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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第1章 旅立ち
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第5話 神使との攻防

 手の傷は跡形もなく消えていた。八雲さんは明るい笑顔をこちらに向ける。


「だから、内緒ね!」


 内緒って……そんな簡単に人前で使って良い能力じゃないぞ、これは。


「聞いてくれてありがと! また明日ね!」


「あ、は、はぃ……」


 そう言い残して八雲さんはさっさと部屋の中へと消えてしまった。呆気に取られて座ったまま、俺は彼女を見送る。


「全く、たまげたな」


 世界中に、炎や水、雷や氷などの氣術を使える人間は山程いる。しかし、治癒能力を持つ人間はかなりレアだ。しかも回復速度が異常に早かった。

 治癒能力はその希少価値と有用性から、欲しがる奴らがわんさかいる。八雲さんが治癒能力保持者だと世間に知られれば、狙われるハメになるだろう。あの不用心さは……きっとそれが分かってないな。


 まぁ取り敢えず、明日神使を拝見できることになって一安心だ。森で竜を見つけた時は確証が無かったが、昼間と宴会の時の八雲さんの様子からこの里の神使に異変が起きてるのは明らかだった。かなり衰弱している様だったから、急がないとマズそうだったし。

 八雲さんがきっと夜も思い悩んで屋敷の中をウロウロするだろうと思い、張っていた甲斐があった。


「さて、明日に備えて休みますか」


 もう夜も遅い。俺は自分のために用意された客室へと向かった。




 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎




「準備はいい?」


「えぇ、まぁ……」


 神子以外は立ち入り禁止の高台へと続く廊下の扉を、物陰から俺達二人は見ていた。


「一継さん達何とかするって……何もしてないじゃないですか。忍び込むって」


「大丈夫! 今の時間は皆他の部屋で仕事してるから!」


 いや、こっちは全然大丈夫じゃないんだけど、と心の中で呟く。


 八雲さんの合図と同時に、静かに、かつ素早く扉の前まで移動する。そして誰にも見られていないことを確認し、廊下へと入る。

 そこには長い長い階段があった。見上げると、かなり遠くに小さく扉が見える。八雲さんを先頭に、俺達は急ぎ足で階段を上っていった。

 あぁ……。もしこれがバレたら二度とこの里には来れないだろうな。いや、それ以上の罰則があるだろうな……。と俺は頭の中で嘆いた。


 頂上に近づくにつれて、最初は笑顔だった八雲さんの表情がだんだん曇っていく。というか八雲さん、結構体力あるな。この階段まぁまぁキツイぞ。


 俺達は無言で上り続け、ようやく扉の前に辿り着く。素晴らしい彫刻の入った扉だ。もっと時間があれば、是非ゆっくり鑑賞したい。


「ここに、神使がいます」


 八雲さんが扉を開けた。ゆっくりと頂上の景色が広がる。その先には──森で見た竜がこちらをギロリと見ていた。

 八雲さんと一緒に神使の元へと近づく。竜の頰と首元には、昨日は無かった黒いアザのようなものがある。


「卯月、驚かせてごめんね。彼はオルトさん。世界の異変を調査してるの。卯月も調子悪そうだし、ちょっとみてもら……」


「危ない!!!」


 間一髪、俺は八雲さんを抱えて攻撃を躱し、地面に倒れこむ。きゃ! と八雲さんが小さな悲鳴をあげた。竜がこちら目掛けて凄い勢いで突進してきたのだ。


「う、卯月……?」


 何が起きたのかわからない、といった様子の八雲さん。攻撃を躱された竜は、こちらを睨みながらグルルルと唸っている。


「ちょ、どうなってるんだ? あの竜が神使で合ってるんですよね?」


「え、えぇ……! 私も訳がわからないわ。卯月がいきなりこんな事するなんて……」


 そう言いながら俺達は立ち上がる。


「卯月、どうしたの!? 怖いの? 苦しいの?」


 八雲さんがそう叫んだ瞬間、竜が八雲さんに噛みつこうと突進してきた。俺は八雲さんの腕を掴みこちらに引き寄せ、竜の牙から逃れされる。

 ──と、竜はまるでそれを読んでいたかの様に、すかさず長い尾で横殴りしようとしてきた。マズイ。八雲さんに当たる。それに避けられる距離ではない。

 俺は咄嗟に八雲さんを離して腕でガードするが、竜の大きく長い尾の力を受け止め切ることはできずに体が大きく吹っ飛んだ。


「オルトさん!!!」


 なんとか体勢を戻して芝生に着地する。体がミシっと音を立てた。あぁ、ちょっと油断したな。肋骨の一本や二本いったかもしれない。


 竜は今度はこちらを標的にしてきた。また噛みつこうと突進してくる。俺はギリギリのところでヒラリと躱し、角を掴んで突進の勢いに自分の力を加えて後ろへ投げる。竜は勢いを止めきれずに木々の中へ突っ込んだ。激しく木の枝や幹が折れる音が大きく響く。

 竜は木にぶつかった衝撃で少しフラついたが、頭を左右に大きく何度か振るとまたこちらをギロリと睨んだ。


「グアァーーーー!!!」


 竜の咆哮がビリビリと体を揺らす。木々や芝生、池も振動し、池には波紋が小刻みに広がる。八雲さんは驚いて耳を塞いでいた。


 さて、どうしようか……。神使は完全に正気を失っている。八雲さんの声も全く届かない様だし。このまま避け続けるのにも限界がある。しかし、さすがに神使を剣で斬るのには気が引ける。


 そう考えていると、竜をがまた突っ込んできた。今度は細くて鋭利な爪がついている前足で攻撃してくる。これもまたヒラリと躱した。


 ──と、そこに八雲さんが走ってきた。


「卯月、やめて!! お願い!!」


 おい待て待て待て待て待て待て!!! せっかく標的がこっちになったのに何故近づいて来るんだ!!


 すると八雲さんに気づいた竜は素早く方向転換し、噛みつきにかかる。


「クソっ!!」


 鞘に入ったままの剣を腰から外し、竜の前に回り込む。竜が八雲さんを襲おうと口を大きく開けた瞬間に、俺は剣を竜の牙に向かって振る。きゃ! とまた八雲さんが目を瞑りながら声をあげた。

 竜の口に入ったのは剣だ。牙と鞘が擦れてギシギシと音を立てている。かなりの力だ。少しでも気を抜けば押し倒される。


 と、後ろに立っていた八雲さんが竜の顔の横に回り込んだ。


「ちょ、八雲さん!?」


「卯月、大丈夫だからね…! 今治してあげる!」


 そう言って、彼女は昨夜と同じ治癒能力を使い始めた。すると竜の頰のアザがジュウゥと音を立てる。


「!!! クワアァーーー!!!」


 竜は痛そうに踠いて剣を離し、上体を反らせた。頭を激しく振りながら後ずさる。その時、首元のアザのあたりに黒い影のようなものが見えた気がした。


「え!? 痛いの!? ご、ごめんね!!?」


 八雲さんは涙目になっている。

 しかし、今見えた影はもしや……。これは勝機があるかもしれない。


「八雲さん、今の術をもう一度やってもらえませんか? 首元のアザあたりを狙う感じで」


「え、はい、大丈夫だけど……?」


「もしかしたら、神使がこうなっている原因がわかるかもしれません」


 そう言って、俺は竜の方へ走り出す。竜は尾と前足で攻撃を繰り出してきた。それを躱し、前足を踏み台にして噛みつこうとしていた竜の口の上に飛び乗った。竜が振り落とそうとする前にサッと後頭部に回り込み、加減しながら剣で角を叩く。叩かれた反動で竜の体が地面に倒れた。


「八雲さん! 今です!」


「はい!!」


 八雲さんが駆け寄って治癒能力を使う。またアザからジュウゥと音が出た。


「キュアァ!!」


 竜が苦しそうな声をあげたその時。




 ──竜の体から、黒い影が飛び出た。





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