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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第2章 竜の鉤爪〜target〜
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第15話 疾風のオカマ

 リーダー格の男の首から血が大量に吹き出す。力を失ったその体は地面に叩きつけられた。オカマ口調の男は長剣についた血を振り払う。


「あなた、迷惑かけたわねぇ? 本当なら私が全部処理しなきゃいけなかったのにぃ。私は竜の鉤爪のヨーテルよぉ。以後お見知り置きをん」


「……そりゃどーも」


 はぁ、竜の鉤爪ご本人登場か……最悪だ。今の動きは氣術だろうか。だとしたら厄介だ。幸い、こちらにはまだ殺気を向けられていない。敵と見なされる前にさっさと切り上げ……


「オルト? 終わったの……きゃああぁ!!」


 なんとも悪いタイミングで八雲が家から出てきた。おそらく静かになったため戦闘が終わったのか確認に来たのだろう。男の死体を見て悲鳴を上げる。


「バカ! 隠れてろ!!」


「おや? そこの娘……淡いピンクの髪に妙な髪飾り。も、し、か、し、て治癒能力の少女かしらん?」


 バレた、最悪だ。


「ち! 八雲早く家に入れ!!」


「偶然見つけちゃうなんてラッキー。ウチのボスが欲しがってるのよぉー」


 訳が分からず立ちすくむ八雲に瞬時に飛びかかるヨーテル。マズイ。助けようにもここからでは間に合わない。

 しかしヨーテルの手が八雲に届くその直前、葉月が八雲を引っ張り逃れさせた。


「きゃあ!」


「葉月ナイス!!」


 すかさず俺はヨーテルを斬りつける。ヨーテルも長剣で応戦してきた。


「葉月、八雲を結界の中へ!」


「キュウ!」


 葉月が八雲を家の中へ引き込む。結界が張ってある家の中なら安全だ。


「あら惜しかったわぁ、あと少しだったのにぃ」


 り合っていた剣同士を離し、俺達はお互いに間合いを取る。俺を見てヨーテルがニヤリと笑った。


「あの子がいるって事は……あなたがボディーガードの金髪ねぇ?」


「全く……情報回るの早いなぁ」


「本当は私の担当じゃないんだけど……見つけたら狩って良いことになってるのよぉ」


 ヨーテルはクネクネと体を動かしながら話す。気持ち悪い。


「だからまずはあなたを切り刻んであげるっ。なんてったって私のタイプだしぃ」


「うおぅマジで勘弁してくれ……」


 ヨーテルのウィンクに寒気が走る。色んな意味でこいつはヤバい。さっさと倒そう。


「あら、つれないわねぇっ!?」


 ヨーテルが高速で斬りにくる。俺は感覚を研ぎ澄ませ、剣を受け止めた。高い鋼音が夜の宿場町に鳴り響く。

 そして俺はすかさず剣をいなして反撃する。しかしヨーテルに斬撃は当たらない。お互いに一歩も引かず剣を打ち合う。


「あなた、強いわねぇ。ますますそそられるわぁ」


「……」


 おい、やめろ。全身に妙な悪寒を感じる。鳥肌が立つ感覚がした。

 本来ならもっと攻めた攻撃もできるが、相手は氣術使いだ。どんな氣術かも分からないため、慎重に確実に攻撃するとしよう。


 俺はフェイントをかけてヨーテルの懐を狙う。しかしすんでのところで避けられて服だけが斬れた。ヨーテルはカウンターを繰り出す。それをギリギリで躱した。金色の髪の毛が少し斬れる。

 お互いの剣撃がしばらく拮抗する中、ヨーテルが回避の際に体勢を少し崩した。俺はそれを見逃さずに胸から腹にかけて斬る。とっさに逃げられたため傷は浅かったが、ヨーテルの傷口からは血が流れ出ていた。


「ふふ、こんなに骨のある獲物は久しぶりよぉ。楽しませてくれるじゃない。お礼に、私の能力見せてア・ゲ・ル」


 そう言ってヨーテルは歪に笑った。次の瞬間、周囲に風が吹き荒れる。ヨーテルの真上に鋭利な風の刃物が現れた。


「また物騒なもんが出てきたね?」


「食らいなさい」


 ヨーテルが長剣を振ると同時に風の刃が向かってきた。刃を躱すと地面に刺さって消滅する。地面がかなり抉れていた。結構な威力らしい。


「避けて正解。じゃあこれはどうかしらん?」


 風の刃が十本ほど出てきた。これもまたヨーテルが長剣を振ると時間差で次々に飛んでくる。俺はそれをステップや回転で避けるが、最後の一本は剣で受け止めた。すると、風の刃は真っ二つに斬れるがそのまま俺の両腕を斬りつける。


「ツっ!!」


「そう、その刃は風なんだもの。斬ったとこで意味無いわよぉ?」


 ヨーテルは得意げに髪をかき上げながら言う。自分の腕を見ると、斬られた箇所から血がだらだらと流れていた。なるほど、こいつは風の氣術使い。さっきの高速移動は追い風を利用して移動してたって訳か。

 ……さて、どうやって攻略しようか。


「あなたは氣術使えないみたいねぇ? ちょっとフェアじゃないけど許してねぇ」


 ヨーテルは次々と風の刃を繰り出し、更に長剣で斬りかかってくる。ジャンプし、体を捻り、屈んで風の刃を一つ一つ躱し、剣撃は迎え撃つ。


「あら凄い。まるで曲芸ねぇ」


「どーも」


 全ての攻撃を避け、こちらも斬りつける。ヨーテルが長剣で応じ、さらに風の刃を出そうとした。しかしその一瞬の隙をついて俺は蹴りを入れる。腹部を蹴られてヨーテルが顔を歪めた。


「ごふっ!! ……大したもんだわ。あなた、軍人か傭兵かなにか?」


「残念だけどどちらでもないよ。……さて、大人しく警察に捕まってくれるかな?」


 殺すとまた八雲に何か言われそうなのでできれば穏便に済ましたいのだが……そうはいかないだろうな。


「……舐められたもんねぇ。それじゃあ私の本気、見せてあげるわぁ」


 ヨーテルがそう言った途端、暴風が吹き荒れる。俺はなんとか足を踏ん張るが、さらに突風に吹き付けられて飛ばされた。体が宙を舞う。そして高く舞い上げられた後、通りの奥にある土手に着地した。


「ビックリしたぁ! ……結構飛ばされたな」


「その余裕な態度、腹が立つわねぇ」


 すぐにヨーテルがこちらに追いついてきた。彼は長剣の切っ先をこちらに向ける。


「さっさと片付けてあげるわぁ」


 ヨーテルの周りに風が吹き、長剣が風を纏った。それを見て俺は驚く。

 こいつ、剣に氣術を纏わせる事ができるのか? その能力は俺の専売特許のハズなんだが……いや、違うな。長剣が軋んでいる。おそらく無理矢理剣に風を纏わり付かせているんだろう。あれではすぐに剣が朽ちるぞ。


「ともあれ、さすがに氣術無しじゃキツイか……?」


 するとヨーテルが猛スピードで突っ込んできた。攻撃を見切って長剣をいなそうとしたその瞬間、纏った風が俺の剣の軌道を逸らす。ヤバい、斬られる! そう思い咄嗟に後方へ飛んだ。

 お陰で長剣は当たらなかったが、纏った風も刃になっているらしく顔や手に切り傷がいくつかできた。近づいて風に吹かれるだけで切り刻まれるのか、厄介だな。


「ふふ、覚悟なさあぃ」


 ヨーデルは再び風の刃を出し、また高速で斬りにくる。応戦しようにも、風で剣撃を逸らされるためひたすら避けるしかない。長剣を避ける度に風に切られ、傷がどんどん増えていく。


「いつまで持つかしらん?」


「……仕方無いなぁ」


 このままではラチがあかない。あまりやりたくは無いが、ほんの一瞬だけ氣術を使おう。気付かれなかったらラッキーってことで。

 俺は剣に集中する。ヨーテルが攻撃を仕掛けてくるタイミングに合わせて、一瞬だけ風の氣術を纏わせた。その刹那、俺の目があかく染まる。

 次の瞬間ヨーテルの剣撃を迎え撃ち、彼の風を切り裂きながら長剣を真っ二つに折った。更にその斬撃でヨーテルの体が斬られる。


「な……んですって……」


 攻撃は成功だ。致命傷を負い吐血するヨーテルがよろめく。息を切らしながら驚いた目でこちらを見た。


「あんた、風の氣術が使えたのね……隠してたなんてずるいわぁ」


「風だけじゃなくて何属性か使えるんだけどね」


「しかも……今目が紅くなった気がしたわぁ。まさか、あんた……御尋ね者のエルトゥール?」


「……うーんやっぱバレたか。残念だなぁ、本当は殺したくなんて無いんだけど」


「はっ、甘いわねぇ」


 もはや反撃する力の無いヨーテルに近づく。正体がバレてしまった以上、彼は生かしてはおけない。もし逃して情報が広まってしまうと、非常にマズイことになるからだ。

 ……ごめん、八雲。そう心の中で言い、俺は剣を強く握る。そして、ヨーテルの胸に剣を刺した。更に血を吐きながら白目を剥くヨーテル。

 俺は剣を引き抜いた。力を失ったヨーテルを蹴り飛ばす。彼の体は土手を転がり、川の中へ落ちた。


「……すまないな」


 剣についた血を振り払い、溜息をつく。仕方が無かったんだ、そう自分に言い聞かせる。

 俺は少しの間、夜風に当たりながら川を眺めていた。



 そして、心を落ち着けた後ヨンの家へ戻った。

 俺は家に入った途端に全員の視線を浴びる。ヨン家族が安堵した表情になった。八雲が驚いた表情で駆け寄ってくる。


「お待たせ。終わったよ」


「オルト!? いっぱい怪我してるじゃない! 大丈夫?」


「大した怪我じゃないよ。それより皆は大丈夫だった?」


 ヨン達の方を見る。家族三人で抱き合っており、怪我は無さそうだ。落ち着いている。


「アタシらは何ともない。その……ありがとな」


「オルトさん、本当にありがとうございます……!」


 母親が泣き崩れる。それにつられてヨンも泣き出した。


「あとは警察を呼んで、家の前に転がっている男どもを連行してもらってください。借金の契約書とか色々見せれば対応してくれると思います」


「は、はい」


「それじゃあ、これ一着頂いていいですか?」


 俺は近くにあった手頃な商品のシャツを取る。


「はい、というかそれだけじゃ全然足りませんよ。もっとお礼をさせていただきたいのですが」


「いいえ、結構ですよ。それじゃ。八雲、行こう」


「えぇ。じゃあね!」


「え、で、でも……」


 八雲は結界を解いた。ヨンの父親と母親が俺達を引き止めようとするが、丁重にお断りして足早にヨンの家を後にする。ヨン家族はポカンとこちらを見ていた。

 帰り道、八雲が俺の顔を覗き込んでくる。葉月は八雲の腕の中で寝ていた。


「オルト、一体何があったの? さっき見たとき借金取りの人が……死んでて、怪しい別の男が襲ってきたわよね?」


「襲ってきたのは本物の竜の鉤爪だよ。ヨンの借金取り達は偽物で、竜の鉤爪の名を語ったのを罰に殺された」


「え……そ、そうなの。それで本物は……倒したの?」


「あぁ、もう大丈夫だよ」


 八雲は俺が殺したかどうかは聞いてこなかった。何となく察したのだろうか。八雲は何か考えるように夜空を見上げていた。



 こうして俺たちは宿に戻り、休息を取った。





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