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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第5章 王家の剣
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第47話 故郷への出立

 天気は快晴、空気は清々しく小鳥の鳴き声が木々の奥から聞こえてくる。ランバートを出た俺達は、ユニトリクを目指すことにした。ユニトリクに行くためにはいくつか海や国境を超えなければいけない。まずはモルゴの国境を目指して、今は林道を歩いていた。

 そもそもなぜユニトリクが目的地になったのかは、竜の鉤爪のアジトから帰った翌日の会議による。



 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎



「──まさか、卯月の異変は謎の組織の実験が原因だったとはな」


「……信じたくは無かったわ。でも、テオルの発言を整理するとそうなるもの。本当、許せない」


「キメラの合成、他者を操る影の生産、ですか……」


「何かすげーおっかない組織だな」


 深夜にアジトからエイリンの屋敷に戻ってきた俺達はそれぞれ八雲の治癒能力で怪我を治してもらった。その後ゆっくり休んで朝日を迎え、今揃って遅めの朝食を摂っている。チェチェが用意してくれた朝食を食べながら情報の整理だ。


「だが……そうなると、俺達が追っている異変は自然発生したものじゃなく、何かの理由で組織が人為的に起こしたものだって可能性があるということか。全ての異変がそうとは限らないが……」


「もしそうだとして、その組織は神子信仰を狙って何がしたいのかしら?」


「分からない。キメラを作って、神使を操って……」


「世界征服でもする気なんじゃね?」


「今時流行らないわね、世界征服って……」


 冗談半分でセファンが茶化す。

 それにしても、今まで神子信仰のある地で異変が起きるのには何か法則性があるのかと考えていたのだが、まさか謎の組織が意図的に起こしていたものかもしれないとは。まだ全てがそうと決まったわけじゃないが、そうだとすれば目的は何だろうか。それに、世界各地で異変を起こしているとしたらとんでもない規模の組織だ。


「チェチェは裏の巨大組織って言ってたな……」


「……」


 ふと、琴音が難しい顔をしながら何か考えごとをしているのに気がついた。


「琴音? 何か引っかかることでもあったか?」


「……あ、えぇ。そう言えば以前、竜の鉤爪が怪しい組織と取引をしていると聞いたことがあります」


「取引?」


「はい。盗賊団内部で少し噂になってたんですが、獣魔を捕獲したり、竜の鉤爪の戦闘員を貸し出して多額な金額を貰っているらしいです。普通じゃありえない額で」


「獣魔の捕獲……キメラの材料なのかもしれないな」


「その組織のことは何か聞いてないの?」


「いえ、私も噂で聞いた程度なので詳しいことは分かりません。……ただ」


「「「ただ?」」」


 俺と八雲とセファンが琴音の次の言葉を待つ。すると、琴音は一呼吸置いて


「本部にいるボスはその組織と深い繋がりがあるみたいです。ボスが単独で交渉して、組織の情報は漏らさず部下に仕事を流しているとか」


「……キナ臭いってやつだな!」


「もともと過激派盗賊団なんだからキナ臭いも何も無い気がするけどな」


「じゃあ竜の鉤爪の本部に行けば、組織の手掛かりが何か掴めるかもしれないわね」


「本部に行けば、って簡単に言うけどなぁ……」


「残念ですが今回の一件で私はもう竜の鉤爪を抜けた形になります。団員じゃない人間が易々と本部に入ったりできませんよ」


「そっかぁ琴音無職になっちまったのか……」


「はい、お金に困りますね」


 セファンの軽口に乗っかる琴音。


「てか琴音ってシェムリで豪邸の護衛の依頼引き受けてなかった? あれも竜の鉤爪の仕事?」


「いえ、あれは別口です。伊織と一緒に退団した時のために、お金を貯めておこうかと思って色々やってたんです。……ですが、あの依頼で失敗した噂が広まってしまって、それからは竜の鉤爪以外の仕事が無くなってしまいました」


「え、そなの!? ……なんかゴメン、タネリのせいで」


「いえ、遂行できなかった私にも責任がありますので」


「あ、でももし琴音がちゃんと仕事完遂してたらタネリは今頃……」


「いないでしょうね」


「危ねーー! いや、俺もタネリにハメられた側だけど!」


「で、その本部はどこにあるんだ?」


 俺は横道に逸れた話題を引き戻す。


「ユニトリクです」


「「ユニトリク!?」」


「ど、どうした八雲、オルト?」


 思わぬ国の名前が出たことで、俺と八雲がハモって聞き返す。その様子にセファンと琴音が驚いた。


「ユニトリクに何かあるのですか?」


「……ユニトリクは俺の故郷だ」


「「!」」


「……なぁ琴音、その取引ってのはいつ頃から続いてるんだ?」


「取引の頻度は少ないみたいですが、関係自体は十年以上前から続いてると聞いてます」


「……そうか」


 ……嫌な線が繋がる予感がする。ユニトリクの盗賊団本部で行われる竜の鉤爪と謎の組織の取引。戦力の貸し出し。それが十年以上前から続いてる。そして、ユニトリクでトップクラスの戦闘力を誇る俺達エルトゥールが滅ぼされたのが十年前。

 ──まさか、な。


「……オルト大丈夫?」


「……え、あぁごめん」


 話しかけられてハッと意識を引き戻された。気がつくと八雲が心配そうに顔を覗き込んでいる。


「難しそうな顔してたけど、何か心当たりでもあるの?」


「いや、何でもないよ」


 今まで目を逸らしてきた真実の片鱗が、少し見えた気がする。……十年経った今の俺なら、あの忌まわしい記憶と向き合うことができるだろうか。真実を突き止め、諸悪の根源に打ち勝つことができるだろうか。

 エルトゥール滅亡に組織が関与しているかはまだわからないが、それを確かめるためにも、そして世界の異変の原因がその組織によるものなのかを突き止めるためにもユニトリクに行かなければ。今までずっと避けたきたが、こうなるともう逃げるわけにはいかない。


「──ユニトリクを目指そう。そこで、謎の組織を暴く」


「そうね! そいつらが異変を起こしてるなら懲らしめなきゃ!」


「オルトの故郷かあーーどんなところかなぁ」


「……それはかなり危険が伴うと思います。本部に侵入して組織の手掛かりがつかめる保証はありませんし、本部には竜の鉤爪の戦闘員がかなりいます。昨日のアジトの比ではありません。それに、実力ナンバーワンの幹部もいます」


「でもオルトはガルシオ倒したぜ?」


「ナンバーワンは次元が違うと聞いたことがあります。ガルシオどころの話じゃないと思いますよ」


「……それでも、俺は行くよ」


「もちろん私もよ!」


「俺は正直怖いけど……でも行くぜ! ついでに竜の鉤爪も潰してやろう!」


「うんうん!」


「「……」」



 ──こうしてこれからの方向性が固まり、朝の朝食時間が終わった。




 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎




 ランバートを出発してから三つの町に立ち寄り、いくつかの山を越えて現在に至る。特に町でのトラブルも無く、遭遇する獣魔も大して強くはなかったため非常に平和な道中だった。

 もうすぐモルゴの国境につくはずだ。


「はぁーー遠いなぁ。やっぱ馬車使えねえって不便だな」


「う……ごめんねセファン。私のせいで……」


「あ、いやいやそういう意味で言ったわけじゃなくて! ご、ごめんな!?」


「セファン……酷いです。八雲だって好きで狙われてるのではないのに」


「いやだからごめんって!! そんなつもりで言ってないよ八雲、琴音!? あーー徒歩の旅って楽しいなぁーー!! いぇいいぇーーい!」


 必死の笑顔でスキップしながら取り繕うセファン。それをサンダーが痛々しい顔で見ていた。


「ふふ、冗談ですよ」


「あはは、大丈夫よ? セファン」


「あーーもうヒヤッとしたよ!」


 いつも通りの楽しい会話が横で繰り広げられている。俺はそれを微笑ましく思いながら見守っていた。


「──あれ」


 すると、前方に人の気配を感じた。それに獣魔の気配も。


「どうしたのオルト?」


「ん、何か先にいんのか?」


「……獣魔と、何人か人がいますね」


「行ってみよう」


 駆け足で前へ進む。するとカーブを二つ越えた先、道の真ん中に帆馬車が見えた。


「馬車だわ!」


「あぁ、それに……馬車の前に獣魔がいる。襲われてるのか!」


 林道の真ん中に佇む十名ほどが乗れそうな馬車の目の前に、二本の立派な角を頭から生やした獣魔が二十体ほど立っている。体長は二メートルほどで体はクリーム色と茶色の縞模様、黒い蹄に黒い瞳、そしてその鹿に似た姿に似つかわしくない大きな牙が口からはみ出ている。


「うわーまたなんかいっぱいいるなぁ!」


「助けましょう、オルト!」


「りょーかい!」


 先頭を切って走り、剣を抜く。林道を駆け抜け、もうすぐ馬車まで辿り着く、そう思ったその時──


「皆さんちょっと伏せててくっださーーいっ」


 馬車の中から女性の声が聞こえた。そして次の瞬間。


「とりゃーーーー!!」


 馬車の中から竜巻のような風が地面と平行に飛び出てきた。風は正面の獣魔に向かって吹き、十体ほどを飲み込んで吹き飛ばす。

 飛ばされる間、竜巻の中の風は刃のように鋭いらしく、獣魔の体を切り刻んだ。前方の茂みに飛ばされた獣魔達は立ち上がることなく横たわる。


「な!? 風の氣術!?」


「え、え!? 今何が起こったの!?」


「馬車の中の誰かが氣術を使ったみたいですね」


 俺達は馬車のすぐ後ろに辿り着いたところで足を止めた。追いついたら取り敢えず獣魔を倒そうと思っていたのだが、今の一撃を見てどうすべきか迷ったのだ。

 すると、馬車の側面の扉が開き、二名の人間が出てきた。一人は豊満なボディに露出度高めの服装をしたショートカットの女性、もう一人は腰に長剣を携えた騎士風の服装にロングヘアーの男性だ。


「もーーう、エリちゃん達にケンカ売るなんて命しらずなんだからぁ」


 意気揚々と出てきたその女性は、獣魔達に向かって指を差し、高々と声をあげた。




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