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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第3章 獣魔使い
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第18話 巨大獣魔襲撃事件

 私達は町でひと通り聞き込みを終え、喫茶店で休憩しながら情報を整理することにした。

 オルトはなかなかお洒落な店を選ぶ。喫茶店……カフェというらしい。女性に人気がありそうな感じだ。身を隠すためのローブを着たまま入ったりしたら絶対浮くだろうなと思っていたのだが、国外から旅に来る人が多いらしく、皆様々な服装をしているので目立たなかった。私のど田舎の里にはこんな店は無かったのでちょっと落ち着かないが、ちょうどおやつ時なので甘いものを頼んでみる。


「さて、情報を整理すると今まで起きた巨大な獣魔絡みの事件は三件。全て夜の日付を跨ぐくらいの時間に発生していて、狙われたのはどれも金持ちの家。巨大な獣魔が壁を突き破って家に侵入、金品を持ち去る。どの事件でも家主は無傷か軽傷で済んでいる」


「うーん、変よねぇ? 何で獣魔が金品を狙うのかしら。まさか獣魔が町で買い物……なんて事無いわよね」


「そうだね。人が裏で操ってるか、金品が好きな獣魔なのか、それとも異変のせいなのか」


「お待たせしました」


 店員がパフェとやらを運んできた。イチゴやバナナ、チョコが乗っている。本で読んだことはあったが、食べるのは初めてだ。


「わぁーー甘い! 美味しい!!」


「そりゃ良かった」


 オルトはコーヒーを飲んでいる。砂糖もミルクも入れない派らしい。


「あとは、目撃された獣魔がそれぞれ違うのもおかしいわよね? 猫だったり蛇だったり鳥だったり……あぁ、パフェってこんなに美味しいのね。今までの人生なんか損してた気がする」


「もしこの辺りの獣魔が異変によって巨大化して襲いに来てるのならそれは分かるんだけど、金品を狙ってるのと人には危害を加えてないところは説明がつかないんだよね」


「じゃあやっぱり誰かが操ってるのかしら?」


「そうなると、やっぱり獣魔使いのグルジ族が怪しいのかもね」


 セファンと呼ばれていた少年も、タネリという副族長も関連を否定していたが、やはり集落に行って調べるべきだろう。

 ……と考えていると、隣から視線を感じる。横を見ると葉月が涎を垂らしてこちらを見ていた。


「葉月……食べたいの?」


「キュウ!」


 パフェの上に乗っていたスライスされたバナナをあげると、葉月は美味しそうに食べた。嬉しそうに尻尾を振っている。


「えっと、じゃあグルジ族の集落に行くの?」


「ここからそんなに遠くないらしいから、明日行こう。今日の夜は巨大獣魔を待ち伏せしようと思う」


「え、どこに出るか分かるの?」


「この町で目立つ金持ちの家は五軒だ。まだ被害に遭ってない二軒の片方で待ってみる。今日来るのかどうかは分からないから、宿で寝ててもいいよ? 今のところ竜の鉤爪の気配は感じないよ。それに葉月もいるし、結界を張っとけば安心じゃないかな」


「ううん、私も行くわ。気になるし」


「そっか。じゃあ一緒に行こう」



 一先ず宿に戻り、私達は夜が更けるのを待つ。

 残りの二軒のうち、前回被害に遭った家に近い方で待ち伏せすることにした。家の目の前で張っていると巨大獣魔に警戒されるかもしれないため、少し離れた位置から見張る。


「来るかしらね」


「どうだろう。運次第だね」


 刻々と時間が過ぎていく。周囲の家の灯りは消え、日付を跨ぐ時間が近づいてきた。




 ……しかし待てども巨大獣魔は来ない。だんだん眠くなってきた。もうだいぶ前に日付を跨いでいる。オルトがふう、と息をつきながらこちらを見た。


「今日は来なさそうだしもう帰ろうか」


「ふあぁ……そうね」


 欠伸が出る。葉月も眠そうだ。私達は見張っていた家に背を向ける。

 するとその時、壁を破るような大きな音が聞こえた。振り向いたが、前の家には特に異変は無かった。それにこの家で何かあったにしては音が遠かった。


「あーー、あっちだったか!」


 オルトが悔しそうに言う。恐らくもう一軒が襲われたのだろう。勘が外れた。


「走るぞ!」


「うん!」


 急いで音が聞こえた方へ走る。大きな音に驚いたのか、周辺の住民も窓を開けたり外へ出てきたりしていた。

 息を切らしながら走る先、豪邸が見えてくる。そしてもう少しで辿り着くと思った時、豪邸の窓を突き破って何かが出た。暗くて見え辛いが、大きな鳥が飛んでいくように見える。


「オルト……あれ!」


「あれが巨大獣魔か!?」


 鳥はどんどん遠ざかる。雲の隙間から差した月明かりで一瞬、鳥に誰かが乗っているのが見えた。


「え……?」


「どうした?」


 ────あの人、知っている。私は以前、会ったことがある。黒髪のポニーテールに紫色の忍装束を着た細身の女性。


「……しのびさん?」


 どうして彼女がここに? 何故あの豪邸から出てきた?

 思わぬ人が再び現れて頭の中が混乱する。そうして呆気にとられている間に、鳥は遠くへ飛んでいってしまった。


「……誰か乗ってるように見えたけど、八雲知ってるのか?」


「見間違いじゃなければ、たぶん」


 まさか彼女が犯人なのだろうか? いや、インジャ国の林で危機的状況だった私達を助けてくれた。まさかそんなハズは無い。


「あれ、あそこにいるのは……」


 オルトが道を挟んで反対側の家の方を見ている。そちらの方を見ると、家の陰に昼間会った少年がいた。何だか悔しそうな顔をしている様に見える。


「……セファン君?」


 セファン君がこちらに気づく。すると彼は驚いた表情をして逃げようとした。オルトがすかさず追いついてセファン君の腕を掴む。


「ちょっ! 何すんだよ、離せ!!」


「今何してたのかな?」


「何もしてねえよ!」


「じゃあ何でこんな時間にここにいるんだい?」


「それは……」


 セファン君は口ごもる。怪しい。


「あなたが犯人なの?」


「違えよ! 俺は……犯人捕まえようと思って来たんだ。グルジ族の無実を証明するために」


「なるほど。じゃあ俺達と一緒だね」


「は? 何であんたらが犯人追ってんだよ。旅人だろ? 関係ねーじゃねーか」


「取り敢えずここを離れないかい? 君がここにいるのが目撃されたら、また疑いの目をかけられるよ」


 周りを見ると、野次馬がどんどん集まってきていた。セファン君は渋々オルトに従い、一緒に移動する。

 しばらく歩いて人気の少ない場所まで来た。


「で? あんたらが何で犯人追ってんだ?」


「俺たちは世界で起きてる異変を調査しててね。今回の件がそれに関係あるのか調べてるんだよ」


「異変?」


「今世界各地で奇妙な災害とか事故事件が起きててね、それを異変って呼んでる」


「ふーん。じゃあ巨大な獣魔が出てんのも異変なのか?」


「それはまだ分からない。だから、真相を知るために協力してくれないかな?」


「協力……?」


「君は犯人を見つけたいんだろ? 俺たちも犯人を見つけて真実を知りたい。だから、犯人を見つけるために色々教えてほしいんだ。グルジ族の事とか」


「やっぱ疑ってんじゃねーか」


「違うよ。ただ、情報は多い方が良いからね。集落に連れてってもらえないかな?」


「……まぁ、それでもし真犯人が捕まえられるならいいけどよ」


「良かった。じゃあ明日の朝いいかな?」


「分かった」


 待ち合わせ場所と時間を手っ取り早く決めると、セファン君は犬に手を乗せた。すると、犬が人が乗れる程度に少し大きくなった。それに跨り、セファン君は町を颯爽と出ていく。


「今、犬が大きくなったわよね?」


「そうだね。あれが獣魔使いの能力か」


 やはり、巨大化した獣魔が襲ってきているということはグルジ族の仕業なのだろうか。それとも、まさか忍さんが犯人なのだろうか。


 明日、というか日付が変わっているので今日の朝からまた出掛ける事になってしまった。私はまたあんまり寝れないなぁ……と少し憂鬱に思いながら、宿に戻った。





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