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エクリチュール  作者: 綴葉
第一章
16/18

偽善

半ば逃げ出すように仕事にでかけた。

仕事の開始は午前9時から。

まだ7時前くらいだから、出掛けるには早すぎる。

不振に思われちゃったかな……。

はぁ、とついたため息が白くなって消えていく。

見上げた先にはいくつもの浮遊するエデン。

綺麗な空を見たのはいつが最後だろう。

体を震わせながら、とぼとぼと歩く。

ゼオさんとレンの間に漂う変な空気。

私が、ゼオさんにお願いしたから、だよね…。

もう一度ため息をついた時、

私以外の音が聞こえた。

沢山の小さく、か弱い足音と、じゃらじゃらと何かを引きずる音。

数メートル先に音源を見つけ、足が縫い付けられたように動かなくなった。

真っ黒に日焼けした肌、ボロ雑巾のような服を着た集団が足枷を繋がれている。

大人四人でやっと運べそうな荷物を一人で抱え、海岸へと進んでいく。

弱々しい真っ赤な列が続いている。

僅かに差し込む日差しが彼らの首もとを照らし出す。

黒く、冷たい、鉄の臭いを放つそれは、彼らが何者なのかを示していた。

不意に一人が転び、真っ赤な列が崩れる。

咄嗟に足が地を蹴った。

彼らがほんのわずかでも失敗した場合、処分が下される。

その光景は決して珍しいものではなかった。

空中を旋回する小さな黄色い箱。

ひゅんひゅんと音を立て、荷物の下敷きになっている人に迫る。

箱が発光し、赤い髪の集団に恐怖の色が映った。

間に合ってっ!!

右手を伸ばし、集団のすぐ側を飛んでいる黄色い箱を掴んだ。

「ーっ!!!!」

直後、右手からバチバチと電気が放たれる。

悲鳴を上げることすらできない、

体の感覚がなくなっていく…

ガクンっ、と力が入らなくなった足を折り曲げ、地面に座り込む。

感覚すらなくなった右手の中で放電しきった箱が暴れている。

手を開けようと思っても、できないんだけどね…。

ゆらり、と動く影に視線を上げた。

さっき荷物の下敷きになっていた人だ。

黒く日焼けした肌と対照的な真っ赤な髪。

私よりもずっと高い背格好なのに、私よりもずっと細い手足。

オレンジ色の相貌が物言いたげに私を見下ろしていた。

『何をしているっ!!』

動かない右手の中で声がした。

箱はガンっと指にぶつかり、手の中から飛び出していく。

同時に赤い髪の集団が静まり返った。

『003番、お前は失敗した』

003番…、きっと私を睨んでいる男の人だ。

周りは素知らぬ振りをして、荷物を抱え直す。

再稼働するのを静かに待っている工場のレーンみたいだ。

「罰は受けます。もう一度チャンスをっ!!」

箱に向かって男性が訴えかける。

折れてしまいそうな細い体で荷物を抱え直す。

『そうだな。チャンスをやろう』

箱から聞こえる優しい声。

それはまるで赤子をあやすように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

『自由にしてやる』

カシャン、と音を立て、足枷と首輪が外れる。

「待ってくれ!!俺はまだやれるっ!!」

男は荷物を放り投げ、エデンへと飛び帰ろうとする箱を追う。

彼が捨てた荷物は別の首輪つきが拾い、レーンが再稼働する。

不意に追いすがっていた男性が転び、動かなくなった。

「あ、あの大丈夫ですか?」

地面に足を擦りながら倒れたままの男性に近づく。

ぼそぼそと何かを呟いているけど、うまく聞き取れない。

男性の肩に手を伸ばそうとした瞬間だった。

「お前のせいだっ!!」

嗚咽混じりに、はっきりと聞こえた言葉。

「お前が余計な事をするからだっ!!」

不意に男性が上半身を起こし、赤く腫らした目で私を睨む。

「ちがっ「お前も赤毛だろっ!!」

ちがう、私は、ただ……っ、

ゆらりと男性は立ち上がる。

おぼつかない足取りで私の隣を通りすぎていく。

「偽善者」

たった一言呟いて。

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