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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第9章 神子のいる世界
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第158話 暗号文

 オルトの焔瞳ブレイズアイズが揺れている。驚きと、嬉しさと、切なさが融合した様な複雑な表情だ。オルトの口から今しがた出た、ジゼルという名前。それは確かオルトの母の親友で、そして幼少期のオルト達の世話を良くしていたシスターだったはず。オルトの話では仮面の鉤爪男に殺されていたと思うのだが。


「ジゼル、生きてたのか……?」


「……まさか、あなたはユウ様……!?」


 ジゼルさんも非常に驚いており、目を潤ませながら口に手を当てる──義手だ。それに右頬にある大きな傷が彼女の整った顔の上に荒々しく蹂躙している。白髪交じりの茶髪が彼女が味わった苦労の大きさを醸し出していた。


「そ、あのユウだよ。こいつようやく戻って来たんだ」


「あぁ、こんなに立派になられて……本当にご無事で良かったです。またお会いできて嬉しゅうございます……!!」


「ジゼルこそ、良く無事だったね。俺てっきりあいつに……」


「えぇ、何とか命だけは拾いました。ご覧の通り、色々と失うことにはなりましたが」


 そう言ってジゼルさんはブーツを脱ぐ。義足が現れた。彼女は右手右足を失っていたのだ。

 オルトは体を起こし、立ち上がってジゼルさんの方へと歩く。


「本当に、良かった……! 生きててくれてありがとう……!!」


「ユウ様も、良く生き延びてくださいました……!!」


 オルトとジゼルさんは抱擁する。生き別れになっていた親子が再開したかの様なシーンだ。


「おー、何か感動の再開? ってか誰だっけ?」


「ちょ、セファンしーっ。せっかく良い雰囲気なのに……」


「ジゼル、というと確かオルトの世話役の様な方でしたか」


「まぁそんな感じだな。俺もユウもガキの頃から世話になってる。ユウの屋敷が焼かれた後行方不明になってたんだが、それから三年後くらいだったか? 手足が義肢になったジゼルに再会してな。本当にビックリしたぜ」


 抱擁を終えたジゼルさんがオルトが腰に携えている宝剣に視線を向けた。


「あぁ、ちゃんとその宝剣も持っていてくださったのですね」


「ユニトリクから逃げ出す時に一回無くしちゃったんだけどね。少し前に取り戻したんだ」


「あ! というかレオン様、どうしてこの時間にユウ様と一緒にこの家にいるのですか!? そもそも私達安易に喋ってしまっては……」


「あぁ、憑魔ドゥルジは取れたからもう気兼ねなく話して大丈夫だ。隠蔽工作する必要ねえよ」


「そ、そうなのですか…!? それにユウ様、全身傷だらけですし顔もなんだかお疲れの様子ですね? 大丈夫ですか?」


「あぁ、なんてことないよ」


「もーオルト嘘ばっかり! 久しぶりの再会でカッコつけたい気持ちは分かるけど、結構フラフラでしょ? ほら、無理しないで座って」


「う……はい」


 私に言われて苦笑しながらソファに戻るオルト。動き方がぎこちない。やはり無理をしているのだ。そりゃ、あれだけ大怪我した後大して休んでもいないので当然だろう。


「へぇ、ユウは御嬢さんの尻に敷かれてんのか」


「ユウ様、まさかもうその様な人を見つけられていたとは……なんとも複雑な気分です。尻に敷かれるのはお父上にソックリですね」


「「は!?」」


 私とオルトが同時に顔を赤くしながら反応する。すると、レオンさんとジゼルさんが吹き出した。

 あぁ、何だか恥ずかしい。


「くはは、いや何でもねえよ。それより話の続きをしようか」


「話、ですかレオン様?」


「今、ユウがユニトリクを出た後ローウェンスに何が起きたのか話してた。ユウもコンクエスタンスのこと色々知ってるっぽいから、情報交換してたんだよ」


 レオンさんとジゼルさんが椅子に座る。話し合いの再開だ。


「じゃあレオンにコンクエスタンスの情報を教えてたのはジゼル?」


「はい。私は十年前、仮面の男に襲われて手足を失いながらも幸運にも生き残りました。アレージュという小さな村で義肢を付けてもらってリハビリした後、ユウ様達を襲った輩の正体を突き止めるためにフェラーレルに戻ってきたのです。レオン様は憑魔ドゥルジを憑けられて自由に動くことができなかったので、私が地道に調べたことを暗号形式で伝えていました」


「俺の目と耳を通して憑魔ドゥルジは監視してるからな。だから言葉や文字で情報を伝えるのはアウトだ。でも憑魔ドゥルジは俺の脳みその中まで読める訳じゃねえ。だから、ぱっと見は何書いてあるか分かんねえ暗号文でジゼルとやり取りしてたんだよ」


憑魔ドゥルジに思考する機能は無いみたいですからね。暗号文はスルーしてもらえました」


「でもジゼルに会うこと自体は通報されなかったのか?」


「それがよ、ジゼルには反応しねえんだ。エルトゥールと親しかったっていってもあくまで一般人で神子一族じゃないからなのか、それとも昔とだいぶ姿が変わっちまってるからなのか」


「顔もこの有様ですからね。お見苦しくて申し訳ないです」


「ジゼル、そんなこと……」


 右頬に手を当てて俯くジゼルさんを見てオルトが苦しそうな表情をする。私も胸が痛い。


「まぁ念のため直接は会わずにここに暗号文置いてってやり取りしてたけどな。で、取り敢えずローウェンス家の今はそんな感じだ。父上と母上は軟禁、ビアンカは監禁、俺は監視、他の人間は仕方なく合併王族として暮らしてる。まぁ俺の監視は解けた訳だが」


「バルストリア家のことは良く分かってないってレオンさっき言ってたけど……ハインツは今どうしてるんだ? 会ってるのか?」


「いや、ごく稀に王城で見かける程度だ。話しかけようとしても避けられる。あいつ、何か雰囲気変わっちまってよ……なんつーか、凄え暗い感じ? まぁ元々明るいタイプじゃなかったけど」


「それって……憑魔ドゥルジが埋め込まれてるんじゃ!?」


「可能性は高いと思います。私はバルストリア家に何度も調査に入りましたが、皆様子がおかしいんですよね。暗いというか、陰鬱というか、虚ろというか……」


「バルストリア家にいるスパイが一族全員に憑魔ドゥルジを憑けたのかもしれないな……」


「一族全員にって……だとしたら酷いわ……」


「コンクエスタンスはバルストリア家を乗っ取って、ローウェンス家をいいなりにして、神子信仰の無い新しい王制度を作って……一体その先に何を見据えているのでしょうね」


 琴音が難しい顔をしながら言う。セファンは話の理解を放棄したのかサンダーをずっと撫で続けていた。


「それは分かんねえよ。世界征服でもすんのかね」


 するとその発言にセファンが反応して顔を上げた。興味ありげにレオンさんを見ている。

 そう言えば、以前セファンもコンクエスタンスの目的について同じ様なことを言っていた気がする。……この二人、発想が似ているのかもしれない。ちなみにセファン以外は無反応で、レオンさんの周りに若干寒い風が吹いているように見える。


「……あ、そう言えばオルトと琴音はそのスパイが誰なのか調べるために竜の鉤爪のアジトに行ってたのよね? 証拠は見つかった?」


「え、何ユウそれでその大怪我なのか? 二人でアジトに乗り込むとか馬鹿なのか?」


「はは、まぁ馬鹿かもしれないね」


「ちゃんと作戦立てして行ったので馬鹿な突撃ではありませんよ」


「ほう、そうかい」


「ユウ様、何て危険なことを……」


「それ言うならジゼルだって危険なことしまくりだろ? バルストリアに何度も侵入したってさっき言ってたじゃないか。易々と侵入できるところじゃないよね?」


「私は大丈夫なんです! それよりもユウ様は無茶し過ぎです! 昔からそうやって毎度毎度……」


「いやいやジゼルだって無茶してるよ! この国で隠れながらコンクエスタンスのこと一人で調べるなんて、無茶にも程が……」


「あーーもう!! どっちも馬鹿で無茶よ! それより証拠は見つかったの!? オルト、琴音!」


 言い合いが続いたところで私は思わず声をあげてしまった。大声に驚いた皆がキョトンとしながら一斉にこちらを見る。

 ……夜も遅く、早く眠りたい気持ちから叫んでしまったが恥ずかしい。


「……俺も馬鹿に入ってんのかよ」


 レオンさんが指で頬を掻きながら言う。怒っている、というよりは呆れたというか……少し申し訳なさそうな感じだ。


「あ、ご、ごめんなさい……」


「ごめん八雲、俺達が脱線してたね。証拠なんだけど、ちゃんと持ち帰ってきたよ」


「!」


「これです」


 琴音が何かをテーブルの上に差し出した。羊皮紙だ。オルトと琴音以外が前のめりになってその紙を覗き込む。


「よ、読めないわね……なんか記号だらけよ?」


「本当にこれが証拠なのですか?」


「これがエルトゥール一族を屠るためのコンクエスタンスと竜の鉤爪の契約書のはずです。締結者であるスパイの名前も書かれていますよ。暗号化されてますが」


「俺達もまだ中身は解読してない。急いで宿に戻らなきゃいけなかったから、見ている余裕が無かった」


 私には紙の上に妙な記号が踊っているだけに見える。全くもって意味不明だ。これを解読しなければならないのか。これは徹夜作業になりそうだ。

 すると、レオンさんがもの言いたげにオルトを見た。オルトは言いたいことを悟ったかの様に頷き、立ち上がって彼の横に立つ。


「ユウ、これまさか……」


「あぁ、昔ハインツが良く遊びで書いてた暗号だ」


「え!? じゃあこれを書いたのってハインツさんなの……?」


 まさかオルト達の幼馴染のハインツさんがスパイだというのだろうか。いやまさか、親友とその家族を皆殺しにする契約を結ぶだなんて……


「いや、ハインツでは無いと思うよ。筆跡が少し違う気がするからね。ハインツはこの暗号を家族に教わったと言ってたかな」


「だよな。えーと読むぞ? あーこれ何て読むんだったっけな……」


「それはこうで……」


 私達の目の前で解読を進めていくオルトとレオンさん。レオンさんが二人で解読した内容を別の紙に記していく。

 そしてしばらくスラスラと書き進めたところで突然筆が止まり、オルトとレオンさんが目を合わせた。


「どうしたの?」


「……スパイが誰が分かったのですか?」


「「……」」


 沈黙するオルトとレオンさん。二人は驚いた様な、そして悲しげな表情をしている。



 するとオルトが口を開いた。




「神子一族の中に紛れ込んだスパイ……それは、バルストリア家当主のギルベルト・バルストリア。──ハインツのお父さんだ」






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