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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第4章 首都ランバート
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第30話 神子屋敷

 ここランバートで一番大きな敷地を誇る、神子一族の住む屋敷の前に私達は来ている。神子に直接会って、異変についての手掛かりを探るためだ。


「何の御用でしょうか」


 淡白に話す男。大きな扉の前には屈強な門番が二人おり、訝しげな目でこちらを見ている。

 当然だ。本来なら一般の人は神子一族の屋敷に入ることはできないし、ましてや神子に会うことなどできない。神子一族以外で屋敷を出入りできるのは国の要人や医者、生活資材を運ぶ商人くらいだ。


「私はインジャ国辺境の里の神子です。ランバートの神子様に謁見したく参りました」


 私は微笑みながら丁寧に挨拶した。そう、他国の神子にも屋敷に入る権利はあるのだ。

 ちなみに台詞はオルト作だ。


「あなたが神子……!? 少々お待ちください」


 神子が来たことに驚く門番。一人が慌てて屋敷の中へ入って行った。

 オルトは今まで、他国の神子に会う際は商人として屋敷に潜り込んでいたらしい。手口としては、珍しい鉱石などを持って行き口八丁で言いくるめて中へ入る。そして神子に会い異変について聞き出す、という感じだったとか。

 そんなに何度も神子に会っているわけでは無いらしいが。


 しかし今回はそんな手を使わなくても私がいる。これで簡単に神子に会えるはずだ。

 少しして、息を切らした門番が戻ってきた。


「すみません、生憎神子様は体調がすぐれませんのでお引き取りください」


 戻って来た門番からまさかの事実が告げられた。私とオルトは目を合わせる。


「え……大丈夫なのですか?」


「大病ではありませんのでご安心ください」


 お辞儀をしながら答える門番。オルトがこちらを見て小さく左右に首を振った。


「そうですか……分かりました、ではまた後日来ますね」


 あまり粘ると怪しまれる可能性もあるので、私達は仕方なく退散する。引き際もオルトの指示だ。

 明日は会えるだろうか。


「今からどうしよう? やる事無くなっちゃったわね」


「神子の最近についてもう少し聞き込みするかな」


 肩を落としながら仕方なく私達は屋敷を離れる。


「なぁ、俺実はあそこ行ってみたかったんだけどいいか!?」


 するとセファンが前方を指さした。博物館だ。


「いいよ。時間あるし」


「よっしゃあーー! 博物館って絶滅した動物も見られるんだよなぁ!? 楽しみー!!」


「……見れると思うけど生きてるのはいないぞ?」


 その日は街で聞き込みをしつつまったりしながら時間をつぶした。


 神子については、昨日の情報でもそうだったが評判は悪い。金だけ取ってまともにお告げもしない、しかし強制的にお布施を徴収するため庶民の生活はますます苦しくなるし治安も悪くなる、という状態に陥っているらしい。この様な変化が始まったのは二年くらい前からという話だ。


 同じ神子として、この状況は嘆かわしい。私の里ではお布施を強制徴収なんてしないし、ちゃんと神子の務めはしっかり果たしていた。だから、一人の神子のせいで神子全体のイメージが悪くなるのは悲しい。明日もし会えたら、その辺りについても話したい。

 そんなことを、悶々と考えていた。





 そして翌日。


「神子様に謁見させていただけませんか?」


「すみません、本日神子様の体調がすぐれませんのでお引き取りください」


 速攻で門前払いする門番達。

 あぁ……今日も断られた。私達は大人しく引き下がる。セファンが小声で文句を言っていた。

 まぁ体調が悪いなら仕方ないが、明日までには回復するだろうか?

 ランバートの神子は病弱な人なのだろうか?


「今日も特にする事なく一日過ごすって感じかぁー。なぁ、サンダーとあっちの公園で遊んできていい?」


 セファンが大通りにある公園を指差す。

 広い芝生広場があり、犬とフリスビーで遊んでいる人がいる。他にも犬と散歩している人やジョギングしている人もいて、犬と遊ぶならもってこい! という雰囲気だ。


「いいよ、今日は自由行動にしようか」


「良いですね」


「でも八雲は俺と一緒ね」


「はーい」


 解散し、私はオルトと一緒に街を散歩する。

 二人で歩くのは久しぶりな気がした。少し胸が高鳴る。


「最近一継さん達には手紙出してる?」


「えぇ、近況報告の手紙は出してるわ。この前返事で、お金遣いが荒いって言われちゃった」


「はは、人数増えたからねぇ」


 旅の生活費はオルトの護衛の給料と一継からの仕送りで賄っている。当初は私とオルトだけだったのが、今はセファンと琴音が増えたので宿泊代金も食費も倍かかることになる。

 オルトの給料で増額分を賄うのは可哀想だと言って、一継は仕送り代金を増やしてくれた。もちろん文句は言いつつだが。


「明日は謁見できるかしらねぇ?」


「どうだろう? 何か怪しいんだよね。本当に体調不良なのかな」


「どういうこと?」


「避けられてる気がする」


「え、どうして?」


「それは分からないけど……お告げの質が変わった事に関係してるのかも。明日も入れなかったら別の手を考えよう」


「? ……そうね、このままずっと待ちぼうける訳にはいかないものね」


 ランバートの有名な観光地はだいたい回ってしまった。食事も結構満喫してるし、これ以上滞在しても正直暇を持て余してしまう。まぁそんなゆったりな生活もたまには悪くはないが。

 その日はオルトと散歩しながらカフェに入ったり芝生に座ってお喋りしたり、といった感じでデートして一日が終わった。これはこれでとても充実していた。





 そしてその翌日。

 私達は再び神子屋敷を訪れる。今日こそは……入れるだろうか。


「神子様に謁見させていただけませんか」


「分かりました。どうぞ」


 するとサラッと許可を出す門番。昨日一昨日との対応の温度差が激し過ぎる。

 初めての許可が出て、一瞬何が起きたか分からず私とオルトは目を合わせた。後ろからセファンのよっしゃ! と言う声が聞こえる。


「ありがとうございます」


「ようこそお越しくださいました。こちらへ」


 扉の向こうから白髭にタキシード姿の痩せ型な使用人が出てきた。彼に促されて私達は屋敷の中へと入る。

 さすが神子一族の屋敷だけあって、建物内も豪勢だ。大きなシャンデリアのついた玄関ホールに迎え入れられ、そこを抜けると高価そうな壺や絵画が飾られた廊下がある。

 私たちは臙脂色のフカフカのソファが並ぶ客間に通された。


「ここで少々お待ちください」


 使用人の男性が一礼して部屋を出て行く。するとセファンが目を輝かせながら周囲を見回した。


「すっげえなぁ神子一族の屋敷は。超広いけど一体何人くらい住めるんだろうな!? 使用人のいる生活とか一回やってみてえー」


「とても豪華な生活ですね。私とは世界が違いすぎます」


「お金分けてほしーなぁ。あ、でも八雲もこんな感じの生活してたのか?」


「んー、私の屋敷はここまでゴージャスでは無かったわね。それなりに広かったけど田舎だったし」


 この屋敷には大きなシャンデリアや宝石の入った装飾がいたるところに施されていて煌びやかだ。それに比べて私の屋敷は質素なものだった。

 とは言っても、神子一族の屋敷なので一般の家とは比べものにならないくらいの豪邸なのだが。


「あんまり触らない方がいいと思うぞ、セファン?」


 洋タンスの上に飾られた馬の置物に触ろうとするセファンにオルトが注意する。馬の目や鞍がキラキラと光った。宝石が埋め込まれているのだろう。

 街の人はお金に困っているというのに、神子一族はずいぶん優雅な暮らしをしている様だ。私達神郡一族は、里がピンチの時は金銭面でもサービスの面でも協力しているというのに。

 しばらく部屋の中を見物する。琴音は壁に掛けられた風景画をジッと見ており、オルトは部屋の中をキョロキョロと何か探すように見回していた。


 するとその時、客間のドアがノックされ、開く。入ってきた使用人がお辞儀をした。


「お待たせしました。神子様への謁見の準備ができました。ただし、謁見できるのは八雲様のみですのでご了承ください」


「え!? オルト達は行けないんですか?」


「はい。決まり事ですので」


「そこを何とかなりませんか?」


「せめてオルトだけでも一緒に連れて行ってはいけませんか?」


「いえ、残念ですがそれはなりません。もしそれができないのであれば、お引き取りください」


 頑なに首を振る使用人。どうしても聞き入れてもらえないらしい。


「……じゃあ葉月は?」


「その小さな竜ならば大丈夫でしょう」


 オルトの方を向く。私一人でちゃんと情報が聞き出せるだろうか……不安だ。

 するとオルトが真剣な顔で頷いた。そして、耳元で私と葉月に囁く。


「もし危険を感じたらすぐに逃げるんだよ」


「え、えぇ」


 オルト達と行くことは諦め、仕方なく使用人に案内されて客間を出る。葉月は私の隣をトコトコ歩いてついてきた。

 階段を何回か上り、長い廊下を歩いていく。しばらく歩くとようやく謁見の間についた。


「こちらです。お入りください」


 使用人が扉を開ける。扉の向こう側にペイズリー柄の壁紙が見えた。私は恐る恐る部屋の中へ足を踏み入れる。

 部屋の中はさらに豪華な装飾品が並んでいた。シャンデリアや絵画はもちろん、金の盃や宝石のたくさんついたネックレス、水晶のような物もある。部屋の広さは宿の四人部屋の十倍は軽くありそうだ。

 その部屋の奥、段を一つ上がったところの椅子に腰掛けている女性がいた。



「──ご機嫌よう」




 妖艶な雰囲気を醸し出すランバートの神子が、そこにいた。






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