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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第2章 竜の鉤爪〜target〜
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第8話 初めての

 私は オルトさんと共に上依の里を出発し、森の中を歩いていた。憧れのエルトゥール一族とまさかまさかの一緒に旅ができるというとても嬉しい事態に私は浮き足立つ。思わず鼻歌が出てしまった。


「ところで八雲さん。あなたは治癒能力と結界が使えるとのことですが、何か他に使える術はありますか? これから戦闘になることもあるので参考までに」


「えーっとその前に、さん付けと敬語やめない? その……一応雇主と護衛の関係だけど、オルトさん歳上だしこれから一緒に旅してく訳だし……それに、対等に話したいわ」


 私がこう言うのには後者の理由が大きい。

 今まで私には神使以外で対等に話し合える人がいなかった。家族でさえ神子である私には敬語だったのだ。仕方の無いことなのだが、私はそれがとても寂しかった。

 すると、オルトさんは少し考えた後微笑む。


「えっと……はい、分かりました。あ、じゃなくて、分かったよ八雲」


「う、うん……」


 いざ言われると何だか照れくさいようなくすぐったいような……変な感じだ。だが嬉しい。顔が熱くなる。


 ……あ、先ほどのの質問に答えなければ。


「えっと、私は治癒能力と結界以外は残念ながら何も使えないわ。武術の訓練もしてないから、戦いにおいては残念ながらポンコツね」


 私は自信満々にフンっと鼻を鳴らす。オルトは微妙な顔をした。


「了解。基本的に敵は俺が全部薙ぎ払う。八雲は隠れていればいいよ。だけどもし相手が多勢の場合、攻撃を防ぎきれない可能性があるから自分でも身を守って欲しいんだ。結界で身を守る事はできる?」


「そうね、できると思うわ。私の結界は里の結界みたいに悪人だけを弾くこともできるし、硬度を固くして壁にすることもできる。透明にするのも色をつけるのも自由よ」


「へぇ、結構便利だね。じゃあ戦闘になった時は常に自分の周りに結界を張っておいて」


 私ははぁい、と返事をする。

 すると、すぐ近くの茂みからグルル、と唸り声が聞こえた。私は驚いてオルトの後ろに隠れる。


「おや、早速……」


 オルトは剣を抜く。私はゴクリ、と唾を飲んで茂みの方を見た。獣魔だろうか。


「八雲、結界を張って」


「え、えぇ!」


 次の瞬間、狼型の獣魔が三匹飛び出してきた。茶色い毛並みに鋭い牙と爪。黄色い目でこちらを睨みつけながら襲いかかってくる。

 しかしオルトは余裕の表情だ。そして彼は素早く剣を振り、二匹を同時に仕留めた。早業だ。凄い。

 残りの一匹は攻撃を外して私達を通り過ぎ、着地する。振り向いて状況を確認し、仲間が一瞬でやられたことに戸惑った様子だった。

 だがすぐ私に狙いを定めて飛びかかってくる。


「ひゃ!!」


 獣魔は結界に思い切りぶつかり、大きな鈍い音が鳴る。私はビックリして思わず尻餅をついてしまった。

 ぶつかった獣魔はそれなりのダメージを受けたと思うが、怯まずに結界に噛み付いてきた。

 すると次の瞬間、牙から電流が流れる。放流された電撃の眩ゆい光が結界表面を走った。しかし、結界内の私には届かない。


 直後、オルトが後ろから獣魔を斬りつける。こちらに気を取られていた獣魔は斬撃を避けることができず、背中をバッサリと斬られた。致命傷を負った獣魔は倒れ、そして暫くピクピクと震えた後動かなくなる。


「お見事、八雲」


「オルト……今わざとこいつに私を攻撃させたでしょ」


「あ、バレた? ごめんね。でも結界の練習はしときたかったからさ」


 確かに、今ので結界防御が有効だということは分かった。だが、予告無しでいきなりやられたので私結構ビックリしたし怖かったんだけど……とムッとした表情を見せてみる。まぁ実際に敵が襲って来る時は予告も何も無いのだが。


「さて、気を取り直して進みますか!」


 私の何か言いたげな視線をオルトは華麗にスルーし、歩き出す。少々不服だったが、まぁいいか。


 私達は更に森の奥へと進んでいった。




 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎




  日は沈み、森の中を月明かりが照らす。フクロウがどこか遠くで何度も鳴いていた。

 ──あれから二日。私達は森の中をまだ進み続けていた。一継の情報から考えると、あと一日もあれば町に辿り着けそうだ。

 というか、オルトだけならもう既に着いているはずだった。体力の無い私にペースを合わせてくれているのだ。


「ウサギって……食べるの初めてだわ」


 今日の夕飯は道中で狩ったウサギの肉だ。あとはギョウジャニンニクやタラの芽といった山菜が並ぶ。ワイルドな食卓だ。


「一応味付けはしてあるけど……薄かったら言って」


 最低限の調味料は持っているらしいオルト。キャンプの設営や調理は慣れたものだった。まぁキャンプと言っても荷物が多くならないように簡易な装備のものだが。


「オルトって凄いわね。どこでも生きていけそう」


「まぁここ最近はずっと旅人生活なんでね」


「へぇ、どれくらいなの?」


「うーんと、旅歴は四年かな。一人旅はまだ一年だけど」


「オルトって何歳?」


「十八だよ。八雲は?」


「十四よ。四歳差ね。大人びてるからもっと年上かと思ってた。」


 はは、とオルトが笑う。


「前は何人かで旅してたの?」


「何十人かな。キャラバンに入れてもらって、そこで旅のノウハウを学んだ。良い人達だったよ」


「なんか……オルトは神子に仕えてたりキャラバンに入ってたり色々やってるのね」


「生きていくためには色々必要だからね」


 丁寧に肉を切り分けながらオルトが言う。ふうん、と私は相槌を打ちながら髪を耳にかけた。二日間風呂に入らず森の中を歩きっぱなしだったので、髪はゴワゴワになっていた。


「ねぇ……頭、どこかで洗えないかしら。お風呂に入れないっていうのはわかってるんだけど……汗いっぱいかいたし、ちょっと痒いかも」


「さっき水を汲んだ滝壺なら近いから、そこでなら洗えるかな。体もベタベタで気持ち悪いなら拭くとスッキリするよ。ちょっと水が冷たいけど」


 オルトが左を指差しながら話す。てっきり、「だからお風呂には入れないって忠告したでしょ」とか怒られるのかと思いきや、意外と優しい返答だったことに私は少し驚いた。


「食べ終わったら行く?」


「うん、行きたいわ!」





 という訳で、食事を終えた私達は滝壺へと向かった。


 小さな滝から落ちる水が淑やかに音を立てている。滝壺の水面に月明かりが反射して、波紋に合わせてゆらゆら揺れていた。

 私が滝壺に近づきしゃがむと、オルトは後方へ体を翻す。


「じゃあ俺は後ろ向いてるから、終わったら言って」


「う、うん。絶対振り向かないでよ?」


「分かってるよ」


「絶対だからね!」


「うん」


「絶対の絶対だからね!」


「え、何それフリ?」


「違うわよ!!」


 灯りと暖房代わりのランタンを隣に置いて、私は髪をバシャバシャと洗う。頭皮の痒いところを重点的に擦った。次に顔も洗う。冷たい。ちゃんと乾かさないと風邪を引きそうだ。

 そして服を脱ぐ。季節は暖かいが、ここは夜の森の中だ。しかも滝が目の前なので肌寒い。

 屋敷の中にずっといたせいか白い肌は、月明かりに照らされていっそう白く見えた。


「ひゃ、冷た……」


 水で濡らした布で腕を拭く。そして首、胸、背中、足と拭いていく。冷んやりとして寒いが、汗と泥でベタベタだった体の不快感が取れていった。気持ちいい。

 後ろにオルトを待たせているので、手早くもう一度濡らした布で体全体を拭く。……なんか、ドキドキする。


「オルトは……拭かなくても大丈夫なの?」


「俺は慣れてるから大丈夫。あと、拭いてる間に襲われたら戦えないからね。俺も最初の頃は慣れなくて気持ち悪かったけど。……あ、もしかして俺臭い?」


「いや、臭くはないわ。大丈夫」


 そう会話しながら私は体を拭き終える。

 するとその時、目の前に何か細長いものがあることに気付いた。


「……きゃあぁ!!!」


「!? どうした!!?」


 悲鳴に驚いてオルトが振り返る。

 そこには──一匹の小さな緑色の蛇がいた。私の目の前でチロチロと舌を出して様子を伺っている。


「なんだ、びっくりした」


 オルトはそう言って易々と蛇を掴み、茂みの中へと投げた。カサカサと音を立てながら去っていく蛇を見送る。


 そしてオルトは私の無事を確認しようとしたのか、何気なくこちらに視線を向けた。




「……あ。ごめん。」



「ーーーーっ!!! ばかあぁーーっ!!!」



 見られた。裸を見られた!!

 顔が、頭が、火を吐くように熱い。ああぁもうお嫁に行けないよぉ!!!


 私は軽くパニック状態になり、次の瞬間オルトさんの頰に思いっきり平手打ちしてしまった。





 翌日はなんとも気まずいまま森を歩き続け、ようやく町に辿り着いた。




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