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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第4章 首都ランバート
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第27話 抱く疑念と読めぬ真意

 またしても俺達の目の前に現れた黒髪の女性。忍、と言っているが、こうも接触してくる目的は一体何なのだろうか。はたまた単なる偶然なのだろうか。


 話を途中で遮られてしまったので、取り敢えず俺はセファンを屋根から降ろす。腰を抜かしたセファンがようやく降りたところで八雲がホッと息をついた。そして琴音さんの方を見る。


「あの、ありがとう琴音さん!」


「……いえ」


「ありがとな! 俺助けてもらわなかったらヤバかったわ。あんた強いな!」


「……いえ」


 いたって無表情で琴音さんは答える。というか口を布で隠しているので表情がよく見えない。


「で、琴音さん。どうして俺達を……」


 俺がそう言いかけたところで、町の入口の方から人の声が聞こえた。皆が入口に目を向ける。

 すると、和気藹々と何かを話しながら数人が町に入ってきていた。


「おやー知らんやつがおるぞ?」


「見ない顔だねぇ。客人かい?」


「こんな奥地までよく来たもんだ」


 俺達に気が付いておじさんおばさんが近づいて来る。会話からして町の人間なのだろう。


「あーえっと、俺達は旅人です。あなた方はこの町の方々ですか?」


「あぁ、そうだよ……ってうわぁ!?」


「人がいっぱい倒れてるぞ!?」


 後ろに転がっている、俺達が倒した竜の鉤爪のメンバーを見てその人達は驚いた。


「あ、この人達竜の鉤爪っていう盗賊団で、さっき全員倒したんで警察呼んでもらえますか?」


「竜の鉤爪!? 何でまたそんな物騒な奴等がここに……」


「まさか私達の留守を狙って!?」


「そりゃ危なかったな! 旅人さん達、ありがとう」


「いえ、この人達はそういうあれじゃ……もご」


 喋ろうとする八雲の口を押さえる。本当の事を話すとなると治癒能力のことをバラさなくてはいけないので、町人の話に乗っかった方が良いのだ。


「大したことはしてませんよ。たまたま鉢合わせしちゃって。それより、町の人全員が今留守にしてるんですか?」


「あぁ、実は今夜近くの湖で町の人間全員が参加する年に一回の祭りがあるんだ。それの準備をしていて誰もいないんだよ」


 なるほど、そういう事か。平和的な理由で良かった。


「あんたらも参加するかい? せっかくの客人だ!」


「恩人でもあるしね」


「泊まる場所なら用意させてもらうわ!」


「あ、いえさすがにそれは自分達で確保しますよ」


 決して町を救ったヒーローでは無いのに、そこまでしてもらうのはさすがに気が引ける。


「そうかい? じゃあ、祭にはぜひ来ておくれよ!」


「じゃ、私らはまだ準備があるから」


 そう言って彼らは各々家の方へ散って行く。快活で優しい人達だ。きっとここも良い町なのだろう。


「祭、何だか楽しそうね!」


「一体何やるんだろうな!? 花火とかやるのかな!?」


 隣で八雲とセファンがキラキラした目で話している。


「琴音さんも一緒に行きましょ!」


 八雲が輝く瞳で琴音さんを見た。突然誘われた琴音さんは驚いている……様に見える。


「わ、私もですか? ……良いのですか? ……というか、あの、その、えっと……」


「どうしたの?」


「……お願いがありまして」


「なあに?」


 小さな声で呟く琴音さん。八雲が彼女の顔を覗き込む。


「……私を旅に加えて頂けませんか?」


「「え!?」」


 突然の申し出に俺とセファンが驚く。


「良いわよ」


 そして八雲がサラッとノータイムで承諾する。


「ちょ、おい!? 八雲!?」


「早いな返事!! いいのか!?」


「だってニ度も助けられてるじゃない。良い人よ?」


 ……確かに助けられたのは事実だが、素性の知れない人間を易々と仲間に入れることはできない。それに俺達の旅に加わりたい理由も分からない。情報が足りなさ過ぎる。

 俺が乗り気では無い様子を見て八雲が顔をしかめた。俺は琴音さんを見る。


「どうして琴音さんは俺達と一緒に来たいと思うんです?」


「……あなた達は竜の鉤爪に追われてますよね? 私は竜の鉤爪を訳あって潰したいんです。一緒にいれば奴らに会えると思いまして」


「でも琴音さんは忍なんですよね? そんな事しなくても奴らに近づけるのでは?」


「その辺の雑魚メンバーは簡単に見つかりますが、彼らを倒したところで竜の鉤爪にとっては痛くも痒くもありません。しかし幹部メンバーは姿を隠すのが上手いのでなかなか見つかりません」


「なるほど、俺達といれば幹部メンバーに会えるって事か」


「はい」


 正直、怪しいと思う。唐突に現れた竜の鉤爪の雑魚集団、俺達に加わりたくて助けに入った彼女。因果関係がある様に思える。

 それに、彼女はシェムリで誰かの依頼の仕事をしていた。それが稼業なら竜の鉤爪潰しも誰かの依頼なのだろうか? しかし竜の鉤爪を潰したいのなら、彼女ではなくもっと違う手を使いそうだが。それとも彼女個人に潰したい理由があるのか。


「もう、オルトは難しく考え過ぎよ! この人なら大丈夫!」


「あのな、一緒に旅するってどういう事か分かってるのか? よく分からない人間を仲間に入れるなんて……」


「だ・か・ら! ニ回も助けてくれたじゃない! それで充分じゃない? 悪い人だったらそんな事しないわよ」


 八雲が怒りだした。セファンは我関せず、と一歩引いている。

 いやいやお前もこれから一緒に旅する事になるんだぞ?


「……あの、大丈夫でしょうか」


「うん、大丈夫よ! よろしくね! 私は八雲、彼はオルト、この子はセファンよ」


 俺達を指差して笑顔で紹介する八雲。


「それに葉月とサンダーよ。皆呼び捨てでいいから」


「……では私も琴音と呼んでください」


 琴音が目を細めた。たぶん微笑んだのだろう。

 というか俺達を無視してどんどん話が進むな。


「うん、琴音! あとその口の布って取れないかしら?」


「……構いませんよ」


 琴音は口を隠していた布を取った。鼻筋が通っていて顎のラインはシャープだった。美人だ。


 そういえば、一継さんが八雲は頑固者で一度言い出したらテコでも動かないって言ってたな……。

 仕方がないので取り敢えずここは俺が引いて、彼女を監視しよう。


「分かったよ、よろしく」


 俺の言葉に八雲が喜ぶ。

 こうして琴音が仲間に加わる事になった。





 今日の宿を確保し、夜に行われるという祭の会場まで俺達は行ってみる。

 町のすぐそばに綺麗な湖があり、その前の草はらにはステージと飲食ができそうなテーブル、イスが並べられていた。屋台もいくつか出ている。小さな町の祭りなのでもっと小規模かと思っていたが、結構本格的に色々と準備されていた。


「わぁー私こういうの初めて! 楽しみー」


「そうなのか? グルジ族では毎年こんな感じのやってたなぁ」


 はしゃぐニ人を俺と琴音が後ろから見守る。祭りの開始前からかなりテンションが上がっていた。


 すぐに日が暮れて、祭が始まった。ステージでは歌やダンスが披露されたり、漫談をする者もいる。団体の踊りは中々完成度が高い。全て町の人がやっているらしく、漫談漫才に関しては内輪ネタが結構多かった。


 ステージから離れた八雲達は屋台の食べ物やゲームを楽しんでいる。二人共かなり祭りを満喫している様だ。

 ゲームに夢中になる八雲とセファンを見ながら俺は琴音に話しかける。


「琴音、ちょっといいか?」


「……何でしょうか?」


 隣に立っていた琴音が少し目を見開いてこちらを見る。


「はっきり言っとくが、俺はあんたを疑ってる。竜の鉤爪のスパイじゃないかってな」


「……どういう事でしょうか」


「俺は竜の鉤爪に何度か会ってる。だから奴らの気配にはだいたい気づくんだが、シェムリの町からこの町に着くまでは奴らの気配は感じなかった。なのに、何故かこの町に竜の鉤爪がいた。しかも雑魚ばかり」


 俺の話を聞きながら琴音は腕を組む。


「俺が思うに、シェムリで俺達を見つけたあんたは俺達をつけていた。そしてこの町へ来るという情報を竜の鉤爪に流した」


「私が、ですか?」


「あぁ。で、そうすると竜の鉤爪からあんたに俺達の旅に潜り込めという指令が出た。そこで、この町に雑魚を送り込んで俺達を助け、信用させて仲間に入った」


「……」


 琴音が鋭い目でこちらを見る。俺も睨み返した。


「あとは、俺達の隙を見計らって八雲を連れ去る。これが俺の推理なんだけどどうかな?」


「……なるほど、筋は通っていますが、私はスパイではありません。あなたの察知能力よりも、竜の鉤爪が上手うわてだったのでは?」


「さっきの奴らにそんな事できる人間はいなかった」


「隠れて観察されているのではないでしょうか? 昼間の彼らは小手調べだったのかも知れません」


「今まで何人か幹部メンバーに会ってるが、そんな回りくどいやり方する奴らじゃない」


「……どうしたら信じてもらえますか?」


「全く素性が知れないから難しいな」


「……」


 沈黙が流れる。琴音が眉間に皺を寄せながら俯いた。


「あんたさっき、俺達の旅に加わりたい理由で、竜の鉤爪を潰したいって言ってたよな? なんでだ?」


「……それは……弟のためです」


「弟?」


「それ以上は言えません」


 ニ人の間に再び沈黙が流れる。

 するとその時、湖の上に花火が上がった。祭もクライマックスらしい。俺と琴音は思わず花火が上がる夜空を見上げる。八雲とセファンは花火に感動して見入っていた。

 フィナーレで大量の花火が打ち上がる。湖の上空が鮮やかに、明るく照らされた。遅れて飛んでくる音が小気味良く鼓膜を揺らす。


 俺と琴音は花火が終わるまで見ていた。そして夜空に静けさが戻った後、琴音がこちらをうかがい見る。


「……私は仲間に入れて頂けないのでしょうか」


 残念そうに言う琴音。これが演技なのか、それとも本心なのかは分からない。

 俺はふう、と息をつく。


「……まぁ、八雲は言い出したら聞かないからな。琴音と一緒に旅はするよ。でも、俺が目を光らせてるって事は覚えといて。もし、裏切る様な事があれば……覚悟しとけよ」


「……分かりました。ありがとうございます」


 琴音は一礼する。

 すると八雲達が歩いて来た。


「何やってるのニ人とも? 花火見た? 綺麗だったわね!」


「あぁ見たよ。綺麗だったね」


 笑顔で八雲に返答する。すると八雲が嬉しそうにした。


「すっげえなぁアレ! 近かったし!!」


「琴音は? 楽しんでる?」


「……はい、楽しいです」


 楽しい、と言いながら琴音は無表情だ。


「ステージは全部終わっちゃったけど、屋台はまだしばらく終わらないらしいわ。皆で回りましょ!」


 八雲に連れられて、俺達は四人で屋台を回る。琴音の表情が先ほどより少し緩んでいる様に見えた。

 八雲とセファンの前では、琴音への警戒を表面に出さない様にしよう。八雲に怒られそうだし、変に心配もさせたくない。


 ……俺だって本当は恩人に対して警戒などしたくは無い。

 しかし本能的にそうさせてしまうのは、過去の忌まわしい経験なのだ。



「……俺が、守るから」



 小声でそう言って、俺はかつての親友と重なる八雲の背中を見ていた。





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