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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第9章 神子のいる世界
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第151話 第三位の相棒

 長い通路をひたすら走り、向かってくる竜の鉤爪を次々と倒して行く。何度か角を曲がり、階段を上り、そして下りてはまた上り、敵を薙ぎ倒していく。一体どれほどの人数を倒しただろうか。取り敢えず三桁は余裕でいっていると思う。


「はぁ、はぁ……ああもう無駄に広いアジトだな!」


 アジト本部というだけあって、広い上に入り組んだ構造になっている。普段利用する者からしたら非常に面倒くさい構造だと思うが、これも敵襲に備えているためだろう。

 前方から放たれた火の玉を斬り裂き、術の主を手刀で気絶させながら駆け抜ける。そしてまた投石器に着火した。


「よし、これで最後だな……」


 琴音が用意した最後の投石器から爆弾が放られ、建物のどこかに着弾した。するとこれまでで最大規模の大きな爆発音が起こる。


「うおっ。これ大丈夫なのか……?」


 下階で爆発が起こったらしく、床が大きく振動し建物が軋む音がした。地下ではまだ琴音が交戦中の可能性がある。爆発の位置もタイミングも琴音が指示したものだから爆発に巻き込まれたりはしていないはずだが、やはり心配だ。琴音と別れてからそれなりに時間も経っている。


「っとまぁ、人の心配してる場合でもないか!」


 後方から斬りかかってきた男を肘打ちで昏倒させた。続いて仕掛けてくる男の剣を弾き飛ばし、鳩尾に蹴りを入れて倒す。更に次の相手には顔面に拳を叩き付けてやった。


「よしっ」


 俺は再び走り出す。角を曲がり、窓の外、小さな中庭を挟んだ向こう側に目標の部屋が見えた。すると前方からまた何人もの雑魚メンバーが叫びながら走ってくる。


「ごめん、邪魔しないでもらえるかな」


 剣を一振り。その途端暴風が巻き起こり、前方の男達目掛けて吹き荒れる。男達はその暴力的な風に軽々と体を持ち上げられ、そして後方の壁に勢いよく叩き付けられた。体を強く打って全員が気絶する。


「そしてこれで……任務完了!!」


 俺は宝剣を抜き、窓の向こうの部屋を睨みつけた。そして氣力を練る。


「はあぁっ」


 宝剣を振り、猛火を放射した。炎は瞬時に壁を溶かし、中庭を抜けて向こう側の部屋の壁に当たる。更にその壁も易々と溶かした炎は部屋の中を通って奥の壁も突き抜けた。部屋の奥の穴から外の景色が覗いているのが確認できる。


「よし、これで俺は撤退!」


 目標物の回収は任せて、俺は敵を引きつけながら逃げる算段になっている。あとはアジト外で琴音と合流するだけだ。


「取り敢えず今のところナンバーワン、ツーには会わなくて済んでるけど……ちょっと氣力使い過ぎたから出会っちゃったらヤバいな」


 藁人形は先ほど発射したもの以外は全て壊されてしまっている。まだ竜の鉤爪幹部がアジト内でうごめいている証拠だ。グスタフ程度の者なら問題ないが、序列一位と二位がもし現れた場合彼らと戦っている余力が無い。

 ……というか、そもそもアジトに潜入してからかなり時間が経っているというのに、まだそいつらと遭遇しないどころか気配すら感じないのは妙ではないか。そう考えると嫌な予感がした。何だか胸騒ぎがする。


 すると突然、轟音と共に建物が大きく揺れた。下階からの地響きだ。


「──今のって……!」


 建物が崩れる音がした。ここからは少し離れている場所だ。方向的にも距離的にも、琴音と天音が戦っているはずの地下倉庫に近い位置だと思う。まさか先ほどの爆発で一階が破壊され、地下倉庫が埋まるだなんて事態になっていなければ良いが。


「確認に行くべきか……?」


 琴音に言われているのは、あの部屋の壁をぶち抜き次第逃げろということだ。予定通りであれば琴音も今頃は天音を倒して目標物を回収し、逃げる頃合いだが。

 俺は迷う。このままさっさとアジトから脱出するべきか、それとも琴音の元へ走るべきか。

 すると直後、背後に殺気を感じた。


「!!!」


 咄嗟に振り返りながら大きく屈む。頭の上を一本の矢が通った。


「おや、見事な身のこなしですな」


「……それはどーも」


 矢を撃ったと思われる人物がこちらにゆっくりと歩いてきた。年齢は五十代後半くらいだろうか。他の竜の鉤爪メンバーよりもキッチリというか、フォーマルな恰好をしている渋い男性で、手にはボウガンが握られていた。黒い外套を揺らしながら微笑んでいるが、目の奥が全く笑っていない。

 鼓動が早打つ。全身の毛が逆立つ様な感覚が走り、汗が垂れる。こいつは危険な人間だ、と本能が知らせていた。まさかこいつがナンバーツーなのだろうか。


「君はあのエルトゥールだな? アジト内を盛大に引っ掻き回してくれているみたいだが、一体何が目的なのかね?」


「……ちょっと探し物を」


「ほほう。それは一体何ですかな」


「言えない」


「ふむ……」


 男は顎に手を当てながら立ち止まった。そして目を細める。


「わざわざ竜の鉤爪本部に乗り込んでくるんだ。喉から手が出るほど欲しいものなのだろう?」


「……」


「ふふ、エルトゥールの生き残りである君が欲しがるもの……神子一族に関係しているものだろう?」


「!」


「正直者だな。さしあたり、一族が滅んだ原因を探っているといったところか。内通者でも突き止めにきたか?」


「……ということは、やっぱり神子一族の中にスパイがいるんだな」


「ふはは、それは君自信で確かめたまえ」


 不敵な笑みをこぼしながら男がこちらを見据える。すると鋭い殺気が全身を劈いた。


「……あんたは竜の鉤爪幹部か」


「一応そういうことになってるな」


「ナンバーツーか?」


「いやいや、あの席は私には重いよ。……私は第三位、カルヴィンの穴埋めだ」


「!」


 ナンバースリーのカルヴィン。地下武闘会マグナントで戦ったあの男の後釜、ということか。


「君がカルヴィンを殺したんだったな? 元々彼と私はコンビを組んでいてねぇ。よく一緒に戦場に出たもんだ。まぁ腐れ縁というやつさ。彼がコンクエスタンスに入り浸ってこちらに中々来なくなってからは、彼とよく仕事をしていた私が何故か幹部の仕事を代わりにやらされてねぇ。私は幹部職になんて全く興味が無いのに困ったもんだよ。更に彼が死んでからは、完全に私が三位に召し上げられてしまってね。あぁ面倒くさい」


「あんたが……カルヴィンとコンビを組んでいた……!?」


 カルヴィンは十年前、コンクエスタンスの依頼でエルトゥール一族を襲った竜の鉤爪の一人だ。そのカルヴィンとコンビを組んで戦っていたということは……!


「まさか十年前、あんたもあそこにいたのか……?」


「……ふふ、そうだ。エルトゥール一族が一夜にして滅んだあの夜、私もあそこにいた」


「!!!」


「カルヴィンと一緒にまだ子供の君を目撃したよ。ちょうど庭を逃げているところだったか……まぁボスが追いかけていったから私達は追わなかったけどね。でもまさかあのボスが取り逃がすとは思わなかったよ」


「よくも家族を、よくも屋敷の皆を殺してくれたな……!!」


 あの日の情景がまた脳裏に浮かび、怒りがこみ上げてくる。

 しかしここでまた理性を失ってしまってはダメだ。ここに来たのはスパイの証拠の回収で、俺達はなるべく早くここを脱出しなければならない。怒りに任せて戦っている場合ではないのだ。


「おや、てっきり家族の仇だのと叫んで飛びかかってくるかと思ったんだが……冷静だねぇ」


「正直今すぐあんたを消し炭にしたいけど、今はそれどころじゃないんでね」


「ほう。ずいぶん大人になったな。まぁ確かにここで戦うよりは逃げた方が良い選択だろう。だが……私が君を逃すと思うかね?」


「だと有難いね」


 俺は宝剣を握りしめる。男はボウガンをベルトについている金具に引っ掛け、携えていた長剣を抜いた。

 俺達は睨み合う。互いに出方をうかがいながら息を飲んだ瞬間──同時に飛び出した。


 甲高い金属音が響く。宝剣と長剣がぶつかり合い、火花を散らした。少しの間競り合った後、お互い飛びずさる。そしてまた殺気を飛ばし合った後、同じタイミングで斬りかかった。


「はぁっ!」


 剣同士が接触するその瞬間、俺は宝剣から炎を噴射させて男を狙う。ここで時間を食っている暇は無い。相手が相手なので氣力を惜しまず使い、さっさと離れるべきだ。


「ふん!」


 しかしその至近距離からの火炎放射を男はヒラリと躱した。目を細めながら斬りつけてくる。


「不意打ちのつもりだったか? それは残念だったなぁ」


 男は猛攻を仕掛けてくる。俺は長剣を弾き、薙ぎ払い、避け、そしてカウンターを入れる。しかしそれは避けられてしまった。再び長剣が振り下ろされるが、俺は飛び退いて回避する。


「私はあの夜あの場にいたと言ったろう? それはつまり、エルトゥール一族のことをしっかり予習した上で奇襲したということだ。だから君達の戦い方は熟知しているし、対策も当然講じている」


「……?」


 男は長剣を下ろし、そしてこちらを指差した。すると体に違和感が走る。


「ユウフォルトス・E・エルトゥール。あの日取り逃がした君を、今ここで討とう」


「そんなこと……う!?」


 直後、右足に激痛が走った。咄嗟に足に目をやると──自分の握っている宝剣が、太腿に刺さっている。


「こ、れは……!!」


 激痛に悶え、歯を食いしばりながら男を見る。すると彼は長剣をしまい、外套をなびかせながら両手を広げた。




「そう言えば申し遅れたな。私の名はレオナール・ブリアン。君はもう、私の操り人形だ」




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