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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第3章 獣魔使い
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第19話 グルジ族の集落

 朝、セファン君に道案内を頼んで私達はグルジ族の集落へと出発した。昨日は深夜まで起きていたし、今朝も早起きしたので非常に眠い。しかし、同じくらいしか寝ていないハズのオルトとセファン君はなぜかとても元気だ。

 私達は明るい森の中を歩いていく。セファン君の隣を歩く犬が気になった。


「ねぇ、セファン君。昨日大きくなったその犬に乗って帰ってたわよね? 私達も乗って行くことはできないの?」


「……乗りたいのか?」


「うん! 乗ってみたい!」


「あと、犬じゃなくて……」


 そう言ってセファン君と犬が勢いよく振り返る。


「こいつの名前はサンダービクトリーキャノンだ!!」


 ドヤ顔でセファン君が叫んだ。紹介できて嬉しいのか、目がキラキラしている。

 私とオルトは固まった。なんとも凄いネーミングセンスだ。


「えっと……サンダービクト??」


「略してサンダーな! サンダーに認めてもらえれば乗れるぞ!」


「サンダーってことは、雷の術が使えるのかい?」


「いや、サンダーが使えるのは地系の術だ!」


 なんだそりゃ。色々とツッコミたい点はあるが、そこは抑えることにした。


「で、認めてもらうっていうのはどういうことなの?」


「取り敢えずサンダーに乗ってみて、振り下ろされなければオッケーだぜ!」


 セファン君はとても生き生きしている。やたらテンションが高い。あまり寝ていないため、こちらとしては朝からハイテンションでこられるのは至極しんどかった。

 ……まぁもし乗れれば集落まで歩かなくて済むので、チャレンジしてみることにする。


「オルト、お先にどうぞ」


「え、俺? 分かったよ」


 セファン君がサンダーの体に手を当てると、サンダーが大きめの馬サイズになった。もともフサフサの尻尾が三割増しでフサフサになっている。顔を埋めたら気持ち良さそうだ。

 オルトはサンダーに飛び乗る。


「……これでいいのか?」


 サンダーは全く振り落とそうともせず、大人しくオルトを乗せていた。


「あれ……? や、やるなお前!!」


 セファン君が挙動不審になっている。あっさり乗れるのは想定外だったらしい。

 続いて私も勇気を振り絞って葉月と一緒に乗ってみる。オルトが乗る際に手を引いてくれた。……特に問題無く普通に乗れる。


「サンダー、お前……」


 私もあっさり乗ることができて、何故かセファン君はガッカリしている。


「さて、乗れたしさっさと行きましょ」


「お、おぅ……」


 セファン君の合図と同時に、サンダーが勢いよく駆け出す。しっかり掴まっていないと振りほどかれそうだ。森の中を迷いなく進み、川を飛び越え上り坂もあっという間に駆け抜ける。

 普通に歩いていたら結構時間がかかっていただろう。サンダーのおかげですぐに集落に着いた。


「ここが俺達の集落だ。ちょっと族長に話してくるから待ってろ」


 そう言って、集落の入口に私達を残してセファン君は走っていった。サンダーも元の大きさに戻ってついて行く。


「……ちゃんと話が聞けるかしら」


「うーん、少なくとも俺達だけで来るよりは聞きやすいんじゃないかな?」


 確かに、もしセファン君がいなければ部外者お断り! といった感じで門前払いされていたかもしれない。


「それにしても……集落って言ってもテントばかりなのね」


 テントと言っても、ちゃんと日常生活が送れるようなかなりしっかりした作りのものだ。大きい商店サイズのテントもある。


「たぶん、定期的に移動してるんじゃないかな?」


「その通りです。私達グルジ族は狩猟を生業としています。獲物が絶滅しないよう、ある程度動物を狩ったら移動しているのです」


 正面から大きな男がセファン君と一緒に歩いてきた。白髪が混じったグレーの髪にグレーの髭、年はおそらく六十前後であろう。しかし年齢にそぐわず肩や腕は筋肉隆々でガタイがいい。この人が族長だろうか。


「ようこそ。私はグルジ族の族長シルヴァスです」


「初めまして。俺はオルト、彼女は八雲です」


 丁寧にお辞儀をするシルヴァスさん。オルトも丁寧にお辞儀を返した。


「セファンから、あなた方は世界の異変について調査していると聞きました。それで、シェムリで起きてる巨大獣魔の犯人を探していると」


「はい。もしかしたら異変絡みの事件かもしれないので。参考までに、グルジ族の事についてちょっと教えてもらっても良いですか?」


「構いませんよ。ついてきてください」


 そう言ってシルヴァスさんは集落の奥の方へと歩いて行く。私達は彼について行った。


「族長さんて、なんか凄い迫力あるわね」


 私は少し手前を歩くセファン君に話しかける。


「だろ!? 父さ……族長は力も強いし頭もキレる凄い人なんだ! 皆からの信頼も厚いしな!」


 私が褒めると、まるで自分の事のように誇らしそうにした。というか今、父さんと言いかけた?


「族長さんはセファン君の父親なの?」


「違う。けど、まぁそんなもんかな。俺とタネリは小さい頃両親を失って、族長が親代わりに育ててくれたんだ」


 タネリ……あの若い副族長か。


「だからタネリとも兄弟みたいな感じで育ったんだぜ? でもあいつの出来が良すぎて、俺が出来損ないみたいに言われるんだけどな」


 まぁ確かに、タネリさんは非常に優秀そうなオーラを醸し出していた。それに引き換え、セファン君はちょっとおっちょこちょい感が出ている。

 そんな話をしている間に、私達は客間に招き入れられた。他のものより少し豪華なテントの中だ。


「それで? 何が聞きたいですか?」


「まずは、グルジ族の能力について教えていただけますか?」


「我々グルジ族の特徴は、獣魔を自由自在に操れるところです。自分の氣術を流し込んで大きさを変える事や、獣魔の氣術をパワーアップさせることもできます。これで私達は狩をし、その獲物を近くの町で売って生活しているのです」


「グルジ族以外で、その様な力を使える人はいますか?」


「世界中探せば、似た様な能力を使える人間はいるかもしれません。ですが、この辺りでは私達だけですよ」


 そうですか、と言ってオルトは間を置く。

 そして再び口を開いた。


「その……最近商談がうまくいってない、ということはありませんか?」


「ほう……そうですね。確かに近頃はあまり景気が良くありません。交易はタネリに任せていますが、シェムリの商人はあまり友好的ではない様です。そろそろ移動の頃合いかもしれませんね」


 オルトと族長さんが真剣に話している中、セファン君はぼーっとしながらサンダーを撫でている。それを見て葉月が撫でて、と膝に乗ってきた。撫でてあげると気持ち良さそうに目を瞑る。


「今、シェムリの町の人達はグルジ族が巨大獣魔を仕向けたと思っています。これについてはどう思いますか?」


 私はギョッとしてオルトを見る。また突っ込んだ質問するな、と思ったのだ。セファン君は少し怒った様な表情を見せたが、族長さんは動じていない。


「グルジ族にそんな事をする人間はいません。オルトさんが早く真犯人を見つけてくれると助かりますよ」


「できる限りの事はします。答えて頂きありがとうございました。ちょっと集落内を見て回ってもいいですか?」


「どうぞ。セファン、ついて行ってあげなさい」


「おー、はい」


 私達三人+二匹でテントを出て、集落内を歩き回る。先頭を歩くセファン君が色々と説明してくれた。

 オルトは周りをしっかり観察しているみたいだ。


「オルト、何か探してるの?」


「目撃情報の巨大獣魔は猫、蛇、鳥だったろ? 該当しそうなのがいるかなって」


 セファン君に聞こえない様に小声で言うオルト。前を歩くセファン君は気づかない。


「どれも普通にいるわね……」


 猫も蛇も鳥も、何人か連れている人を見かけた。


「あれ、セファン何やってるの? その人達だあれ?」


 すると、グルジ族の少女が話しかけてきた。セファン君と同じくらいの年齢だろうか。茶色の髪を短めのツインテールにしている。


「族長に言われて客人を案内してんだよ」


「へぇー。またポカしない様にね! この前の狩の時も酷かったもんね〜」


 ニヤニヤしながら少女が言う。セファン君が慌てて声をあげた。


「なっ!? うっせえ! ポカなんてするか!!」


「こらこらやめなさい。お邪魔だよ」


 少女の母親と思われる人がこちらに歩いてきて少女を抱える。そして一礼し、家の方へ入っていった。家の入口からは父親と思われる男性がこちらを見ている。後ろからではセファン君の表情は見えなかったが、耳が赤くなっていた。

 その様子を見ながら隣に立っていたオルトがふう、と息をつく。


「さて、だいたい見たから町に戻ろうか」


 オルトがこちらを見て言った。私は頷く。

 すると、後ろから声が聞こえた。


「本当に来たんですね。わざわざご苦労様です」


 急に後ろから話しかけられて振り向くと、そこにはタネリさんが立っていた。無表情だ。


「族長さんからグルジ族について色々聞かせてもらいました。そういえばタネリさんは交易を任されてるんですよね? 最近はどうですか?」


「……まぁあまり良くはありませんよ。シェムリの商人は高飛車な方が多くてね。それでは」


 そう手短に答えてタネリさんは去って行く。なんというか、クールな人だな。


「タネリも昔はもうちょっと愛想が良かったんだけどな」


「そうなの?」


「副族長になって交易を任されてからは何か変わっちまったな。色々責任とか問題事とか抱えてるみたいでさ」


「そう……大変なのね」


「で、町に戻るんだよな? 仕方ねえからまた送ってやる。アレやると結構疲れるんだけどな」


 そう言ってセファン君はサンダーを大きくした。得意気だ。私達はまたサンダーの上に乗る。


「そういえば、お前の連れてるその竜は何なんだ? お前も獣魔使いなのか?」


「お前じゃなくて八雲よ。この子は葉月。私の友達よ!」


「……ふうん?」


 セファン君は首を傾げながらサンダーに合図する。サンダーが駆け出した。

 そうして他愛のない会話をしながら私達は町へと戻った。





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