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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第9章 神子のいる世界
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第162話 仮名の王

 ユニトリクの首都フェラーレル。その町の北西に元バルストリア家の神子屋敷があり、そこは現在王城として使われている。その王城の中の謁見の間に、俺達は連れてこられた。俺も、セファンも、ジゼルも、そしてサンダーも両手を縄で縛られている。

 謁見の間に入った瞬間目に飛び込んできたのは、同じく拘束された八雲達だ。


「八雲!?」


「オルト!!」


「ユウ!?」


 こちらを見て驚く八雲とレオン。怪我は無さそうだ。

 しかしその隣に寝そべっている──琴音の様子がおかしい。


「琴音!? 大丈夫か!?」


「う……」


「ちょ、琴音血だらけじゃねーか!? 大怪我してんぞ!?」


 腹部に刺された様な大きな傷があり、そこから血が少しずつ流れ出ている。怪我の大きさの割に出る血の量が少ないので、一応何かしらの手当てがしてあるらしい。八雲が少しだけ治療したのだろうか。

 だが琴音の顔色は悪く、息も絶え絶えで苦しそうだ。かなり危険な状態であることは間違いない。

 琴音がこれほどの重傷を負うだなんて、一体何があったのだ。


「ほらほら、突っ立ってないで早く玉座にひれ伏したまえっ」


 後ろを歩いていた橙男が俺達の背中を蹴る。強く蹴られてバランスを崩し、床にダイブした。

 セファンもジゼルもダイブして痛そうに顔を歪める。


「ユニトリク王、お久しぶりです……っておや、そこにいるのは治癒娘じゃないかねっ。もしかしてさっきの爆発騒ぎは君達なのかな?」


「ど、どうしてあなた達がここに……!?」


 橙男、そしてその後ろにいる鉤爪男を見て八雲が困惑する。


「どうしても何も、そこにいるユニトリク国王に用があるからさ」


 俺は正面、玉座の方に顔を向けた。

 そこには────玉座に腰かけるギルベルトおじさん、その隣に立つハインツがいた。そして少し離れたところに手枷を付けられたビアンカがいる。


「ユニトリク、国王……? ギルベルトおじさんが? 王はゼルギウスって人なんじゃ……」


「ユウ、俺もビックリしたぜ……。ゼルギウスなんて人間はいなかった。仮の名で、おじさんとハインツが王様やってたんだよ」


「!」


 ギルベルトおじさんが闇を移したような暗い瞳でこちらを見た。顔はかなりやつれており、昔の優しそうなオーラは微塵も感じられない。年の割にかなり老け込んでいる。まるで別人だ。

 隣のハインツも人が変わったように暗い。目は虚ろで痩せており、生気が感じられなかった。あの日の優しく、天然で、そして少し怖がりな可愛らしい少年の面影は残っていない。

 やはり……ハインツは憑魔ドゥルジを憑けられているのだろう。


「久しぶりだね、ユウ君。すいぶんと大きくなったもんだ」


「……おじさんは、だいぶ痩せましたね」


「ふふ、こういう仕事をしていると中々心労が多くてね。ハインツのお陰でだいぶ助かってるよ」


「あなたが……今のこの国の、王なのですか」


「そうだよ。ゼルギウスという名をかたっているのは、私の名があまり評判が良くないからなんだ。どうやら私はあまりバルストリア家当主として評価されていなかったみたいだからね。それに、ハインツと二人で仕事を分けれれば負担が減るだろう?」


 へらへらと笑うギルベルトおじさん。ハインツは黙ったままだ。


「……架空の人物を作り出してまで、コンクエスタンスという組織に入ってまで、あなたは王になりたかったんですか」


「……そうだよ。だから君の一族を滅ぼした」


「……!!」


「なんせ、もしあのまま神子選考が続けられれば、間違いなく君が王に選ばれただろうからね」


「そんなの……! 分からないじゃないですか……!!」


「いや、分かるね。ユウ君は同じ世代の中で能力が飛び抜けている。他の人間では敵わないよ。もしあの次の日正常に神子選考が開催されていたら、君はビアンカちゃんとの一騎打ちになった。元々人数の少ないバルストリアからはハインツ以外の候補は擁立できなかったから。でもレオン君より能力の低いビアンカちゃんが選ばれることはきっと無いだろうね」


「おじさん、ビアンカの能力が低いってのは聞き捨てならねえぜ」


 レオンが低いトーンで言う。ビアンカは俯いた。


「おや、それはすまない。別に君達を馬鹿にしている訳では無いよ」


「……」


「まぁそういう訳で、王に選ばれるであろうユウ君が邪魔だったんだ。本当はユウ君だけ狙うという手も考えたのだが、君を殺そうとすれば必ずライファルトが出てくるからね。どっちにしろエルトゥール一家を排除しなければならなそうだったから、思い切って最初から全部焼かせてもらった。とは言っても結局本命のユウ君を取り逃してしまったんだが」


「父さんとギルベルトおじさんは……あんなに仲良さそうに話していたじゃないですか! なのにどうして!!」


「……ふん、反吐が出る。あんな馬鹿な男と仲が良い訳がないだろう」


「っ!!!」


 その言葉に、体中の血が熱くなる。全身が急に沸騰した様だ。

 気付いたら体が勝手に動いていた。俺は炎で縄を焼き切り、飛びかかろうとする。


「待て、ユウ!!」


「!!」


 ギルベルトの前に立ちはだかるレオン。彼もまた手を縛られたままだ。


「ビアンカが人質に取られてる。歯向かえば中の憑魔ドゥルジにビアンカは殺される」


「……!!」


「それに、今の俺達は丸腰だ。おじさんの首を取る前に後ろの奴らに殺されるぞ」


 背側から向けられる殺気。橙男と鉤爪男のものだ。

 俺は唇を噛み締める。そして、だらんと両手を下ろした。


「良い子だ、ユウ君。ガブリール、あれを彼に付けなさい」


「はいはーい、まっかせてんでりくそんー」


 振り向くと、八雲達の後ろに狼の顔を持った男……獣魔じゃない、合成獣キメラか? と、その隣に男の子? が立っていた。男の子は無邪気な顔で敬礼ポーズをしている。彼がガブリールか。

 ガブリールは何かを持ってたったとこちらへ駆けてくる。


「ささ、手を出してくれーんすたっど」


「……」


 縄を焼き切った俺以外の仲間は全員縛られており動けない。宝剣も橙男に没収されたままだ。

 氣術で反撃しようとしても、きっとその前にビアンカが殺されるか後ろの竜の鉤爪の二人に殺られる。

 例え炎で皆の縄を焼き切ったとしても、後ろの二人とガブリール、狼男がいては重症の琴音を抱えたままここから逃げきれないだろう。

 それに何より、ギルベルトとハインツだって強力な氣術で対抗してくるはずだ。

 ……大人しくここは従うしかない。


 俺はガブリールに両手を差し出す。すると、ガブリールは見覚えのある白い腕輪をこちらに掲げてニッと笑った。


「な! それは……!!」


「ふっふー、これが何か知ってるカンジかなりんすとん? はめさせてもらうよるごじらー」


「!!」


 ガブリールが意気揚々と俺の両手に装着した白い腕輪。リングの中心に小さな赤い宝石の様なものがついている。

 これは──氣術封じの氣術器だ。


「さて、これでもうユウ君は氣術を使えないね。レオン君、ユウ君、大人しく私の前に跪きなさい」


「「……」」


 俺とレオンは互いに目を合わせたあと、言われた通りに玉座の前に跪く。

 ギルベルトは満足そうに口角を上げた。そして俺達の後ろ、鉤爪男達の方へ視線を向ける。


「さて。急な来訪だと聞いて少し驚いたのだけれど、まさかユウ君を連れて来てくれるとは思ってもみなかった。礼を言う、ザウル殿」


「これは手土産ですわ。たまたまここに来たら見つけたんで。狩ったのはこいつです」


 ザウルと呼ばれた鉤爪男は橙男を指差す。橙男は頭を垂れた。


「そうか。ありがとう、ジェラルド殿」


「で、感動の再開に浸っているところ悪いんやけど、そろそろここに来た本題に入ってもええです?」


「どうぞ。何かな?」


「実は先日、俺とこいつが留守中に我が盗賊団の本部が敵襲に遭って壊滅させられたんですわ。怪我人多数な上に建物が使い物にならなくなりましてな」


「何と。竜の鉤爪本部が壊滅とは……一体誰がそんなとんでもないことを」


「そこで膝折ってるエルトゥールと、そこに倒れてる死にかけの女や」


「ユウ君が!? ……全く、本当に恐ろしい子だね君は」


「そこで、どっかいい物件を紹介してくれへんかと思いまして。大人数を収容する目立たない建物なんて中々ありまへんからなぁ」


「なるほど、新しい本部となる施設が必要ということか」


 ギルベルトが顎に手を当てて考える。

 彼の決断は国の決断だ。もしここでギルベルトが承諾すれば、ユニトリクが民を苦しめる過激派盗賊団に新しいアジトを提供するということになる。そんなこと、断じて許されないはずだ。


「今は団員を町に散らせて静かに過ごさせとるけど、気性の荒い輩がいかんせん多い。そのうちシャバの人間とゴタゴタを起こしかねへん。それはお互い面倒やろ? せやから、早急に見繕ってもらいたいんですわ。勿論謝礼はしまっせ」


「ふむ……確かにそうだね。ユウ君も連れてきてもらったことだし、すぐに手配しよう」


「助かりますわ」


 とんでもないことをあっさりと承諾するギルベルト。隣のレオンも唖然としている。

 ユニトリクは、ギルベルトは、……こうも堕ちてしまったのか。


 ザウルが一礼する。

 ……十年前のあの日の襲撃も、こうして決定したのだろうか。

 こうやって、いとも簡単にエルトゥールを切り捨てたのだろうか。

 今のこのやり取りをみて、胸の中にぽっかりと穴が開いたのを感じた。怒りや、悲しみや、憎しみを通り越して虚無感を覚えたのだ。


 すると、ザウルがふー、と一息ついた後人差し指を立てる。


「それともう一つ、お願いがあるんやけどええです?」


「何かな?」


 ザウルはこちらを見て少し口角を上げた。……一体、何をする気だ。


「もしこいつらを殺すつもりなら、エルトゥールとそこの死にかけ女をもらえへんかなと思いまして。実は先のアジト襲撃事件で団員達がこいつらに怒りを募らせとる」


「……!!」




「だから新しい本部が確保でき次第、そこで────二人を公開処刑にしたいんや」





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