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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第4章 首都ランバート
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第26話 彼女の名

 オルトは本当に何でもできるんだなぁ、と感心する。

 薬草を取って帰ってきたと思ったら、手早くそれを煎じたものを出してくれた。さらに病人食まで作ってくれて、私もセファンもかなり回復した。半日でここまで良くなるとは驚きだ。


 今は夕方。オルトはテントの外で鍛錬をしている。


「オルトって一体何者なんだ? 色々できすぎじゃね?」


「何か神子に仕えてたりキャラバンに入ってたり一人旅したりで経験豊富みたいよ」


「すげーな。なんか父さんとおばちゃんを足したみたいな感じだ」


「おばちゃん?」


「アウラの母さんな。俺が小さい頃、父さんがグルジ族の仕事で忙しい時はおばちゃんが面倒みててくれたんだ」


「へぇ、じゃあセファンにとってお母さんみたいなものね」


「ま、そんな感じかな。さすがに大きくなってからはそんなことも無くなったけど」


 大きくって……私からすればセファンはまだ全然子供なんだけどな。


「そういえば、セファンて何歳なの?」


「十一歳だよ」


「じゃあ私が三歳お姉さんね!」


「え? 三つも違うの!? 胸ちっちぇーから同い年くらいかと思った」


「はあぁ!? ケンカ売ってんのあんた!!?」


 思わず起き上がって枕をセファンの顔に投げつける。当たった瞬間枕の下からブフッという声が聞こえた。


「元気出たみたいだね」


 私達の声を聞きつけたのか、オルトがテントを覗きにきた。


「うん、ありがとう。明日には出発できそうよ」


「そりゃ良かった。セファンは?」


「俺も大丈夫だぜ」


 枕をどかしてセファンが答える。


「じゃあ明日の朝出発しようか。山を越えたらすぐに小さな町があるみたいだから、そこに寄ろう」


「「はーい」」


 元気に返事をする私とセファン。さっさと夕飯を食べてゆっくり寝ることにした。早く本調子を取り戻したい。

 今日は朝から散々寝ているのに、夜もぐっすり眠ることができた。



 翌朝、私達の体調が大丈夫なことを確認してから出発する。私もセファンも調子は良い。全快とまではいかないが。

 山に入った初日に頂上付近まで辿り着いていたため、少し歩いたらすぐ下り坂になった。下り坂になってからはサクサクと進むことができる。楽だ。たまに出てくる段差がある場所は少し怖いが。

 病みあがりなので休憩をいつもより多めに取りながら私達は歩いていく。



 しばらく進むと麓の町に着いた。町というよりは、小さな村という感じだった。


「なんか静かね」


「そうだね。人気ひとけがない……」


「昼間から皆寝てんのか?」


「「……」」


 私とオルトはセファンの発言をスルーして歩き出す。

 日中にもかかわらず、どの店も閉まっている。今日は町全体に定められた定休日とかなのだろうか。いやそんな訳無い。

 散策したが人っ子一人見当たらず、町中は閑散としていた。


「うーん、これだけ人がいないのはおかしいな。何かあったのか?」


「まさか……みんな獣魔に襲われちゃったとか!?」


「それだともっと家が壊れてると思う」


「じゃあ、この町の人は夜行性で今は寝てんだよ!」


「「……」」


 再びセファンの発言はスルーされる。


「何か理由があって町の人全員がどこかへ避難したとかかな?」


「避難?」


「えっと……」


 オルトが何か言おうとした瞬間、話すのをやめて前方を睨みつけた。


「どうしたの?」


 葉月とサンダーも何かを警戒している。敵がいる様だ。


「またお出ましか」


 オルトが睨む先から、剣を持った男達が歩いてきた。ざっと三十人くらいだろうか。

 彼らの腕には竜の刺青が入っている。竜の鉤爪だ。町の人がいないのは彼らが原因だろうか? それとも、また私を狙いにきたのだろうか?


「八雲、下がって結界張って」


「う、うん!」


「何だよあいつら? こっち見てるぞ」


「あれが竜の鉤爪だよ。戦いは避けられなさそうだ。セファンいける?」


「うえっあれが!? お、おう大丈夫だぜ……」


 過激派盗賊団に少しビビるセファン。当然の反応だ。むしろ戦意があるので褒められるくらいだろう。

 厳つい男達がどんどん近くなる。そしてある程度寄ったところで彼らは歩みを止めた。下品な笑みを浮かべながら、持っている剣で私の方を指し示す。


「よぉ、そこの嬢ちゃんってもしかしたら治癒能力の少女かい?」


 先頭に立つオールバックの男が聞いてくる。オルトは剣を抜いた。


「……白々しいな。否定したって聞かないんだろ?」


「アッハァ! よく分かってんじゃーん!!」


 先頭の男が高らかにそう言うと、男達が皆一斉に斬りかかってきた。


「セファンは八雲を守ってて!」


「らじゃー! サンダーいっくぞぉ!!」


 オルトは剣で応戦し、セファンは大きくなったサンダーに乗って私の前に立ちはだかる。

 オルトは華麗な剣さばきで次々と男を倒していく。敵の剣を薙ぎ払い、弾き飛ばし、跳んで躱して反撃する。オルトの手刀や蹴り、そして剣の柄による殴打を受けた男達はバタバタと気絶していった。

 一方サンダーは私の結界にまとわりつく奴を強化された牙と爪で薙ぎ払っていく。迫り来る剣に噛み付いて砕き、足で男の体を弾き飛ばした。そして固まっている男達には体当たりして吹き飛ばす。


 オルトの戦い方は美しく、サンダーの戦い方は迫力がある。サンダーの牙の強力さに、男達が恐れ始めた。

 ちなみに現状約半数の敵が倒れている。


「なんだ! 意外と楽勝だな!」


「ちょっと! 油断しちゃダメよ!」


 サンダーの上のセファンは手応えを感じて余裕が出てきたらしい。しかし油断大敵だ。


「大丈夫だいじょー……おわっ!?」


 言ったそばから、敵の飛び道具がセファンに命中した。小さなナイフが腕に刺さっている。


「痛ってえーー!!」


「セファン!? 大丈夫!?」


 セファンと私の叫びにオルトが剣を振りながら振り返る。


「だ、大丈夫だ! こんなん大したこと無え!」


「セファン、結界の中へ入れ!」


「俺はまだ戦える!!」


 オルトの指示を無視して、腕から血を流しながら戦い続けるセファン。


「サンダーこっちに来て! セファンが危ないわ」


「ガウ!!」


「お、おいサンダー!?」


 私の声に反応して結界の中へ入ろうとするサンダー。

 しかしセファンが慌ててそれを阻止しようとして、バランスを崩した。


「わっ!!」


「セファン!!」


 セファンがサンダーから落ちる。下には剣を構えた男達が待ち構えていた。

 ダメだ、セファンが殺される!

 オルトがこちらに向かって走ってくる。

 ダメだ、間に合わない!


 オルトの目が紅く染まりかけた。


 ──だが直後、黒い影が目の前を通り、セファンの体が刃にかかる直前に攫った。


「え……?」


 セファンの姿が消えた。そう思い私は呆気に取られる。待ち構えていた男達も同じだ。


 しかしすぐ近くの民家の屋根の上にお姫様抱っこされているセファンがいることに気が付いた。抱いているのは──黒髪ポニーテールに紫の忍装束、そう、しのびさんだ。


「仲間がいやがったのか!」


 セファンを殺し損ねて男が叫ぶ。

 セファンは何が起こっているのか飲み込めていないらしく、ポカンと口を開けたまま抱えられていた。

 オルトは目を青色に戻し、近くにいた敵をぶっ飛ばす。


「し、忍さん!」


「……また会いましたね」


 忍さんはセファンを屋根にそっと降ろす。

 そして素早く私の目の前に飛び降りた。同時に三人の男を苦無くないで刺し倒す。


「ぐああっ!!」


「なっ!? てめぇ、やりやがったな!!」


 青筋を立てる竜の鉤爪の男達。彼らは忍さんへ一斉攻撃を仕掛けた。

 しかし彼女は軽くそれを躱して蹴りや苦無で男を次々に倒していく。華麗な身のこなしだ。

 鮮やかに戦うオルトと忍さんニ人で、あっという間に敵を全滅させてしまった。道いっぱいに気絶した男達の体が転がる。

 するとオルトが剣をしまいながらこちらに寄ってきた。


「仲間を助けてくれてありがとうございます。それと、先日もありがとうございました。……あなたは何者ですか?」


 オルトが真剣な表情で忍さんに尋ねる。忍さんも苦無をしまいながらオルトの方を見た。


「……私は忍です。名は琴音ことねといいます」


「へぇ、琴音って名前だったの! 素敵な名前ね」


「……ありがとうございます」


「どうして俺達を助けてくれたのですか?」


「それは……」


「おーい、降ろしてくれよぉ」


 会話を遮ってなんとも情けない声が上から聞こえた。屋根の上でセファンが傷を負っていない方の手を振る。


「ちょっと腰抜けちまって……降りれないんだよぉ」


「セファンあなた……カッコ悪い」


「がーん!!!」


「セファン……後で反省会だな」


「ががーーん!!!」


 呆れ顔でセファンを見る私とオルト。後ろで葉月とサンダーが笑っていた。

 ともあれ、大事に至らなくて良かった。





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