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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第2章 竜の鉤爪〜target〜
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第14話 偽物と本物

 少女は鋭い目つきでこちらを睨んでいる。まるで毛を逆立てて威嚇する猫の様だ。


「えっと、ちょっと聞きたいことがあるんだけど良いかな?」


 俺は少女に近づき、しゃがんで目線を合わせた。そして優しい口調で話す。少女は眉をピクリと動かした。


「何だよ!?」


「君の家に竜の刺青を入れた男達が出入りしてるね? 一体何してるのかな?」


「なっ!? 何でそれを……。誰か告げ口しやがったのか」


 少女は舌打ちしながら目をそらす。


「あなた、さっきも思ったけどその言葉遣い直した方がいいわよ? 一応女の子なんだし」


 八雲が急に口を挟んできた。よほど気になった様だ。


「黙れババア」


「は、はぁ!!?」


 またババア呼ばわりされて拳を握って震える八雲。俺は怒る八雲を無視して質問を続ける。


「で、何してるのかな?」


「……」


 少女は黙り込んでしまった。何か言えない理由があるのか、それとも単に警戒されているのか。

 すると、家の方から人が出てくる気配がした。葉月もピクっと動いて俺と同じ方向に目線を送る。見つめる先、家の裏から陰気な男三人が出てきた。パッとしない見た目の、いかにもな小悪党感が出ている輩だ。腕、首元、足にそれぞれ竜の刺青が入っている。男達は出てくるなり少女を睨みつけた。


「嬢ちゃん。告げ口はいけねえなぁ」


「ち、違っ……! アタシは何も言ってねぇ!!」


「ほう? まぁいい、どっちにしろ今夜ケリがつくから覚悟しとけよ」


「え……!?」


 じゃあな、と言って男三人は去って行く。宣告を受けた少女の顔から血の気がみるみる引いていた。遠くなっていく男達の背中を見ながら、少女はただ呆然と立っている。俺と八雲は顔を見合わせた。

 すると、家の中からやつれた夫婦が出てきた。恐らく少女の両親だろう。


「ヨン、帰ってたの? その人達はどなた?」


「母さん……今、あいつらが今夜ケリがつくって言ってた。どういうこと?」


「! そ、それは……」


 少女──ヨンの言葉を聞いて母親の表情が暗くなった。父親も気まずそうな顔をしている。

 俺は立ち上がり、夫婦に対してお辞儀をした。夫婦は少しこちらを警戒しながらお辞儀を返す。


「ちょっと事情を聞かせてもらってもいいですか? 俺はオルト、彼女は八雲と言います。先程娘さんに財布を盗られかけました」


「なっ!? ヨン、あなたまたやったの!? 本当に申し訳ございません! どうお詫びしたらいいか……」


「あーいえ、未遂なのでお詫びとかはいいんですけど、さっきの男達についてちょっと教えてもらえませんか?」


「え……?」


 夫婦は互いに顔を見合わせた。そして俺と八雲の顔を見ながら少し悩んだ後、父親が話し出す。


「……あの人達は借金の取り立てに来ていたんです。お恥ずかしい話、うちの店は経営がうまくいってなくてね。お金を借りたんですが、悪徳業者だったみたいで完済どころかどんどん借金が膨れ上がってしまって……。今は一ヶ月の返済ノルマも返せない状態なんですよ」


 父親は少し気まずそうに話してくれた。母親は暗い表情で俯く。


「それで、今夜までに何とかしないと手荒な手段に踏み切るとでも言われたんですか?」


「……はい」


 母親が悲痛な表情を浮かべて答える。ヨンも酷く辛そうな顔をしており、手は震えていた。


「そんな……母さん、どうすんだよ!?」


「私達にはもうお金が残ってないわ。だから……逃げましょう」


「! ……うぅっ」


 ヨンの目から涙が零れる。母親がヨンを抱きしめた。


「オルト、どうにかできないかしら?」


「うーん……。すみません、最近何か変わった事ってありませんでした? 自分達の事でもいいですし、他の人でも他の町のことでもいいんですが」


「変わった事、ですか?」


「何だよいきなり……」


 ヨンが涙目で睨んでくる。八雲も、え、今聞くの? と言いたげな顔を向けてきた。


「何でもいいから答えて」


 俺は屈んでヨンの顔を見る。そして真剣な顔で、ヨンとしばらく目を合わせた。するとヨンが口を開く。


「……そいや、この前財布を盗ろうと思ってつけていた旅の男が、最近隣町で変な獣魔が出てるって言ってた。急に巨大化したりして人家を襲ってるらしいって」


「そっか。ありがと」


 そう言って俺は微笑み、ヨンの手を握る。俺以外が全員キョトンとした。


「じゃあ情報提供のお礼に、君たちを助けるよ」


「……へ!?」


 ヨンは大きく見開いた目を白黒させる。父親と母親も驚いて口をあんぐりと開けた。


「今夜逃げるつもりなんだろ? たぶん逃げたところで追っ手がかかるから、いつまでも隠れ逃げ続ける生活を送らなければいけなくなるよ。だから、俺がカタをつけるね」


「え、オルトさん何言ってるんですか!? 会っていきなりそんなご迷惑かけられませんよ!」


「そうですよ、むしろ娘がご迷惑おかけしたのに。あなた達を巻き込むなんてできません」


 俺の提案に慌てふためく父親と母親。両掌を前に出して全力で遠慮してくる。


「まぁまぁ、オルトって結構強いのよ? 大丈夫、任せて!」


 八雲がドヤ顔で言った。いや働くのは俺なんだけどな。

 どうやらヨンも父親も母親も俺に助けられることに納得がいってなさそうなので、何か妙案はないかと考える。すると、彼女達の家が目についた。


「……ヨンの家は何の店なの?」


「? 服屋だけど……?」


 俺の質問に怪訝な顔をしながら答えるヨン。


「じゃあ、俺が解決したら一着ちょうだい。だいぶ服がボロボロになってきてて困ってるんだ。それでいいかな?」


「で、でも……!」


「困ってるんでしょ? お互い助け合うって事で」


 形のある物と引き換えなら、納得してもらえるのではないだろうか。

 ヨンとその両親は顔を見合わせ、しばし沈黙した後俺を見た。


「ほ、本当に良いんですか?  ……ありがとうございます!」


 両親が頭を下げる。そしてヨンも涙を拭いて少し安堵の表情を見せた。これで契約成立だ。


「じゃあ、また日が暮れる前に来ますんで!」


 俺はそう言い、八雲と一緒にヨンの家の前をあとにする。両親は俺達が見えなくなるまでずっと頭を下げていた。





 ひとまず宿に戻り、俺は荷物の整理をする。今回の宿は八雲と同室にした。八雲のリクエストだ。前回襲われた経験から、別々で寝るのが怖いそうだ。


「オルト、さっきの奴らってやっぱり竜の鉤爪なのかな?」


「んー、違うんじゃないかな。手口が陰湿だし、刺青もちょっと偽物っぽい気がする」


 確かに彼らの体には刺青が入っていたが、違和感を感じた。それに、昨日の大男と小男とは雰囲気がだいぶ違う。


「オルト……協力してくれてありがとね」


「はは、良いよ。貴重な情報も手に入ったしね」


 そう言うと、八雲は嬉しそうに笑った。あまり面倒ごとには首を突っ込みたく無かったが、まぁ良いだろう。



 ささっと準備を終えると俺達は再びヨンの家に向かう。

 家の中に入れてもらい、そこで男達が来るのを家族と共に待つことにした。日が暮れて辺りが暗くなるにつれて、家族の緊張感は高まっていく。ヨンは恐怖で震えていた。


「大丈夫よ、ヨン。守るから」


 八雲がヨンの背中をさする。葉月も心配そうに見ていた。



「────来た」


 先程の男達の気配だ。ゆっくりとこちらに近づいてくる。気配が多い。仲間を連れて来たのだろう。

 彼らは家の前に立つと、勢いよく戸を開けた。ヨンと母親が小さく悲鳴をあげる。


「おい、来たぞ! 金は用意できたか?」


 首元に刺青のある、剣を持ったリーダーらしい男が高圧的に話す。彼を含め昼間の三人の男が家の中に入って来た。


「すみません、用意できませんでした……」


「あぁ!? どうなるか分かってんだろうなぁ? ……って何だこの男は」


 俺は怒鳴る男の前に立ち塞がった。男の額に青筋が立つ。

 ヨンと両親は俺の後ろでギュッと身を寄せ合っていた。八雲は結界を張る準備をする。それを横目で確認しながら俺は男に笑顔を向けた。


「まぁまぁ、落ち着いて」


「ふざけてんのか? そいやお前、昼間家の前にいた奴だな。痛い目見たくなかったら失せろや」


「あはは」


「あぁ!? 何がおかしい!」


「……ふざけてんのはあんたらの法外な利子じゃないかい?」


「……っざけんな!!」


 直後、激昂した男が剣で斬りかかってくる。俺はそれをヒラリと躱して蹴りを入れた。


「先に仕掛けてきたのはそっちだからね」


 蹴り飛ばした男の体は残りの二人の男を巻き込んで窓を破り、外に放り出された。俺は彼らを追って外に飛び出す。


「窓壊しちゃいましたすいません! 八雲、家に結界を張って!!」


「はい!」


 ヨン家族に謝りつつ外に出ると、放り出された男達が呻き声を上げながら立ち上がるところだった。そして、その後ろを見るとざっと二十名くらいだろうか……棍棒や鎖鎌、棘のついた鞭など様々な武器を持った男達が暗い笑みを浮かべながら待ち構えていた。


「ワォ。ずいぶんと賑やかだね」


「てめぇ……やりやがったな。竜の鉤爪の怖さを味わわせてやる。おい、野郎ども! こいつをぶちのめせ!!」


 リーダー格の男が叫ぶ。その号令と同時に男達が向かってきた。

 俺は剣を抜き、斬りつけにくる剣を弾き、鎖鎌を避け、相手を次々に倒してゆく。数の上では圧倒的にこちらが不利だが、戦闘能力に関しては大したことない奴らが大半だった。腕に絡みついた鞭を断ち切り、棍棒は真っ二つにする。背後の敵には裏拳や後ろ蹴りで対応する。


 俺は全ての攻撃を躱しながら一人一人確実に倒していく。ほんの数分の戦闘で、残りはリーダー格の男一人となった。男は冷や汗を流しながらこちらを睨みつけている。


「あのさ、さっき竜の鉤爪って言ってたけど……あんたら違うよね?」


「な、何言ってんだてめぇ。ここに刺青入ってんのが見えねえのか!?」


「それなんだけどさ、ちょーっと違う気がするんだよね。竜の鉤爪の名前を借りて悪さしてるんじゃない?」


 俺は男に剣の切っ先を向けながら言う。男は何も言わず、目を泳がせていた。



「──ご名答。そいつらはウチの団員じゃないわねぇ」


「「!?」」


 急に知らぬ声が聞こえて俺とリーダー格の男は目を見開く。声の主の方向を見ると、通りの奥の方からヒョロッとした男が歩いてきた。腰には長剣を携えており、顔は目が細くキツネの様だ。腕には……竜の刺青が入っている。


「この辺りで竜の鉤爪の名前を使って色々お遊びをしている連中がいるって聞いてきたんだけど……犯人はあんたらねぇ? ウチの評判のためにもそういう事はしないでもらいたいのよねぇ」


 怪しいオカマ口調でそいつは話す。リーダー格の男を睨みつけた途端、その場の空気が凍りついた。


「な、何なんだお前……!? まさか……本物だってぇのか!?」


 男の口調は震え、尋常じゃない量の冷や汗を流している。オカマ口調の男はそんな様子に構わず近づいてきた。



「ウチの名を汚した事をあの世で後悔しなさい」




 次の瞬間、男の首が飛んだ。


 ほんの一瞬で、オカマ口調の男は十メートル以上移動していた。長剣から血が滴っている。




 ……こいつは本物の竜の鉤爪の一員だ。




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