表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第4章 首都ランバート
30/194

第29話 消えた少女達

 店を出て周りを見回すが、八雲の姿が見つからない。後ろから出てきたセファンと琴音が不思議そうな目で俺を見る。


「どうしたオルト?」


「何かありましたか?」


「……八雲が猫を追って消えた」


「「えぇ!?」」


「探すぞ!」


 葉月もいない。恐らく八雲と一緒にいるのだろう。

 この町は物騒だと昼間に話したばかりなのに、どれだけ警戒心が無いんだ。しかもこんな暗い夜。少女が一人で出歩くなど襲ってくれと言っている様なものだ。


 俺達はすぐさまサンダーの嗅覚を頼りに追跡を開始する。


「全く……一人で猫追っかけてくとか何やってんだよ八雲は!」


「すまん、俺が目を離した隙に……」


「いやオルトは悪くねえよ……八雲が迂闊すぎるんだよ」


 溜息を吐くセファン。年下の彼の方がまだその辺りは心得ていそうだ。

 サンダーが鼻を地面スレスレに下ろしながらフンフンと鳴らす。そして、八雲の匂いを見つけたらしく、走り出した。俺達は追いかける。

 角を曲がり、細い路地を抜け、人通りの少ない道を進んで行く。サンダーが立ち止まって匂いを確認し、走り出し、また止まって確認し、再度走り出す。

 するとサンダーは道が曲がり、路地に入ったところで止まった。そして同じところの匂いを嗅いだり、顔を上に向けて困った顔をしている。

 俺はセファンの方を見た。


「匂いが途切れたってサンダーが言ってる」


「おい、それって……」


「……どういう事ですか?」


 あぁ……最悪だ。

 眉間に皺を寄せながら額に手を当てる俺に、セファンと琴音が顔を向ける。


「地面についていた匂いが途切れた、という事はそこで地面から足が離れたって事だ」


「というと?」


 セファンと琴音が怪訝な顔をした。


「……誰かに攫われたんだよ」


「まさか……!」


「おいおいマジかよ!? それやべーじゃん!」


「ランバートで最近起きてる連続少女誘拐事件に巻き込まれたのかもしれない。手分けして探すぞ!」


「お、おう!」

「はい!」


 俺とセファンはエリアを分けて地上から、琴音は風太丸に乗って上空から捜索することになった。

 既に日は暮れているため、街の明かりが届く場所は探しやすいが、路地裏や橋下など影になる箇所は見辛い。しかし、自分が犯人であれば恐らくそういった場所から逃走するだろうと思い、暗いところを中心に探す。


「クソ……無事でいてくれよ」


 葉月も一緒のハズだしきっと大丈夫、と自分に言い聞かせる。葉月は何気に賢いし行動力もあって優秀だ。それに八雲のことを第一に考えている。実際、ヨーテルとの戦いの際にも八雲を助けたし。

 しかし焦りが足の進むスピードを速めさせる。夜の街を走り回るが、八雲の姿は中々見つからない。既に警察にも話して、捜索をかけてもらっている。


「……闇雲に探してもダメだな。何か手掛かりが無いと。時間的にもう監禁されてるだろうし」


 警察の話だと今まで被害に遭ったのは五人、いずれも十代前半の少女だ。今まで誘拐された少女は誰一人帰ってきていない。

 一人目が誘拐されたのは十日前だったそうだ。直前に中肉中背の男がその少女と一緒にいるのを目撃されているとか。ただ、それ以上の情報はまだ掴めていないらしい。


「でも、五人も誘拐してたら普通の部屋に監禁してたら狭いだろうし、音でバレる気がするな」


 考えろ、考えろ。

 集合住宅や戸建などでそれを行えば、音で怪しまれるかもしれないし、連れ込む瞬間をご近所さんに目撃される恐れもある。


「となると、人目につかない場所だよな」


 だが当然、警察もその様な場所はとっくに捜査を入れているハズだ。おそらく簡単には見つからない仕掛けがあるのだろう。


「俺だったら……そうだな、あの工場か」


 ランバート中心の塔から見えた灰色屋根の工場。外観からは何の工場なのかは分からなかったが、何となくそこにいる様な気がした。特に根拠は無いが、俺は急いで工場へ向かって走る。

 セファンや琴音からはまだ見つかったという連絡は来ない。琴音が見つけたにも関わらずに連絡せず、そのまま八雲を連れ去る……という可能性が無いわけでもないが。

 しかし見つけたところで葉月も一緒にいるし、犯人と対峙しなければならないからそうすぐには連れ去る事はできないだろう。素直に俺達に知らせる方が得策だ。


「あそこか」


 小さな工場が見えてきた。近づいてみると、黄色いロープが入口に張られていた。ロープを跨ぎ、建物の中に入る。

 灯りは点いていないが、上部の窓から月の光が差し込んで中の様子が見えた。裁断する機械の様なものやプレスする機械の様なものなど様々なマシンがあったが、どれも埃をかぶっていた。おそらくかなり前に廃工場になったのだろう。

 ところどころ埃がはらわれている箇所があるが、これはおそらく警察が捜査に入った際のものだ。ここも捜査済みで、何も手掛かりは出てこなかったということか。

 一応、奥の方に進んでみる。


「……ん?」


 小さな工場なので、少し進めばすぐ壁になるのだが、壁際の機械や廃材の配置がおかしい事に気づく。明らかに、ある箇所を避けてその周りに機械と廃材が積んである様に見える。さらにその四角形の箇所には埃がたまっていない。


「ここか」


 その床を押してみる。すると、少し沈んだ後四角形の蓋……というか扉が浮き上がった。地下へ続く隠し扉だろう。扉の上には機械を引きずった様な跡があることから、きっと警察が来た時には上に機械が乗っていたはずだ。

 俺はそっと扉を上に開けて中を覗き込む。地下へと続く階段があった。奥がどうなっているのかは暗くて分からない。


 取り敢えず一度外に出て、大きく口笛を鳴らす。セファンと琴音に知らせるためだ。

 鳴らした後、入口に手袋を置いて目印代わりにし、俺は再び隠し扉まで戻る。そして足音を立てないよう、慎重に降りていく。

 そもそも何で工場の下にこんな地下空間があるのか、上の工場では一体何を使っていたのか等疑問を頭に浮かべながら降りていると、階段の奥に明かりが見えた。明かりのあたりで階段が終わっており、誰かの話し声が聞こえる。


「……一体どういうつもり!? これ外しなさいよ!」


「うるせえなあ。お前今どういう状況なのか分かってんのか?」


 ──ビンゴ。八雲と男の声だ。やはりここに誘拐されていたのか。


「こんなにたくさん女の子誘拐して、ただじゃ済まないわよ」


「……分かってねえ様だな」


 足音がする。男がおそらく八雲の方へ近づいて行っている。マズイな。

 俺は音を立てない様気を付けながら少し足を速めて明かりの手前まで来た。中を覗く。

 そこには十畳くらいの部屋があり、スキンヘッドの男の背中とそれに対峙する八雲、その後ろに五人の少女がいた。八雲も含め少女達には皆手足に枷がついている。部屋の端には麻袋があり、何やら中身がモゾモゾと動いている。恐らく葉月が入れられているのだろう。


「お前が今どの立場にいるかって事、体で分からせてやるよ」


 男が八雲の顎を上げる。八雲は振り払おうとするが、枷に引っ張られてそれは叶わなかった。


「ちょっ……離して!」


「はは、せいぜい足掻けよ」


 そう言って男が八雲の体を押し倒した。後ろの少女達が小さく悲鳴をあげる。

 ──怒りがこみ上げた。


「いやっ……!」


「──そこまでだ」


 男が八雲の服に手をかける直前。俺の握る剣の切っ先が男のうなじに少し触れた。男の手が止まる。


「な……!?」


 男は固まり、何が起きているのか分からない、といった感じで震えながらこちらを向こうとする。それを、剣をほんの少しだけ押して制止した。少しだけ皮膚に刺さってそこから血が滴る。


「オルト!!」


 八雲が俺を見て嬉しそうな顔をする。少女達は状況を飲み込めずポカンと口を開けていた。


「彼女達の枷を外せ」


「……何なんだお前は」


「返事は?」


「……はい」


 命を握られ、渋々服従する男。彼は懐から鍵を取り出した。

 男が移動するのに合わせて俺も彼の首に剣を当てながら移動し、少女達の枷を外させる。残りの枷は最後の一つだ。

 ……とその時、上で爆発音が聞こえた。


「何だ!?」


 部屋がまるで地震が来たように揺れる。俺はバランスを崩して男の首元から剣を離してしまった。

 揺れた拍子に男の手から鍵がすり抜け、金属音を立てながら床に転がる。


「へっ……じゃあな!」


 下品な笑みを浮かべてここぞとばかりに男が部屋から逃げ出した。しまった。


「ちっ! 待て!!」


 後ろでは少女達が悲鳴をあげている。しかし八雲は冷静を保っていた。


「八雲、残りの枷を外して逃げろ!」


「うん!」


 俺は手早く麻袋を切って葉月を出した後、すぐに階段を上り隠し扉を出る。するとそこは火の海になっていた。

 どういう仕掛けかはわからないが、男が爆薬か何かで爆発させたのだろう。火の海の中を男が駆けていく。

 俺はそれを追いかける。すぐに追いつき、入口手前のところで手刀を食らわせて気絶させた。後ろから八雲と葉月が少女達を連れて隠し扉から出てくる。


「ひゃ!? 何これ!!」


「きゃあ!」


「ひ、た、助けて」


 燃える工場内の光景に驚いて少女達が足をすくめる。


「早く! こっちへ!!」


 俺は男を建物の外に引きずり出しながら叫ぶ。八雲が彼女らの手を引いて走って来た。


「大丈夫かオルト!?」


 男を引きずり出したところで、ちょうどセファンとサンダーが到着した。


「こいつが犯人だ! 押さえててくれ」


「あ、あぁ。八雲は?」


「今出てくるハズだ」


 入口の方を見ると、八雲と少女達がすぐそこまで来ていた。八雲は先に他の少女達を建物外に出してやっている。

 ──と、俺と八雲は異変に気付く。そして八雲が建物の奥に視線をやり、急にそちらへ走り出した。


「待て八雲!!」


「おい!? 何なんだ!?」


 少女が一人足りない。恐らく足がすくんで動けず、奥で取り残されているのだろう。

 俺も急いで建物の中に入る。建物の中の火の手はさらに広がり、呼吸をするのも大変なくらいになっていた。先に走って行った八雲と少女が奥で立ちすくんでいる。少女は恐怖で動けないようだ。


「もう大丈夫だ。八雲、行くよ!」


「えぇ!」


 俺は急いで少女へ駆け寄り、お姫様抱っこして外を目指して走る。八雲も後ろから走ってついてくる。

 そして自分の足が建物の外へ出た瞬間──二度目の爆発音が鳴り響いた。慌てて振り返ったその時、爆風で俺の体が少女もろとも外へ吹き飛ばされた。

 そして飛ばされる瞬間。八雲が建物の中に取り残されたまま、入口が降って来た廃材で塞がれるのが見えた。


「……八雲!!」


 急いで体を起こすが、視界に入ったのは廃材だらけで隙間のない入口だった。


「わわ、八雲ーー!?」


 セファンと少女が慌てている。

 体から血の気が引く。最悪だ。八雲を先に走らせなかった俺の判断ミスだ。

 八雲は……まさか廃材の下敷きになってしまっただろうか。結界を張れただろうか。今すぐ助けなければ。

 壁をぶった切れば建物自体が崩れて二次災害の可能性もあるが、それを気にしてしていられる状況じゃない。

 俺は剣を抜き、構えて氣術を宿そうとした。


 するとその時、勢いよく建物の屋根を突き破って何かが出てくる。


「……琴音?」


 建物上空にいたのは、風太丸とそれに乗る琴音、そして琴音に抱えられた八雲だった。


「わあーー琴音! ファインプレーだあぁ!!」


 セファンが歓喜のあまり叫ぶ。八雲の無事な姿を見て、俺は胸を撫で下ろした。あぁ、寿命が縮まった。


 ……しかし琴音は少し下を見たまま黙って降りてこない。どうしたのだろうか。

 ──まさか、このまま八雲を連れ去るつもりだろうか。


「……こと」


 俺が名前を言いかけると、風太丸が降りてきた。俺達の目の前に着地して、琴音が八雲を降ろす。すすまみれになっていた。


「大丈夫か八雲?」


「えぇ、ちょっとビックリしたけど大丈夫よ。オルトありがとう。琴音もありがとう」


「いえ、無事で何よりです」


 八雲と琴音が笑い合う。その様子を見て、琴音を一瞬疑ったことに罪悪感を感じた。


「おい八雲! すっげー心配して探したんだぞ!!」


「ごめんね。セファンもありがとう」


 全く……とセファンが言うと、警察と消防が駆けつけてきた。建物の消火活動を始める。事件はこれで一件落着だ。

 俺達は警察の事情聴取を受けた後、宿に戻った。




 お説教大会をしながら帰った宿。

 部屋に入る直前、琴音を引き止める。八雲とセファンは先に部屋へ入っていった。

 琴音が何事かと首を傾げる。


「何ですか?」


「その……疑って悪かった」


 俺の言葉に琴音が少し驚いた様な表情をした。そして少し俯く。


「あぁ……いえ、いいんです。私が怪しいのは承知していますし、それくらい疑うのは普通ですから」


「すまない」


「大丈夫です。気にしないでください」


 そう言って琴音は少し笑顔を見せた後一礼し、部屋へ入った。俺は一度、大きく息を吐く。

 そして続いて部屋に入った。セファンに何を話していたのか聞かれたが、適当に流しておいた。


 その後は各自風呂に入ってベッドに入る。セファンは入ってすぐ寝息を立て出した。琴音は寝ているのかどうか分からない。

 そして八雲は、寝られないのかベッドの中でモゾモゾ動いている。しばらくモゾモゾした後、ベッドから抜け出しバルコニーに出た。葉月はそれに気づいて心配そうに見ている。

 俺も立ち上がってバルコニーに出た。


「……寝れないのか?」


「あ、ごめんオルト。起こしちゃった?」


「いや大丈夫だよ。八雲はどうしたの?」


 すると八雲は俯く。そして自分の体を抱きしめた。震えている様だ。


「……怖かったね」


 恐らく怖さをずっと我慢していたのだろう。皆の前で泣くまいと、気丈に振る舞っていたのだろう。その小さく華奢な体の中に封じ込めていた恐怖が、今堰を切って溢れだしたのだ。

 思わず、俺は震える八雲の体を抱きしめた。


「うっうっ……ふえぇん」


 泣き出す八雲。


「うっ……ごめんなさい。私が勝手に行ったからいけないのに……ううっ。でも……怖かった。オルトが来てくれて……良かった。……ごめんね」


「大丈夫、怒ってないよ」


「うっ……うええん」


 自分の行動に責任を感じて、下手に皆の前では泣けなかったのだろう。ずっと恐怖と戦っていたのだろう。かよわい体を抱きしめる腕に、優しく少しだけ力を加える。



 そうして俺の腕の中でしばらく泣いたあと、スッキリしたのか八雲はすぐに寝入った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ