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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第6章 エルトゥールの末裔
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第82話 叙任式

 早々に叙任されることが決まって、俺は喜びと不安で頭がいっぱいになっていた。なんせ小さい頃から夢見ていた騎士だ。嬉しくない訳がない。しかし一方で、こんな簡単に階段を登って行って大丈夫なのだろうかという不安と、目立つことで正体がバレてしまわないかという懸念があった。実際、ネストールとの戦いでヘマをした経緯があるのでバカにできない。あの時はアリーチェが上手く誤魔化してくれたが、正式に騎士となり任務につくのであれば他人を頼ることはできないだろう。


「……それでも、やらなきゃな」


 それでも、いつかは自分で克服しなければならない問題だ。ずっと誰かの助けに縋り続けるわけにはいかない。今だって、リアトリスに世話になりっぱなしじゃないか。そんな自分を変える意味も含めて、騎士を目指したんじゃないか。


「……うん、よし!」


 頬を叩く。乾いた音が自室の中に響いた。俺は、リアトリスと彼女の大切な国を守る立派な騎士になる。必ず、俺の手で守ってみせる。そう思うと、不思議と不安が薄れてきた。明日は叙任式だ。もう寝よう。

 ベッドに俺は横たわる。明日から繰り広げられるであろう、騎士としての生き様を妄想しながら、俺は眠りについた。





 翌日朝。今日から正式に騎士となるため、従騎士の仕事を早朝からすることは無い。ロベルトは普段通り朝早く屋敷に来て、仕事を始めていた。俺は普段の生活習慣から早朝に起きてしまったので、気分転換の意味も含めて中庭で鍛錬している。すると、ちょうど中庭を通りかかったロベルトがこちらへ歩いて来た。


「おはよ」


「おう」


 ぶっきらぼうに挨拶するロベルト。木刀を振る俺の顔をニヤケ顔で覗き込んできた。


「ユーリ、叙任式でヘマすんなよ? ま、でもそうなったらオレが後で笑い飛ばしてやるから有り難く思え」


「うん……気をつけるよ」


「……おい、全く反論ねえとかどうした!? 既にガッチガチに緊張してんじゃねえか!? 大丈夫かお前!?」


「……」


「ヤベェなおい!? なんか剣の振り方もフラミンゴみたいになってんぞ?」


「いや、だ、大丈夫。てかフラミンゴってどういうことだよ」


 フラミンゴみたいの意味がイマイチ分からないが、どうやら俺は緊張し過ぎて木刀の振り方もめちゃめちゃになっているらしい。言われて始めて気がついた。ここまで緊張するのは初めてかもしれない。神子選考の時ですら、ここまででは無かった様な……いや、あの時は自分の本番直前で襲撃されて流れたからまた別か。


「……とりゃ」

「わ!!」


 急に、ロベルトの蹴りが俺の腹に入った。手加減はしてあるがそこそこの強さで蹴られて俺は尻餅をつく。


「な、いきなり何を……」


「はん、今のお前ならオレでも簡単にやっつけられそうだなぁ! 代わりにオレが騎士になってやろうか!? あとリアも今のうちにいただくかんな!」


 腰に手を当て上機嫌で威張るロベルト。ずいぶんといやらしい顔で俺を見下してくる。その姿を見て、肩にのしかかっていたものが消えた気がした。


「……そうは行くかよ」

「あだだだ!!」


 俺はすぐ立ち上がり、ロベルトの拳をかわして後ろから首に腕を回し拘束。力を入れて反撃に成功する。


「はは、ありがとロベルト」


「あん?」


 俺はロベルトを離し、肩を叩いた。


「緊張ほぐれたかも」


「ふん、手間かけさせやがって。叙任式、リアの前で失敗すんなよ? いや、オレ的には失敗してくれた方がありがたいか」


 叙任式には神子であるリアトリスも出席する。俺が神子付きの騎士を志望している関係だ。


「うん、気をつけるよ。っていうか、別に特別何かする訳じゃないけどね」


 叙任式で俺は騎士団長から叙任される。リアや他の騎士団幹部の人達、そして王族や神子関係者が見守る中でそれを俺は甘んじて受ければいい。特に宣誓したりする訳でもない。それなのに、ここまで緊張していたのは何故だろう。やはり、小さい頃から夢見ていた場所に登れるからだろうか。


「ふん、まぁ頑張れよ。オレは見に行けねえけど」


「……ありがと。じゃあ準備してくるよ」


「おう」


 ぶっきらぼうにエールを送るロベルトに感謝しつつ、俺は自室へと戻る。別れ際、俺達はハイタッチした。いよいよ、叙任式だ。




 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎



 王城の中にある大聖堂にはたくさんの人間が集まっている。正面奥の段上にある豪華な椅子に腰掛けているのはアリオスト王、その脇には王族関係者。一段降りたところにはリアトリスと神子関係者が佇んでいる。騎士団幹部は王族と反対側、大聖堂の入口から中央にかけて整列している。叙任を受ける新騎士は王の正面、段を降り少し離れた場所で正対しており、王と新騎士の間に騎士団長が立っていた。


「それでは、叙任の儀を執り行います」


 新しく騎士となるのは、俺を含めて三人だ。他の二人は俺より年上で、背も高い。一人は水色髪に鋭い目つきの青年、もう一人は茶髪におっとりした顔の青年だ。三人が横に並ぶと俺だけ異様に小さく見えた。

 始めに水色髪の名前が呼ばれ、彼は騎士団長の前に跪く。そして、騎士団長が訓示すると共に、彼に騎士の証である紋章を授けた。それを胸に付け、水色髪は元の位置へと戻る。

 そして次は茶髪。水色髪同様に紋章を受け取った。茶髪が元の位置に戻り、次は俺の番だ。緊張で体が強張る。


「ユーリ・カルティアナ」


「はい!」


 名を呼ばれ、俺は前に出る。カルティアナは神子一族の姓だ。神子屋敷に匿ってもらう際、リアトリスに付けてもらった。騎士団長の前に出る際、俺は視界の中に笑顔のリアトリスを捉える。


「ユーリ、頑張って」


 リアトリスにそう言われた気がした。決して声に出ていた訳ではない。しかし、その無言の一言で俺の心は落ち着いた。リアトリスに笑顔を返し、俺は騎士団長の前に跪く。


「汝に、騎士としての証を授ける。これより、いかなる時も国の為、そして神子の為に尽くし……」


 騎士団長が淡々と前の二人に言ったことと同様の内容を話す。俺はそれを跪き頭を垂らしながら聞いていた。そして、訓示の終わりと共に紋章を受け取りーー




「リアトリス・カルティアナはいるか!!」


 大聖堂の大きな扉を乱暴に開ける音と共に、怒号が鳴り響いた。


「え……?」


 俺も他の新騎士も、騎士団長も、王族も、そしてリアトリスも驚いた顔で扉の方を見る。するとそこには険しい表情の中年の騎士が五人ほど立っていた。


「何事だ!? 厳正な儀式の最中だぞ!」


 騎士団長が叙任式を中断しに入った騎士達に向かって叫ぶ。しかし、中年の騎士達は態度を変えない。


「国王様、並びに王族の皆様。そして騎士団長。突然の無礼をお許しください。我々は、そこにいる反逆者を捉えに参りました」


「反逆者……!?」


 大聖堂内の皆に緊張が走る。ーー嫌な予感がする。俺は血の気が引いた。

 中年の騎士はひとつ深呼吸をし、そして指差しながら言い放つ。


「アリオストの神子リアトリス。貴様を、国家反逆罪の罪で逮捕する!!」


「なっ!?」


 衝撃的な内容に大聖堂内が騒つく。そして、そこにいる人々が皆リアトリスを見た。


「……どういうことでしょうか」


 リアトリスが、真剣な眼差しで、そして冷静に言った。


「惚けても無駄だ。証拠は上がっている。今すぐ我々と来てもらおう」


「ちょっと待て、いきなり何を……」


 強引に話を進めようとする騎士達と、困惑しながら止めに入る騎士団長。一体、何が起こっているのだ。


「騎士団長、指示も伺わずに勝手な真似をすることをお詫びします。ですが、今は急務なのです。後で事情を説明しますので一先ず協力して頂きたい」


「しかし、まだ儀式の最中であるというのに……」


「ですが、あの女は儀式自体には関わらないでしょう? それよりも、国王様のお側にあの女を放置しておいてはなりません。事が起こってからでは遅い。今すぐ取り押さえるべきです」


「だが……」


「……分かりました」


 事情を言わずにリアトリスを連行しようとする中年騎士と騎士団長の会話を遮って、透き通った声が聞こえた。リアトリスだ。また彼女へ一斉に視線が集まる。


「そちらへ行きますわ。反逆罪などと何かの間違いだと思いますが、引いて頂けない様ですので。大事な儀式を台無しにするわけにもいきませんわ。でも、ちゃんと理由は説明してくださいますね?」


「あぁ、ここから出たらしっかり話してやる」


「では、私はここで失礼いたします」


 リアトリスはそう言ってお辞儀をし、中年の騎士達の元へ歩き始めた。


「ーーリア!!」


 ダメだ、そいつらと一緒に行ってはいけない。そう本能的に感じて俺は思わず叫んだ。静まり返った大聖堂の中に響いたその声により、今度は俺の方へ視線が集まる。


「ーー」


 しかし、リアトリスは顔をこちらに少し向け、微かな笑みを浮かべただけで大聖堂入口へと向かっていく。そして騎士達のもとに辿り着くと、一度こちらを振り返りお辞儀をした。


「よし、行くぞ! 皆様、大変失礼いたしました!」


 中年の騎士はそう叫び、そしてリアトリスを連れて大聖堂から出て行く。皆、呆気に取られてその光景を見ていた。そして俺も何もできず、リアトリスの後ろ姿を見送ることしかできなかった。





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