表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第9章 神子のいる世界
153/194

第145話 裏切者は誰

 セファン達が確保してくれた宿の一室で俺と八雲は二人の帰りを待っていた。セファンと琴音は町に出て情報収集と買い出し中だ。いつもなら四人で行っていることだが、ここフェラーレルでは俺は極力外出を控えた方がいい。よって、八雲と葉月と一緒に留守番をしているのだった。八雲の膝の上でブラッシングをしてもらっている葉月が気持ちよさそうに喉を鳴らしている。


「葉月、ちょっと大きくなったわね。体も重くなった気がするし」


「キュ!」


「ふふ、いつかきっと白丸みたいに立派な白竜になるのよね。楽しみだわ」


 葉月は嬉しそうに尻尾を振った。微笑ましい光景だ。ちなみに琴音は白丸とは契約を解除したらしい。琴音曰く、白丸は契約の対価がかなり高いため燃費が悪いと言っていた。まぁ琴音は氣力量が少ないからたくさんの契約を結ぶのには向かないだろうし、彼女には風太丸がいる。それに白丸だってようやく安息の時を得たのだ。無理に契約を続ける必要はないだろう。


 俺は立ち上がり、窓の外を見た。凱旋パレードによる先ほどまでの熱気は多少冷めたようだが、それでもまだ賑やかだった。町に活気があるのは良いことだ。故郷が変わらず栄えているのは嬉しく思う。

 しかし素直に喜べないのは、ついさっき男達が話していた内容がずっと引っかかっているからだ。


「……レオンかハインツの家族の中に裏切者がいる。もしかしたらどっちかのおじさんが犯人……? いやでも二人とも父さんとは仲良くしてたからエルトゥールを滅ぼそうだなんて思わないだろうし……だとしたら当主の側付だったエドガーがケビン?」


「────ルト」


「まさかレオンかハインツが犯人なんてことは無いよな。……でも神子選考の直前は全然会えなかったし、会った時も何か変な感じになっちゃってたしなぁ……」


「────ルト!」


「確かに神子選考に直接絡む人間なら俺と家族を狙ってきてもおかしくないんだよな。次に候補として選ばれてたんだから……」


「ねぇ、オルト!」


「わっ!」


 急に八雲の顔が目の前に現れて驚き、後ずさる。八雲は少し顔を赤らめて葉月を抱きながらこちらを見ていた。


「さっきから一人でぶつぶつ何か言ってるけど大丈夫? ちょっと怖いわよ」


「あ、ごめん……」


「……さっき言ってた、オルトの親しかった人達の中の誰かが犯人かもって話で悩んでるのよね?」


「う、うん」


「確かにショックよね。ずっと仲良くしてた人の中の誰かが裏切者だなんて」


「……アレハンドロの話を聞いてからある程度は覚悟してたけどね」


「……もしかしてレオンさんを疑ってるの? さっき暗い顔してたって言ってたし」


「いや、レオンに限ってそんなことは無いはず。確かにあの時は喧嘩別れみたいな感じになってギクシャクしてたけど、当時まだ八歳だったしあいつはそんなことする様な人間じゃない……って思ってる」


「誰か心当たりはあるの?」


「いや、全然分かんない。そんなことする様な人、誰一人いなかったと思うんだけどなぁ……まぁ子供の頃の記憶だから当てにならないかもしれないね」


 俺は八雲の方を向いて笑顔で降参ポーズする。心配そうにしていた彼女の表情が和らいだ。どうやら俺はだいぶ神妙に考え込んでしまっていたらしい。ここで悩んでいても真実は解明できないし、八雲に心配をかけるだけだ。ひとまず考えるのを止めよう。

 すると、扉がノックされた。


「──ただいま戻りました」


「おかえり琴音、セファン!」


「たっだいまー!」


「ワウ!」


 買い出した荷物を抱えたセファンと琴音が部屋に入ってきた。葉月が琴音に駆け寄り、買い出し袋の中から見えている菓子をねだる。


「二人ともおかえり。収穫はあった?」


「やはり先ほどオルトが聞いた様な事態になっているみたいですね。ですが王族についてあまり詳しい情報は得られませんでした。神子制度が廃止されたと言っても、元は神子一族なのでその辺りのガードは堅いのかもしれませんね」


「でもあのレオンさんは騎士団の仕事で結構町中歩くらしくて、あの人だけは割と情報あったぞ? 何か凄腕の剣士だとか騎士団の団長やってるとか。あとは無愛想だけど優しいらしい」


「基本は親切なのですが、急に態度が豹変したりするそうです。あと一族の話になると逃げるようにその場を去ってしまうとか」


「急に豹変? ……何だろうな」


「まさかコンクエスタンス絡みかしら」


「可能性はありますね。先ほどオルトが彼の雰囲気が暗いと言っていたことも気になりますし」


「え、まさかレオンさんがスパイなのか!?」


「……そうじゃないことを祈るよ」


 やはり現段階ではレオンが一番怪しいだろうか。いや、彼ではない。俺はそう信じている。

 俺はふう、と一息吐いた後琴音の横に立った。八雲とセファンが不思議そうにこちらを見る。


「じゃあ早速、神子一族の人間がコンクエスタンスと通じている証拠を掴むために竜の鉤爪のアジトに潜入しよう」


「「えぇ!?」」


「さっき買い出し前に琴音と話してそういうことになった」


「まぁ元々ユニトリクに来た理由はそれですからね」


「ちょ、いきなり!? ってかそれなら俺達別に情報収集しなくて良かったんじゃ!?」


「いや? 俺がさっき聞いた話がガセじゃないか確証が欲しかったし、それに情報が多いに越したことはないからね。レオンの話も聞けて良かったよ」


「い、今から行くの……?」


「いえ、日が暮れてから闇に紛れて潜入します」


「で、八雲とセファンは留守番な」


「「えええ!!?」」


「八雲は竜の鉤爪に狙われてる。わざわざ標的ターゲットをアジトに連れ込むのは危険だし、ユニトリクにあるアジトは竜の鉤爪本部だ。琴音曰く団員の数もランバートの時とは桁違いらしい。俺達だけで守りきれない可能性が高いんだ」


「あそこには竜の鉤爪ナンバーワン、ツー、それに師匠がいます。もし衝突した場合かなり激しい戦いになるでしょうから、ここで身を隠しておいて欲しいのです」


「しょ、衝突って大丈夫なのかよ!? 相手はめちゃくちゃ強いんだろ?」


「はい。見つかれば殺される確率の方が高いです。ですので、なるべく見つからない様細心の注意を払って証拠を見つけ出す算段です」


「うう……そ、そうよね。私が行っても足手まといだものね……」


「いや別に八雲が足手まといって言ってる訳じゃないよ。ただ、四人でアジトに潜入するのはリスクが高い。人数が多いほど見つかりやすくなるからね。……それに」


「……それに?」


「琴音の話からすると竜の鉤爪のナンバーワンは俺の父さんを殺した奴だ。いくら家族を庇って戦ってたからって、エルトゥールの当主を殺せるなんて普通の人間じゃない。そいつが八雲を狙ってきたら……俺は守り切れる自信が無いんだ」


「オルト……」


「それにあいつに会ったら俺は正気でいられないかもしれない。あの時俺から全てを奪った奴だから」


「……分かったわ。でも絶対無理はしないでね」


「ありがとう」


「あと、絶対に生きて帰ってくること!」


「ちょ、八雲あのさ。それ言うとなんか変なフラグ立つからやめよーぜ?」


「ふらぐ?」


「あーまぁいいや。取り敢えず俺はここで八雲をちゃーんと守ってればいいんだろ?」


「あぁ、頼むよセファン」


「重大任務ですよ。任せました」


「おう、どんとこい!!」


「頼もしいわね」


 セファンが胸をたたいてえっへんとドヤ顔する。思わず皆が微笑んだ。


「では、私は準備にかかります」


「準備?」


「向こうには師匠がいますからね。簡単にはアジトに侵入させてくれないと思いますので」


「うわぁ、師弟対決か……」


「対決せずに済むのが一番ですが、恐らく私の思考は師匠に読まれています。夜に潜入することも先読みされている可能性が高いので、こちらもそれなりに準備していかねばなりません。まぁ師匠対策は私に任せて、オルトは夜に備えて休んでいてください」


「あぁ、頼んだ」


 琴音はそう言って部屋を出ていこうとする。すると扉の前で立ち止まり、こちらを向いた。


「あぁそう言えば……町で聞いた現在の国王の名前ですが、ゼルギウスという方らしいですよ」


「「!」」


 俺と八雲は琴音の言葉に驚いて彼女の方を見る。そして、次に八雲は複雑な表情でこちらを見てきた。


「オルト……ゼルギウスさんって?」


 誰なのか、昔仲良くしていた人物なのか、と聞きたげに八雲が俺を見つめる。心配と不安が入り混じった瞳だ。しかし、俺はそのゼルギウスという名前の出現に酷く困惑していた。





「──ゼルギウスって誰だ?」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ