表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第4章 首都ランバート
34/194

第33話 神子屋敷奪還作戦

 ランバートの神子と名乗る女性が、壁越しに話しかけてきた。

 俺達三人は驚いて顔を見合わせる。

 隣の牢屋にいるため姿は確認できないが、声から察するに若い女の人だ。


「え……神子!? 今八雲が会いに行ってるんじゃねえのかよ?」


「あなた方のお仲間が会いに行ってるのですか? ……それは偽物です」


「偽物?」


「どういう事です?」


 縄抜けをし、セファンの縄をほどきにかかりながら俺は尋ねる。隣でサンダーがセファンを大人しく見守っていた。サンダーだけは大人しくしていたからか、特に拘束はされていなかった。


「二年前にこの屋敷は襲撃されました。使用人は皆殺され、神子である私はこうして幽閉されてしまったんです」


「マジかよ……?」


 セファンが半信半疑で言う。


「……証明できるものはありませんが」


「誰に襲撃されたんです?」


「分かりません。ほんの少しの時間で、全てを奪われてしまいました……」


 話す女性の声が沈む。

 縄をほどき終わると、セファンがうーん、と伸びをした。琴音も自分で縄抜けした様だ。


「ずっとここにいるので私には外がどうなっているか分かりません。ですが、屋敷を襲撃した者は神子の地位を乗っ取って町でよからぬ事をしている様ですね」


 なるほど。そういう事か。

 二年ほど前からお告げの質が変わった、という情報とも辻褄が合う。

 さて……彼女の言葉を信じていいものだろうか。


「さっき、協力してここから出ようって言いましたよね? ……一つ聞きたいんですが、出てそれからどうするつもりです?」


「神子の地位を取り戻します」


「……俺達は町の様子を見てきましたが、神子信仰はもう崩壊寸前でした。まともにお告げはしないし、なのにお布施を取るので民の生活は苦しくなっているみたいです。治安も悪いですよ。町の人の心から神子の存在が離れていきつつあります。そんな状態であなたが戻ったところで、もう神子としては町をまとめられないのでは?」


「……今そんなに酷い状態になっているのですか」


「かなり」


 女性の言葉が止まる。考え込んでいるのだろうか。

 実際、今本物が神子として現れたところで、神子の信頼を回復するのはかなり難しいと思う。彼女が本物の神子だとして、ここから一緒に脱出して偽物を倒しても、彼女に待っているのは辛く険しい茨の道かもしれない。かといって彼女をこのままここに放置する気は無いし、偽物とやらを野放しにするつもりも無いが。


「……それでも」


 女性の言葉に力が入る。


「それでも、私はランバートの神子として戻ります」


 女性の表情はここから見えないが、何か決意の様なものを汲み取れた。──その重みのある決意の言葉に、本物の神子の気質を感じる。


 俺とセファンと琴音は顔を見合わせて、全員一緒に頷いた。


「分かりました。協力しましょう」


 俺がそう言うと、琴音が立ちがった。


「では、私が開けますね」


「え、琴音開けれんのか?」


「えぇまぁ」


 地下牢へ閉じ込められる時、武器は回収されてしまった。しかし、琴音はゴソゴソと腰のあたりを探して一本の針金を取り出す。


「ちょっと待ってください」


「あぁ頼むよ」


 氣術を一瞬使ってこじ開けようかと思っていたが、琴音が開けられるなら任せよう。

 しかし琴音が裏から鍵穴に手を回したその時、地下牢と屋敷を繋ぐドアが開いた。琴音は鍵から手を離し、俺達は身構える。

 すると、出てきたのは団子頭のメイドだった。俺達の牢屋の前まで歩いてきて、深々と頭を下げる。


「……?」


「先ほどは大変失礼したしました」


「え……どーなってんの?」


「彼女は私の従者です。彼女だけが襲撃から逃れ、生き残りました。今はこの屋敷に潜り込んで、反撃の機会をうかがっているのです」


 隣の牢屋の女性が話す。団子頭は顔を上げた。


「私はそこにいる本物のランバートの神子、エイリン様に仕えるチェチェと申します。あなた方をここから解放します。どうかエイリン様を助けてください」


「えぇ、そのつもりですよ」


「あービックリしたぁ。てか、あんたこっちの味方ならさっきの毒も出さない様にできたんじゃねーの?」


 セファンが食ってかかる。


「すみません、ロードリールが出す毒は私にも防ぐタイミングがありません。それに、あの毒を回避できないくらいの方々に助けを求めたところで奴らを倒せないでしょう」


「なるほど、試されてたのか」


 あのツインテールはロードリールというのか、と思いながら腕を組む。


「すみませんでした。ですが、私はこの屋敷から出るのを制限されています。あまり信用はされていないので……。ですので外に助けを求めることもできません」


「それで、屋敷を訪れた俺達の手を借りようと思ったってことですか」


「はい。今まで何人か偽物を怪しんでここを訪れた人はいますが、ことごとくロードリールの毒に殺されてしまいました。あれを突破したのはあなた方が初めてです」


「そんな大したことでは無かったですよ」


 琴音が感情を隠しながらも、しかしどこか得意げに言う。


「そういえばさっき、ロードリールが猫化してたけど、あれって何ですか?」


「あぁ、彼女達の体には獣魔が埋め込まれているのです」


「「「獣魔が!?」」」


 サラッと告げられた驚きの事実に、思わず三人でハモった。


「はい、私も詳しい事は知りませんが、ある裏の巨大組織の実験でその様なことが行われているらしいです。私の見る限りでは、その獣魔の特徴的な部位が体に生えたり、獣魔の氣術が使えたりするみたいです」


 巨大組織の実験……それは初耳だ。しかし実験の内容からして、かなりヤバイ組織なのは間違いないだろう。


「さっき彼女達って言ってたけど、他にも獣魔を埋め込まれた人がいるんですか?」


「彼女達のことをキメラというそうです。偽物の神子テオル、使用人のラーグもキメラです。この屋敷にはその三人と私しかいません」


「という事は三人で屋敷の維持をしてるのか……こんな広いのに大変だな」


 妙なところでセファンが感心している。まぁ確かにそうだが。


「人手が足りないので、私も雇ってもらうことができたのです。すごく怪しまれはしましたが……」


 そこまで言って、チェチェがハッと何かを思い出した様に目を見開く。


「それよりも、お仲間が危険です。キメラは人を捕食します。早く助けにいかないと!」


「えぇ!? 人を食べんの!?」


「はい。今まで来訪された方は全て捕食されました」


「うげぇ……マジか」


「おぞましいですね」


「早くしないとマズイな」


 チェチェは腰のポケットから鍵を取り出した。


「今開けますね!」


「俺達の武器はどこです?」


 鍵が解錠された。牢屋を出る。そしてチェチェは隣の牢屋の鍵を開け始めた。


「ロードリールの部屋にあります。ですので、先にそこへ行かないといけませんね」


 隣の鍵も解錠し、牢屋からランバートの神子が出てきた。

 美しい女性だ。赤を基調としたドレスからは白い袖が出ていて、その裾が白いスカートは足元まである。きちんと手入れしていればきっと綺麗な神子装束なのだろうが、今は色がくすんでしまっていた。

 そして二年間も牢屋生活を送っていたからか肌は白く体は細く、ヘソの位置くらいまで伸びる少し金髪がかった明るい茶色の髪はボサボサだ。しかし、黒い瞳はずっと一人幽閉されていたとは思えないほど生気に満ちている。


「改めまして、私はランバートの神子、エイリンです。どうか一緒にこの屋敷を取り戻してください」


 そう言ってエイリンはお辞儀した。


「あぁ、行こう!」


「よろしくお願いします」


 挨拶が終わったところで全員、地上へ続くドアへ向かって駆け出す。


「まずはロードリールの部屋に行って武器を取り戻す。その後八雲を助けに行くぞ」


「ロードリールの部屋は一階の西側奥、お仲間がいる謁見の間は最上階です」


 階段を上り、日の光が入る一階へと出る。廊下に人の気配は無い。チェチェを先頭に、ロードリールの部屋へと走る。

 屋敷が広いため、目的の部屋まで結構距離があった。家が広いと、こういう時は困り物だ。

 ずっと牢屋で暮らしていたエイリンは体力が無く、はぁはぁと息を切らしながら必死に走っている。


「……乗ってください」


 その状況を見かねて琴音が背中をエイリンに差し出した。


「え……ですが……」


「遅いです。乗ってください」


「あ、は、はい、すみません」


 エイリンが少しオドオドしながら琴音に背負われる。琴音の言い方はぶっきらぼうだが、それは単に感情表現が上手くないだけであって、決して怒っているわけではない。それは彼女を仲間に入れてからここまでの道中で分かってきた。

 少しその光景を微笑ましく思いながら、走るスピードを上げて西側奥の部屋へ向かう。


「あそこです!」


 ロードリールの部屋が見えてきた。すると、それと同時にたくさんの気配を感じた。恐らくあの猫達だろう。

 ロードリールがこちらに気づいて、猫達と共に待ち構えているのだ。


「気をつけて。向こうはこっちに気づいてる」


 俺達は部屋の前まで辿り着いた。全員と一度目を合わせ、警戒しながらドアを開く。

 すると、おびただしい数の猫と、その中心に立っているロードリールが見えた。


「……裏切り者」


 猫耳、尻尾、牙、爪を伸ばしたロードリールが、冷たい視線でこちらを睨みつけてきた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ