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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第4章 首都ランバート
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第24話 秘める想い

 朝、俺達はシェムリの町をあとにしてモルゴの首都を目指す。爽やかな快晴の空の下、街道を三人で歩いていた。


「なぁ、何であんた……オルト達は馬車とか使わないんだ? 町まで結構遠いぞ?」


「んーー事情があってね。実は八雲が竜の鉤爪に狙われてるんだよ。周りを巻き込むわけにはいかないから、馬車は使えない」


「は!? あの過激派盗賊団に狙われてる!?」


 セファン君はギョッとして俺達から距離を取る。葉月とサンダーがその大きな声に驚いていた。


「一体何やらかしたんだよ……」


「失礼ね! 何もやらかしてなんてないわよ!」


「八雲の特殊な能力が狙われててね」


「特殊? 何だよ?」


 セファン君が訝しげに尋ねる。すると八雲がこちらを見てきた。セファン君に能力のことを話しても大丈夫なのか聞きたいのだろう。


「いいよ、八雲」


 俺がそう答えると、八雲は嬉しそうな顔をした。


「セファン君、手を出して」


「セファンでいいよ。で、何だよいきなり?」


 セファンは少し赤くなりながら手を出す。そこには昨日河原でコケた時にできた擦り傷があった。

 それに八雲がそっと手をかざす。すると、優しい光が出てすぐ傷が消えた。セファンが目を丸くする。


「うおぉ!? なんじゃこりゃ!!」


「これが私の治癒能力よ。致命傷だと無理だけど、ある程度の傷なら治せるわ」


「これがなかなか稀有な能力でね。竜の鉤爪に狙われてる」


「あー……なるほど、だからずっとローブ被ってんのか」


「だから俺達といるとセファンも必然的に竜の鉤爪と戦わないといけない事になるんだけど……今更だけど大丈夫かな?」


「う、おぉ……まぁ他に行くアテも無いし、俺は戦えるから大丈夫だ。ちょっと怖えけど」


 正直、俺としては戦える仲間が欲しいところだった。この前のヨーテルくらいなら一人でも八雲を守りながら戦える。しかしインジャ国の国境近くで会った二人組クラスの刺客が複数来た場合、八雲を守りながらの戦闘はかなり厳しい。誰か他に八雲を守る人員が必要だ。


「頼りにしてるよ、セファン」


 俺がそう言うと、セファンは得意気な顔になってフフンと鼻を鳴らした。サンダーも尻尾を振っている。


「というか、大きなサンダーに乗って町まで行くっていうのはできないのかしら? グルジ族の集落に行った時みたいにぴゅーっと」


「少しの間なら乗せてやれるけど、さすがに町までってのは俺の氣力がもたねー。サンダーを大きくするのだって氣力を使うんだからな」


「あらそうなの。残念……」


 八雲がガッカリする。少しずつ徒歩の旅に慣れてきたとは言え、やはり馬車などを使いたいのが本心だろう。


「首都を目指すってことは、とりあえず山を越えなきゃいけないよな? あそこ、最近危ないって話だぜ?」


「え、何かあるの?」


「旅人とか行商人が何人も獣魔に襲われてる。群れで襲いかかってくるらしい。仲間を食われたって言ってたぞ」


「ひぇ……迂回した方がいいかしら」


「残念だけど、迂回ルートが無いみたいだよ。頑張って山を越えるしかないね」


「うぅ。まぁオルトとセファンがいれば大丈夫……よね」


「ま、大丈夫だろ! てかなんで首都に行きたいんだ?」


「モルゴの首都は神子信仰があるんだよね? 神子信仰のある場所で異変がよく起きてるから、何か手掛かりがないかと思ってね」


「神子信仰って、あの神子がお告げを伝えてどーのってやつ? 確かに首都ではそういうのやってるって聞いたことあるけど、あんなん一部の人が信じてるだけじゃねーの?」


「失礼ね! ちゃんと神使からお告げが来るのよ!」


「え、八雲って神子信仰の信者なの?」


「信者も何も、私は神子よ!」


「え、ええぇーーーー!!?」


 サラッと神子であることを暴露する八雲。そんな気軽に言ってしまっても大丈夫なのだろうか? まぁ治癒能力のことも話したし、一緒に旅する仲間だからいいのか……。


「あーーごめんな。何を信じるかは人それぞれだよな……。グルジ族にはそういう習慣全然無いから俺には分かんねーけど」


「何かバカにしてない?  ……別にいいわ。最近は廃れてきちゃってるらしいし」


 憤慨する八雲と、半信半疑……というか理解することを投げ出してしまっているセファン。まぁ神子信仰の無い土地出身の者なら中々本物の神子と言われてもピンとこないのだろう。


 それからしばらく歩いていく。半日ほど経つと、獣魔の群れが出るという山の前に着いた。

 日が暮れるまでさほど時間も無いので今日は野宿し、明日から山に入る事にした。いつもの様にテントを設営し、食事を摂る。そして片付けをしていると、セファンが話しかけてきた。


「なぁ、オルトは何か氣術使えんのか?」


「俺は使えないかな」


 俺の正体は機会が来るまではセファンに明かさない事にしている。ちゃんと八雲には口止めした。氣術を使うと目があかくなってバレる可能性があるため、氣術はセファンの前では使えない。


「そうなんだ。まぁ俺も基礎属性の術は使えないけど」


「なら一緒に練習する? 基礎属性の氣術は練習すればできる様になるのよ。私も今練習中なの」


 八雲には練習の仕方は一通り教えてある。あとは八雲の頑張り次第だ。もし練習で何か気付いた事があったら、後からセファンがいない時にコソッと教えてあげよう。


「へぇ、そうなの? じゃあ、練習してみようかな……」


 片付けを終えた後、氣術の練習を始める八雲とセファン。俺は二人の練習風景を見守る。

 八雲はだいぶ炎と水の扱いが上手になってきた。セファンはまだ初めてのため、全く要領がつかめていない。八雲が一生懸命教えている。二人の姿は見ていてなんだか微笑ましかった。

 それにしても、昨日八雲に慰めてもらってから彼の態度が明らかに変わった。セファンは八雲と話す時はとても嬉しそうで、そして恥ずかしそうだ。これは、もしかして……。


 小一時間練習したが、セファンは結局術を出せなかった。まぁ八雲もそうだったし、最初はこんなもんだろう。練習を切り上げ、明日に備え寝る事にした。



 翌日早朝。俺は先に起きて一通りトレーニングした後、八雲達を起こして朝食を食べ山へ出発する。

 昨日と同じく今日も天気が良く、俺達は順調に山道を歩いていた。


「ねぇセファン。群れで襲って来る獣魔ってどんな形のやつなの?」


「んーー、なんか豚に似てたらしいぜ」


「え、豚?」


「山に豚の獣魔なんているのか……?」


「あと、牙があるって話だったな」


「豚に牙? まぁ獣魔だったら牙くらい生えてるかしら」


「それって……」


 俺が言いかけた時、雫が頰に当たった。上空を見上げる。雨だ。先ほどまでは快晴だったというのに、あたりは急に雨雲で暗くなっていく。山の天気は変わりやすいとはこの事だ。


「ちょっと雨宿りした方がいいかな」


 雨雲が黒い。激しい雨と雷雨が来るだろう。その中で歩くのは危険だ。

 だんだん雨が強くなってくる。しかし手頃な場所を探してテントを張ろうとしたその時、獣の気配を感じた。葉月とサンダーも反応して、木々の奥の方を見る。


「ん、どうしたサンダー?」


「葉月?」


「二人共気を付けて。八雲は結界を張って」


「え、マジ? ってことは……」


 セファンの表情が引きつった。サンダーが唸っている。

 俺は剣を抜いた。例の獣魔だろうか。

 剣を構えたまま待つと、更に雨が強くなってきた。


「……何この音」


 硬いものが地面を踏み鳴らす音──足音がこちらに向かっているのが聞こえる。かなりの数だ。

 警戒しながら音のする方向を見る。すると、高さ一メートル、体長二メートルくらいの茶色い獣が見えてきた。もの凄い勢いで走って来る──猪の獣魔だ。


「わ! 豚がいっぱい来た!! サンダー頼む!」


「ワン!」


 サンダーの体が大きくなり、勢いよく吠えた。迫ってきていた先頭集団の猪数匹がたじろぐ。だが勢いを殺さなかった猪が突っ込んで来た。


「きゃーー」


「ひぇーー」


 猪の迫力にビビって叫ぶ八雲とセファン。その二人の前で、俺とサンダーが猪を迎え撃つ。

 また猪なの!? と八雲が後ろで叫んでいた。

 サンダーは噛み付いた猪をどんどん投げ飛ばして放っていく。俺は突進してくる奴から片っ端から斬った。そうして先頭集団を難なく倒すと、後続の猪達が足を止める。このまま突進しても返り討ちにあう事が分かったのだろう。警戒している。


「オルト……凄えな」


「どーも。でも油断しないでね。何か仕掛けてきそうだよ」


 猪がしゃがれた声で吠えながら前足を上げた。そして、地面に勢いよく下ろす。次の瞬間、突然地面から鋭い岩がこちらに向かって五本突き出てきた。


「おぉっ。地属性か!」


 猪の攻撃を八雲以外が全員避ける。八雲は結界で防いでいた。

 猪が足を地面から離すと、岩の針が崩れる。


「それならサンダーもできるぜ!!」


「ワゥ!!」


 セファンの掛け声に合わせて、サンダーが前足を地面に叩きつける。すると猪と同様に岩の針が出現した。ちょっとアレンジがかかっていて、少し太くドリルの様に溝が入っている。勢いよく伸びたそれは見事猪に命中し、数匹が倒れた。


「よし! さっさと片付けちまおうぜ!」


「そうだね」


 余裕が出てきたセファンはサンダーを操って次々と猪を倒していく。俺もひたすら斬り続けた。

 もう少しで猪を全滅させることができる、そう思いながら猪に斬りかかろうとしたその時、猪の眼光が鋭くなる。そして剣で狙われた箇所を岩で覆った。振られた剣が硬い岩に弾かれる。

 猪の体表はみるみるうちに岩の鎧で覆われた。


「あー、防御硬くされちゃったね」


「げぇーー、何かすっげえいかつくなったな!?」


 今度は猪の方から攻撃を仕掛けてきた。鋭い牙を刺そうとしてくるのを俺は躱す。他の猪も同じ様に岩の鎧を付け、次々と突進して来た。サンダーの牙や爪の攻撃も弾かれている。


「おいおいマジかよ!? どーしたらいいんだ!」


「大丈夫。鎧で覆われてない部分を狙えばいいんだよ」


 そう、どうしても鎧で覆えない箇所がある。それは目、肘、膝の裏だ。そして、首や体を動かす際には首元や腹部分に隙間ができる。そこを狙えば良い。


「簡単に言うよなあオルトは……」


「大丈夫! セファンとサンダーならきっとできるわ!!」


 セファンのげんなりした様子を見て八雲が結界の中から声援を送ってきた。するとセファンの顔が少し赤くなり、やる気に満ちた表情になる。単じゅ……素直だなぁ。

 俺は襲いかかってくる猪の鎧の隙間を狙って剣を差し込む。すると猪から悲鳴があがり、血が噴き出た。同じ要領で次々と猪を倒していく。

 サンダーはというと、なかなか急所を狙う事ができなくて苦戦している様だ。すると眉間に皺を寄せていたセファンが痺れを切らして叫ぶ。


「あぁーーまどろっこしい!! サンダー、一気にいくぞ!」


 セファンがサンダーに飛び乗り、氣力を送る。するとサンダーの牙と爪が大きく長く伸びた。その強力になった牙と爪で、猪を鎧ごと切り刻む。岩の鎧は全く歯が立たなかった。


「わぉ、パワフルだね」


「よっしゃあ!! この勢いで片付けるぞー!」


 ザーザー降りの雨の中、俺とサンダーは残りの猪を倒していく。

 数分もしないうちに、全ての猪獣魔を片付けた。周りにはたくさんの獣魔の死骸が転がる。


「ふぅ。……皆ビショビショになっちゃったね」


「いぇーい勝ったぞーー!」


「オルト、セファン、サンダーお疲れ様。もう雨宿りも何も無いわね」


 八雲が笑いながらそう言う。さて、もうびしょ濡れになってしまったし、いっそのことこのまま雨でも進もうかと思う。しかしその直後、急に雨が止み雲の合間から晴れ間が差した。

 俺達は皆顔を見合わせる。


「……晴れたね」


「何なんだよこの天気……」



 取り敢えず、俺達は着替えて休憩することにした。




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