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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第6章 エルトゥールの末裔
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第64話 退屈な屋敷の日常

 颯爽と横を駆け抜けていく三毛猫。俺達はその後ろ姿を見送りながら唖然としていた。


「──はは」


 俺は四つん這いの状態から後ろに重心をずらしてへたり込んだ。レオンとハインツも起き上がり、座る。


「何だよ猫かよ!! ビビらせやがって!」


「はあぁ……お化けじゃなくて良かったぁ」


 緊張が解け、しばし脱力する三人。心地よい風が吹く。


「ねえ、もう一回入ってみない?」


「そうだな。探検途中で出て来ちまったし」


「えぇ!? もうやめとこうよ!?」


「大丈夫だって! さっきだってお化けじゃなかったじゃねえか」


「で、でもぉ」


 俺達は立ち上がる。建物の方に俺とレオンは歩き出し、ハインツはついてくるかどうか迷っている。

 とその時、後ろから女の人の声が聞こえた。


「──こら!! こんなところにいたのですねユウ様!!」


 名前を呼ばれてギョッとして振り返る。

 すると、シスターの格好をした女性がこちらに向かって走って来ていた。


「げぇ!! ジゼル!?」


 俺達は建物の中へ逃げようとする。しかし、ジゼルは氣術で俺達の足を金縛りにした。全く動くことができない。


「うわっ! 捕まった!」


「おいユウ! 抜け出してんのバレてんじゃねえか!」


「あぁーー怒られるよぉ」


 三人で嘆いている間にジゼルが俺達の元へ辿り着いた。

 この女性はジゼル・アルクイン。俺の母イリスティナの幼馴染で、街の教会でシスターをしている。教会でお告げを掲示することからちょこちょこエルトゥールの屋敷にも来ており、昔から世話になっている。小さい頃からよく遊んでもらっており、俺達兄妹にとって第ニの母親みたいな存在だ。


 で、俺がこうやって屋敷を抜け出すと母さんから連絡が入り、ジゼルも一緒に街中を探し回る羽目になる。


「ユウ様! まーたお屋敷を勝手に抜け出して!! 子供だけで出歩くのは危険だと何回言ったら分かるのですか!? イリスティナ様もご心配されていますよ!?」


「あーごめんごめん。でも俺大丈夫だよ? ちゃんと武術の稽古もしてるし」


 屋敷では毎日鍛錬をしている。それは王族を狙う輩から身を守るためでもあるし、有事の際に戦うためでもある。元軍人の師範を雇って毎日素手の稽古、剣の稽古をつけてもらっている。そして兄も妹も当然訓練を受けているのだ。


「でもまだユウ様は子供です! 悪い大人に狙われたらひとたまりもありませんよ?」


 そしてジゼルはレオンとハインツの方を見た。


「レオン様もハインツ様も、お屋敷の方が探されてますよ!?」


「うげぇマジかよ」


「あわわわ。また怒られるのかぁ。嫌だなぁ」


 うなだれるレオンとハインツ。

 三人とも抜け出したのを見破られてしまっていたのか。今度やる時はもうちょっと違う手を考えないとな。


「ユウ様……その顔は反省してませんね? イリスティナ様からきっちりお説教していただきましょう」


 ジゼルは俺を怖い顔で睨みつける。


「え、ごめんごめん反省してるって!」


「ほら、皆様行きますよ!」


 ジゼルは金縛りを解き、俺達を街の方へ歩くよう促す。俺達は大人しく従い、それぞれの屋敷に戻った。




 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎




 屋敷に帰ると、母さんはカンカンに怒っていた。

 母イリスティナは金髪ロングヘアーでとても美しい容姿をしている。エルトゥールの中でも一、二位を争う美貌だ。普段はおっとりしていてとても優しい母親なのだが、嫌いな食べ物を残す時と屋敷を抜け出す時だけはめちゃめちゃ怒る。普段とのギャップもあって、怒る時は凄く怖かった。

 俺は帰ってから夕食の時間になるまでずっと説教を食らい続けた。


「ユウ、また抜け出したんだって?」


 兄のフレンジルトが聞いてくる。今は夕食の時間だ。父さんはまだ仕事中、母さんは父さんを手伝いに行っているため、兄妹三人での食事タイムだ。

 屋敷内には祖父母や伯父夫妻なども住んでいるが、皆それぞれ仕事で忙しかったり外出してることが多いため日常生活は各世帯で送っている。今日の夕食のメインはハンバーグだ。そいや昨日兄さんがシェフにリクエストしてたな。


「うん、ちょっと街の外れまで行ってきた。何か古い図書館があってさ、冒険してきたんだよ」


「またそんな危ないことを……母さんからも子供だけで行くのは危険だって散々言われてるだろ? 何かあったらどうするんだよ」


 兄さんまで説教か……まぁ悪いのは俺なんだけど。


「うん、ごめん。気をつけるよ」


「ユウ兄、またやりそう」


 妹のマリィことマリアルナが痛いところをついてきた。俺はマリィを睨む。


「ユウはちょっと神子候補って自覚が足りないなあ。勉強サボってばっかりだし勝手に屋敷抜け出すし」


「え、神子候補は兄さんでしょ?」


「ユウだってその資格はあるよ。父さん達が最終的に誰を推薦するか決めるまではまだ分かんないじゃないか」


「マリィはー?」


「もちろんマリィにもその資格はあるよ。だからお勉強頑張ろうね?」


「うん!」


 マリィが可愛く笑いながら頷く。

 マリィは母さん似で、まだ六歳ながらもとても美人だ。長い金髪をツインテールにしており、紅い大きなくりくりお目々は見る者を惹きこむ。


「うーん、俺あんまり興味無いんだけどなぁ」


 父さんの仕事を見ていると、日中は誰かと会議したりお客さんに会ったり神使にお告げをもらいにいったりしている。日が暮れればひたすら色んな紙を読んだり何かを書いたりしている。

 俺はそんな生活よりは、伯父さんの様に衛兵をまとめて有事の際は最前線で戦うことに憧れた。だから武術の稽古は決して休まないし、むしろ師範の予定が空いていたら追加で授業してもらうくらいだ。


「ユウは神童って呼ばれるくらい武術は凄く強いんだから、あとは勉強頑張れば完璧なのになあ? 氣力量だって僕達の中では一番多いし」


 俺だって全く勉強していない訳ではない。たまーにサボったりするが、ちゃんと毎日家庭教師の講義は受けているし、学力で言えばその辺の子供よりはよっぽどできる。

 ただ、超ガリ勉の兄さんからすれば俺は全然勉強に打ち込んでいないらしい。ちなみに兄さんは勉強はめちゃくちゃできるが、武術に関してはイマイチだ。イマイチと言っても同年代と比べれば強いのだが、エルトゥール一族自体がかなり戦闘力の高い家系なのでその中にいるとどうしても霞んでしまうのだ。


「んー俺は兄さんほど勉強大好きにはなれない気がするよ……。それより兄さんもちょっとはお外に出てみたら? 街の様子とか色々見れて楽しいよ」


「ユウやっぱ全然反省してないな」


「あ、じゃなくてジゼルと一緒にとかでさ。ずっと屋敷にいるばっかりでつまんなくない?」


 俺達兄妹は一日をずっと屋敷の中で過ごす。朝起きて朝食を食べ、一般教養の勉強をし、そして武術の稽古をして昼食を食べ、政治や国際情勢の勉強をし、そして礼儀作法の授業を受ける。そうして一日が終わっていくのだ。

 ある程度休憩時間や遊ぶ時間も入れてくれているが、結局屋敷から出られなければ俺にとっては意味が無い。もうさんざん屋敷内は遊び尽くしてしまったので飽きたのだ。


 使用人に頼んでもなかなか買い出しなどには同伴させてくれないため、俺達は母さんが暇な時かジゼルが来た時だけ外に連れ出してもらえる。もちろん母さんやジゼルが忙しくなければ、という条件付きだが。

 ちなみに俺がレオンやハインツと遊びの約束をするのは、彼らが親と一緒にこの屋敷に来た時や、その逆の時だ。勝手に彼らの屋敷に遊びに行ったこともあったが。


「マリィもお外行きたいな」


「でしょ?」


「……じゃあ明日ジゼルに頼んでみよう。明日来るって言ってたし」


「わーい!」


 マリィの鶴の一声で兄さんは外出交渉を承諾した。俺もそうだけど兄さんもマリィに甘い。俺達は夕食を終え、部屋に戻って寝ることにした。




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