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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第4章 首都ランバート
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第34話 VS.キメラ

 さすが神子屋敷というべきか。一使用人の部屋といえどそれなりの面積がある。

 だがしかしロードリールの部屋は家具の他にも趣味であろう可愛らしい人形や置物など物が多く、部屋の大きさの割には狭く感じた。

 しかも大量の猫が部屋内に集まった今、足の踏み場が無い。

 猫達は毛を逆立てて一斉にこちらを睨みつける。ロードリールの鋭い視線はチェチェに向けられていた。

 チェチェはゴクリと唾を飲み、汗を滴らせる。おそらく人を捕食するキメラに狙いを定められて怯んでいるのだろう。


「下がって」


 琴音から降りたエイリンとチェチェを後ろに下がらせる。ロードリールは今度は俺を睨んできた。それに構わず、俺は部屋の中に視線を巡らせる。

 目だけを動かし部屋を観察すると、ロードリールの左後ろの机上に剣が置かれていた。琴音の苦無も一緒だ。


「なぁオルト、この場合……俺だよね?」


 セファンが横目でこちらを見る。


「無理そうなら俺が行くけど、どうする?」


 俺は自信なさげなセファンに言う。セファンが頬をヒクっと動かした。


「丸腰のオルトに行かせられるかよ!」


 そう言って意を決したセファンが部屋の中へ飛び入る。彼は並走するサンダーを巨大化させ、それに乗った。

 それと同時に猫達がサンダーに飛びかかる。

 サンダーのパンチが先制して猫達にヒットし、猫達が弾き飛ばされた。しかし相手は数百匹だ。前方の猫に攻撃している間に横から後ろから引っかかれ噛みつかれる。しかし巨大化したサンダーの毛皮は厚いらしく、ダメージはそれほど大きくない様だ。


「こら、登んな!」


 ただダメージが少ないと言っても全く負傷しないという訳ではないし、放っておくと体を登られてセファンを攻撃されるため、野放しにもできない。

 前足、後ろ足、牙、尻尾を使って猫達を薙ぎ払うサンダー。そして仲間が倒れるのにひるむことなく攻撃してくる猫達。

 倒しても倒しても向かってくる。キリがない。


「あぁーーもう鬱陶しい!!」


 セファンが叫んで腕に力を入れる。すると氣力を送り込まれたサンダーが咆哮し、前足を地面につけた瞬間、大量の岩のドリルが床から飛び出てきた。サンダーの周りにいた猫が一気に串刺しになる。今のでかなりの数の猫が倒れた。

 しかし、その光景を後ろから見ていたロードリールは目を見開いた後、ニヤリと笑う。


「あんた、地属性の氣術が使えるのね」


 仲間であるはずの猫がこれだけ倒されても余裕の表情のロードリール。

 次の瞬間、ロードリールが勢いよくセファンの方へ跳躍した。彼女は鋭い爪を立ててサンダーの上のセファンを狙う。


「おわ!!」


 間一髪、セファンは大きく体を逸らして爪を躱した。が、かすったらしくセファンの頬に切り傷が入り、血が滴る。


「あっぶねぇ……」


 ロードリールは反対側の棚の上に着地して舌打ちした。そして尻尾を立てながらまた跳躍体勢に入る。

 対するサンダーは周りの猫の対応に追われていて、ロードリールにまで手が回らない。セファンは体勢を崩したままだ。


「セファン、避けろ!!」


 俺が叫んだ瞬間、ロードリールがセファンに向かって飛んだ。

 ダメだ、避けられない、そう思った俺と琴音が部屋へ飛び込む。

 しかし──ロードリールの爪がセファンを捉えようとした時、岩の壁が彼女の目の前に出現した。


「ぶっ!!」


 勢いよく壁にぶち当たるロードリール。衝撃で爪が一枚剥がれた。突撃を阻止されたロードリールの体が重力によって床に叩き付けられる。壁を出したのはサンダーだ。

 しかし猫の対応を後回しにして壁を作った結果、その隙に乗じて猫が何匹かサンダーの体を登った。


「わわ、来んなコノヤロ!」


 慌ててセファンが猫達を蹴り落とす。

 一先ずセファンの無事を確認した俺と琴音は武器の置いてある机へ走った。妨害してくる猫達を蹴り飛ばす。


「いででで!」


 セファンが猫に噛まれて悲鳴をあげる。よく見ると引っ掻き傷もいくつかできていた。サンダーの上に登っていた最後の一匹の猫をセファンは掴み、投げ捨てる。

 その光景を見届けながら、俺達は机に辿り着き武器を回収した。


「ぐ……やってくれたわね犬っコロ」


 頭を押さえ、口から血を垂らしながらロードリールが立ち上がった。どうやら激突で唇を切ったらしい。その双眸には怒りが漲っている。


「死ねぇ!!」


 ロードリールが叫ぶ。すると全身から電撃が放出された。

 誰を狙う訳でもなく力一杯放たれた電撃は部屋中に当たり、窓や置物を割る。ロードリールの猫達にも当たり、倒れる。


「うぉーー! 危ねえ!」


 セファンとサンダー含め俺たちは咄嗟に避けた。電気の放出が終わって、一瞬部屋の中に静寂が訪れる。

 ロードリールが苦い顔をした。


「……次はちゃんと狙うわ」


 ロードリールがセファンを指差す。サンダーが身構えた。


 そして次の行動に移ろうとしたその時──窓から何かが勢いよく入ってきた。

 中庭から飛び込んできたそれは、ロードリールにぶつかり、勢い余って壁際まで転がる。ロードリールもそれを腹に食らった衝撃で倒れた。


「……葉月!?」


 窓から突然入ってきたのは葉月だった。しかも傷だらけだ。床に倒れたまま、動けなくなっている。

 俺は急いで駆け寄り、葉月を抱え上げた。


「大丈夫か!? 八雲はどうした!?」


「……キュ、キュウ」


 葉月が落ち込むのではなく焦った様子をしていることから、まだ八雲は捕食はされていないがその危機には瀕していると察する。


「あぁ何なのもう……腹が立つ」


 フラフラと腹を抱えながら立ち上がるロードリール。今度はこちらを睨みつけてきた。憎悪に満ちた顔だ。

 俺は葉月を抱えながら剣を抜く。



 そしてロードリールが電撃を放とうとしたその時、窓の向こうから声が聞こえた。



「追いかけて来てみれば……何してるのかしら、あなた達?」



 俺達は中庭の方に目を向ける。窓の外、視界に入ったのは妖艶な、そして……背中から不気味な蜘蛛の足を生やした化物の様な女性だった。

 女性はゆっくりとこちらへ向かって歩いてくる。ロードリールがそれを見て怯える様に固まった。


「そいつがテオルです!」


 廊下からチェチェが叫ぶ。こいつが……偽物の神子か。確かにキメラだとは聞いていたが、同じキメラのロードリールに比べるとかなり悍ましい姿だ。

 テオルは目を細めながら口を開く。


「ちゃんと始末しなきゃダメじゃない、ロードリール?」


「……申し訳ございません。チェチェに裏切られました」


 ロードリールがチェチェを横目で睨みながら言った。チェチェはビクッとして後ずさる。


「あら、いけない子ねえ? 後で始末してあげるわ」


「う……」


 テオルがゆっくりと歩き、窓の目の前に来た。そして鋭く気味の悪い蜘蛛の足を壁に突き刺すと中庭側の壁に大量の亀裂が入る。テオルはさらに足に力を加えて壁を破壊した。

 ロードリールの部屋と中庭の間にあった壁は、無残にも大きな音を立てて全て崩れ去る。


「うわっ何も見えねー!」


 崩れる際に発生した砂埃で部屋中が満たされ、視界が遮られてしまった。辺り一面が灰色に包まれ、誰がどこにいるのかよく分からない。

 俺は敵の攻撃を警戒しつつ感覚を頼りに廊下側のドアの方へと移動する。割と簡単に廊下に出られた。廊下までは砂埃が舞っておらず、そこではエイリンとチェチェが不安そうに身を寄せ合っていた。

 俺はエイリンに負傷して動けない葉月を預ける。琴音もこちらへ来て、テオルに怯えるチェチェ達を守るように立ちはだかった。


「オルト、あいつがここにいるってことは、神子に会いに行った八雲は……」


 砂埃が舞う部屋の中を警戒しながら琴音が問いかけてくる。


「たぶん、謁見の間で拘束されてるんじゃないかな。残りのキメラが恐らく一緒だろうね」


 八雲を一人で放置したりはしないだろう。残りの一人はきっと見張りについているはずだ。


「……この場は任せても大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫。琴音は行けそう?」


「任せてください」


 琴音は振り返り、風太丸を召喚した。エイリンとチェチェが驚く。


「謁見の間は最上階でしたよね? 外から見たらわかりますか?」


「え? えぇ。最上階はその部屋しかありません。外から見れば突き出てるのでわかります」


 チェチェは質問の意図がよく理解できていないながらも取り敢えず答える。


「ありがとうございます」


 そう言った途端、琴音は廊下の窓を破り風太丸に乗って外へ出て行った。


「あ、え!?」


 エイリンとチェチェは何が何だかわからずあたふたとしている。


「琴音を八雲の方へ向かわせました。テオルが仕掛けてきそうなので、ちょっと隠れててください」


 俺はそう言いながら部屋の中に入った。俺が階段で最上階まで行くよりも、琴音が風太丸に乗って行った方が断然早い。琴音の戦闘力もかなりのものだから、相手がキメラ一体なら任せて大丈夫だろう。


「砂埃に紛れて何をコソコソしてるのかしら?」


 遮られた視界の向こうからテオルの声がする。そして、中庭から吹く風でだんだんと視界が開けてきた。

 目を凝らしたその直後、蜘蛛の足が俺の首元目掛けて伸びてくる。


「おぉっ!」


 鋭い爪が首を搔き切る直前に、剣でそれを弾く。

 部屋の中の砂埃は晴れ、そこには足を伸ばしたテオル、憤怒の形相のロードリール、半数以下に数を減らした猫達、そして身構えるセファンとサンダーがいた。


「よく見切ったわね」


「どうも」


 足を引き戻しながらテオルが不気味に笑う。



「……さぁ、大人しくしてもらおうか」



 俺はそう言って、テオルに剣を向けた。





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