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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第4章 首都ランバート
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第28話 神子の街ランバート

 祭の翌日、町を出て俺達はモルゴの首都へと向かう。宿でゆっくり休めたお陰か、八雲とセファンは全快した様だ。

 一つ小さな山を越え、草原の中に続く一本道をひたすら歩いて行く。


「そういえば、琴音ってシェムリで大きな鳥に乗ってたわよね? 琴音も獣魔使いなの?」


「……いえ、私は獣魔使いと違って獣魔を氣力でサポートしたりはできません。それに、風太丸ふうたまるは獣魔じゃありませんよ。大き目のオオワシです」


「え、そうなのか!? 大き目ってレベルじゃねーよな!? てっきりサンダーと同じで巨大化させてたのかと……。てか今その風太丸はどこにいるんだ?」


「……たぶん自分のねぐらで休憩してます。必要な時だけ私が召喚しているんです」


「召喚!?」


「……はい。風太丸とは契約を結んでるので」


「契約を結べば、いつでもどこでも召喚できるの?」


「……はい。私の特殊氣術です。人でも動物でも獣魔でも、契約すれば呼び出せます。その代わり対価を払いますが」


「対価? 風太丸には何を払ってるの?」


「……エサですね」


「なんかペットみたいね」


「風太丸に皆で乗って首都まで行くとかできねーのか?」


「……残念ですが重量オーバーです」


「「なんだぁ……」」


 心底残念そうにガッカリする八雲とセファン。平和だ。


 俺達はそんな会話をしながら着実に進んで行く。

 まだ首都までは少し距離がある。しばらく野宿をする事になるのだが、琴音はさすが忍といべきか、テントではなく木の幹の上で寝ていた。寝返りはしないのだろうか。果たしてあの寝方で本当に疲れは取れるのだろうか。


 何日か野宿し、歩き続けると地平線の向こうに町が見えてきた。首都だ。


「わぁ! あれがモルゴの首都? 大きいわね」


「ふぁーようやく見えてきた! 遠かったなぁ」


「馬車に抜かされた時は心が折れそうになったけど……これはこれで達成感があるわね」


 遠い目をしながら八雲が言う。ここまで来る途中、何度か馬車に抜かされたりすれ違ったりした。その度に八雲とセファンは羨望の眼差しで馬車を見ていたのだった。


「さぁ、もう一踏ん張りだ。頑張ろう」


 首都が見えてからは、着くまでの道のりは楽だった。モチベーションの問題だろうか。あっという間に辿り着く。八雲とセファンは胸を撫で下ろしていた。


 首都に到着してすぐ俺達は宿を確保する。取り敢えず少し休憩してから、買い出しや情報集めをする事にした。


「はぁーさっぱりした! 気分爽快だわ!」


 シャワーを浴びた八雲はご機嫌だ。

 今回も宿の部屋は全員同室だ。男女で分けるという手もあったが、八雲と琴音を二人きりにするのには不安があったためこういう形にした。正確には葉月を入れて二人+一匹だが。

 全員が風呂で順番に汗を流したところで、町へ繰り出す。


「前に一度来たことあるけど、やっぱ首都は都会だなぁ」


 セファンは以前一度首都に来たことがあるらしい。グルジ族の移動の途中で寄ったのだとか。

 八雲は物珍しそうに周りをキョロキョロと見ていた。


 モルゴの首都ランバートは、たくさんの人で賑わっている。食料品や生活用品、その他雑貨や本などが売っている総合商店や専門店、カフェなどが大通りに並んでおり、様々な国の人間がそこを行き交う。駅にはたくさんの馬車が並び、モルゴの国各所への切符を買うための列ができていた。船の発着所もあり、海を見るのが初めての八雲は興奮している。

 せっかくなので、情報収集ついでに観光する事にした。


「わぁー見て見てオルト! サルがお手玉してる!」


 大通りに人だかりができている。その中心には大道芸人がいた。サルとタッグを組んでお手玉や輪投げや玉乗りを披露している。


「琴音は見える? あれ凄くない?」


「凄いですね。あとサルが可愛いです」


 楽しそうに話す八雲と琴音。ランバートに着くまでの道中で、八雲と琴音はだいぶ仲良くなった。

 八雲が積極的に琴音に話しかけるうちに、琴音も心を開いてきた様だ。八雲は敬語をやめて欲しいと頼んでいたが、琴音は敬語が癖になっているらしく、なかなか抜くことができずに困っていた。

 まだ琴音の真意は読めないが、八雲といる時は楽しそうにしているのは分かった。


 ランバートの中心にある塔は観光名所になっていて、俺達はそれに登ることにする。狭い螺旋階段を上ると、展望スペースに出た。ここでランバートの街並みを一望することができる。

 景色を見て八雲とセファンが感嘆の声をあげた。

 建物の屋根は霞んだオレンジ色に揃えられていて、上から見ると美しい。博物館や総合商店など大きな建物が目立つが、ひときわ目立つのは神子一族の屋敷だった。おそらく街の中で一番大きいだろう。それともう一つ気になったのが、唯一屋根の色が灰色の建物だ。小さな工場の様に見える。オレンジ色の屋根が並べ中に唐突に現れるので、そこだけが何だか異質に見えた。


「やっぱランバートは活気があるなぁ。楽しいぜ」


 セファンがサンダーを撫でながら言う。サンダーは嬉しそうに尻尾を振っていた。


「そうだね。でも治安は良くないみたいだから気をつけてね」


 街の人の話によると、最近はスリや誘拐など犯罪が多発しているらしい。何でも、神子のお告げの質が以前と変わってから治安が悪化したのだのか。特に最近話題になっているのは、連続少女誘拐事件らしい。


「神子のお告げが変わったのは何故なのかしら」


 最近のお告げの内容は、お金を神子に納めれば病気が良くなるだとか、事故を避けられるといったものが多いらしい。

 更に、先日は大雨で河川が氾濫しのだが、それはお告げで事前に知らされることは無かった。


「大雨で災害が起きる事とかは、神使から知らされるハズなんだけど」


 そんな感じで神子の信用は落ち、ランバートをまとめていた神子信仰の力が弱くなることによって、治安が悪化しているのだ。


「うーん、ちょっと怪しいね。異変が関係してるかもしれない。神子に会いに行かないとね」


「会わせてもらえるかしら」


「交渉の仕方次第だね」


 もうすぐ日が暮れる。

 俺達は展望台を下り、近くの飲食店で夕飯をとることにした。

 久しぶりの飲食店での食事だ。皆思い思いにオーダーしまくる。

 野菜と肉がたくさん入ったスープや、挽肉と野菜を小麦粉の皮に包んだ掌くらいの大きさの揚げ物などを食べる。食べても食べてもどんどん次の品が運ばれてきた。どんだけ頼んだんだ。まぁ一継さんからの仕送り金があるので、食い逃げはしなくても大丈夫だと思うが。

 たらふく食べて、八雲とセファンは至福顔だ。大方食べ終わり、最後にヤギ乳のアイスをいただいた。


「お腹いっぱーい!」


「食った食ったー!」


「美味しかったですね」


 それぞれ食事に満足した様なので、会計をして店を出ることにする。中々の金額だった。食べ過ぎだ。

 俺が会計をしている間に八雲が一番乗りでさっさと出て行く。店の扉の向こうで話す八雲の声が聞こえた。


「あ、猫ちゃん! 可愛いーーってあっ待って!」


「……おい八雲!? ちょっと待てよ!?」


 今の八雲のセリフから察するにおそらく猫を追いかけて行っている。しかし一人で俺達から離れるのは危険だ。

 俺は急いで会計を終わらせて外に出る。セファンと琴音はお手洗いを済ませて後ろからついてきた。


「……八雲!?」


 店の外に出る。


 しかし、そこに八雲の姿は無かった。




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