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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第6章 エルトゥールの末裔
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第76話 歩み寄る二人

 焼き芋を食べた後の午後、俺とリアトリスは再び街に出かけることにした。ロベルトと遊ぶためだ。正直あまり俺は気が乗らなかったが、俺がついて行かなかった場合リアトリスとロベルトだけで遊ぶことになる。それを避けるために仕方なく一緒に行くことにした。


「ふふ、三人で遊べるの楽しみですわね。何をしようかしら」


 隣を歩くリアトリスはとても嬉しそうだ。まぁ彼女がこれだけ楽しそうなら何だっていいか。今日の護衛もアリーチェで、俺達の少し後ろについてきてくれている。今は屋敷を出てロベルトとの集合場所である公園へ向かっているところだ。


「そういえばユーリ、先ほどユニトリクの情報が入ってきましたわ」


「え、ユニトリクの?」


「はい。新しい王が就任したらしいです」


「!! だ、誰になったの?」


 あれから神子選考がどうなったのかはずっと気になっていた。エルトゥールの屋敷が燃え、おそらく神使との謁見の場所も無くなってしまった上に、唯一神使とコンタクトの取れる父さんもいない。そんな状態で新たに神子を選ぶことができたのか。さらに言えば、ローウェンス家やバルストリア家も俺達同様襲撃されたりしていないか心配だった。

 しかし一族を滅ぼされ、なぜか指名手配までされてしまった俺には確かめに行くことができない。隣国であるアリオストに流れてくる情報を待つしかなかったのだ。


「王の名前は伏せられていましたわ。ユニトリクの王は神子でもあるのですわよね? ですから秘密にされているのだと思いますが」


「そ、そうだよね……。どの神子一族が王族になったかはわかる?」


「それが、一族の名の情報も入ってませんの。それに妙なことになっているみたいでして」


「妙なこと?」


 リアトリスの表情が曇る。あまり良い予感はしない。


「ユニトリクのエルトゥール一族は滅び、そして残りの神子一族二家は統合されたらしいですわ。そこから新しく王が選出された様ですの」


「統合!?」


 予想の斜め上から突きつけられた事実に俺は目を丸くして驚く。ローウェンス家とバルストリア家が統合されただって? 何でまたそんなことになったのだ。意味が分からない。そこから神子が決まったってことは、次の神子候補になる予定だったビアンカか? いやそれともレオンとハインツでまた神子選考仕切り直したとか……。しかしそんな異常事態になっているのなら、ローウェンス家かバルストリア家の当主が王になっているのかもしれない。


「大丈夫ですか、ユーリ?」


 頭の中で悶々と様々な可能性を巡らせる俺をリアトリスが心配そうに見つめてきた。


「あ、ごめん大丈夫。ちょっとビックリしちゃって」


「そうですわよね、国の一大事ですもの。ですが、アリオストに伝わってきた情報はそこまでですわ。それともう一つ、ユーリについての情報も入ってきました」


「俺の?」


 これも、あまり良い予感はしない。


「ユーリの罪状ですわ。ユーリは元王家であるエルトゥール一族への反逆、及び元王殺害の罪でユニトリクでは指名手配されているみたいです」


「なっ!? 俺が一族を裏切って、しかも父さんを殺しただって!? そんな訳無いじゃないか! むしろ殺されかけたくらいなのに!」


「お、落ち着いてくださいませ!」


 声を荒げる俺をリアトリスが慌てて制止した。俺は我に帰り、辺りを見回す。何人かの通行人が不思議そうに俺をチラチラ見ていた。


「ごめんリア」


「いいえ、動揺するのは当然ですわ。私も何かできることがあると良いのですけれど……やはり隣国の事情にまでは手出しできなくて」


「あ、いや大丈夫だよ。これは俺の問題だから、俺が何とかする」


「ですが……」


 申し訳なさそうにするリアトリス。本当にお人好しな人だ。そこが魅力の一つでもあるんだけど。俺とユニトリクの問題については、いずれ自分で何とかしなければならない。エルトゥールを滅ぼし、俺を指名手配犯にした奴をいつか突き止めてやる。

 そんな話をしている間に、待ち合わせ場所についた。ロベルトは既に到着していた。


「お待たせしましたわ、ロベルト」


「いんや、オレも今来たとこ……てかやっぱお前も来たんだな」


 ロベルトは俺の方を見てあからさまに嫌そうな顔をする。


「もちろんだよ。仲良くしようね?」


 俺は少々挑発を含んだ言葉をロベルトに投げかける。するとロベルトのこめかみがヒクっと動いた。ロベルトは俺の目の前に立ち、ガンを飛ばす。


「リアがいるから仕方ねえ。仲良くしてやるよ、感謝しな」


「うん。あと俺、負けないからね」


 何の勝負の話かロベルトは何となく察したらしく、少し目を見開いたあと目尻が上がった。


「上等だぁ! オレだって負けねえよ!」


 ロベルトは一歩下がり、俺を指差した。これでお互い宣戦布告は完了だ。リアトリスは俺達の会話の意味を理解できずに首を傾げている。


「……よく分かりませんが、お二人共仲良くして頂けてるみたいで嬉しいですわ。さぁ、ちょっと街をお散歩しましょ」


 リアトリスは俺とロベルトの手を引いて歩き出した。後ろをチラと振り向くと、アリーチェがニヤニヤしながらこちらを見ていた。




 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎




「なぁ、お前療養中って言ってたけど、重い病気でも持ってんのか?」


 ベンチに腰掛けながら、少し話しかけるのが恥ずかしそうにロベルトが聞いてきた。今俺とロベルトはアクセサリーショップの近くのベンチに座っている。リアトリスとアリーチェは買い物中だ。買い物に飽きた俺達だけ、外で休憩している。ロベルトの方から話しかけてくるなんて珍しいな、と思いながら俺は答える。


「ううん、病気って訳じゃないんだ。背中にちょっと大怪我負って死にかけて体がボロ雑巾みたいになっただけ」


「それちょっとどころの話じゃなくね!? 死にかけたとかヤベぇだろ!」


 なかなかの好反応をするロベルト。


「まぁ、もうだいぶ良くなってきたから大丈夫だよ。ありがと」


「べ、別に心配とかしてねえからな!!」


 何だかんだで気にかけてくれる辺り優しいなぁ、なんて思っていると、後ろの方から不穏な声が聞こえた。


「おらおら、もっと鳴けよ」


「ははん、足掻いたって無駄だぜ」


「おっと、逃げられねえよ?」


 俺達は振り向く。すると、人通りの少ない路地で黒い子猫を囲む三人の少年がいた。三人の少年は俺より少し年上くらいで皆質素な……というか薄汚れた格好をしている。一人は子猫の首に巻かれた縄の先を握っており、もう二人は木の棒で子猫を小突いていた。子猫は悲しそうに鳴き声をあげている。

 その光景を見て、マリィとビアンカに絡んできたガキ大将のことを思い出した。どこにでもああいう悪ガキはいるんだな、なんて考える。


「ロベルト、ちょっとここで待ってて」


 俺は立ち上がり、三人組の方へ歩き出そうとする。


「おい!? ちょっと待て、まさかお前アレ止めに行くのか!?」


「うん。だって可哀想じゃん」


「あいつらたぶん俺達より年上だぞ!? 逆にやられたりしねえか!?」


 ロベルトは必死に俺を止めようとする。


「ん、たぶん大丈夫。俺だけ行ってくるから待ってて」


 俺はロベルトの制止を聞かず足を進ませる。体の調子はまだ戻っていないが、あの三人組が余程の手練れではない限りおそらく返り討ちに遭ったりはしないだろう。


「お、おい!」


 俺の背中を見送りながら立ち尽くすロベルトの困惑した声が聞こえた。俺はそれに構わずどんどん三人組に近づいて行く。すると、三人の少年が俺に気づいた。


「……何だよ?」


「ジロジロ見んな」


「何かオレらに文句でもあんの?」


 三人の少年は威嚇の態度を取ってきた。こちらは全く歩くスピードを緩めず距離を詰め、彼らの目の前に立つ。


「その子離してあげてくれないかな?」


 俺は笑顔で彼らに言った。しかし案の定そんな言葉を聞き入れたりしない少年達は舌打ちをし、


「ざけんな。誰に向かって物言ってんだてめぇ」


「はい離します、って言って離すわけねーだろ」


「お前誰だよ? チビのくせにオレらに口出しするとかいい度胸してんじゃねえか」


 ガンを飛ばしながら脅し口調で喋る少年達。その足元で子猫が縋るような目でこちらを見ていた。


「うーん、そこを何とか!」


 一応俺は頼み込んでみる。だが少年達は全く受け入れず、子猫を繋ぐ縄を引っ張った。急に引っ張られて子猫が悲鳴をあげる。


「はっふざけんな! ボコボコにされたいのか?」


「痛い目みねーと分からねえみたいだな!」


「止めるわけねえだろバーカ!」


 木の棒を持った二人が臨戦態勢に入る。子猫を繋いでいる少年は縄を引いて一歩下がろうとした。

 ーー俺はその瞬間、縄を握る少年の腕を掴む。


「子猫を離せ」


 瞬時に腕を掴み、低いトーンで言葉を発する俺に少年達は戦慄する。


「なっ……こいつ!?」


 腕を掴まれた少年は必死に振りほどこうとするが、俺の手はビクともしない。


「何してんだてめえ!!」


 隣の少年が棒で殴りかかってきた。俺がそれを受け止めようとした時、


「うおらああぁ!!」


 殴りかかった少年の頬に拳が打ち付けられた。


「痛ってえええ!!」


 いきなり予想外の方向から攻撃されて蹌踉めく少年。


「ロベルト!?」


 少年を殴りつけたのはロベルトだった。俺の前に立ちはだかり、荒い息をしている。ロベルトは俺の方を振り向き、睨みつけた。


「バカかお前!? 一人で何カッコつけてんだ!!」


「え、いやカッコつけてるとかじゃなくて……あっ!!」


 俺がロベルトに気を取られている間に、縄の少年が腕を振りほどいて逃げ出した。しまった、油断していた。縄の少年は子猫を引きずりながら走って逃げていく。


「こら待て!! てか何て扱いを……!!」


 子猫は縄で引きずられながらも何とか倒れず体勢を保っている。俺が少年を追いかけようとした時、殴られていないもう一人の棒の少年が立ちはだかった。


「舐めてんじゃねえぞチビ!!」


 目の前の少年が木の棒を思い切り俺に向かって振り下ろす。


「ごめんね」


 次の瞬間、少年の手から木の棒は離れ、その腹には俺の拳が入っていた。


「ぐ、あ……!!」


 悶絶し少年は倒れこむ。その様子を見てロベルトと、そしてロベルトに殴られた少年は驚きポカンと口を開けていた。


「で、どうする?」


 俺は二人の少年を威圧する。すると二人の顔からは血の気が引き、体を強張らせた。そして彼らは目を見合わせ、即座に逃げ出す。特に捨て台詞を言うこともなく一目散に走って行った。


「お前……強いんだな」


 少年達を見送りながらロベルトが困惑した表情で俺を見た。


「これくらい大したことないよ。それより子猫を追わないと」


 他の少年の相手をしていて少し距離を開けられてしまったが、まだ追いつけるはずだ。早く助けてあげなければ。


「ロベルトはここでリアトリス達を待ってて。俺は追いかけてくるから」


 俺は駆け出した。すると、なぜかロベルトもついてくる。


「バカ、オレも一緒に行く!」


「え、何で!?」


「お前一人に任せられるか!」


「大丈夫だって。それより、誰もいなくなったらリア達が心配するから残っててよ」


「嫌だ!」


「何でだ!!」


 俺達は走りながら口論する。いつ戻ってくるか分からないリアトリス達をここで待って事情を説明して欲しいのに。なぜわざわざロベルトまで来るのだ。ロベルトは先ほど俺の戦闘力を確認したはずだから、少年に負ける心配をしているのでは無いだろうし……。


「何でもだ!! オレだって追いかける!!」


「あーもう……」


 頑なに残ろうとしないロベルト。俺は説得を諦め、リアトリスが戻る前にさっさと子猫を救出することにした。

 後を追って走ると、路地から出たところで川にぶち当たる。川には飛び石があり、その一つの上に子猫が乗っていた。少年の姿は川の向こう側に小さく見える。おそらく抵抗する子猫を連れるのを諦めて、自分一人で逃げたのだろう。子猫は飛び石の上で身動きが取れなくなっており、四肢が震えていた。


「もう大丈夫だよ!」


 俺達は川辺に近づき、飛び石を渡って子猫を救出しようとする。すると、子猫は怖がって後ずさりをした。直後、後ろ足が飛び石から滑り落ち子猫の体は水流に呑み込まれる。


「「あぁっ!!」」


 水深は浅いが子猫の小さな体では足がつかない。そこそこ流れも速いので泳ぐこともできずに溺れて流される。


「や、やべぇ!! どうしよう!?」


「行くしかないでしょ!!」


 狼狽えるロベルトを背に、俺は川へ飛び込む。冬が近いせいか、水は冷たい。こんな水温の低い川の中に長くいれば、子猫の体力はすぐに尽きてしまうだろう。俺は流される子猫を水飛沫を上げながら走って追いかける。と、少し走ったところでいきなり俺の体が川に沈んだ。急に水深が深くなっていたのだ。


「ぶは!?」


 一気に頭の上まで水に浸かる。それでも足がつかなかった。慌てて俺は浮上して顔を出し、息を吸う。ビックリした。


「おい!? 大丈夫か!?」


 後ろからロベルトの焦った声が聞こえた。それに俺は手を振って合図する。そして前方に流されている子猫に向かって泳いだ。


「あー冷たい」


 冷たい川の水がどんどん体温を奪っていく。子猫は必死にもがきながら顔を水面に出している。俺は川の流れも利用しながら子猫に近づき、あと少しで届くという時に後方で何かが川に落ちる音が聞こえた。


「へ?」


 俺は子猫に辿り着き、その小さな体を掴みながら後ろを向いた。すると、先ほどまで飛び石の上に立っていたロベルトの姿が無い。その代わり、こちらに向かって水飛沫を上げながら泳いで来る者がいた。ロベルトだ。


「な、何でロベルトまで来るんだよ!?」


「うっせえ! 手間かけさせるんじゃねえ!」


「助けてなんて俺は言ってない!!」


 そうこう言っている間にロベルトが俺に追いついた。


「おい、猫は無事か?」


「うん、大丈夫そう。取り敢えず早く上がらないと」


「そうだな……ってわあぁ!」


 急に川の流れが速くなった。俺達は一瞬沈む。そして再び水面に顔を出し、咳をした。


「ぶはぁ、ちょ、これヤバくねえか!? 岸まで行けねえぞ!?」


 川の流れが速すぎて泳ぐことができない。どんどん下流へと俺達の体は流されていく。ロベルトは必死に水をかいて岸辺を目指すが、全く進んでいない。すると、流される前方に大木が横たわっているのが見えた。あれに上手くつかまれればいいのだが、生憎その木には捨てられた釣竿やクワなどがたくさん絡まって突き出ており、このままこの速度でぶつかればそれらに体が突き刺さりそうだった。


「はぁ、こんなことなら最初から氣術使えば良かったな」


 俺はそう言い、体中に氣術を巡らせ、一気にそれを放出して周辺を凍らせた。一瞬にして水面から深さ三十センチほどが凍り、流されていた俺達の体がその場で固定される。大木まであと数メートルのところだった。


「うおぉ!? 何だこりゃあ!!?」


 突然の出来事に驚くロベルト。説明を求めるように俺を見た。


「こうでもしなきゃ止まらなかったでしょ。ちょっと冷たいけど許してね? よいしょ」


 俺は体と接する氷の境界面だけ炎で溶かし、凍った川の上に立ち上がった。子猫は寒そうではあるが、助かったことを察したのか落ち着いている。俺はロベルトの体周辺も氷を溶かしてあげて手を差し伸べ、彼を引っ張り上げた。


「……お前、氣術使えたのか」


 ロベルトが震えながら不満そうに言った。


「うん。まだ病み上がりだしあんま使わない様にしてたんだけどなぁ」


「……」


 悔しそうにするロベルトの手を引いて、俺は氷の上を歩き岸まで辿り着いた。


「ちょっと待ってね、今暖かくしてあげるから」


 俺は子猫を下ろし、しゃがみながら炎と風の氣術を応用して熱風をかけてあげた。だんだん子猫の震えていた足が落ち着いてくる。


「ユーリ! ロベルト!」


 すると、リアトリスの声が聞こえた。俺とロベルトは顔を上げ、川の向こう側を見る。リアトリスとアリーチェが手を振っていた。


「もう、こんなところにいらしたのですね! 心配しましたのよー!?」


 リアトリスが対岸で叫ぶ。


「ごめん! ちょっと色々あって!!」


 そう言いながら俺は手を振り返した。子猫の毛は完全に乾き、元気そうに鳴き声をあげた。それを見て俺は氣術を止め、立ち上がる。


「無事で良かった。さぁ、お行き」


 俺は子猫に話しかける。すると子猫は一度俺の足に頬をすり寄せ、そして去っていった。


「リア、今そっちに行くから! ほら、ロベルト行こう」


 先ほどからだんまり……というか、寒くて震えているロベルトの手を引いて再び川の方へ歩き出す。


「ロベルト大丈夫?」


「な、なんてことねえよ! 寒くなんかねえからな!!」


「無理しないほうがいいよ?」


 痩せ我慢するロベルトに俺は熱風をかけながら凍らせた川の上を歩いて行く。対岸に着くとリアトリス達が迎えてくれた。


「大丈夫ですの? 二人ともびしょ濡れですわ」


「うん、大丈夫だと思う」


「全然ヘーキだぜ!」


「そうですか? なら良いのですけど……心配になるので勝手にどこか行ったりしないで欲しいですわ。せめて言付けくらいしていってくださいませ」


「うん、ごめんね。気をつけるよ」


「一体何があったんですの?」


「ちょっと子猫を助けてあげただけだよ」


「へっくしゅん!!」


 俺とリアトリスの会話を遮ってロベルトが豪快にくしゃみをした。


「ロベルト大丈夫ですの?」


「大丈夫、オレちょー元気」


 我慢しているのがバレバレなロベルトを見ながらリアトリスは心配げな顔をする。


「「へっくしゅん!!」」


 今度は俺とロベルトが同時にくしゃみをした。それを見てリアトリスとアリーチェがクスッと笑う。


「もう、二人とも大丈夫じゃないですわよね!? 早く帰りましょう」


「「大丈夫だってば」」


 ロベルトとハモってしまい、思わず俺達は顔を見合わせる。そしてロベルトが目をそらし、恥ずかしそうに頬を指で掻きながら言った。


「……ユーリ、ありがとな」


「……え?」


 今、ロベルトにお礼を言われた? 名前も初めて呼ばれた?


「何でもねえ!!」


 ロベルトは耳を赤くしてそっぽを向き、帰る方向へ一人で歩き出した。そのやり取りを見ていたリアトリスは嬉しそうに微笑む。


「良かったですわね、ユーリ」


「うん」


 俺とリアトリスは笑顔を送り合い、そしてロベルトに続いて歩き始める。気づけばもうすぐ日が暮れる時刻で、夕日が川の氷に反射してキラキラと輝いていた。






 その後、俺は見事に風邪を引き二日ほど引きこもることになった。





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