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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第2章 竜の鉤爪〜target〜
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第13話 スリガール

 トクさんの情報と葉月の土地勘を頼りに俺達は半日ほど歩くと、国境に着く。特に獣魔や竜の鉤爪などには出くわさず、簡単に林を抜けることができていた。目の前には大きな門を有した関所があり、そこには行商人が数人並んでいる。


「わぁ、あそこを抜ければモルゴなのね? 初めて国外に出るわ……!」


 隣の八雲はワクワクしている様だ。目が輝いている。


「あそこで検査を受けて中に入る。質問には俺が全部答えるから、八雲は後ろで見てればいいよ」


 俺達は検査の列に並ぶ。中年の検問官は手際よく並ぶ人々を捌いていた。田舎の関所だからか利用する人が少ないため、すぐに自分達の番になった。


「身分証明書を出して」


 検問官に言われ、自分のものと一継さんから預かった八雲の身分証明書を出す。それを受け取った検問官は証明書を見ながら質問してきた。


「名前と入国目的は?」


「オルト・アルクイン。彼女は神郡八雲です。観光に来ました」


「ティレニア人とインジャ人と竜の子供か。変わった組み合わせだな」


 怪訝な顔で検問官はこちらを見てきた。まぁ、ここら辺では確かに珍しい組み合わせなので妙に思われても無理は無い。


「俺がインジャに留学中に知り合ったんですけど、実は一目惚れしちゃいまして。ちなみに竜は彼女のペットです」


 俺はにこやかに笑みながら八雲の手をギュっと握る。すると、八雲が少しビクッとなった。そして彼女の手が熱くなる。


「一目惚れって……二十歳が十四歳に手を出したのか。犯罪的だな」


「それが聞いてくださいよ、彼女めちゃめちゃ可愛いんですよ!! まだ若いのに気もきくし、笑顔なんてたまらな……」


「あーーノロケんでいい! もう行け!」


 面倒臭い奴らだな、と判断したのか検問官は身分証明書を少々乱暴に俺に戻し、あっちに行けと手振りをした。はーい、と俺は言いながら八雲の手を引いて門を通る。通過成功だ。

 門から少し離れたところで振り向くと、八雲の顔が真っ赤になっていた。


「あの、え、え……!? お、オルト一目惚れって……」


「あ、ごめんね? 色々聞かれると面倒だから適当に答えちゃった。気にしないで良いよ」


 いつもこんな感じで適当に答えているのだが、八雲にとってこういうことは初めてなのだろう。だいぶ驚かせてしまったらしい。俺は八雲の手を離す。すると八雲は胸に手を当てたまま俯いた。


「び、ビックリしたわ。……でも大丈夫」


 複雑な表情で深呼吸する八雲。しっかり息を吐いたら落ち着いた様だ。


「っていうか、名前も年齢も詐称なのね」


「まぁ、色々事情があってね」


 八雲はこちらを見つめる。何か聞きたそうにしていたが、結局何も質問してこなかった。


 関所を抜けてしばらく歩くと小さな宿場町があった。今日はここに泊まることにする。俺達は手頃な宿を確保し、消耗品を手早く調達した。そして、何か情報が聞けそうな場所がないか探す。

 小さな宿場町のため、そこまで賑わってはいない。閑散としている訳ではないが。だがモルゴに入っただけあってインジャには無い食べ物などがお土産屋に並んでおり、八雲が興味津々に見ていた。

 店舗がいくつか並ぶ通りを歩いていると、前から八歳くらいとみられる小汚い格好の少女が歩いてきた。目つきの悪い少女だ。キョロキョロとしながら歩いている。しかし、少女はこちらを見ることはなく八雲の隣を通り過ぎた。


「ちょっと待った」


「……え? どうしたの?」


 俺は少女の腕を掴む。驚いてこちらを見る八雲と少女。そして何事かと言わんばかりの顔で八雲が少女に視線を移し、目を見開いた。その少女の手には八雲の財布が握られていたのだ。


「あ! 泥棒!!」


「おい、離せ!!」


「離すのは君だよ」


 俺はそう言って抵抗する少女から財布を簡単に取り上げた。少女のか弱い力では、俺の拘束する手は全くビクともしない。財布を取り戻された少女は悔しそうにジタバタ暴れる。


「何すんだ!! 誰か! たーすーけーてーー!!」


「ちょっ!? 何言ってるのよあんた!?」


 少女の叫びを聞いて通行人らがこちらを見る。あ、ちょっとこれはマズイか? と思いながら俺は周囲を見回した。八雲も慌てている。傍から見れば、小さな女の子を無理矢理拘束している変質者に思われるかもしれない。

 しかし、通行人達は皆何も言わずに通り過ぎて行った。そんな周りの冷たい反応を突きつけられて呆然とする少女。すると安心した八雲が鼻を鳴らした。


「残念だったわね!」


「うるせぇ! ていうか早く離せよ! もう返したんだからいいだろ!!」


「返したっていうか取り返されたんだけどね」


 女の子なのに酷い言葉遣いだな、と思いながら腕を放してやる。すると少女は勢いよく駆けて行った。脱兎の如く。


「ちょっと! ごめんなさいは!?」


「うっせぇババア!!」


「なっ!? なんですって!!?」


 少女は捨て台詞を吐いて逃げて行ってしまった。ババアと言われた八雲は怒りでフルフルと震えている。まぁ確かにあの子からすれば八雲はだいぶ年上なのでババア……いや、ババアは無いな。


「もう!! 何なのよあの子!?」


「うーん、モルゴに初めて来る余所者を狙って盗みを働いてるみたいだね。慣れた手つきだったし。近所の子かなあ?」


「……あなた達、ごめんなさいね。あの子スリの常習犯なのよ」


 すると側の店の恰幅のいいおばちゃんが話しかけてきた。


「へぇ……有名なんですか?」


「この町の人なら知ってるわ。店の商品とか通行人の財布とかにしょっちゅう手を出してるの。何度捕まって怒られても懲りないから皆呆れちゃって」


 なるほど、さっき少女が叫んだのに誰も反応しなかったのはそういう事か。


「彼女はこの辺りに住んでるんですか?」


「そこを右に曲がってまっすぐ進んだ一番奥の店が家だよ。手癖が悪くてご両親も困ってるみたいでねぇ……最近店の羽振りも良くないらしいし」


「そうなんですか……。ちなみに、最近何か変わった出来事とかありませんでした? あの子以外の事でも何でもいいんですけど」


「変わったこと? うーんそうねぇ……。そう言えば、あの子の家に最近怪しい男どもが出入りしてるって噂があるわよ」


「怪しい男ども?」


「何か武器を下げた陰気臭い男で、腕に竜みたいな刺青があったって話よ。物騒よねぇ」


「!!」


「オルト、それって……」


 八雲が心配そうな顔でこちらを見る。おそらく俺と同じことを考えているのだろう。おばちゃんは不思議そうにこちらを見る。俺は笑顔を返した。


「ありがとうございました。お姉さん」


「あら! いいのよぉーまた何でも聞いてね!」


 上機嫌になったおばちゃんは笑顔で手を振った。俺達は会釈しながら店を後にする。

 すると八雲が小声で話しかけてきた。


「オルト、あの子の家に出入りしてるのって……竜の鉤爪なのかしら」


「どうだろう。竜の鉤爪の手口はもっと荒々しいからね。何かコソコソやる様な連中じゃないはずなんだけど……取り敢えず隠れてた方がいいかもな」


「え? 何言ってるの? 調べましょうよ」


「は? 八雲こそ何言ってんだ? 狙われてるんだぞ?」


「だからって、あの子を放っておけないでしょう? もしかしたら奴らに何かされてるかもしれないのに。オルトが行かないなら私だけでも行くわ! 行こ、葉月!」


「おいおい、ちょっと待てって! ……はぁ、仕方ないなぁ」


 箱入り娘として育ったせいか世の中の穢れを知らず、正義感の強い八雲。正直藪蛇になりそうな事態は避けたいのだが、あの様子だと俺の意見など聞いてくれないだろう。折り紙つきの頑固者を説得するのを諦めて渋々少女の家へ向かう。

 おばちゃんに教えてもらった道順に歩いて行くと、少女の家と思わしき場所が見えてきた。家の前に着いたが、まだ明るいのにシャッターが閉まっている。定休日だろうか。


「ごめんくださーい。誰かいませんかー?」


 取り敢えず声をかけてみるが、返事が無い。もしかしたら留守なのかもしれない。八雲と目を合わせ、今日は諦めて宿へ行こうかとした瞬間、背後から怒鳴り声が聞こえた。


「おい、お前ら何やってんだ!?」



 振り返ると、先程の少女が立っていた。




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