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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第8章 第二の故郷にて
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第117話 合流と情報交換

 街道に打ち上がった小さな光の下、そこに四つの影があった。そのうちの一つの人影がこちらに手を振りながら声を発する。


「やーぁ、無事だったー?」


 夜の物騒な街道に似つかわしくない明るい、というか能天気な声だ。この声を私は知っている。


「え、エリちゃん!?」


「八雲姫たちー、大変だったみたいねぇ?」


「全然戻って来ないからすっげえ心配したぞ!」


「セファン! 無事だったのね!」


 手を振るエリザベートの隣に立っていたのはセファンだった。良かった、多少の傷は負っているが元気そうだ。その更に隣には葉月と白丸が元の姿で尻尾を振っていた。二匹にも擦り傷などが見られるが、大した怪我は無さそうで安心する。


「はぁ、上手く逃げてくれてたみたいだな……」


 隣でオルトと琴音がホッと一息ついた。

 私は気流をセファン達の方へ向かうよう操作し、風太丸を着地させる。

 皆が降りると風太丸は伸びをした。琴音は風太丸の頭を撫でながら餌を差し出す。


「オルトの奪還は成功したみたいだな!」


「ごめん、迷惑かけたね」


「あーオルトくん、迷惑じゃなくて心配かけてごめんでしょ?」


「う……心配かけてごめん。エリちゃんも心配してくれたんだ?」


「そりゃもう! 心配で心配で食事も喉を通らなかったわよー」


「嘘つけ、さっきめちゃ食べてたじゃねーか」


「こらファンファン、それは内緒! てーいっ」


「わ、エリちゃん!?」


「ちょ、何してるのよ!?」


 エリザベートがオルトに思いっきり抱きついた。しかも顔が近い。そしてオルトが満更でもない様子なのが気に入らない。あぁ、モヤモヤする。


「ユーリ、お前どんだけ女はべらしてんだよ……幻滅だわ……」


「は!? 誤解だ!!」


「オルト、私も幻滅しました」


「琴音も悪ノリしない!」


「あはっ八雲姫も琴ちゃんもヤキモチ妬いちゃって可愛いー」


「妬いてないわよ!」

「妬いてません!」


「もういいよそのコント……」


 セファンがげんなりとしながら言った。エリザベートがてへぺろする。


「エリちゃん、ほら離れて」


「あらー残念」


 オルトがエリザベートを引き剥がすと、彼女は口惜しそうに引き下がる。どこまで本気なのだろうか。いや、全部からかってるだけな気がするが。


「で、そちらの目つきの悪ーいお兄さんは誰かしら?」


「初対面で失礼だな。オレだって好きでこの目してる訳じゃねえ」


「エリちゃん、彼はロベルト。前話したアリオストの友人だよ」


「あ、一緒に従騎士やってたっていうー? どーいう経緯で一緒に飛んできたのかしらん?」


「エリちゃんなら大方の予想はついてるんじゃない?」


「あらオルトくんの意地悪。ま、騎士団の詰所でオルトくん奪還に八雲姫達が手間取っているところを、彼が手助けしてくれたって感じかしらー?」


「正解」


「やったー!」


「で、エリちゃんはどうしてセファン達と一緒にここにいるんだ?」


「ふふー、オルトくんなら大方の予想はついてるんじゃないー?」


「セファン達が騎士団に追われて危ないところを助けてくれて、俺達と合流するまで一緒に待っててくれたって感じ?」


「あは、正解」


「何なのこのやり取り……」


 少々面倒くさい問答だったが、取り敢えずお互いの状況は大体分かった。私は葉月の頭を撫でてやる。葉月は喉を鳴らしながら嬉しそうにした。


「で、ユーリよぉ。この色気ムンムンのねーちゃんは誰なんだ? 今朝はいなかったよな?」


「彼女はエリザベート。トレジャーハンターで凄腕の氣術使いだよ」


「へぇ、そこの坊主が副団長から逃げられたのはあんたのお陰か」


「坊主じゃねえ、セファンだ。副団長って誰だよ?」


「緑色の髪に細マッチョの副騎士団長だよ、セファン。副団長がセファン達のこと始末したって言ってたけど……会ってないのか?」


「あ、あいつか!! 超ヤベー奴! 俺殺されるかと思った!!」


「その副騎士団長とやらがファンファン達を殺そうとしてる現場にエリちゃんが運良く遭遇したんだなーこれが! で、ちょいと氣術使ってね、ファンファン達が死んだように見せかけて保護したってワケ」


「見せかけって、そんなことできんのかよねーちゃん?」


「エリちゃんって呼んで欲しいなぁー」


「……」


「エリちゃんって呼んで欲しいなぁー」


「……」


「エリちゃんって呼んで欲し──」


「わ、分かったよ! 見せかけって、そんなことできんのかよ……え、エリちゃん!?」


「はいよくできましたー! うんうん、できるよー。術でちょっとした即席の身代わり作るくらいならね」


「ぐぬぅ……」


 初対面の女性の名前をいきなりあだ名で呼ぶことに抵抗があったのか、ロベルトさんが疲れた顔でうなだれる。


「名前呼ぶくらいで何疲れてんだ? 坊主呼ばわりしといて自分もまだまだ子供じゃね?」


「うるせぇガキ」


「誰がガキだ!! このつり目野郎!」


「やかましい! 目つきの悪さじゃお前も大して変わらねえだろ!」


「あぁ!?」


「ちょっと、二人共喧嘩しないで!」


「ロベルト、大人気ないぞ。セファンも挑発するな」


 仲裁に入る私とオルトを見て、二人は引き下がる。お互いに睨み合った後、そっぽを向いた。オルトが全く何やってんだか、と小声で呟く。


「ところでエリちゃん、グランはどうしたんだ? 一緒じゃないのか?」


「グランとはこの町に入ってからは別行動してるのー。昨日会った時に一緒にいたのは、たまたま情報の擦り合わせしてたから。お互い別々で情報収集してるのよ。今グランがどこにいるのかは知らないわー」


「何だ、まだ仲間がいるのか? 大所帯だな」


「エリちゃんとグランは普段から一緒に旅してる訳じゃないよ。偶然この前で再開したんだ」


「へぇ。さっき情報収集してるって言ったな? 何の情報だ?」


「あ、そいやロッキーはアリオストの騎士さんなのよねー? ちょいと聞きたいことがあるんだけど」


「ロッキー!?」


「ロベルトだからロッキーで!」


「ロしか合ってねえ!! 別人になってるぞ!!」


「まぁまぁ。ここはロッキーでいこう、ロベルト」


「ユーリまで!?」


 オルトに肩をポンポンと叩かれるロベルトさん。完全にエリザベートのペースに呑まれている。


「エリちゃんが調べてるのはね、アリオストのクーデターとあとコンクエスタンスの実験場のことよ、ロベルトさん」


 流石にロベルトさんが可哀想になってきたので、私は彼にエリザベートへの質問の答えを返してあげる。するとロベルトさんはこちらを睨んだ……いや、普通に見ただけだが目つきが悪いので睨まれている様に見えた。


「あー、ロベルトでいいよ嬢ちゃん。あんがと。えっと、クーデターってのは四年前のあれのことか? あとそのコン何たらってのの実験場っていうのはさっきユーリが言ってたやつのことか?」


「そうだよ」


「で、エリちゃんはオレに何が聞きたいんだ?」


「ロッキーはコンクエスタンスのスパイがアリオスト中枢部にいるかもって話は聞いてる?」


「おう。ユーリから聞いた」


「ユーリ……あぁ、オルトくんね。えっとエリちゃんがロッキーに聞きたいのは、騎士団の中に怪しい人物がいないかなーってことなのよ」


「副騎士団長だ」


「ほほう? さっきの奴ね。その心は?」


「怪しい人物と密会してた。他の騎士達も見てる」


「それに俺を執拗にユニトリクへ送ろうとしてた。でも確証は無い」


「怪しい人物ねえ? どんな人なのー?」


「白髪で背の高い男だ。遠目で見ただけだからそれ以上は分かんねえけど」


「ふーん……?」


 エリザベートが首を傾げながら考える。何か思い当たる節でもあるのだろうか。


「エリちゃん、何か心当たりがあるの?」


「んーにゃ、その情報だけじゃ分かんないかな? まぁ今グランが頑張って調べてるから、副騎士団長さんのことも伝えとくわね」


「……皆さん、情報交換が終わったところで、取り敢えず場所を変えませんか? まだ追手が来るかもしれませんし、先ほどの光で私達の場所がわれている可能性があります」


「そうだね」


「でもどこに行ったらいいかしら? 町にはもう戻れないし……」


「じゃあアイゼン渓谷目指すか!? 元々そっち行く予定だったしな!」


「おいおい、こんな暗い時間に動くのは危険だって知らねえのかよ?」


「あぁ!? 俺別に弱くねーし怖くねーし! あんたは大人のくせに怖がりだな!」


「なんだと!? オレは忠告してやってんだよ! もっと脳味噌働かせて考えろやガキ!」


「こら、ロベルトもセファンもやめろ!」


「そうよ、喧嘩しないで!」


 またしても始まるセファンとロベルトの言い合い。なぜこうもお互いわざわざつっかかるのか。鋭い目同士が睨み合う間にオルトが割り込み、たしなめる。


「……はぁ、ユーリ、あそこ使うのはどうだ?」


「うん、俺もそれ思った」


「何か良いところがあるの?」


「ま、俺達の秘密基地ってことかな。まだ残ってるといいけど」


「秘密基地!? カッコいいな!」


「ではそちらへ早く移動しましょう」


 琴音が風太丸と白丸を消した。葉月が少し名残惜しそうにする。



「じゃあオルトくんとロッキーの秘密基地にレッツゴー!!」


「ちょ、エリちゃん声大きいわよ……」


「あははー!」



 こうして無事に合流した私達は、オルト達が昔作ったという秘密基地へ歩き出した。





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