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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第9章 神子のいる世界
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第159話 長い一夜の終わり

 バルストリア家当主、ギルベルト・バルストリアはコンクエスタンスの人間であり、十年前に過激派盗賊団竜の鉤爪にエルトゥール一族を滅ぼす様依頼した──それが、オルトと琴音が持ち帰った証拠品から判明した事実である。


「嘘……そんな……オルトとレオンさんとハインツさんのお父さん達は皆中が良かったのよね? なのにどうして……」


「バルストリア家は神子選考で負け続きでしたからね。思い詰めたギルベルト様が悪に手を染めてしまったということでしょう」


「レオンもジゼルもあんまり驚いてないな? 分かってたのか?」


「いや、確証は無かったが……何となくな。でもギルベルトおじさんはずっと王城の執務室にこもって人前に姿を現さないから確認のしようが無かった。下手に動いたらビアンカが危険に晒されるしな。……ユウ、ジゼルが色々調べてくれて分かったんだが、ハインツは子供の頃ギルベルトおじさんから虐待を受けてたみたいだ」


「!」


「たまに服の下、見えない位置に怪我してることあったろ? ハインツに誤魔化されて俺達気付いてやれなかったけど、あれがそうだったんだ」


 確かに、ハインツの腕などが腫れていたことがった。こちらが心配して尋ねてもはぐらかされてしまったが。


「そうだったのか……」


「ギルベルトおじさんは優しい人間だけど、優し過ぎて抱え込み過ぎる人だった。当時からたぶん神子選考のことで悩んでたんだと思うぜ。で、そのストレスの矛先がハインツにいっちまった」


「確かに、お父さんに怒られるってハインツ怯えてたこと結構あったもんな……」


「で、おかしくなっちまったギルベルトおじさんは他家の神子候補を抹殺しようとした」


「でもよ、いくら王座が欲しいからって仲良くしてた奴の屋敷襲わせるとか正気じゃねーだろ?」


 先ほどまで話に参加するのを諦めていたセファンが急に発言する。レオンさんは少しキョトンとした後、目を伏せる。


「だから、もう正気じゃ無かったんだろうぜ。いつからかは知らねえが」


「そう言えばオルトとレオンさんって、廃墟になった図書館に忍び込む時怪しい人達を見たのよね? 誰かと取引しようとしてる……」


「キェルは竜の鉤爪だったよ。さっき戦ってきた」


「は、マジかよ!? キェルってあの時の暗闇の術使う奴だよな?」


「うん。倒せずに逃げて来ちゃったからレオンもまた会えるよ。闇だけじゃなくて大量の武器も持ってるから気を付けてね」


「いや会いたくねえよ」


「キェルが取引しようとしてたのはきっとギルベルトおじさんだね。その時エルトゥールを襲う契約を結んだのかな……」


「だとしたらその時にはもうだいぶおじさんは黒に染まってたってことだよなぁ」


「……父さん達、仲良くお酒飲んだりしてたのにな」


 オルトがポツリと呟く。レオンさんとジゼルさんが俯いた。


「オルト……」


 何と声をかければ良いだろうか。きっとオルト達はギルベルトさんと昔良く会っていたのだろうし、親友の父として親しくしていたのだろう。神子一族の中心人物にスパイがいると判明した時点でオルトはある程度覚悟はしていたと思うが、やはり真実がもたらす衝撃は大きいだろう。とても切なくて、悲しいはずだ。慰めてやりたいがしかし、かける言葉が見つからない。

 すると、オルトが顔を上げた。


「……王城に行こう」


「「……え」」


 俯いていたレオンさんとジゼルさんがオルトの言葉を聞いて頭を上げる。


「王城に侵入してビアンカを救出し、そしてギルベルトおじさんを……」


 そこまで言ってオルトが詰まった。言いたかった言葉のその先は────もしかして、『殺す』だろうか。


「オルト、あの……」


 思わず声が出る。私はオルトに人を殺して欲しくない。それは、旅を始めて間もない頃に彼にお願いしたことだった。

 オルトがこちらをチラと見る。


「……コンクエスタンスを神子一族の中から追い出そう」


 オルトは言い直す。するとレオンさんが立ち上がった。


「そうだな! 憑魔ドゥルジが御嬢さんの力で炙り出せることも分かったし、裏切者も確定した! 後は作戦立てて行動あるのみ!」


「言うのは簡単ですが、果たしてそんなことができるのでしょうか……?」


「ジゼル、俺はユニトリクの未来を取り戻すために戻って来たんだ。だからできるかどうかじゃなくて、やるしか無い」


「ユウ様……」


 明るく振る舞うオルト。

 彼は私がお願いして以来、私の目の前で人を殺したことは無い。だが、もしかしたら私のいないところで誰かを殺してしまっていたかもしれない。しかしそれはきっと必要に駆られて仕方なくやったことで、本人が望んで行った行為では無いはずだ。

 だが、今こうしてオルトの家族を殺す命令を下した犯人が分かり、更にその人はレオンさんの家までめちゃくちゃにしている。殺意が芽生えていても不思議では無い。しかしオルトの苦しみ悲しみを考えると、安易に殺さないでだなんて言えなかった。


「侵入ってーと、琴音の得意分野だな!」


「まぁ……そうですが、王城というだけあってあそこは守りが堅いですからね。竜の鉤爪アジトの時とは違って内部の情報は知りませんし、そう易々とは入れないですよ」


「それでしたら、私とレオン様なら大体の建物構造は把握しています。ユウ様も何度も行ったことありますので分かりますよね?」


「んーまぁ大体は覚えてるかな」


「ジゼル、適当でいいから図面起こせるか? それ見ながら作戦立てようぜ」


「かしこまりました」


 ジゼルさんが立ち上がり、近くの引き出しを開けて一枚の紙を取り出す。図面用だろう。

 するとレオンさんが琴音をチラと見た。


「てか、あんた潜入とか得意なんだ? ユウと二人で竜の鉤爪アジトに潜入したりするあたり、只者じゃねえな」


「……まぁ、忍ですので」


 そう言って琴音が急に立ち上がる。何事かと全員が彼女の方を見た。

 琴音は気にせず、無表情でレオンさんの隣まで歩いて行く。そして預かっていた剣を差し出して頭を垂れた。


「……先程は疑ってしまい申し訳ありませんでした。無礼をお許しください」


「! あぁいや、全然気にしてねえよ。初対面の人間を警戒すんのは当然だし。むしろ御嬢さんとチビちゃんが警戒しなさ過ぎ」


「誰がチビちゃんだ!!」


 剣を受け取りながらレオンさんが笑う。琴音の表情も少し和らいだ。

 良かった、仲直りしてくれて。私はホッとして胸に手を当てる。


 すると、傍にいたオルトがゆっくりとテーブルに手をついてうなだれた。瞼が重そうだし息も荒い。辛そうだ。


「お、オルト大丈夫!?」


「あーごめん、ちょっとクラクラしてきた……貧血かな」


「早くソファに寝転がって!」


 フラつきながらも何とか自力でソファに戻ったオルト。グッタリとソファに寝る。私は横に座り、顔を覗き込んだ。


「治療の続き、するわね。喉とかは乾いてない? 大丈夫?」


「ん……八雲も疲れてるだろうから、治療は明日で良いよ。取り敢えず……ちょっと……寝るね」


 そう言い残してオルトはすぐ眠りについた。静かに寝息を立てている。


「話し合いは一先ずここまでだな。皆疲れてるからもう寝ようぜ。ゆっくり休んでから、また作戦を立てよう」


「ではそれまでに私は図面を書いておきますね」


「ジゼルも休んどけよ?」


「ふあーぁ。俺ちょー眠い。もー限界。どこで寝たらいいんだ?」


「個室が三部屋あるから好きに使うと良い。あ、でも灯りは点けるなよ? 誰も住んでねえことになってるから。大声で騒ぐのも禁止」


「あーい」


「琴音は治療どうする? 腕しかまだ治してないけど」


「私も明日で大丈夫です。八雲、今日はもう寝ましょう」


「レオンさんはどうするの?」


「俺はリビングで適当に寝る。ユウの様子見つつな。あ、家の物は自由に使って構わねえから」


「そう……じゃあオルトのこと任せたわね。お休みなさい」


「あぁ、お休み」


 私達は各自、部屋に入る。ホッと一息ついた途端、一気に眠気が押し寄せた。


 気付けば私は眠りに落ちていた。





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