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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第6章 エルトゥールの末裔
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第69話 神子候補達の思い

 名前を呼ばれた兄さんは返事をして王の前に歩み出た。この宣誓が神子候補達にとって一番の見せ場であり山場だ。

 宣誓が上手くできるかどうかは王たる資質の有無に関わると言われている。決してこの場で王を選定する神使が見ている訳では無いのだが、今まで神使はこの一言の宣誓で大広間にいる人間の心を一番よく掴んだものを選んできたらしい。ただ、言えるのは一言だけであるし言うのも子供である。よって、内容は大体似たり寄ったりのありきたりなものになることが多い。なので、皆が重要視するのはその宣誓内容よりも言い方や態度となるのだ。

 要するに、一番堂々ハキハキ宣誓できたものが、自分は王に相応しいのだと思わせることができる。もちろん内容もある程度は重要なのだが。


「頑張れ兄さん……!」


 俺もマリィも握った手に力が入る。俺達は兄さんが宣誓の練習をしている姿を何度も見てきた。兄さんは大きく息を吸う。そして、


「私フレンジルトは、神子として選ばれた暁には、民のため身を粉にして国へ尽くし、そしてユニトリクのさらなる発展のために尽力することを誓います!!」


 大きな声で、堂々と言い切った。少し声は震えていたが、それは問題にならないくらいしっかりと話せていた。見ていた官僚達の反応も上々だ。兄さんは王に一礼し、元の場所へ戻る。兄さんの大一番が無事に終わり、俺は胸を撫で下ろした。


「それでは、ハインリヒ・バルストリア」


「は、はひっ」


 ハインツの返事が裏返った。緊張でガチガチになった足で王の前に歩み出る。手と足が一緒に出ていた。これはマズイぞ。かなり切羽詰まっているらしい。


「わ、私ハインリヒは……国を、そして民のことを第一に考え、安全に、そして安心して暮らせる様に、全力で挑むことを誓います!」


 声を振り絞って宣誓するハインツ。兄さんほどの声量は出なかった。そして、最初の方はだいぶ声が震えていた。官僚達の反応はイマイチで、広間内には沈黙が流れる。

 ハインツは一礼してそそくさと元の位置に戻った。


「では最後、レオンハルト・ローウェンス」


「はい!」


 引き締まった声で返事をするレオン。王の前へ歩み出る。そして、深呼吸した。


「私レオンハルトは、王となった暁には、迫り来る周辺国の脅威に対抗するため兵力を増強し、産業面や教育面に投資して技術革新を進め経済を発展させることによって、国の安全を護り、そして民の豊かで幸せな生活を約束することを誓います!!」


 レオンも大声で堂々と言い切った。全く声もブレたりしていない。そして三人の中で一番具体的な内容が盛り込まれた宣誓だった。もちろん大人の添削が入っている宣誓ではあるだろうが。

 ただ、内容を差し引いてもレオンの宣誓の仕方は兄さんとハインツのそれより威厳と貫禄が感じられて、王たる風格の様なものが垣間見えた気がした。官僚達の方から、おぉ、と声が聞こえる。

 レオンは一礼して元の位置へ戻った。


「レオンくん凄いね……フレン兄、大丈夫かな」


 マリィが俺の袖を引っ張って言った。今の宣誓の光景を見れば、誰もがレオンが一番王に相応しいと思っただろう。それをもちろんマリィも感じてしまい、兄さんを案じている。


「まだどうなるか分からないよ。選ぶのは俺達じゃなくて神使だし」


「う、うん……」


 少し大広間が騒つく。皆、今の宣誓で誰が王に選ばれるのか、予想を話し合っているのだろう。宣誓の時の皆の反応からして、レオンの獲得票がダントツで多そうだ。


「それでは、これを持ちまして開会式を閉会致します」



 こうして開会式が終わり、いよいよ神子選考が始まる──。




 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎




 開会式の後、神子候補達は控室へと入っていった。集まった官僚や騎士達は、神子が決まるまで大広間で待つことになる。

 まだ神子選考の儀式まで少しだけ時間がある。俺は控室の前に来た。兄さんやハインツ、そしてレオンに声をかけようと思ったのだ。それにレオンには謝りたかった。

 大事な神子選考の直前だから本当は話しかけない方が良いのかもしれないが、もしレオンが神子に選ばれたら、選考が終わった後は忙しくて話しかけられる機会が無いかもしれない。それにもしかしたら、話しかけた方が緊張がほぐれて良いかもしれない、などと思った。兄さんがそういうタイプだから。

 しかし、迷惑だったらどうしよう。仲直りできなかったらどうしよう。また、拒絶されたらどうしよう……そんな考えがよぎって俺はドアを開けるのをしばらく躊躇した。

 控室のドア隣に立っている衛兵が不思議そうに俺を見る。


「……いや、行こう」


 意を決して、ドアをノックする。そして、中に入った。


「失礼します」


「……ユウ!」


 中には神子候補の三人がソファに腰掛けていた。他には訪問者はいない。嬉しそうにこちらを見たのは兄さんだった。


「兄さん、大丈夫?」


「あ、あぁ。取り敢えず山場は乗り越えたからな。後は神使に運命を委ねるだけだよ」


 そう言いつつも、かなり表情は堅かった。


「ハインツは大丈夫?」


 ソファでうずくまっているハインツに話しかける。


「ぼ、僕はもうダメだよぉ……完全に宣誓失敗しちゃったみたいだし。どうしよう、神使に選ばれなかったらお父さんにまた怒られちゃう……!」


 顔を下に向けながら涙声で話すハインツ。俺はそばに歩み寄り、背中をさすってやった。


「そんな、大丈夫だよハインツ。宣誓失敗なんてしてなかったよ? それに神子になれるかどうかは神使次第だから、ハインツが怒られたりすること無いと思うよ」


「でも、僕みたいなドジで間抜けな奴が選ばれる訳ない!」


 急に口調が強くなり、ハインツは顔を上げて俺を見た。険しい表情をし、涙目になっている。


「ユウはいいよね! 神子候補じゃないからこんなプレッシャーは無いし! それに最近はエルトゥール家とローウェンス家ばっかり神子に選ばれてるじゃないか! これでまた僕が神子になれなかったら、お父さんに一体何を言われるか……!!」


 ハインツは頭を抱え込み、再びうずくまる。確かに、ここ数代はエルトゥールとローウェンスが交互で神子に就任しているらしい。となると、バルストリア家は王家の地位奪還に躍起になっているだろうし、その重圧を一人で背負うハインツには相当の負荷がかかっているはずだ。


「ご、ごめんハインツ。俺、そんなつもりは……」


 控室にしばし沈黙が流れる。すると、ハインツが顔を上げた。先ほどの厳しい顔つきではなくなっている。


「ごめん、ユウ。僕言い過ぎたよ……。ちょっと今いっぱいいっぱいでさ……」


「あ……いや俺が悪かった。皆神子選考の儀式の直前でピリピリしてるのに、無神経に来ちゃった俺がいけないんだ」


 やはり、安易に来るべきではなかった。かえって神子候補達の気持ちを逆撫でしてしまった。

 そう思い、引き返そうとした時レオンと目が合った。


「あ……レオン、その……」


「ごめん、今俺誰かと話す気分じゃない」


 レオンにもバッサリ切られてしまった。暗い顔でこちらを見るレオン。謝るどころか、話すことさえ許されなかった。

 俺は完全に心が折れ、渋々ドアの方へと引き返す。


「ユウ、来てくれてありがとう。頑張るね」


「う、うん。頑張って」


 兄さんだけが優しく声をかけてくれた。もうどっちが励ましに来たのかわからない。俺はゆっくりと、力無く控室を出た。すると丁度、伯父さんが控室へ来るところだった。伯父さんは俺を見て頭を撫で、そして控室のドアを開けた。


「神子候補の皆様、お時間です。奥庭へご案内致しますのでついて来てください」


 いよいよ神子選考の時間だ。俺は控室から出て奥庭へ向かう三人を見送り、そして大広間へと向かった。




 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎




 大広間では、開会式に出席した官僚や騎士達、そして神子三家の関係者が神子選考が終わるのを待っていた。王と神子候補、そして伯父さんだけがこの場にいない。

 神子候補達が奥庭へ向かってからだいぶ時間が経った。そろそろ選考の結果が伝えられてもいい頃だろう。


「まだかなぁー? マリィ待ってるの飽きちゃったよ」


「もう少しだから待ってね、マリィ」


 待ちくたびれてウロウロするマリィ。母さんが優しく宥める。


「誰が選ばれたかなー? フレン兄神子になれるかなー?」


「そうだといいね」


 マリィと手を繋ぎながら俺が言う。すると、大きな音を立てて大広間の扉が開いた。広間内にいた人間全員が一斉に扉の方を向く。

 そこには、父さんと神子候補の三人、そして伯父さんがいた。皆、なぜか神妙な面持ちで佇んでいた。

 神子は……誰になったのだろうか。表情からでは全く分からない。


「神子選考の結果を発表する!」


 父さんが大きな声で大広間全体に聞こえる様に話した。





 そして、その内容に広間内は騒然となったのであった。




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