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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第5章 王家の剣
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第50話 魔女の目的

 トゥーイラ海峡を船で渡り、クライナスへ辿り着いた。ここはマリュージャという街らしい。検問所を抜け、私達は先ほど乗っていた船の船長に案内されて券売所内の一室に通される。エリザベートとグランヴィルも一緒だ。

 通された部屋は応接室の様で、小綺麗なローテーブルとふかふかのソファが並べてあった。


「いや本当に、ありがとうございました! あなた方がいなければどうなっていたことか……」


「いえ、大したことはしていませんよ」


「……気にすることはない」


 船長とお付きの人が深々と頭を下げる。サメの獣魔を倒した件で、ちゃんとお礼が言いたいとこの部屋まで連れてこられたのだった。

 オルトは笑顔で、グランヴィルは無表情で返答する。


「でもーぉ、普通は獣魔が出る航路なら戦闘員をちゃんと乗せとくもんじゃないのー?」


 しかしエリザベートは痛いところをつく様に船長へ言葉を飛ばす。


「えぇ、それなのですが……今まであの航路で獣魔なんて出たことが無かったのです。それで戦闘員は乗せていなかったのですが、まさかあんなことになるとは」


「え、そうなんですか!?」


「あれまー? じゃあ奇跡的に獣魔に出会っちゃったエリちゃん達って実はラッキー?」


 弱々しく答える船長。それに対して、私とは対照的に緊張感の無い反応をするエリザベート。

 そして船長は俯き、さらに弱々しく話し出す。


「はぁ、神子様が死んでから変なことばっかりだ……! マリュージャはどうなってしまうんだ……」


「え、神子が死んだって!?」


 オルトが驚いて聞く。船長は慌てて顔を上げた。


「は、はい。少し前に亡くなられたらしいです。原因は公表されていませんが」


「変なことって何ですか?」


「ええっと、町の近くで凶暴な獣魔が出たり、竜巻の被害が出たり、津波の被害が出たり、です。今までこんなに災害が起きたことは無かったのに」


「うーん、それってー神子が今まで防いでくれてたのが出てきちゃった感じじゃないのー?」


「そうかもしれません。確かに今までは神子様のお告げで災害をいくつも乗り越えられてこれたので。あぁ、早く次の神子様に出てきてもらわねば……」


 頭を抱えて俯く船長。私とオルトは目を合わせる。


「ねぇ船長さん。神子屋敷はどこにありますか?」


「え、神子様にご興味がおありですか? 生憎、先ほど言った通り神子様は今不在ですが」


「いいの。私達、神子信仰のある場所で起きてる異変を調査してて」


「へーえ、異変の調査ねぇ? ユニトリクに行くのもそれが理由なのー?」


「まぁ、そんなところかな」


 途中で会話に混ざってくるエリザベート。少しバツが悪そうにオルトが返答する。

 そういえばエリザベートには内緒にしてたんだっけ。オルトはやけにエリザベートを警戒してる気がするなぁ。異変を調査してるって言っちゃマズかったかな……? まぁでもこれくらいなら大丈夫だよね。


「神子様のお屋敷なら町の中心にありますよ。丸屋根の大きな建物で、町のどの位置からでも見えるはずです」


「あ、それと船長さん! この町で一番大きなカジノってどこー?」


 またしても私達の会話をぶった切って割り込んでくるエリザベート。何というか……ハートが強いと言うべきか。


「カジノ、ですか? この町には一軒だけですよ。神子屋敷を挟んでこの港と反対側、町の端に大きなカジノがあります」


「りょーかい、ありがと! そんじゃ、エリちゃん達はこの辺で失礼しまーす」


「あ、ちょっと待ってください! お礼の品を……」


 スッと立ち上がって出て行こうとするエリザベートとグランヴィル。慌てて用意していたお礼の品とやらを船長が彼女に渡す。

 エリザベートはありがとーと適当に言いながら渡された紙袋の中を少しチラ見して、そして部屋を出た。


「それでは、俺達も失礼します」


「ほ、本当にありがとうございました!」


 私達も品を受け取り、彼女らに続いて部屋の外へ出る。私達が見えなくなるまで船長達は見送っていた。

 先に出たエリザベート達に追いついて、その後ろを歩く。


「ねぇ、エリちゃんはトレジャーハンターなのよね? カジノには何しに行くの?」


「やだなぁー八雲姫? カジノに行くってことは、賭け事でお遊びするに決まってるじゃない? 楽しいよぉー一緒に行く?」


「い、いえ。私は遠慮しとくわ」


「あら、つれなーい。ま、目的の本命はそっちじゃないんだけどね」


「本命?」


「うふふ、知りたい?」


 エリザベートが立ち止まり、人差し指を口に当てながら意地悪そうに笑ってこちらを見た。その瞳に見つめられると、思考の全てを見透かされてしまいそうな気がして居心地が悪い。しかし、目を逸らすまいと踏ん張る。

 すると、エリザベートは腰に手を当て目を細めて笑った。


「うんうん、いいねその目! えっとね、私の本当の目的は、そのカジノ内で行われる裏社会の大会よーん」


「裏社会の大会……?」


「マリュージャのカジノで月に一回、掘出し物を景品にした武闘会があるらしいのよー。 景品は盗品だとか輸入禁止の動物とか希少な麻薬とか、まぁつまり表に出回らない様なものね。それを命懸けで戦って手に入れるワケ」


「命懸けで……。そ、それにエリちゃんは参加するの?」


「戦うのはグランよ。エリちゃんは観客席で景品を待ってるだけー」


 エリザベートはグランヴィルの背中をばんと叩く。しかしグランヴィルは相変わらず無表情だ。


「でもそれって犯罪にならないの?」


「うん、バレたらマズイねぇ。当然国の許可なんて取ってないし、景品が景品だし、そもそも死人が何人も出る様な大会なんて完全アウトだよねー。その場にいただけで逮捕されちゃうかも」


 真っ黒な内容を明るく話すエリザベート。まさかそんな場所へ行こうとしているとは予想だにしていなかったので、どう返そうか迷って口ごもってしまう。


「で、今度の大会でお目当の景品が出ると知って来たってことか?」


「お察しのとーり」


 オルトの質問に、エリザベートは嬉しそうに答えた。


「景品って……何か聞いてもいいかしら?」


「うふふ、いいよー。実はね……」


 エリザベートは一歩下がって勿体ぶりながらくるりと回転し、人差し指を私に向けた。


「元ユニトリク王家の宝剣よ!」


「!?」


 ドヤ顔でエリザベートが言う。その放たれた言葉にいち早く、そして異常に反応したのはオルトだった。

 その反応を見てエリザベートは不敵な笑みを浮かべる。


「ふふーん。その反応、やっぱり何か訳ありみたいだねぇ?」


「景品が王家の剣……というのは本当なのか?」


「エリちゃんも噂で聞いて来ただけだから、本物が出てるのかは分からないなー」


 オルトは腕を組み、少し俯いた。


「オルト、何か知ってるの?」


「……いや、何でもないよ」


「そう? もし気になるなら明日の夜が武闘会だからおいでよ! 見るだけでもいいし、オルトくんなら参加しても結構いい線行けると思うよ?」


「えーでもヤバい大会なんだろ? 警察沙汰とかごめんだぜ?」


「まぁ、いざとなれば私が隠蔽しますよ」


「何か琴音怖えよ!」


 二人の茶化しをよそに、オルトは真剣に考え込んでいる。いや、セファンは茶化してるつもりはないのだろうが。


「いや、遠慮しとくよ」


「あら残念。まぁ気が変わったらおいでー。じゃ、エリちゃん達はこれで失礼するねっ」


 オルトの返事に残念そうな顔をしたが、すぐに切り替えてエリザベート達は歩き出す。エリザベートは振り向いて手を振りながら、グランヴィルは振り向かず何も言わないまま去って行った。

 残された私達に沈黙が流れる。


「えっと、オルトどうしたの? エリザベートの話を聞いてから考え込んでるけど」


「あ、いやごめん。王家の剣ってのがちょっと引っかかって」


「王家の剣……オルトは知ってるの?」


「もしかしたら、ね。それより、取り敢えず神子屋敷の方へ行こうか」


 かなり気になっている様子だったが、オルトは無理矢理話を切り替えて歩き出そうとする。


「大丈夫か、オルト?」


「あぁ」


 セファンが心配そうにオルトを見る。オルトはセファンの頭をくしゃくしゃと撫でた。


「エリザベート……あの方はくせ者ですね」


「え?」


 琴音は溜息をつきながらそう言った。


「あぁ、かなり頭の回転は速いし洞察力もある。あの軽いノリの裏で何を考えているのかイマイチわからないし、目を見ると考えを読まれてる様な気になる。裏社会の事情もある程度知ってるみたいだったから、素性が知れないうちは警戒した方がいいかもな」


「え、スパイか何かかも知れないってこと?」


「まだ分からないけど、敵だとしたら厄介な人だね」


 確かに、エリザベートに見つめられた時は何とも言えない不快感があった。まるで自分を値踏みされている様な。


「うーん、まぁそうじゃないことを祈るわ。じゃあ神子のお屋敷へ行きましょうか」


 ここで悩んでいてもエリザベートの真意はわからない。

 ひとまず気持ちを切り替え、神子屋敷へと歩くことにした。




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