を持っていないんだろう。
彼女が立ち去った部屋に残されたのは戒めの赤だけ。
カレンを置いて部屋から出る。
小さくため息をついて、低い天井を見上げる。
いつもよりキールと目を合わせなかったらしいし、なんとなく想像できるけど…。
「リン今日の食事当番お前だろ?」
ダークブルーの髪をかきながら私たちのチームがリビングから顔を出す。
ほんと呑気なことね。
「ねぇレン。ソーレに依頼したいことがあるんだけど」