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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第9章 神子のいる世界
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第154話 その夜、宿にて

 オルトと琴音が宿を出て行った。オルトには遅くなるだろうから寝ててくれ、と言われたが彼らのことが心配でどうも寝付けない。一緒に留守番をしているセファンも同じらしく、私達は気を紛らわせるために氣術のコントロールの練習をすることにした。


「今頃はもうアジトに着いてるかしらね?」


「うーんたぶんな? 二人共歩くのやたら速えし」


「たった二人で竜の鉤爪アジト本部に突入なんて……大丈夫かしら」


「そこは信じるしかねえよ。勝算無しに敵陣に突っ込むような二人じゃねーだろ? 琴音も何か一生懸命色々と準備してたっぽいし」


「そうよね……」


 宿の一室の中に結界を張り、その中で私達は指先に神経を集中させて氣力を練る。すると指の先に水滴が集まり、みるみる膨らんで水の玉ができた。ふよふよと浮いているその水泡の中心に意識を集中させて、その玉の中で水流を発生させる。


「むむむ……!」


 込める氣力を少しずつ増やしていき、水流の勢いを次第に強くしていく。すると、ある強さになったところで水の膜がひしゃげ、次の瞬間弾けて中の水が全て飛び散った。


「うわっ冷たっ」


「ひゃあ! ご、ごめんセファン!」


 せっかくお風呂に入ったというのに、私とセファンの着ている寝巻が思い切り濡れてしまった。


「お、おう……どんまい。オルトみたいに熱風でこれ乾かしてみるか」


 そう言ってセファンは熱風を出そうと掌に集中する。眉間に皺を寄せ、口をへの字に曲げて掌を睨みつけて力んだ。


 ……しかし何も起こらない。


「んーあれ? 出ねえ……こうか?」


 頭をポリポリと掻きながらセファンは手を振る。すると突然掌から炎が立ち上った。勢いよく出た火柱が天井まで上る。


「うわわわ!!」


 驚いてすぐに術を止めるセファン。結界を予め張っておいたお陰で部屋に特に損害は無かった。


「いけねえ失敗失敗……。これでどーだ!」


 再びセファンが氣力を練る。すると今度は冷風が発生した。部屋の中を冷たい風が吹き荒れる。


「ひゃああ! せ、セファン寒いわ!!」


 塗れた体に冷風が当たって非常に寒い。風邪を引きそうだ。


「わわ、ごめん!!」


 セファンは術をすぐに止めた。そしてくしゃみをする。


「このままじゃ私達風邪引いちゃうわね。早く乾かさないと」


 私はそう言いながら熱風を出そうと氣力を練る。熱風を出すには炎と風の氣術を複合して発動しなければならない。オルトはいとも簡単そうに行っているが、何気にテクニックが必要な技なのだ。

 私が術を発動しようとすると大概は氣力過剰で暴発するので、ここはかなり出力を抑えて氣力を体に巡らせる。……すると、生暖かいそよ風が吹いた。


「「……」」


 冷たくは無いが温かくも無い風。常温に近いだろうか。これでは服が乾かない。


「……着替えた方が速そうね」


「そうだな」




 私達は予備の寝巻に着替えた。


「はぁ、やっぱオルトは凄いわね。全然あの域まで到達できる気がしないもの」


「まぁでも八雲は氣力量多いから、頑張って練習続ければあれくらいまでいけるんじゃねーの?」


「どうかしら。……私、こういうのの才能ないかも」


「おい、どーした八雲?」


 私は俯く。セファンが心配そうに覗き込んできた。


「うーん実はね、オルトに言われたの。私は性格が優し過ぎて、たぶんそれが術の発動に反映されて攻撃用の術が上手く出ないんだって。日常で使う術はコントロールさえちゃんとできれば別に問題ないんだけど、敵を倒すための術だと無意識に手加減しちゃってちゃんと発動できないらしいの。まぁ今は日常用の術すらまともに制御できてないんだけど」


「へぇ……」


 オルトの言葉を噛み締める。自分が優し過ぎるとは思っていないが、確かに敵と遭遇しても心のどこかで相手を傷つけることを躊躇っていたかもしれない。

 しかしオルトは無理に攻撃用の術を練習する必要は無いし、優しいのは長所だからわざわざ戦うために心を鬼にしなくていい、と言ってくれた。


「だから戦闘用に氣術を練習するのは諦めて、得意な術の方をもうちょっと練習しようかしら」


「治癒術の練習?」


「ううん、結界の方よ。最近結界壊されること多いのよね」


「まぁ相手がとんでもねーのばっかりだからな」


「確かに敵が強いっていうのもあるんだけど、でも私が里で神子をしていた時は強い敵が来ても全然壊されなかったもの。だから術の精度に問題があるんだわ」


「へーえ?」


 上依かみよりの里にいた時は常時里全体に強力な結界を張っており、敵の攻撃を通さないのは勿論、悪意を持って近づこうとする者を自動的に感知して里内に入れない様にしていた。

 今は常時結界を張っていないから、戦闘時に出す結界に注ぎ込める氣力量は里にいた頃より多いはずである。なのに何度も壊されてしまっているのには敵が強い以外にも理由がある。


「オルトが言うには、座標と大きさが上手くイメージできてないのが原因じゃないかって」


「ざ、ざひょー?」


「なんかね、結界を出す位置とその大きさ。それを戦闘中にしっかりイメージしながら氣術を練って、そのイメージ通りに結界を出すっていうのが私上手くできてないらしいのよ」


 里の大きさ、建物の並び、畑の位置、道の配置、そしてそこに住まう人々。散々屋敷を抜け出して散策した私は上依の里のことを熟知していた。そのためどの位置に結界の境界線を置けば良いのか、またどの部分の結界を厚くした方が良いのかなどがしっかりとイメージできていた。だからこそ、完璧な結界を作り出すことができていたのだ。

 しかし私が戦闘で出している結界は『なんとなく』のイメージで作られているため脆い。更に言えば走ったりしながら出すことが多いため、術に集中しきれていないのも原因のひとつである。


「だから動きながらでもパパっと強い結界を作る練習」


「……うん、何かよく分かんねーけど頑張れ。俺も頑張る」


「ありがと。というかセファンかなり上達したと思うわよ? まぁ熱風みたいな複合氣術はまだ全然だけど」


「おう! そりゃ毎日めっちゃ練習してるからな! 早朝鍛錬の後の隙間時間とかもオルトに付き合ってもらったりしてるし」


「え、そんなことしてるの!?」


 私とセファンがオルト先生のもと氣術の練習をしているのは夜。私がそれ以外で練習するのは暇でかつ気が向いた時くらいだ。

 セファンに抜け駆けされた様な気分になって悔しい。いやまぁもっと積極的に練習しようとしなかった私が悪いのだが。


「ま、俺は早く強くなりてーからな。そのうちオルトを超えるかもしれねーぜ?」


「ふふ、それは楽しみね」


「おーよ見とけ! で、惚れてくれちゃっても構わないんだぜ!?」


「ごめんなさい、それは遠慮しておくわ」


「撃沈!!」


 フラれてベッドにダイブするセファン。葉月とサンダーが楽しそうに彼に駆け寄った。


 ──するとその時、葉月とサンダーが何かに反応して耳を立てながら窓の外を見る。顔を上げたセファンも真剣な表情に変わった。


「ど、どうしたの皆……?」


「グルルル」


「……だよなサンダー。これ、マジでやべーかも」


「?」


 ベッドから飛び降りたセファンは窓の外を覗き込む。葉月とサンダーは唸り声を上げながら外を睨みつけていた。外は真っ暗で私には何も見えないが、皆の様子から恐らく危険な敵が来るのだろう。


「八雲、逃げよう。すげー殺気飛ばされてる」


「う、うん……! コンクエスタンス? それとも竜の鉤爪かしら……」


「分かんねーけど、超絶ヤバイ奴ってのは分かる。と、取り敢えずすぐここから離れねーと……」


 セファンの額には冷や汗が滲んでいた。葉月とサンダーの警戒具合も異常だ。鼻息もかなり荒くなっている。相当危険な敵らしい。

 私達は荷物を持ってすぐ部屋から出ようとする。ひとまずここから離れて何とかしてオルト達に危機を知らせよう。


 しかし、セファンが取手に手をかけたその時──先程まで覗いていた窓、そして氣術練習用に張っていた結界が同時に割れた。


「「!!」」


 結界は消失し、外側から割られたガラスの破片が室内に飛び散る。セファンが私に被さって鋭いガラス片の雨から私を守ってくれた。


「こんばんはぁ……ん? 部屋本当にここで合ってるのかい?」


「あぁ、その下にいる桃色髪がターゲットや」


 窓から二人の長身の男が飛び込んでくる。手前にいるのは大きな黒い鎌を肩に乗せている橙髪の美青年。その後ろにいるのは筋肉質の仮面を付けた男で──手には鉤爪が付いている。

 ……まさか、この男は。


「ふむふむ。でもエルトゥールはどこだろうね? 一緒にいるはずなんだろう? まさかそこの少年じゃあるまいね?」


「ちゃうわ。見て分からんのか」


「うーむ、じゃあどこにいるのかな? ボスが取り逃がしたエルトゥールがその娘の護衛だっていうから是非会ってみたくてこうして来たというのにねっ。まさか我々に怖気づいて逃げ出したんじゃあるまいねっ」


 キョロキョロと部屋内を見回しながら橙男が言う。仮面の男の表情は読み取れないが、こちらをずっと睨みつけている様に見えた。


「てめえら……竜の鉤爪か?」


 セファンがガラス片を払いながら立ち上がり、私の前に立ちはだかった。葉月とサンダーがさらにその前に立って唸る。すると男二人はこちらを向き、ふう、と息をついた。




「──うむ、いかにも。我々は竜の鉤爪の最高幹部職の二人だね」



 美丈夫の橙髪が、そう言い放った。




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