繰り返す時の中で
町1つをすっぽりと覆ってしまいそうな影。
頬を撫でる風は少し肌寒く、薄っぺらい袖口のほつれた灰色の作業着だけで出掛けたことを少し後悔した。
薄暗い風景に溶け込んでしまいそうなダークブルーの髪。
工場での作業で被らされた頭をすっぽりと包んでまうダサイ帽子のせいで、朝からセットしたイケてるウルフヘアが台無しだ。
今日の作業は昼過ぎで終わり。
昼何を食べようかと考えながら小さな店が軒を連ねるレンガの道を歩く。
どの店も小さなか細い光を灯し、一見すると人気がないように思える。
何気なく見上げると、大きな円錐を逆さにした大地が浮いている。
浮遊島エデン ごく一部の人々が暮らす別世界のような場所。
「いつまで滞在するんですかね」
皮肉めいた独り言を漏らし、はっとして周りを見渡す。
誰かに、エデンに住む天人に聞かれていないか、そんな事を気にしていたが、俺の数歩後ろで両手を前に出した奇妙なポーズで止まっている女の子を見つけた。
「え、えっとこれはねっ!!」
さくらんぼ色の瞳がぐるぐると回っている。
だんだん体も瞳の動きに合わせてくるくると回り出す。
肩より少し下まで伸びたラズベリー色の髪もゆらゆらと揺れて、
「帰りにレン見つけたから、その…ちょっと驚かそうかなって…」
眉をへの字に曲げて、彼女はしゅん、とした顔をする。
「大丈夫、ちゃんと驚いたから」
「本当に!?」
彼女はぱぁっと笑顔を咲かせて俺の隣に並んだ。
一歩横に遠ざかると、彼女は首を傾げる。
「えっとさ、工場帰りで、俺臭いからさ、カレンに悪いかなって」
「あはは、私気にしないよ。私なんてゴミの分別の仕事終わったとこだったし、私の方が臭うかも」
「いや、カレンは全く臭わないっていうか、その…」
何て言おう…。全く臭わない?ゴミの分別をさっきまでやっていたのに?
何かいい言葉はないか、と手を顎に当てて考えていると、あっ!!とカレンは声を上げ、突然俺の手を取った。
「な、なに?」
ほんの少し鼓動が速くなる。
内に秘めた熱を表に出さないようにして、平然を装う。
「袖口ほつれてるよ、チームの拠点に戻ったら縫ってあげるね」
彼女はぱっと手を離して明るく笑う。
1度体温が上がった手を隠すように頭をかき、足を早める。
昼何を食べようかと考えていたこと、頭上のエデンを少し鬱陶しく感じていたことも、どうでも良く思えた。