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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第9章 神子のいる世界
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第143話 町へ

 重力に従って体がどんどん闇の奥へと引きずり込まれていく。周りに光源は何もない。あるのは爆発により発生した爆煙の臭い、共に落ちる瓦礫、そして体が落下することによる気持ちの悪い浮遊感だ。八雲とセファンの悲鳴が空間内に木霊している。俺はすぐそばで青ざめている八雲を抱き寄せた。そして近くの小さな瓦礫を掴んで光を灯し、下方に向かって投げる。光る瓦礫は見えるか見えなくなるかくらいの距離で何かに当たり、砕け散った。あの位置が底だ。


「オルトやべーーよおおぉ!! どーにかならないかコレ!?」


「セファン落ち着いて! 何とかするから」


 悲壮感に溢れたセファンの声に答え、俺は地面に向かって掌を向ける。胸の中の八雲はギュッと目を瞑っていた。


「はあっ」


 底と思しき箇所に叩き付けられる少し手前、四人と二匹全員を含む範囲に上昇気流を発生させた。すると気流によって落下速度が緩和され、ゆっくりと落ちる。体勢を整えて降り立つと、足元が水に浸かった。琴音も何とか体勢を立て直して着地したが、セファンは豪快に水の中に突っ伏した。水の中と言っても踝あたりまでの深さのため溺れることはないのだが。


「……ぶええぇっ!!」


「うわっ」


 勢いよくセファンが水から顔を上げた影響で飛沫がこちらまで飛んできた。お姫様抱っこの状態の八雲にかからないように避ける。ちなみに葉月は俺の背中にしがみついており、サンダーはセファンの隣に普通に着地していた。


「せ、セファン大丈夫……? えっと、私達助かったのかしら?」


「さすがにここまでは追ってこないと思うから、ひとまず助かったってところかな」


「いやミンチにならなかったのは良いけどよ……ここどこなんだ? この水は何だ?」


 俺は周りを見回す。先ほどの隠し通路とは違い、定間隔で小さな灯りが付けられていた。俺達が降り立ったのは水の中だが、すぐそばに一段上がって普通に歩ける場所がある。


「これは──水路か」


「水路……ってことはこれ汚い水か!?」


「いや、汚水だったらもっとキツイ臭いがするよ。違うから安心して。たぶんユニトリクと周辺の川を繋いでる水路だね」


 俺は岸に上がり、八雲を下ろした。セファンはホッとした表情をしながら服を絞り、こちらに歩いてくる。琴音も水から上がり、そして苦しそうに片膝を着いた。


「琴音大丈夫か!?」


「……はい、ある程度毒には耐性があるので大丈夫です。今解毒します」


 そう言って琴音は何かを取り出した。薬包紙だ。それに入った白い粉を琴音は飲む。


「解毒って……琴音準備いいなぁ」


 セファンが感心しながら水から上がった。全身びしょ濡れだ。


「私も毒を盛る側の人間ですからね。よく使用する毒の解毒剤は常備してますよ。それに用意が無くても大体の毒は成分を把握してるので解毒剤を作れます」


「マジか……」


 少々息が上がっていた琴音の様子が落ち着いてくる。もう心配なさそうだ。


「それにしてもまさか琴音の師匠が待ち伏せとはな。今回は琴音のお陰で逃げられたけど、俺達が逃走を選ぶことまで読んで爆弾を仕掛けてたとなるとかなり厄介な相手だな」


「逃げれたのは運が本当に良かったからです。私が毒を受けたことで多少なりとも油断してくれたこと、爆発がたまたま足元を抜いて師匠から遠ざけてくれたこと、これらがなければ今頃あの世でしたよ」


「え、琴音わざと毒食らったの!?」


「はい。かすり傷程度で済むかどうかは一か八かの賭けでしたが。彼女はとても強いですし戦術を練るのも得意です。相手の行動を予測してありとあらゆる手を先回りして打ってきます。恐らくあのまま出口から出ていれば、そこに用意された罠で殺されていたでしょう」


「じゃあこうして水路に落ちて生還できたのは本当に運が良かったな」


「はい」


「はぁ、またやべえ敵が出てきたなぁ……へっくしゅ!」


「セファン大丈夫? 早く乾かさないと風邪引いちゃうわね」


「別にこのくらいへーきだぜ」


「取り敢えず服脱いでこのローブ羽織っといて。ここ出るまでには乾かすよ」


「オルトって便利だよなぁホント」


「そりゃどーも」


 俺は町歩き用のローブをセファンに渡し、彼のずぶ濡れの服をもらう。熱風で乾かすのだ。


「琴音は大丈夫? 少し休んだ方がいいかしら?」


「いえ、あまり長居すればまた師匠に襲われるかもしれません。私はもう大丈夫です。進みましょう」


 そう言って琴音は立ち上がる。顔色はだいぶ良くなっていた。


「よし、じゃあ出発しよう。この水路を通っていけばユニトリク内に入れるはずだ」


「結果オーライだな」


「どっちに行けばいいのかしら?」


「たぶん下流に向かっていけば良いと思う」


「では行きましょう」


 俺達は薄暗い水路内を歩き出す。水の流れる音以外は俺達の足音しかしない。町の中に入るまでにどれほどの距離があるかは分からないが、国境に肉薄した位置に来ていたのだからさほどかからないはずだ。出た先が人目につかない場所であることを祈る。


 少し歩くと、水路に鉄格子がはめられ行き止まりになっていた。人が通り抜けられない様になっている。


「げ、通れねーじゃん。どうしよ? 壊す?」


「あんまり騒がしくしたくないね。密入国の証拠を残すのも嫌だし」


「では爆弾は使えませんね」


「もうしばらく爆弾は見たくねえよ……」


「でもどうしましょ? 他に道なんて無いし……」


「ちょっと待ってて」


 俺は宝剣を抜く。そして剣先に集中した。炎の氣術を宿し、宝剣が高温の刃と化す。


「──はっ」


 宝剣を二振り。頑丈な鉄格子が綺麗に切断される。高温の宝剣で斬られた切り口は溶けていた。俺は斬り取られた太い二本の格子を手で支え、人が通れるように静かにどかす。


「よし、ここを通って」


「やっぱ便利だぜオルト」


「ありがとう」


 皆が鉄格子に空いた穴を通った後、俺も格子を持ちながら通る。そして、斬った格子を元の位置にはめ直した。


「よし、これで……」


 俺は切り口に掌を当てる。そして、鉄格子を熱した。熱された切り口が赤くなる。高温で溶けた切り口同士が接合した。


「わ、職人技ね」


「そんな大したものじゃないよ。ただ鉄を少し溶かして元通りにしてるだけ。どうしても違和感が若干残っちゃうけど、やらないよりはだいぶマシって感じかな」


 そう言いながら俺は残りの三か所も接合させていく。これでパッと見は元通りになった。接合部に多少違和感は出るが、この薄暗い水路内ならまず気づかれることは無いだろう。


「よし完了。行こうか」


 俺達は再び歩き出す。セファンの服が乾いたので途中で着替えさせた。俺はローブを羽織る。ユニトリクでは俺は大罪人とされている。エルトゥールの特徴を知る人は他国より遥かに多いし、俺の顔を知っている人だってたくさんいる。アリオスト以上に正体がバレない様気を付けなければならない。


「俺も前の琴音みたいに口布つけようかな」


「あれオススメですよ。顔バレしにくくなりますし、表情も読まれにくくなります。あと付けてると温かいので寒い時は大活躍です」


「へぇ」


「でも表情が分かりにくいと仲間としてはちょっと不便よね」


「ですので今は付けてません」


「お、あれ出口じゃね?」


 俺達の歩く先に明るい光が見えた。あそこが恐らく水路の出口だろう。どこに繋がっているのだろうか。


「よっしゃ俺いっちばーん!」


「え、ちょっとずるいわよ!!」


「おい、こら待て!」


「危険ですよ!」


 セファンと八雲が出口に向かって走り出した。その隣を葉月とサンダーが楽しげに並走する。しかしこのまま出口から走り出るのは危険だ。どこに出るのか分からないし、敵が待ち伏せている可能性もある。俺と琴音は慌ててセファンと八雲を追いかけた。琴音はまだ本調子が出ず速く走ることができない。

 俺は八雲の腕を掴んで走るのを止めさせる。そしてセファンを追いかけ止めたタイミングでちょうど出口に辿り着いた。一気に開けた視界は明るく輝いており、鮮やかな世界の色が目に飛び込んでくる。


「! ここは……」


 眼下には町のメインストリートが広がっていた。様々な店が並ぶ賑やかな大通りに紙吹雪が舞っている。俺達が立っているのはそこから少し離れた位置にある水路の吐き出し口だ。高さは建物二階くらいの位置で、メインストリートを上から見下ろすことができている。水路は目の前で途切れており、流れる水が目の前の川目掛けて落下していた。もしあのまま走り続けていたらこの川まで真っ逆さまだったろう。


「うおぉ、オルトさんきゅ。勢い余って川にダイブするところだったぜ」


「だから待てって言ったろ」


「ごめんごめん」


「わぁ、綺麗で賑やかな町ね。ここがオルトの故郷?」


「あぁ、フェラーレルだ」


「なんかたくさんの人が道沿いに並んでるけど……何かしら?」


「……たぶん国を守る騎士達が遠征からちょうど帰ってきてるんだと思う。その人達のパレードかな」


 大通り沿いに並ぶ多くの人々が同じ方向を待ち遠しそうに見ている。そして道の上を舞うたくさんの紙吹雪。俺はこの光景を見たことがある。伯父さんが凱旋した時だ。

 するとすぐに通りの奥から馬に乗った騎士達がやって来るのが見えた。鎧を纏い、腰に剣を携えた騎士達がゆっくりと歓声を浴びながら近づいてくる。


「おぉ、なんかすげータイミング良く出れたな? ここ特等席じゃね?」


「確かに下で見るよりずっと見やすいわね」


「ちょっと二人とも! あんまり乗り出すと危ないし他の人に見つかるぞ!」


 八雲とセファンが目を輝かせながら出口から身を乗り出す。俺は二人が落ちない様に服を引っ張った。

 誰かにこちらを目撃されない様に警戒しながら眺めていると、この景色がなんだか懐かしくなってきた。あの頃の情景が脳裏に浮かぶ。

 そして俺はおもむろに騎士団の方に目をやった。


 すると、先頭を歩く一人の人物が目に付く。



「……あ」




 ──青い短髪に切れ長の目。見覚えのある男性がそこにいた。






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