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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第3章 獣魔使い
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第17話 少年と犬

 心地よい太陽の光と可愛らしい小鳥の声が部屋に入ってきた。朝だ。久しぶりの布団の感触を惜しみながら起きると、部屋にオルトの姿が無かった。見回してみると、荷物は置いたままだ。葉月が起きた私に気づいて寄ってくる。


「ふぁ……葉月おはよ。オルトは?」


「キュー、キュ!」


 葉月はくるんと回ってオルトの姿に変身し、剣を振る真似をした。オルトの姿と言っても、狐耳と角、翼が生えているのだが。獣耳オルト……可愛い。


「そっか、鍛錬に行ったのね」


 よほど時間がない日以外は、一日のどこかで必ずオルトは筋トレや素振りをしていた。今日も早朝に起きて近くでトレーニングしているのだろう。早朝……というか、今何時だろうか。部屋についている時計を見た。


「わっ!? もうこんな時間!?」


 早朝どころかもうすぐ昼だ。こんなにガッツリ寝たのは久しぶりだった。最近はずっと早朝に起きて移動、夜は何かしら事件に遭遇したり野宿だったりとあまり寝れていなかったから、疲れがたまっていたのかもしれない。とりあえず顔を洗って着替えよう。


「なんか……こんな生活送るなんて少し前までは思ってもみなかったわ。不思議ね」


 旅に出ると決めたのは自分だ。後悔はしていない。獣魔や盗賊団に襲われたりと怖い思いもしているが、それ以上にオルトと旅するのは楽しかった。外の世界を見る事ができているし、知らない事をたくさん教えてくれる。それに……オルトと一緒にいられるだけで何だか嬉しい。

 そんな事を考えながら顔を洗い、着替え終わってオルトを探しに出ようとしたところで部屋の扉が開いた。入ってきたのはオルトだ。


「あ、おはよう八雲。うおっ葉月? ビックリしたぁ」


 オルトに変身していた葉月を見て驚く。私が戻って、と言うと葉月は変身を解いた。


「おはよう。トレーニングしてたの?」


「うん。八雲はよく寝れた?」


 オルトは汗を拭いている。結構ガッツリ運動した様だが、オルトからはなんだか清々しさを感じた。爽やかイケメンにかかれば運動後の汗臭さなんて吹き飛ぶらしい。


「えぇ、しっかり寝れたわ。何か……お腹空いてきちゃった」


「そうだね。じゃあご飯食べて、買出しと情報収集に行こうか。ちょっとシャワー浴びてくるから待ってて」


「はーい」





 私達は食事を済ませ、町をふらつく。ここシェムリの町は人や店が多く栄えていた。田舎の宿場町とはだいぶ雰囲気が違う。都会過ぎず、しかし田舎過ぎずの暮らしやすい町で、退職した金持ちが多く住んでいるらしい。


「これでもまだ都会とは言えないのね。私からしたら十分都会なんだけど」


「本当の都会は人の数も建物の数もこんなもんじゃないよ」


 私は先程買った甘い氷菓子を頬張る。美味しい。

 オルトは店の人に何か変わった事がないか聞いていた。


「あー、最近はここも物騒な事件が起こっててなぁ。金持ちの家が次から次に巨大な獣魔に襲われてるんだよ」


「巨大な獣魔?」


「そう。巨大な獣魔に襲撃されて、金品全部持っていかれてるらしい。しかも近くに人間がいたって目撃情報もあるんだ。それでグルジ族の仕業だって噂になっててな」


「グルジ族って何です?」


「この近くで集落を作ってる獣魔使いの一族だよ。獣魔を手懐けて操れるらしい。氣術で獣魔のサイズも変えられるらしいから、きっとそれで巨大化させて襲わせたんだろうな」


「……でも犯人を見たわけでは無いんですよね?」


「あぁ、襲われたやつは皆獣魔は見てるがグルジ族は見てない。だが、この町のやつはグルジ族が犯人だと思ってるよ。近々集落に乗り込む話も自警団の中で出てるらしい」


 ヨンが言っていた獣魔襲撃事件とやらが、このことなのだろう。おじさんの話を聞きながら、オルトは顎に手を当ててうーんと何かを考えている。

 すると、オルトが私の後方に視線を移した。


「俺たちは犯人じゃ無い!!」


 急に子供の怒鳴り声が聞こえた。振り向くと、十歳くらいだろうか……深い緑色の髪のツンツン頭で身長は百三十センチくらい、三白眼の少年がいた。隣には中型犬サイズの青い毛並みの犬がいる。少年は店主を鬼の形相で睨んでいた。


「グルジ族にそんなことする人間はいない! 変な事言うな!」


「何だ君は。……あぁグルジ族か?」


「そうだ!! それよりお前、さっきの発言訂正しろよ!」


 少年が店主に詰め寄る。しかし身長差がありすぎて、迫力がある様には見えなかった。犬は大人しく後ろで見ている。


「じゃあ巨大な獣魔は一体何なんだってんだ? なぜ獣魔が金品を狙う? 俺だけじゃない、町中がお前らを疑ってるぞ」


「なんだと……!?」


 店主は少年を睨み返し、指差す。挑発された少年が青筋を立てながら店主に掴みかかろうとした。

 すると、オルトが制止しようとするその前に別の男性が少年の手を掴んだ。


「セファン、やめなさい」


「なっ!? 離せよ!」


 少年を制止した白髪で色黒長身の男性。彼は少年を睨みながら掴んだ手に力を入れる。セファンと呼ばれた少年はイテテ、と言いながら引き下がった。この男性、年は二十代に見えるが少年の保護者だろうか? 彼は店主に頭を下げる。


「失礼しました」


「いや、構わんが……あんたグルジ族の副族長か」


「はい。副族長のタネリです。あなた達の言うことももっともですが、犯人はうちの族の者ではありませんよ。グルジ族としてはこの町とも交易があるので仲良くしたいですしね」


「はっ。どうだかなぁ」


「それでは」


 店主の言葉をサラリと躱して一礼し、タネリと名乗る男性は少年を引きずって去って行く。私はこの光景を見ていてずいぶん若い副族長だなぁ、と思った。


「てめぇ、覚えてろよ!」


 少年が最後に捨て台詞を吐くも、店主は全く聞かずに店の中に入ってしまった。少年の犬はトコトコ後をついて行く。


「なんか……凄い子ね」


「ちょっと彼らにも話を聞いてみようか」


「えっ、オルト!?」


 オルトはグルジ族の二人を追いかけて行く。友好的な感じには見えなかったが大丈夫だろうか。


「すみません、ちょっとお話してもいいですか?」


「何です? 巨大獣魔の件なら他を当たってください」


「あ、いえグルジ族の事について教えてほしくて。俺はオルト・アルクインです」


「私はタネリ。すみませんが、今急いでるので」


 そう言ってタネリさんは歩みを止めない。少年は訝しげな目でオルトを見ている。


「そうですか、残念。ではまたお時間ある時に集落を訪ねても良いですか?」


「……お好きにどうぞ。それでは」


 タネリは待機させていたらしい馬に少年を乗せ、自分も飛び乗る。そして軽やかに駆けて行ってしまった。犬も走って追いかけて行く。


「……行っちゃったわね」


「どうも怪しいな。まぁ取りあえず他でも聞き込みをしてみよう」


 オルトが遠くなっていく馬の姿を見ながら言う。



 一先ず大通りに戻り、私達は調査を再開した。





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