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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第8章 第二の故郷にて
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第119話 墓荒らしを探して

 翌朝。日が昇り始め、森の木々の隙間から太陽の光が差す。木の洞の中にも朝日が入り、寝ている私の瞼を明るく照らした。眩しくて目を覚ます。目をこすりながら起き上がると、隣で寝ていたはずの琴音の姿が無かった。また早朝のトレーニングでもしているのだろうか。セファンとエリザベートは寝息を立てて寝ている。


「ん……ふあぁ」


 私は大きな欠伸をし、立ち上がった。ちゃんとした寝床ではないし睡眠時間も少ないが、体はそれなりに休めた様だ。これも体が旅に慣れたからこそだろう。


 音を立てないように気をつけながら、私は基地の外へと出る。葉月は先に起きて入口付近をウロウロしていたらしく、私を見つけると駆け寄ってきた。葉月の頭を撫でながら辺りを見回す。夜は暗くて見えなかった森の景色が、朝日によって明るく照らし出されていた。小鳥の囀りも聞こえる。


「オルト……?」


 基地の裏側へと回ってみる。すると、そこには大きな錫杖が地面に刺さっていた。リアトリスの墓が元通りにされている。オルトとロベルトの姿はそこには無い。墓暴きの件はどうなったのだろうか。


「葉月、オルトを知らない?」


「キュ!」


 葉月は元気良く返事をして、ついてきて、と言いながら歩き出した。私は葉月のあとをついていく。

 地面に落ちている落ち葉を踏みしめながら少し歩くと、声と足音が聞こえてきた。足音──いや、戦っている音だろうか。


「おらぁ!」


「はっ!」


 オルトとロベルトの声だ。私は駆け足で音の方へと進んでいく。すると、森の中急に開けた箇所に出た。木々が生い茂る中に、ぽっかりと草原がある。そこには無手で戦っている二人、そしてそれを近くで見守る琴音がいた。

 ロベルトが打ち出す拳をオルトは避け、カウンターを繰り出す。ロベルトは身を捻って躱し、回し蹴りをする。オルトはそれを手を使っていなし、足を掴んでロベルトの体勢を崩そうとする。咄嗟にロベルトはバク転して手を振り払い、オルトから離れた。


「……八雲、おはよう」


 二人が距離を取ったところで、オルトがこちらに顔を向けて微笑んだ。汗を流しながらも爽やかだ。

 ロベルトも戦闘体勢を解き、こちらを見る。


「お、おはよう。二人共、何してるの?」


「見りゃ分かんだろ。腕比べだよ」


「まぁ腕比べっていうか……体動かしたくて鍛錬してる感じかな」


「体動かすって……オルト達は休んだの? それにあの後……えっと……」


 私は口ごもってしまう。リアトリスの墓がどうなったのか知りたいが、事が事だけに聞きづらかった。


「…………リアはいなくなってたよ」


「!! そんな……」


 オルトが苦しそうに、事実を言った。ロベルトも険しい顔をして俯く。悪い報告に私の胸も締め付けられた。


「……だからオレら寝付けなくってよ。それで今こうしてる訳だ」


 ロベルトさんがガシガシと頭を掻きながら言う。


「一体誰がそんな酷いことを……」


「……クーデターでリアを殺すよう革命派を焚きつけたのはコンクエスタンスだ。もしかしたらコンクエスタンスはリアの亡骸を欲していたのかもしれない」


「じゃあ、お墓を暴いたのはコンクエスタンス?」


「あくまで予想だけどね。……だから、実験場に行けば何か分かるかもしれない」


「リアを連れ去ったのも、クーデターを起こしてリアを殺したのも絶対に許せねぇ。そのコン何たらは必ず潰してやる」


「うん、俺も絶対に許さない」


 オルトとロベルトは溜息を吐いた後、互いに歩いて近づく。そしてハイタッチした。乾いた音が鳴る。


「……よし。そろそろ皆起きてくる時間だから戻ろうか」


「おう」


 二人は頷き合い、こちらに歩いてくる。私の横を通り過ぎざまオルトもロベルトも私の肩を叩いて基地の方へと戻っていった。私はただポカンと彼らの後ろ姿を眺める。琴音が私の隣に来た。


「……琴音、おはよう。オルト達は大丈夫なのかしら」


「私は日が昇る少し前にここに来ましたが、その時から既に二人はトレーニングしてましたよ。最初は二人共暗い表情でした……ですが、今は心の整理がついた様です」


「そう。なら良いんだけど。でも本当に、お墓を荒らすなんて許せないわね」


「同感です」


「じゃあ、私達も戻りましょ」


「……八雲」


「なあに?」


「大丈夫ですよ、オルトはロベルトに取られたりしませんから」


「ちょ、えぇ!? 琴音何言って……」


「ふふ」


「──んもう! 別にそんなこと思ってないんだから!」


 私は琴音に背を向けて、早足で歩き出す。顔が熱くなった。

 琴音に言われたことは図星だ。オルトはロベルトの前では私に見せない顔をしている。それは子供時代を共に過ごした年月の長さが許す表情で、今の私にはどう頑張っても手に入れられないものだ。それが何だか悔しかった。ロベルトはオルトにとって大切な親友で、しかも男で、そんな人に対してヤキモチを妬くのはおかしな話なのだが。


「ん、よし! 切り替え!」


 私は自分の頬をパシっと叩き、首を振る。気持ちを切り替え、基地へと戻るのだった。





 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎





 基地で支度をした後、私達はコンクエスタンスの実験場があるというアイゼン渓谷へと出発した。ヴォルグランツから馬車で半日ほどで行けるらしいが、私達は今街道から少し離れた森の中を進んでいる。


「なぁエリちゃん、アイゼン渓谷ってまだ着かねーの? 結構歩いたぜ?」


「もーファンファンってばせっかちねー。ちゃんと街道通ってけばそんなに遠くないんだけど、残念ながらオルトくん達は追手がかかってるから堂々と通れないんだもん。こうしてちょいと逸れながら行くしかないわよー」


「ごめんな」


「白丸に乗って行くのも手ですが、空を飛ぶのは目立ちますからね。サンダーに乗るのもアリかと思いますが?」


「人数的にはギリいけるかもだけど……俺の氣力が最後までもつかな」


「は? サンダーってこの犬のことだろ? この人数がどうやって乗るんだよ」


「犬じゃねぇ、獣魔だ」


 ロベルトの質問に答えずにセファンが腕を組みながら考える。サンダーはワウ! と吠えて尻尾を振った。オレなら大丈夫、と言いたげだ。


「エリちゃん、あとどれくらいなのかしら?」


「うーん、地理はオルトくんとロッキーの方が詳しいんじゃないかなー?」


「あー、もう少しペース上げれば日没までには着くんじゃねえか?」


「そうだね。まぁ順調にいけば、の話だけど。というか、エリちゃんは俺達についてきちゃって良かったの? グランが心配したりしないのか?」


「あー大丈夫よん。たぶんオルトくんが脱獄したのは町中に話が広まってるはずだから、エリちゃんがいなくなってたらグランもきっと察するでしょ」


 エリザベートがオルトに向かってウインクする。ならいいけど、と言いながらオルトはウインクを受け流した。


「うし、じゃあ俺ちょっと頑張ってみる! そんな長距離走行したことないけど、サンダーに乗って行こう!」


「ワウ!」


「え、大丈夫なの?」


「分かんねえ! もし途中で氣力尽きたらごめんな!」


「わーい! エリちゃん実は歩くの結構憂鬱だったのよねー。助かるー!」


 エリザベートは私達と違って普段は乗り物を使って移動しており、あまり徒歩移動は好きではないらしい。意気込んだセファンはサンダーを巨大化させた。最近は鎧バージョンで戦うことが多かったので、この姿を見るのは久しぶりだ。急に巨大化したサンダーを見てロベルトが驚いている。

 乗る人数を考えて、いつもより少し大きめサイズになっている気がする。私達はサンダーの上に乗った。六人+一匹なのでだいぶズッシリと重量感があるが、サンダーは大丈夫そうだ。


「うし! しゅっぱーつ!!」


 セファンの掛け声と同時にサンダーが走り出した。私達は落ちないように背中にしっかりとしがみつく。力強い足音を立てながら、サンダーは森の中を駆け抜けて行った。





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