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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第3章 獣魔使い
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第16話 それぞれの氣術

 朝早く宿を出発して私達は隣町へ向かう。隣町で巨大化した獣魔が出現している、というヨンの情報について調査するためだ。周りの人を巻き込まないために馬車ではなく徒歩で行くことにした。


「はぁ、これからずっと移動は歩きなのね。上依かみよりの里には交通機関が何も無かったから仕方なかったけど、お金はあるのに乗り物が使えないなんて……」


「まぁ、ちょっと遠いけどハイキングだと思って楽しく行こうよ。体力もつくし」


 オルトが爽やかな笑顔で返してくる。目が合ってドキッとした。初めて会った時もカッコいいと思ったし、助けてもらった時も胸が高鳴った。そして、昨日の関所でのやり取り以来さらにドキドキしてしまう様になっていた。

 私……どうしちゃったんだろ。


「う、うん……そうね!!」


 思わず目を逸らしてしまった。するとオルトが不思議そうな表情をする。少しの間沈黙が流れた。


「……ねぇオルト、ちょっと聞いても良い?」


「ん? 何かな?」


「オルトはどうしてエルトゥール一族なのを隠してるの?」


 それはずっと気になっていた事だった。今までは何となく聞き辛くて敬遠していたが……勇気を出して聞いてみる。


「あぁ、それね。ちょっと訳があって追われてるんだ。指名手配されてる」


「えぇ!?」


 予想外の答えが返ってきた。指名手配って、私はとんでもない大罪人についてきてしまったのだろうか。いや、オルトが指名手配される様な悪人には見えないが。


「別に犯罪を犯したとかじゃないよ。実は国のゴタゴタに巻き込まれてね……事情はそのうち話すよ。だから、誰にも話さないでね」


「う、うん……」


 少し困った顔で話すオルト。余程の事情があるのだろう。もう少し一緒に旅をして、親しくなったら話してくれるだろうか。


「あ、あと目が青いのはどうして? 前に氣術を使った時だけはあかくなってたけど、あなたの血族は普段から焔色の瞳じゃないの?」


「前に神子に仕えてたって言ったよね? その人の術のおかげだよ。俺が国を追われた事情を知って、焔色が隠れる様にしてくれたんだ。目が紅いままだとすぐ正体がバレるからね。ただ、効果が薄れてきて最近は氣術を使う時だけ紅くなっちゃうんだけど」


「へぇ、氣術でそんな事もできるのね。オルトはどんな氣術が使えるの? 前は炎を操ってたわよね」


「一応、炎・風・氷が戦いでは使えるレベルかな。一番得意なのは炎だけど」


「えぇ!? 三つも使えるの? 凄い……私なんて基礎属性の氣術は一つも使えないのに」


「うーん。世の中で氣術を使える人が六十パーセントで、そのうち一種類の氣術を使えるのが五十パーセント、二種類使えるのが三十パーセント、三種類使えるのが十五パーセント、四種類以上が五パーセントなんて言われてるけど、本当は皆訓練すれば何種でも使えるんだよ」


「え、そうなの?」


「うん。人によって得意不得意あるけど、トレーニングすれば基礎属性のある程度の術は使える様になるよ。八雲みたいな特殊な術は無理だけど」


「基礎属性って、炎・風・雷・氷・地・水・光だったっけ?」


「うん。で、八雲の使える治癒や結界、あと葉月の模倣とかは特殊属性だね。生まれ持ったものだから、訓練で習得できる術じゃない」


「オルトの武器に氣術を乗せるのも特殊属性?」


「そうだね。だから俺は武器に氣術を宿す時は同時に二つの属性の術を使ってることになる。あ、それ入れたら四種類俺は使ってるのか」


「私も練習したら使える様になるかしら」


「練習してみる? 上達すれば、また襲われた時にも使えるし」


「そうね。守られてばっかりじゃいけないものね。自分でもある程度は対応できる様にしないと!」


 私だって守られてばかりは嫌だ。昨日だって葉月にまで助けられてしまったし。それに、自分の無力さは国境の林で嫌というほど味わった。


「じゃあ夜時間ある時に教えるね」


「うん! よろしく!」


 そんな約束をしながら、私達は隣町への道を地道に進んでいく。

 ひらけた草原の中に一本道があり、それは地平線の向こうまで続いている。ここまで見通しが良いと、獣魔や盗賊団は襲ってこないだろう。照りつける日差しは夏が近いせいか少し暑かったが、適度に冷たい風が吹いており気持ちが良かった。まだまだ隣町までは遠い──今日は野宿か。




 夜になり、夕食を食べ終えて氣術の練習をする事になった。


「じゃあまず、炎の氣術にしてみようか。目を閉じて、掌の上に炎を出すイメージを浮かべて。イメージがしっかりしてきたら、目を開けて全身の氣力を掌に集中させる」


「う、うん……!」


 私は頭の中で炎をイメージし、掌を見つめる。体中に流れる氣力を掌へと集め、炎を出そうと氣力を放出した。

 ……しかし何も起こらない。


「うーん……できない」


「コツを掴めばすぐできる様になると思うよ。八雲は氣力量がかなりあるから、コントロール次第で強力な術も使えるはずだ」


「そうなの? 確かに里では私が一番氣力量はあったけど」


 再度試してみる。しかし、炎が出てくる気配は無い。


「まぁ、一朝一夕でどうにかなるもんじゃないからひたすら練習あるのみだね。俺も小さい頃めちゃくちゃ練習したよ」


「へぇ……」


 顔をしかめながら手を出してプルプルしている私を見て、何してんの? という感じで葉月が寄ってきた。


「そいや葉月は能力とか姿を真似できるんだよな? ちょっとやって見せてよ」


 そう言ってオルトは小さな炎を出した。葉月はキュ! と言って炎を食べた。私とオルトはギョッとする。


「え、食べた……葉月大丈夫?」


 葉月は炎をゴクリと飲み込み、深呼吸する。そして、大きく息を吸った後小さな炎を何発か吐いた。火の玉は夜空に向かって飛んだ後、火の粉を散らしながら小さくなって消滅する。


「おぉ、凄いな!」


 オルトに褒められて葉月はドヤ顔をした。私も拍手をする。葉月は嬉しそうにまた炎を吐いた。


「あ、この前は八雲の治癒能力を真似たんだって? 今度はそれやってみて」


 オルトが葉月にリクエストする。しかし葉月は首を傾げて困った顔をした。


「キュー……」


「あれ、前は確かにできたんだけど……忘れちゃったのかしら?」


「うーん? ……じゃあこれはどう?」


 そう言ってオルトは小さな水泡を出した。


「あれ!? 水属性も使えるの?」


「言ったろ? 戦いで使えるレベルなのは炎・風・氷だって。他のが全く使えない訳じゃ無いんだけど、大した事はできないかな」


「へぇ、本当にオルトって凄いのね」


「さて、葉月どうだい?」


 葉月は水泡を食べる。そしてゴクリと飲み込んだ後、同じ様な水泡をいくつか出した。


「お、できた。じゃあさっきの炎をもう一回やってみて」


 すると、葉月はまた困った顔をする。それを見てオルトが微笑んだ。


「やっぱり。一度に一種類しか真似できないとかなのか?」


「キュ!!」


 葉月がコクコクと頭を縦に振る。正解らしい。


「術をコピーするとその前にコピーしてたものは消えるみたいだね」


「あぁ、なるほど! だから治癒能力も使えなかったのね」


 この短時間の中の少ないヒントで解明するとはさすがオルトだ。


「姿も真似できるって聞いたけど、葉月できるかい?」


 すると葉月は私の方をジッと見てから、クルンと回って体を変化させた。


「わぁ!!」


「おぉ!!」


 葉月がいたはずの場所に私が立っていた。いや、顔や体は私にそっくりだった……葉月の狐耳や角、翼が生えていること以外は。


「葉月凄いわ!! 獣耳とかついてて完璧じゃないけど、これはこれで……ふふ」


 獣耳をつけた自分の姿に自分で一瞬萌えを感じてしまった。はたから見たらかなりヤバイ奴だ、と思い自制する。


「これはもう少し練習すれば、結構使えるかもな」


「キュー!」


 私の姿をした葉月が得意げに鳴く。変身しても話すことはできないらしい。


「さて、葉月の力も分かったところで時間も遅いし今日はこの辺にしとくか。また明日も練習しよう」


「そうね、私頑張る。お休み!」


 そう言って練習を切り上げ、私達は就寝する。


 次の日の晩も野宿で、前日同様に練習した。その次の日も。

 隣町までの道中毎晩練習したが、私は一向に炎を出せなかった。

 私、才能無いのかなぁ……と思い始めた時、ようやく隣町に着く。もう夕暮れだ。今日はこのまま宿に行って休むことにした。


「よし、今日こそは……!」


 私は半ば諦めながらも部屋で練習する。オルトと葉月が温かい目で見守ってくれていた。さすがにもうそろそろ成功させたい。


「八雲、肩の力を抜いて」


「うん」


 炎のイメージを思い浮かべる。力みを解いて深呼吸し、掌に氣力を集める。

 葉月にだって出せたんだ、私にもきっと出せる。それに私だってちゃんと戦える力が欲しい。獣魔や盗賊団に襲われた時の光景が脳裏に浮かぶ。ただ守られているだけではダメだ。そう思うと、何だか体の中で氣力が渦巻く様な感じがした。

 ──あ、なんかいけるかも。


 次の瞬間、予定よりかなり大きな炎が出て軽く爆発した。炎は一瞬部屋内を明るく照らした後、消滅する。

 今、確かに私の掌から炎が出たのだ。


「あ……できた。できたよオルト!!」


 立ち上がりガッツポーズする私。目を見開いて驚くオルトと葉月。


「おぉ……おめでとう。あとは加減の練習だな」


 苦笑しながら私を見るオルト。爆発で私とオルトの髪、葉月の毛が少々焦げていた。そして……カーテンが豪快に焦げた。


「次に部屋で練習する時は結界を張ろうね」


「……そうね」


 宿の人に正直に申告し、カーテンは弁償させて頂くことになりましたとさ。



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