表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第9章 神子のいる世界
173/194

第164話 勝算が無くても

 忌々しい腕輪を付けられて氣術を使うことができず、またそんな状態ではザウルとジェラルドを出し抜いて逃げ出すことも出来ず、俺は大人しく投獄されるしかなかった。セファン、琴音、レオン、ジゼル、サンダーと一緒に同じ牢屋に入れられる。

 牢屋に入る際に全員の縄は解かれたが、俺は腕輪を両手に付けられたままだし、レオンは両腕を布でぐるぐる巻きにされていた。巻かれているのは特殊な布らしく、レオンが腕から刃を出せない様にするためのものらしい。当然武器も全部没収され、俺達は丸腰状態だ。


「琴音、大丈夫か?」


「え、えぇ……何とか……」


 掠れた声で応答する琴音。応急処置はしてあるが、かなり苦しそうだ。捕まる前に八雲が少しだけ治癒能力をかけたらしいので、すぐに死ぬことは無いが、早くちゃんとした治療をしなければこのままでは危険だ。


「不覚、でした……ビアンカさんに憑魔ドゥルジが憑いていることは分かっていたのに……後ろからまんまと刺されるとは……ぐ……」


「琴音、あんまり無理して喋らないで。それに琴音は悪くないよ」


「そうだぜ姉さん? あん時は俺も手一杯だったし、あんたはビアンカ達を助けようと頑張ってくれた。むしろ、こんなことになっちまって俺のほうこそすまねぇ。俺がその辺まで考えてちゃんと作戦立ててれば……」


「いえ、レオン様は悪くありませんよ。まさかガブリールが出しゃばってくるとは私も予想外でしたし。それに、それを言うなら簡単に捕まってしまった私の方こそ非があります」


「いやジゼル、捕まったのは俺が悪い。気配を簡単に気取られた上に、トラウマに飲まれて体が制御できなくなるなんて本当に情けないよ。俺がもっとしっかりしてれば……」


「いやいやオルトも悪くねーって! あいつらのヤバさは俺もよく分かってるつもりだぜ? むしろオルトが前に出てくれたお陰で俺達殺されずに済んだんじゃねーか?」


「そうですよ、ユウ様。ユウ様がいなかったらきっと、あの場で即首を刎ねられていたと思います」


「でも……」


 八雲と葉月がガブリールに連れていかれてしまった。彼は実験で八雲が死ぬことは無いと言っていたが、実験後不要となった八雲は恐らく殺されてしまうだろう。

 俺は自責の念に駆られる。


「……ユウ、あんま一人でしょいこむな。今回の作戦の失敗は誰が悪い訳でもねえ。運が悪かった。で、代償としてこの姉さんが大怪我負っちまったのと、御嬢さんが連れてかれた。だから、今俺達が考えなきゃいけねえのはここから抜け出して御嬢さんを救う方法だろ? 自分を責めて落ち込んでる場合じゃねえよ」


「レオン……」


「そう、ですよ……治癒能力を移植する過程で八雲は死なないと言っていたじゃないですか……まだ、チャンスはあります……」


「おい琴音、ホントに大丈夫か? あんま喋んなよ」


「ふふ、この程度の怪我……た、大したことはありません。私も……まだ戦えますよ……ごほっ」


「いや戦うとか無茶過ぎるだろ! 立つことすらできねーのに! マジで安静にしてて?」


 無理に起きようとする琴音をセファンが制止する。

 あぁ、こんな状態の琴音にまで励まされてしまった。何をやっているんだ、俺は。しっかりしろ。


「ごめん。ありがとう。そうだよな、まだ八雲はすぐ殺される訳じゃない。それに、ガブリールは俺達に実験を見に来いと言っていた。まだ、チャンスは残されてる」


 俺は真剣な眼差しで琴音とレオンを見る。レオンは小さく頷いた。


「武器も氣術も使えない以上、今ここから抜け出すのは無理だ。例え鍵を開けられたとしても、たぶん城で待機してるザウルとジェラルドがまたやってきて返り討ちに遭うのがオチだろう」


「ユウが付けられたその腕輪って氣術封じって言ってたよな? 本当に全然氣術使えねえの?」


「氣術を使おうとすると、全身に氣力が逆流して激痛が走る。痛すぎて気絶するよ。俺本当にこれ嫌いだ」


「え、その言い方だと前にそれ付けられたことあんの?」


「まぁ、ちょっとね……この腕輪には苦い思い出しか無いかな」


 苦い、と言ったが、ある意味この腕輪はロベルトとの再会の証? でもあるので何だか複雑な気分だ。

 しかしあの時付けられた腕輪は一つだったが、今回は両腕に付けられている。ということは恐らく氣術使用時の激痛も二倍、腕輪の耐久度も二倍だ。前回の様に、無理矢理何度か氣術を流し込んで亀裂を入れて破壊、というのは難しいだろう。亀裂を入れる前に俺の体がたぶん壊れる。


「それって解除するのに鍵がいるんだったよな? やっぱあのガブリールって奴が持ってんのかなー?」


「たぶんそうだと思う。普通の鍵ならなんとかこじ開けられるんだけど、やっぱ氣術器の鍵は特殊な構造になってるみたいで、ちゃんと専用の鍵を使わないと解除できないんだよね。前付けられた時に試したけど全然ダメだった。……ちなみにレオンのその腕の布は、普通に剣とかで切れるの?」


「分かんねえけど、そんな丈夫な布には見えねえぞ? ただ、巻いてる部分に全然力が入らねえ。内側から刃出して斬るってのは無理だな」


「な、ホントに腕から刃が生えるのか!? 俺すっげー見てぇ……!!」


 セファンがキラキラした目でレオンを見る。レオンの表情が緩んだ。


「はは、これ取れたら見せてやるよ」


「おっしゃー!」


 セファンの嬉しそうな表情に、その場が和む。こんな状況でも明るい彼は凄い。


「さて、じゃあこれからの作戦なんだけど……まずは、武器を取り戻す」


「どーやって? どこに隠されちまったのかも分かんねーよ?」


「今の俺達がこの牢屋から抜け出すのは無理だ。でもこの中で一人だけ、あそこから出られる者がいる」


 俺は牢屋の奥の壁の上の方にある、小さな格子窓を指差した。皆が一斉にそちらを見る。


「え……あそこから抜けんの? 無理じゃね?」


「あのままじゃね。でも格子一本外せば、サンダーなら出られるんじゃないかな?」


「!」


「たぶんセファンもそれならサイズ的に出られると思うけど、もし抜け出してる間に監守が来たら人数が足りないってバレるからね。サンダーならいなくても気づかれない確率高いんじゃないかな?」


「クウン……」


「おい、サンダーが存在感薄いって言われたって嘆いてるぞ」


「えぇ、ごめんそういう意味で言った訳じゃ……」


「確かに、さっきの監守さんも私達人間の人数はちゃんと数えてましたけど、サンダー君のことは殆ど見てませんでしたね」


「キュウン……」


「あぁ、すみません。別にいてもいなくても同じだなんて言ってませんよ」


「あんたが一番ひでーなジゼルさんよ……」


 耳を垂らして伏せ、本気でしょげるサンダーを俺とセファンが宥める。


「で、サンダーには鼻を頼りに俺達の武器を探しに行ってもらう。できれば武器を取り返してほしい。でも無理はしないで。危険だと判断したらすぐに戻ってきてね」


「ワウ」


 サンダーが監守に聞かれない様小さく返事をする。


「たぶんサンダーが武器を探しにいってる間に俺達は実験室に連れて行かれると思う。そこにはきっとさっき謁見の間にいたメンバー全員がいるだろう。竜の鉤爪の二人が睨みを利かせている限り、俺達は迂闊に動くことができない」


「じゃあどーすんだよ? サンダーが戻ってくるのを待つのか?」


「いや、八雲の能力の移植が始まった直後、隙をついてガブリールから腕輪の鍵を取り戻す」


「……あぁ、そうか。実験中は移植対象者のザウルは動けない。作業中のガブリールも動けない。動ける敵がジェラルドとニコロとギルベルトとハインツの四人に減るってことか」


 レオンが難しい顔をしながらそう言う。


「移植作業が始まってすぐに中断すれば、八雲の力だって取られないで済むはずだ。それに敵がその四人なら、琴音が隠し持ってる煙幕弾を使えば、一瞬だけでも隙を作り出すことができると思うんだけど……琴音持ってる?」


「はい……あります、よ……」


「じゃあタイミング見計らって俺が投げる。貸してもらえるかな?」


「えぇ……ここに、ありますので……取ってください……」


 そう言って琴音は弱々しく太腿を指した。体を起こすのが辛いらしい。

 俺は琴音の太腿の方に目をやる。騎士服が一部破れて白く艶やかな肌が露出していた。


 服の下に隠してある煙幕弾を……取れと言うのか。思わず俺は息を飲む。


「ユウ様……いやらしいですよ」


「は!?」


「今、琴音さんの太腿を見ながらとんでもないことを考えてませんでしたか?」


「考えてない! 人聞き悪いな! ってかジゼル、煙幕弾取ってあげて!」


「はいはい」


 ジゼルが琴音に確認しながら服の下を探る。俺もレオンもセファンも目をそらした。


「凄いところに隠してますね……どうりで武器を没収された時にも隠し通せた訳ですね」


 ジゼルが意味深な発言をする。一体どこに隠してたんだ。

 ……いや、それについては考えるのを止めておこう。


「……で、話を戻そう。実験が始まったらすぐにその煙幕弾を投げて隙を作る」


「ですがユウ様、ジェラルドは妙な術を使いますよね? 体が動けなくなる。もしあれを使われたらどうします?」


「あの術なんだけどさ、たぶん目を合わせた人間の神経系統を支配する特殊氣術だと思うんだよね」


「しんけーけーとー?」


 セファンが目を丸くしながら首を傾げた。レオンもジゼルも不思議そうにこちらを見る。


「えーっと、もし見えない糸とかで物理的に体を拘束するなら、そのために対象者まで糸を伸ばさないといけないよね? でも俺達が術にかかった時も、さっき謁見の間で八雲がかけられた時も、ジェラルドはそんな素振りを見せなかった。それに体の外側から氷とか風とか岩とかで物理的に拘束する氣術でもない。だからあれは体の内側に影響を及ぼす氣術の一つ。ここまでは分かる?」


「あぁ」

「はい」

「お、おう……」


「他人の体の自由を内側から奪うということは、脳から出る体を動かすための信号を伝達できない様にする、ってこと。だから信号を伝える神経系統の制御権を奪うんだよ。たぶん、ジェラルドは相手の目を通して神経に無理矢理氣力を流し込んで癒着させてるんだと思う。ジェラルドの氣力を流し込まれた神経は機能が麻痺して、体が動かせなくなるんだ」


「へーそんなことが可能なのか……ってかよくそんなん分かったなユウ」


「あいつの術を受けた時の感じが、キェルの闇に飲まれた時の感じと何となく似てたからね。キェルの闇も、同じ仕組みなんだよ。あいつは相手の五感を司る神経を支配する。これについては十年前からずーっと対策考えてたから、突破も可能だよ。っていうか既に実証済み」


「あー、そいやユウは竜の鉤爪のアジトでキェルに会ったんだっけ?」


「うん。また闇の氣術を使われたけど、全身の氣力を循環させて、無理矢理神経の中に流し込むイメージで氣術を発動すると解除できるよ」


「……そんな簡単にできるのかそれ? 俺はユウと違ってそんな氣術得意じゃねえぞ」


「まぁ良く分からなかったら、取り敢えず思いっきり我武者羅に氣力爆発させる感じで何か術使えばたぶん大丈夫」


「適当だなぁおい」


「まぁジェラルドの目さえ見なければ術にはかからないはずだから、それだけ気を付けてれば何とかなると思う」


「おぉ、そっちの方がまだできそうだな……オルトっていかにも簡単そうに氣術の操作するけど、いざ同じ様にやろうとするとめちゃくちゃむずいからな」


「まぁユウ様は天才ですから、同じ様にできると考えてはいけませんね」


「いや別にそんなんじゃないって……」


「ま、取り敢えず目を合わせなければ良いんだろう? いざ戦うってなった時あいつの目線を確認できないのは痛いけど……仕方ねえな」


「うん。顎とか見て何となく次の動作を予測するしかないね。ジェラルドはレオンに任せて良い?」


「は、マジ?」


「その布は煙幕に紛れてジゼルが外してあげて。縄抜けできるよね?」


「はい、できますよ。かしこまりました。煙幕弾を投げたらすぐ、縄抜けしてレオン様を解放しますね」


「ちょっと待て、俺の意思は……ってまぁそうか、武器取られてるこのメンバーの中であいつに対抗できるのって俺だけか……」


「うん。レオンお得意の技でよろしく」


「あ、それって腕から刃生えるやつ!? うおぉついに見れるのか……!」


「いやそんな期待される様なもんじゃねえんだけど……ってかさっきちゃんと見せるって言ったろ? あんまそんな目で見られるとやり辛え」


 少々照れ臭そうにセファンから目をそらすレオン。しかしまんざらでもなさそうだ。


「ガブリールはユウ様が、ジェラルドはレオン様が担当するとして、他の三人はどうします? 大人しく見ててくれるとは思えませんが」


「たぶんギルベルトは最初は手を出してこないと思う。奴は王っていう地位に浸ってるから、王様らしく自分が動かざるを得なくなる状況になるまでじっとしてるんじゃないかな。ハインツは表情からして憑魔ドゥルジを憑けられてるだろうから、もし命令が下れば攻撃してくるかもしれないけど……」


「では私とセファンさんでハインツ様とニコロの対応ですね。武器が早く手元に戻ればいいのですが……」


「うん、丸腰で立ち向かうのは危険だから、サンダーと合流するまではできるだけ戦いは避けてほしい。その間に俺はガブリールから鍵を奪って腕輪を解除して、八雲と葉月を助ける。そしたら氣術で一気に実験室を破壊するから、全員で逃げよう」


「でも、そんなに上手いこといくかよ? 相手は竜の鉤爪最高幹部二人と変態とキメラとコンクエスタンスのボスだぜ?」


 レオンが眉間に皺を寄せながら言う。確かに、これはかなり無茶な作戦だ。運も必要となる。


「……正直、成功率は低いと思う。俺達は丸腰なのに、向こうには竜の鉤爪のナンバーワン、ツー、それにユニトリクが誇る神子一族の王が二人にコンクエスタンスが二人いる。さらに言えば俺とレオンは能力を封じられてるし琴音は重症だ。勝てる要素の方が少ない」


「「「「……」」」」


 レオン、ジゼル、セファンが黙って俯く。琴音は薄眼を開けてこちらを見ていた。

 俺は一度大きく息を吐き、そして皆の方へ真剣な眼差しを向ける。


「……でも、やらなきゃいけないんだ。何もしなければ、八雲も、葉月も、ここにいる全員も殺される。ビアンカも救えない。何一つ明るい未来なんて待ってない」


「ユウ……」


「だから、俺達は残されたチャンスを使って精一杯足掻くんだ」


「そうですね、ユウ様」


「……セファン、琴音、ごめんね。ユニトリクの事情に巻き込んじゃって。でも、絶対に二人は俺が守るから……」


「え……あ、いやいやオルト、別に俺巻き込まれたとか思ってねーから。好きで一緒にここまで来たんだぜ? 謝るのとかナシな」


「そうですよ、オルト……私も自分の意思でオルト達についてきたんです。それに、竜の鉤爪を潰すのは私の目標でもあるのですから……」


「……ありがとう、セファン、琴音」


 心強い二人の言葉に、胸が暖かくなる。


「必ず、八雲と葉月を助け出してここから出る。そして、体制を立て直してビアンカを救い出し、ギルベルトを倒すぞ」


「あぁ」

「おう」

「「はい」」


 牢屋にて、俺達は意思を固める。

 来たる移植実験の時間まで、あと少し──。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ