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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第5章 王家の剣
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第51話 捜査

 遅めの昼食をとり、私達は神子屋敷へと赴いた。マリュージャの中で一番大きなその建物は五階ほどの高さがあり、三つの棟に分かれている。それぞれの棟は丸屋根を有していて、壁面にはたくさんのアーチ窓が設けられており、とても美しい。

 美しい建物故にこの街の観光地としても知られているらしく、建物周りには観光客とみられる人達がいた。その見物客の側を通り過ぎ、私達は神子屋敷の入口へと向かう。

 門は開放されており、正面玄関前に広がる前庭までは誰でも入れる様になっていた。前庭と言っても、特に植栽がある訳でもなくただ平らな空間が広がっているだけだが。前庭を通り、正面玄関前までつく。


「ごめんくださーい!」


 ノックし、声をかける。しばらく待つが、返事がない。


「ごめんくださーい! どなたかいませんかー?」


 再びノックし、大声を出す。観光客が物珍しそうにこちらを見ている。少し恥ずかしい。


「……誰もいないのかしら」


「どうだろうね。出直してみるか……」


 しばらく待っても何の反応も無かった。

 仕方なく引き返そうとしたその時、扉が音を立てて開いた。


「……どちら様でしょうか」


 少し開いた扉の隙間から、小柄な男性が顔を出した。坊主頭で修道服を着ている。オドオドしながらこちらを見てくる様子は智喜を彷彿とさせた。


「あ、あの! 私はインジャの神子です。マリュージャの神子さんについてお話をお聞きしたくてうかがいました」


「え、インジャの神子……ですって?」


 坊主頭の男性が目を見開く。そして私の頭から足までジロジロ見てきた。


「えっと……神子様についてですが、その、極秘事項ですので……それはちょっと……。それに、神子って言われましても……本当かどうか分かりませんし……」


 オドオド、モジモジしながら話す男性。この要領を得ない感じはきっと普段周りをイラつかせているのかもしれないな、なんて思った。


「確かに、私が神子であることを証明できるものはありません。でも、どうしてもお話を聞きたいんです。何とかなりませんか?」


「えぇ……そんなこと言われましても……」


 我ながらなかなか強引なお願いの仕方だな、と思う。

 男性は困り果てた様子で、建物の中を助けを求めるようにチラチラと見ていた。


「先日、神子さんは亡くなられたんですよね? 何か変なことはありませんでしたか? 俺達は神子信仰のある場所で起きてる異変について調べてまして、ここでも何か妙なことが起きてないか教えて欲しいんです」


「あ……うぅ……」


 オルトが後ろから援護射撃をする。男性はますます小さくなってしまった。

 ──すると、


「これ、何をしている」


 建物の中から声が聞こえた。その声に男性がビクッと反応して振り向く。


「……その方は本物の神子じゃ。見て分からんか。お通ししなさい」


「は、はい!」


 扉が開かれ、坊主頭の男性が中へ、と手で合図する。その奥には老年の男性が立っていた。頭に毛はなく、白い髭がへその位置まで長く伸びている。


「大変失礼をいたしました。私はマクシムと申します。どうぞこちらへ」


「ありがとうございます」


 マクシムに連れられ屋敷の中へ入った。天井は高く、壁には細かな模様が描かれている。柱や窓枠にも装飾が施されており、文化的価値が高そうだ。

 建物自体は凝った造りになっているが、過度に豪華に飾り付けている訳でもなくいたって質素な感じがするのは好感が持てる。


「私は神郡八雲です。インジャの上依の里で神子をしています」


 歩きながらマクシムに自己紹介をする。


「ほう、インジャですか。また遠いところからよくお越しくださいました」


「あの、マクシムさんはどうして私が神子だと分かったのですか?」


「はは、これだけずっと神子様に仕えておれば、本物かどうかくらいは分かる様になりますよ。ところでそちらの方々は?」


 マクシムはオルト達の方を見る。


「彼はオルト。私の護衛をしています。それにセファンと琴音。彼らは旅の仲間です」


「旅、ですか。先ほど少し聞こえましたが、異変を調べていらっしゃるとか? あぁ、つきました。こちらへお入りください」


 ドアを開けた先に応接室があった。この部屋も過剰な飾り付けはなく、テーブルとソファと壁に一枚絵画、そして棚があるくらいで、シンプルで小綺麗だ。

 ソファに座ってすぐ、使用人と思われる女性がお茶を出してくれた。


「さて、八雲様。改めて、ご用件をお聞きしましょう」


「はい。私達は神子信仰のある場所で起きている異変について調べています。先日ここの神子は亡くなられたのですよね? どうしてなのか教えていただけますか?」


「ふむ、異変……? 確かに神子様は亡くなられました」


 マクシムは少し俯く。そして間を開けて、言い辛そうに口を開いた。


「その……原因なのですが、神子様は……殺されました」


「え!?」


「「!」」


「マジ!?」


 無言で驚くオルトと琴音、思わず声が出てしまった私とセファン。マクシムは曇った表情で髭を撫でる。


「ど、どういうことですか?」


「犯人は分かりません。いつどうやって神子様に接触したのかも。ただ、神子様は背中を大きく斬りつけられて亡くなっておられました」


「そんな……!」


「外部から侵入した形跡もないですし、内部犯の可能性も調べましたが特に手掛かりは出てきませんでした」


「どんな傷でしたか?」


 下を向き、悔しそうに話すマクシムにオルトが尋ねる。


「そうですね……何か鋭利な刃物で斬られた様な傷でしたよ」


「犯人に心当たりはありませんか?」


「いえ、無いですね。神子様を恨んでいる様な人は見たことが無いですし」


「そうですか。では何か、殺される前に変わったことはありませんでしたか? 些細なことでもいいのですが」


「変わったこと、ですか」


 マクシムは髭を触りながら上を見てうーんと考える。そしてふと、何かを思い出した様子を見せた。


「そういえば……神子様が殺される少し前、街に出たことがあったのですが、その時見知らぬ男につけられたと言っておられました。何もされなかった様ですが」


「どんな男か分かりますか?」


「この辺りでは見ない服装だったらしいです。まぁこの街には年中港から旅人が行き来しますので、特定するのは無理かと思いますが」


「異国の男ですか……」


 オルトが顎に手を当て考えている。


「他に、何か変なことは起きてませんか? 神子さんに関係ないことでもいいんですけど」


「ふむ……。神子様が亡くなられてからは自然災害や獣魔の出現が多くなりましたな。おそらくこれは神子様の加護が無くなったからですが。他は特に思い当たりませんなぁ」


「そうですか……ありがとうごさいました」


 あらかた聞きたいことは聞いたので、話を切り上げる。

 マクシムにお礼を言い、建物の内部を少し観察させてもらうことにした。マクシムに案内してもらってある程度見学したのち、神子屋敷をあとにする。


「どう、オルト? 何か分かった?」


「うーん、神子を殺した犯人は影かもしれないね」


「影って……あの卯月を苦しめたやつ?」


「うん。屋敷の中を見たけど、結構人がいたし造りも複雑だった。外部犯が犯行をするのは結構難易度が高いと思う。それにまず侵入したら神子が気づくだろうしね。そして、マクシムさんが内部犯を疑って調べたけど何も出てこなかった」


「えーと、それで影が犯人ってことになるのか? 影のことよく分かんないけど、他者に取り憑くんだよな?」


「……神子をつけていた男性、ですか」


 なるほど、といった感じで目を少し大きくした琴音が喋る。


「恐らくな。たぶん神子が外出した時に取り憑かせたんだろう。そして犯人はさっさと船で逃げる。その後屋敷に戻った神子は影によって殺された」


「わわ、時間差殺人か。こえー」


「もしそうだとすれば、やっぱり異変には謎の組織が絡んでることになるね」


「でも犯人はもう遠くに逃げちゃってるだろうし、影自体も宿主がいないからどこかへ行ってるでしょうね。確かめようが無いわ」


「そこなんだよね。次の神子の擁立もまだ全然進んでないみたいだし、取り敢えずここは諦めて次の街に行った方がいいかもしれないな」


 神子殺害におそらく組織が関わっていることは推測できたが、手掛かりはすべて消えてしまっているのでどうしようもない。神子がいない現状ではこれ以上の内容の話を聞くこともできないだろう。異変と組織が関連している、という線が少し濃くなっただけでも収穫だろうか。


「次の街ねぇ……あ、オルト。カジノはいいの?」


「あ、そうだよ! さっき危険な大会に行くかどうか悩んでたじゃんか」


「あぁ……ごめん、ちょっと見てもいいかな? 一応確かめたい」


「うん、いいわよ! このまま放っておいたらきっとモヤっとするものね!」


「ありがとう。取り敢えず今日一回下見していいかな? どんな場所なのか」


「分かったわ!」


 ひとまず私達は宿を確保し、買い出しを済ませて休憩した。そして、マリュージャ唯一のカジノへと向かう。


「なぁなぁ、カジノって年齢制限とかあんのか? 俺、入れるかなあ?」


「うーん、どうだろうね? 大丈夫じゃないかな。まぁダメだったら俺と琴音で入ってくるよ」


「え、私もアウトってこと?」


「お子様お断りだったら八雲とセファンはダメでしょ」


「誰がお子様よ!」

「誰がお子様だ!」


「安心してください。ちゃんと抜かりなく見てきますから」


「「琴音まで!?」」


 そんなやり取りをしている間にカジノにつく。さすがカジノと言うべきか、とても煌びやかな建物だ。目の前には大きな噴水があり、激しい音楽に合わせて水のショーが開催されている。建物はまだ明るいにも関わらずライトアップされており、上部にはオシャレに崩した文字で「ようこそカジノへ」と書かれていた。


「うへぇーなんかお金を持て余してる感じだな」


「なんか目がチカチカするわ」


「取り敢えず入れるか聞いてみるね」


 オルトが先に入って、私達も一緒に見学できるか確認している。


「大丈夫だって!」


 すぐに返事が返ってきた。オルトが手招きしている。

 私達はカジノ内部へと入る。大きな、そして豪華な装飾のついた扉を抜けると、そこには別世界が広がっていた。

 金色の壁には大きな鏡がいくつかついており、鏡と鏡の間には高価そうな壺が置いてある。天井には大きなシャンデリアがついていて、一定時間ごとに色がピンクや水色、黄色などに変化している。タキシードの男性が一礼する横を通って奥へ行くと、開けた空間にたくさんの人がいた。ルーレットやカードゲームの台、スロットなど様々なゲームが行われている。


「わぁ……なんか凄いわね」


「皆目がマジだな。ちょっと怖ぇ」


「さて、どこで大会とやらはやるんだろうね。内容が内容だから大っぴらにはやらないと思うんだけど」


「ちょっと散策してみますか」


 カジノ内をフラフラと歩いてみる。勝って大喜びしている人、負けて打ちひしがれている人など、賭け事に興じている人の反応は様々だ。

 そんな人達を横目にぐるっと大体歩いてみたが、武闘会が行われそうな場所は見当たらなかった。


「あれー、どこかしら? 誰かに聞いたらわかるかな?」


「どうだろうね。裏の大会だから、普通に聞いても分からないかも」


 周りをキョロキョロと見回し、どうしたものかと悩んでいたその時。


 再びあの声が聞こえた。


「おーーるーーとーーくんっ!」


「おっと」


 明るく、飄々とした声。エリザベートが走って来てオルトに抱きつこうとした……が、それは避けられた。


「えーー避けるなんてひどーい?」


「あのなぁ……」


「てか、やっぱり来たんだねー。今日は下見か何かかな?」


「あぁ、そうだよ」


 ひどーい、と言ってうなだれたかと思えば、すぐに顔を上げて明るく喋り出すエリザベート。百面相だ。

 そして、つくづく勘がいい。


「その様子だと、どこでやるのか探してたって感じかな? 実はね、この一般客の来るフロアじゃないんだー。危ない会だからね。ルーレットの奥にいるバトラーに合言葉を言えばそこまで通してくれるわよー」


「合言葉?」


「そう。知りたい?」


 エリザベートはジリジリと顔をオルトに近づけた。意地の悪そうな、そして小悪魔的な笑みでオルトを見つめる。


「あぁ、知りたい」


「んじゃあ、取引しましょ」


「取引?」


「そう。合言葉を教える代わりに、ひとつ、エリちゃんの言うことを聞いてもらうってのはどう?」


「言うことって……何だ?」


「そーだねぇ」


 エリザベートは顎に人差し指を当てながら、こちらを見た。そしてニヤリと笑う。


「エリちゃんとちゅーするってのはどう?」


「「「「はぁ!?」」」」


「あっはっはー! 皆いい反応ねー!」


「ちょ、な、何言ってるのよエリちゃん!?」


「そうですよ、メチャクチャです!」


「うふふ、八雲姫も琴ちゃんも焦りすぎぃ」


「あ、焦ってなんかいないわよ!?」


「そ、そうです!」


 エリザベートのニヤニヤが止まらない。あぁ、完全にペースに乗せられている。オルトは呆れた顔、セファンはなぜか切なそうな顔をしていた。


「で、本当のご要望は?」


 オルトが切り返す。するとエリザベートは笑みを消し、真剣な表情でオルトと向かい合った。



「私の条件はねぇーー」



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