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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第1章 旅立ち
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第7話 少女の決意

 あぁ、バラしてしまった。俺はエルトゥール一族の末裔であり、そして追われる身でもある。

 だから、今までひっそりと正体を隠してきたのに……それにも拘らず何故かこの少女には正直に話してしまった。誤魔化すことだってできたはずなのに。どうしてだろうか。


 八雲さんは驚いた目でこちらを見ていた。当然だろう。彼女に自分の正体を内緒にするお願いをしつつ、俺は周囲を見回す。

 さて、神使に取り憑いていたものは退治できた。残る問題は……


「キュウゥ」


「! 卯月!!」


 弱々しく呻く竜の声に反応して、その傍に八雲さんが駆け寄る。


「卯月、しっかりして! もう大丈夫よ!!」


 八雲さんは治癒能力をかけ始めた。一生懸命術を行使している様だが、しばらく経っても回復する様子は見られない。

 竜の目がぼんやりと八雲さんを見つめる。そして小さな鳴き声で何か言っていた。俺には理解できないが。八雲さんには理解できたのか、その大きな瞳から涙が溢れる。


「八雲様! お怪我はありませんか!?」


「一体何がどうなっているんです!?」


 一継さんと智喜さんが血相を変えて走ってきた。そして竜の様子を見て唖然とする。


「卯月、お願い……!! 治って……!」


 八雲さんは最大出力で治癒能力をかけ続ける。だがしかし、回復の兆しは見えない。むしろ、どんどん生気が失われていく様に見える。八雲さんの顔は青ざめていた。


「卯月、もう大丈夫! 大丈夫だから!」


 声は震え、涙を流しながら必死に術をかけ続ける八雲さん。一継さんと智喜さんも手出しができず、ただ悲痛な表情でそれを見つめている。


「八雲様……」



 ──もうその場にいる人は皆わかっていた。回復の見込みが無いことを。



「卯月、嫌だよ……!!」


 それでもまだ八雲さんは術を続ける。その必死の治療も虚しく竜の目はどんどん閉じていく。


「諦めないで、卯月!!」


 八雲さんは叫ぶ。しかし竜の生気は戻らない。

 そして、竜の目はゆっくりと……完全に閉じる。閉じた瞳から涙が一滴流れた。


「いや……!!!」



 ……そして、最期に、竜は微かに笑った。






 ────竜は事切れた。





 風に吹かれた木々と芝生が静かに音を立てる。



「……嫌よ」


 もう竜は動くことは無い。しかし八雲さんは術を止めない。


「八雲さん、神使はもう……」


「まだ……まだよ! 絶対に治してみせるんだから!!」


 すると八雲さんの瞳から大粒の涙が流れる。


「八雲様……」


 智喜さんも泣いている。一継さんは目を瞑り、俯いていた。


「何で、どうして卯月がこんな目に……!!!」


 八雲さんは諦めずに術をかけ続ける。すると──何かが落ちる音がした。

 下を見ると、力の抜けた竜の口から何かが落ちている。


「これ……」


 葉の飾りが付いた竹の輪だった。だいぶ年季が入っている。

 それを見た瞬間、八雲さんの手から力が抜けた。術を止めて、弱々しく震えながらその輪を拾う。


「卯月……もしかしてあなた昨日、もう自分の体がもたないって分かってて遊ぼうって言ったの……?」


 彼女は竹の輪をぎゅっと胸に抱きしめる。


「最期に……これで……?」


 そして咽び泣きながら、八雲さんは声を絞り出した。


「うぅっうっ……うっ……うああぁあぁーーーー!!!」


 八雲さんは竜に抱きつき、大声で泣いた。悲しい、切ない声だ。

 その声は頂上の広場に響き渡る。声と相まって、木々の立てる音も悲しく聞こえた。





 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎




 空は晴天、小さな雲が所々に浮いている。縁側では小鳥の囀りが聞こえた。


「八雲さんはどうですか?」


「まだ自室に籠もっておられます」


 溜息をつきながら一継さんは答えた。あれから三日経つ。

 神使の死にショックを受けた八雲さんは、ずっと自室に引きこもり続けていた。食事もまともに摂っていないらしい。ちなみに俺はまだこの屋敷に泊まらせてもらっている。


「そうですか。やはり相当ショックの様ですね」


「まぁ……。八雲様と神使は幼い頃から親友の様に過ごしてきましたからなぁ」


 親友、か。ふと以前仕えていた神子の顔が脳裏に浮かぶ。彼女は──自分にとってかけがえのない親友だった。


「オルト様は何か収穫はありましたか?」


「いえ、特に有力な情報はありませんでした」


 八雲さんが引きこもっている間、俺は里中で何か異変に関連しそうな情報がないか聞き込みをしていた。この三日でほぼ全ての人への聞き込みが終わっている。あとは八雲さんに神使の変化の事などを色々聞きたかったのだが、この状態では当分聞けそうにない。


「もうそろそろ、この里も出ようかと思います。本当は八雲さんともお話したかったのですが……」


「まだゆっくりしていかれても大丈夫ですぞ? オルト様は八雲様と亡き神使の恩人です。あなたがいなければどうなっていたことか……」


「いえ。大体この辺りはもう調べ尽くしてしまいましたし、八雲さんにはまたそのうち会いにきますね」


 このままここで待っていても、いつ八雲さんの心の傷が癒えるかはわからない。ここで足を止めているよりは、先に他を当たった方が良いだろう。一継さん達も好意的にしてくれているし、またしばらくしたらこの屋敷に来ることにすれば良い。


「そうですか……では少々お待……」


「待って!」


 突然後方から割り込む声。一継さんの声を遮ったのは──八雲さんだ。


「八雲様! もう大丈夫なのですか?」


「……」


 振り向くと、八雲さんがこちらへスタスタと歩いて来ていた。一継さんの質問をスルーして八雲さんは俺の前に立つ。

 彼女、少しやつれた感じがする。服装も髪もずっと籠もっていたことだけあってグシャグシャだ。しかし、引きこもる直前は生気が感じられなかったその目には、強い光が感じられた。

 そして、八雲さんは真剣な表情で口を開く。



「オルトさん。私も、旅に連れて行ってください!」



 ……刹那、流れる沈黙。突然の申し出に一継さんと俺は固まった。

 聞き間違いでなければ今、この子は俺に旅に連れて行けと言ったか?


「はああぁあぁ!!?  何をおっしゃってるんですか八雲様ぁ!?」


 一継さんが声を荒げる。まぁ当然の反応だ。


「あー、えーと、俺と旅……ですか?」


 すると八雲さんはコクンと頷く。俺の目をじっと見つめたまま。


「無理ですよ、あなたはこの里を護る神子なんですから」


 立ち直ったと思ったら、いきなり何を言い出すのだこのお嬢様は。俺と一緒に旅に出るということがどういう事なのか本当に分かっているのか?


「卯月は……神使は今、この里にはいないわ。だからお告げを聞く役目は無いし、結界は私の次に氣力の強い春華に張ってもらえばいいわ!」


「八雲様ぁ!!!」


 鼻を鳴らしながら自信ありげに言う八雲さん。一継さんの血管が切れそうだ。


「そんな勝手なこと許しませんぞ!! というか何故いきなり……」


「オルトさんは、異変の原因を突き止めるために旅をしているんですよね?」


 また八雲さんが一継さんの言葉を遮った。あぁ、不憫。


「えぇ、そうです」


「今回の卯月の件は、異変が原因なんですよね?」


「……恐らくは」


「卯月がいなくなって、次の神使はいつ現れるのかわからない。明日なのか、一年後なのか、もしかしたら十年後になるかもしれない。それに例え神使が現れたとしても、また異変に巻き込まれる可能性だってあるわ」


 八雲さんが俯きつつ真剣なトーンで話す。そして胸に手を当て、こちらをキッと見た。


「そんな不安と恐怖を抱えてずっとこの里で暮らし続けるのは嫌だわ! だから、次の神使が現れる前に異変の原因を突き止めたいの!」


 ……確かに、その気持ちは分かる。いつ会えるかわからない神使をただこの屋敷で一人待ち続け、会えたところでまた異変に怯えながら日々を過ごさなければならない。それは辛いだろう。


「しかし、俺の旅は普通の旅行じゃありません。とても危険ですよ? それに野宿もあるし、風呂にも毎日入れません。食べ物だって選んでられない」


 そうだ。これは遊びじゃない。軽い気持ちで言っている訳ではないのはその表情からわかるが、箱入り娘が本当に耐えられるだろうか? 獣魔や賊に襲われる危険だってある。稀有な治癒能力を持っていれば尚更だ。


「覚悟はできてるわ!」


 真剣な眼差しでこちらを見てくる。その様子が──親友と被って見えた。

 あぁそうか、最初にこの少女を助けようと思ったのも正体をバラしてしまったのも、彼女になんとなく雰囲気が似ていたからなのか。……グラっと気持ちが揺れる。

 いやしかし、旅をするには他にも問題はある。


「それに俺には二人分養う経済力はありませんし、そもそも一継さん達が許さないのではないですか?」


 それを聞いてうーん、と八雲さんは考える。そして、何かを閃いた様にパッと目を輝かせた。


「じゃあ私があなたを雇います! 私を護衛しなさい!!」


「はぁ!!?」


「という訳で一継、送金よろしく!!」


 突飛な発言に呆気に取られる俺と一継さん。

 ……なるほど、考えたな。それなら金銭面の心配は無くなる。っていやいや、一継さん絶対反対するだろ。

 すると一継さんが大きく溜息をついた。


「……分かりました」


「えぇ!?」


 一継さんからのまさかのGOサイン。それを聞いて八雲さんがガッツポーズをする。


「ちょ……いいんですか!?」


「八雲様は昔から頑固者でね……ああ言い出したらもうテコでも動きませんよ。下手に閉じ込めてまた抜け出されても困りますし」


 えぇーー……。いや本気? お嬢様と二人旅? 資金援助は常時金欠病の俺にとって非常にありがたい話だが、不安要素があり過ぎる。

 俺が困惑していると、一継さんが目を細めながらこちらを見た。


「それに、お互いの秘密は握り合ってますよね? 安易には裏切らないでしょう?」


 うわ、そうきたか。確かに俺の正体と八雲さんの能力、互いに秘密を知り合っている。……というか一継さんめちゃ悪い顔してるぞ。


「というのは冗談で、八雲様の言うことも一理あります。オルト様は相当の手練れの様だし、どうか八雲様を守ってください。それに資金面では困らせませんぞ?」


 八雲さんと一継さんの視線が集まる。これは……俺も覚悟を決めよう。


「分かりました」


「やったあぁ!!」



 こうして、俺は八雲さんと一緒に旅をすることになった。






「よし、準備完了!」


 身支度を整えて、俺達は屋敷の門前に立つ。一継さん智喜さん春華さんが見送りに来てくれていた。


「うぅーー八雲様ぁ……」


 智喜さんは半べそをかいている。春華さんは笑顔、一継さんは微妙な表情だ。


「じゃあ留守中よろしくね、一継、春華!」


「「かしこまりました」」


「智喜も心配しないで! 異変を突き止めて必ず無事に帰ってくるから」


「……はい」


 すると智喜さんがキッとこちらを見た。


「オルト様! 八雲様にもしもの事があったら絶対に許しませんからね!!」


「はい、八雲さんは必ず俺がお護りいたします」


 智喜さんに笑顔で返すと、彼は悔しそうな顔をする。そして八雲さんの顔が少し赤くなった気がした。


「それでは」




 俺達は屋敷をあとにする。



 ここから、八雲さんとの異変を探る旅が始まった。








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