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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第9章 神子のいる世界
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第150話 序列五位の男

 ラーテルの胸から突き出た太い剣は鮮血に染まっており、彼は何が起きたのか分からずゆっくりとその切っ先へと視線を移した。そして少し遅れて状況を理解した途端、体を貫いていた剣が抜かれる。彼は血を口から噴き出した。


「ぐふっ……!!」


 白目を剥きながら力無く倒れるラーテル。彼の背後に立っていた人物の姿が露わになった。

 長身で筋肉質な体つきに無精髭、スキンヘッド。鋭い眼光を持つその男は剣に着いた血液を振り払いながらこちらを睨んでいた。


「お前、仲間を……」


「ふん、負け犬なんぞこの団にはいらん。用済みはさっさと消すのがオレ様流よ」


「……」


 凄まじい殺気を放ってくる男。こいつも幹部だろう。

 すると、彼のベストの端が焦げているのに目がいった。


「……もしかして、さっき藁人形を壊した犯人かな?」


「む? ……あぁ、さっきの妙な人形のことか。よくもオレ様達のアジトを掻き乱してくれたなぁ」


 男が青筋を立てながら切っ先をこちらに向けた。彼の怒気で周囲の空気がピリピリと張り詰める。


「てめぇが噂のエルトゥールだな? 残念だが、ここでオレ様に会ったのが運の尽きよ」


「その台詞、三下がよく使うやつだよ」


「あぁ!? 馬鹿にすんなよてめぇ!! オレ様は竜の鉤爪の序列五位、グスタフだ!!」


 殺気と威圧感はかなりのものだが、残念なことに発言がいかにも頭が悪そうだ。台無しである。お陰で緊張感が減衰してしまっていた。


「……ん? 五位ってガルシオなんじゃなかったっけ?」


「ハッ。アイツがいなくなったお陰でオレ様が上位五人衆に入れたんだよ。ガルシオぶっ倒したのっててめぇなんだろ? 感謝するぜ」


「どういたしまして」


 なるほど、確かに上位五人の席が空けば組織として誰か別の者を補充するのは当然だ。会話には残念感が漂っているが、グスタフも実力者なのは確かだろう。気配を気づかれることなくラーテルを一撃で仕留めたのだから。


「じゃあ、感謝ついでにここを見逃してもらないかな? まだちょっとやることがあってね。急いでるんだよ」


「ハッ。見逃す訳ねえだろバーカ。ここでてめぇを殺して、更に序列を上げてやるよぉ」


「それは残念。でも殺されるつもりは無いな」


「ふん、強気じゃねえか」


 グスタフの眉がピクリと動く。そして彼は口角を上げた。


「さっさと仕留めてやる!! 覚悟しな!!」


「俺も急いでるから、早急にケリが付くのはありがたいよ!」


 グスタフが大剣を振りかざしてくる。大柄の割に機動性があり、瞬時に間合いが詰まった。俺の頭に大剣が迫る。軌道を見切って飛んで躱した。更にグスタフが追撃してくる。俺は屈んで斬撃を避け、そして隙ができた懐目掛けて剣を振った。


「ふんっ」


 グスタフは素早く飛び退いて俺の攻撃を避けた。見かけによらず素早い。グスタフはどうだ、と言わんばかりの優越顔をして再び斬りこんでくる。俺はそれを弾こうとしたが途中で止め、身を捻って避けた。


「ほう、正解だ」


 空を斬った大剣がそのまま振り切られて壁に当たる。すると、壁が弾け飛んだ。


「うわ、凄い馬鹿力」


「あぁ? 今馬鹿って言ったかてめぇ?」


 今グスタフは氣術を使っていなかったはずだ。それでこの破壊力なのだから、かなり大きな力が大剣にかかっているのだろう。まともに受け止めていては剣と腕が持っていかれるかもしれない。


「そいや、ガルシオもこんな感じの馬鹿力だったな……」


 彼の一撃もかなり重かったのを覚えている。元々力が強い上に重力操作で更に力を上げられたので、攻撃を受け止めた俺の手がかなり痛々しい状態になった。


「ハッ。まぁアイツもオレ様に匹敵するくらいの力持ちだったなぁ。手合せした時はお互い力のゴリ押しで中々勝負がつかなかったぜ」


「へぇ」


 迂闊に斬撃を受け止められないというのは、回避の選択肢が減るのでなかなか厄介だ。それに、今は時間が無いのであまり戦闘で足止めされる訳にはいかない。


「悪いけど、終わらせてもらうよ!」


 グスタフが大剣を構える前に、俺は突っ込む。しかし腹部を狙った攻撃は大剣に弾かれた。グスタフの怪力に弾かれて、剣が大きく後ろに逸らされ剣を握る腕も伸ばされて隙ができる。すかさずグスタフがその隙をついて突きを放ってきた。


「はっ」


 俺は瞬時に体をグスタフの下に滑りこませて回避し、同時に斬りつける。彼の右足に剣が当たった。


「──!?」


 確かに今、剣が右足にヒットした。しかし斬れた感覚は無く、鋼音と共に弾かれている。すると驚く俺の顔目掛けて大剣が振り下ろされた。俺は転がって躱し、すぐに立ち上がってグスタフから距離を取る。


「……服の下に鎧でも着てるのか? それとも……」


「ハッ。斬れなくてビックリしただろ? 残念だが鎧を着てる訳じゃねえよ。もっと厳つくて便利なもんだ」


「……?」


「ほらよ」


 グスタフが右足の裾をまくりあげて先ほど俺が斬ろうとした箇所を見せる。すると、足が灰色の硬い物質に覆われていた。


「それは……」


「ハハッ。驚いて言葉も出ねえだろ? これがオレ様の特殊能力、身体硬化だよ。オレ様の体は全身ダイヤモンド級に硬いぜぇ? 剣の攻撃なんて屁でもねぇ」


「……なるほど」


 そこまで硬いとなると、あまり剣を撃ち続ければ刃が先にダメになりそうだ。かと言って、氣術で戦うにしてもあまりここで氣力を使い過ぎてはいけない。すでに藁人形やら逃走やらでそれなりに氣力を使っているし、もしナンバーワンに遭遇してしまった時のために温存しておかなければならないのだ。

 と、その時琴音の指示を思い出す。


「あ、そろそろだっけ」


 再びアジト外に意識を集中し、投石器に火を付けた。直後、どこかで爆発音が鳴る。

 再び爆発があったことにグスタフは驚いた。


「な、また爆発だと!? エルトゥールはここにいるのになんで……仲間がいるのか!!」


「はは、残念だけど今の爆発を起こした犯人は俺だよ。ってかエルトゥールの能力知らない?」


「あぁ!? 能力!? 知るかんなもん!! てめぇがどんな能力持っていようが、オレ様がここで殺しちまうんだから関係ねぇ!!」


「あ、そう……」


 また三下顔負けの台詞を吐き捨ててこちらを睨みつけるグスタフ。そして、斬りかかってきた。


「うんでもやっぱ……出し惜しみしてる場合じゃないよね」


 俺は大剣を避け、そしてグスタフの右腕を狙う。グスタフは右腕を硬化させて剣を弾いた。それと同時に俺は彼の腹を蹴りつける。腹も硬化されており、蹴った足の方にダメージが跳ね返ってきた。俺はすぐさま飛び退く。グスタフは蹴りを受けても微動だにしていなかった。


「痛って……」


「ハッ。だから硬化してあると言っただろう? 愚か者よ」


「それはどうかな」


 余裕の表情で笑うグスタフを睨みながら、俺は氣力を練った。次の瞬間、グスタフの体に電流が走る。


「ぐおおおおおぉ!!?」


「うん、やっぱ硬化しても人間の体だから電気はしっかり通るみたいだね」


「くっそぉ! てめぇええぇ!!」


 電流を纏いながらグスタフが突っ込んできた。俺は彼の斬撃を躱す。グスタフは大剣を振ると同時に電流を振り切った。


「ぐ……痛かったぞオイ。何のモーションも無しに氣術発動するとか驚いたぜ……」


「うーん、それなりにキツイ電流流したつもりだったんだけど結構余裕だね?」


「ハッ。タフさにかけりゃオレ様を凌ぐ奴なんていねえよ!」


 首をゴキゴキと鳴らしながらグスタフがこちらに殺気を向けてくる。さて、次はどうしようか。


「まぁしかし爆弾と変な火吹き人形のこともあるしなぁ。妙な術使われる前にさっさと殺す!!」


 グスタフが素早く斬りこんできた。俺はギリギリで斬撃を避けるが、その避けた先にゴツイ灰色の拳が待っていた。


「!」


 硬化された拳で殴られれば骨が砕けかねない。俺は思い切り身を反らせて拳を躱す。


「まだまだぁ!!」


 更にグスタフは膝蹴りで追い打ちをかけてきた。俺はその硬い打撃を剣で受け止める。


「くっ!」


 剣を握る手に衝撃が走る。かなり重い一撃だ。何度も受けられるものではない。

 グスタフは打撃で畳み掛けようとしてきたが、すぐに俺は剣の切っ先を彼の顔に向けて走らせた。途端、グスタフが顔色を変えて飛びずさる。


「……分かり易いね。やっぱ目は硬化できないんだ?」


「ハッ。バレちまったか。まぁ仕方ねぇ」


 そう言ってグスタフはまた首を鳴らす。


「だからってそう易々と狙えると思うなよ?」


 グスタフの声のトーンが低くなる。俺は剣を握り直した。

 するとグスタフがすぐそばに落ちていた瓦礫を拾う。そして、それを投げつけてきた。こちらへと飛んでくる瓦礫を避けようと足を動かしたその時、グスタフが飛び出す。


「うおらぁ!」


「!」


 グスタフは俺の目の前に飛んで来ている瓦礫を殴り、破壊した。強く叩きつけられた瓦礫が崩れて鋭利な破片が勢いよく飛び散る。俺は氷の壁を即座に出してガードした。硬い破片が大量に壁にぶつかり、大きな音が鳴る。

 ──するとその時、背後に殺気を感じた。


「らぁ!」


 迫るグスタフの大剣。俺は大きく屈んで躱し、炎を放つ。


「ハッ! 今のはよく避けたなぁ! でもこんな炎なんて効かねえぞ!」


 硬化させた腕で炎を受けながら余裕綽々に叫ぶグスタフ。どうやら硬化させた部分は燃えないらしい。


「……でも、あくまで自身の体の一部の硬化なんだよね?」


「あ?」


 グスタフは俺の言葉の意図が分からず、眉をひそめながら首を傾げる。そして炎を振り払った。


「何が言いたいのか分かんねえよ!」


 グスタフが殴りかかってきた。躱し、次の一手も身を捻って避け、更にくる追撃も飛んで回避する。そして炎を纏わせた剣で反撃した。剣は硬化された体に弾かれる。しかし俺は攻撃の手を緩めず、炎の斬撃を繰り出し続ける。


「おいおい、だから意味ねえって言ってんだろ? 硬化がある限り、どんだけ斬ろうとしても弾かれるだけだぞ」


 グスタフが突き出す拳を避け、炎の斬撃を当てる。弾かれた剣を戻しながら大剣を回避し、更に炎の剣で斬りつける。また弾かれるが、怯まずグスタフの攻撃を躱しながら再度炎の刃を当てた。


「ちっ。しつこいぞ!!」


 グスタフが青筋を立てながら蹴りを入れてきた。俺はバク転しながら躱して距離を取る。


「ったく効かねえ攻撃連打しやがって鬱陶しいんだよ。別に痛くねえけど、なんか鬱陶しい!」


「……」


「なんだよ、今度はだんまりか? まぁいい。とっとと殺し……!?」


 すると、グスタフの表情が暗くなる。急に顔色が悪くなり、辛そうに片膝をついた。


「……てめぇ、何しやがった」


「俺の炎って温度調節できるんだけど、さっきかなり高温にして何回も斬らせてもらったよ。確かに君の体には剣自体は通らないけど、元は人間の体なんだから熱は通るはずだ。そんな高温の炎を受け続けたら、当然体温が上昇し過ぎておかしくなっちゃうよね?」


「……あぁ!? 何言ってんだ別に体熱くなんてねえぞ?」


「うん、異変に気付いて欲しくなかったから急激に上げさせてもらったよ。君の体の体温調節機能も異変感知機能ももう麻痺してる」


「……あぁ!?」


 意味が分からない、と言いたげな表情でグスタフが睨みつけてくる。まぁ特にこれ以上親切に説明してやる義理もないので、何も言わないことにした。

 グスタフは歯を食いしばりながら立ち上がろうとする。しかし、手足が震えており力が入らなくなっていた。


「さすがにその状態じゃ、能力もまともに使えないよね」


「──!!」


 青ざめながらこちらを見るグスタフ。悔しそうに口を歪めた。

 俺は剣を振り上げ、そしてグスタフの首元目掛けて振り下ろす。


「かはっ!!」


 剣の腹を首後ろに殴りつけられて、グスタフは昏倒した。白目を剥いて突っ伏している。

 動かないことを確認し、俺は剣をしまった。そして倒れたグスタフに向かって俺は呟く。



「ガルシオが倒れたから上位五人に入れたってことは、ガルシオより弱いってことだよね? 残念だけど、それじゃガルシオを倒した俺には勝てないよ」



 意識を手放しているグスタフにそう言い残し、俺は再びアジト内を走り出した。





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