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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第8章 第二の故郷にて
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第103話 再来

 キフネを発ってからかなりの日数が経った。いくつかの町を経由しながら山を越え谷を越え海を越えてアリオストへと辿り着く。


 俺はコンクエスタンスに指名手配されてしまい、顔が世間に知れ渡ってしまっているため八雲同様ローブとフードのお世話になることとなった。ただ、顔と本名は国際手配で広まってしまっているが、偽名と瞳の色が青に変わっていることは何故かバレていない。指名手配のきっかけを作ったと思われるキフネにあったケーキ屋の店員のツメが甘いのか、それともコンクエスタンスが本気で追う気が無いのかどうかは分からないが。


「はぁ、長かったわね!」


「うぉーーよーやく着いたな!!」


 幸いにも俺の正体は経由したどの町でもバレることなく、アリオストに入ってからも特にトラブル無しにヴォルグランツにこうして到着した。順調に行き過ぎて逆に不安なくらいだ。


「オルト、懐かしい?」


「まぁ……そうだね」


 ようやく目的地に辿り着いて嬉々として聞いてくる八雲に複雑な気持ちで返答する。ここは俺にとって第二の故郷であり、リアトリスとの思い出の場所であり、そして辛く悲しい記憶が残る場所でもある。リアトリスに飛ばされて以来全く足を踏み入れてなかったこの地に再び来れて、懐かしい反面切ない気持ちにもなった。


「あまり……無理はしないでくださいね」


 そんな心情に気がついたのか、琴音が心配げに話しかけてきた。


「ありがとう。大丈夫だよ」


 ひとまず思い出に浸るのは後にしよう。今はまずこの近くにあるらしいコンクエスタンスの実験場の情報を集めなければ。

 俺は気持ちを切り替え、周りを見回す。


「……なんか、雰囲気変わったな」


「そうなの?」


「首都ってだけあって賑わってるし、活気があるよーに見えるけど……オルトがいた時と違うのか?」


 不思議そうに聞いてくる八雲とセファン。


「なんて言うかな、言葉じゃ上手く言えないんだけど」


「「「?」」」


 なんとも言い難い妙な違和感がある。確かに賑わっているし、とても活気があるのだが……。何かが以前と違う。


「うーん、取り敢えず宿の確保と情報収集しようか」


「「はーい!」」


 違和感の正体を突き詰めるのは後にして、いつも通り宿探しをすることにした。昔の記憶を頼りに宿が集まる通りへと進んで行く。


「オルト、この町凄く綺麗ね! 建物とかもデザインが凝ってて見てて楽しいわ」


「あ、俺もそれ思った! 芸術はイマイチ分かんねーけど、オシャレな町ってのは分かる」


「今まで通ってきた町も私からすれば異国情緒あふれて興味深かったですが、ここはまた別格ですね。道も建物も人も洗練されている感じがして素敵です」


「あー、確かにそうかもね。ここにいた頃はあんまりそう思わなかったけど、他の国を見ていくにつれてヴォルグランツって結構小洒落たというか……綺麗な町ってのが分かったよ」


 ユニトリクもアリオストも文化が似ているので、町も似たような造りや建物になっていた。アリオストを出る前まではこの景色が普通だと思っていたのだが、飛ばされた当初は全く違う文化や食べ物に驚くことが多かった。


「よし、ここにしようか。セファン、琴音、頼むよ」


「あいよー。全く、俺以外全員追われる身とかマジ不便だな」


「ごめんな」

「ごめんね」

「すみません」


「あ、いや冗談だって。別にそんな煩わしく思ってねーからいーよいーよ」


 はは、と笑いながらセファンと琴音は手頃な宿へと入って行く。指名手配されてから俺は念のため偽名を使って宿を借りることもやめた。八雲も琴音も竜の鉤爪に追われているので、今は追手のかかっていないセファン名義で宿を借りている。琴音がついて行ったのは、セファンだけで行くと受付で子供扱いされて借りれないことがあったため、保護者として援護してもらうためである。ちなみにセファンには名字もミドルネームも無かったが、セファン・シルヴァス・グルジという自分で決めた名前で借りているらしい。

 俺と八雲は宿の入口のそばで待機していた。通行人がチラチラとこちらを見る。俺達はフードを目深に被り、顔が見えない様に俯いた。


「……この格好はこの格好で目立つわね」


「ローブ羽織ってフードもしっかり被ってって人はあんまりいないからね。しかも二人もいると物珍しいかも」


「オルトはローブ生活慣れた? 私はもうずーっとこれだから慣れっこだけど」


「だいぶ慣れてきたかな。多少動き辛いのと温度調節が難しいのが難点だね」


「でしょ? 宿に入ってローブから解放される時は本当にスッキリするわよね」


「そうだね……ん?」


「どうしたの?」


 隣で話す八雲と目が合う。


「八雲……背が伸びた?」


「え、ホント!? やったぁ!」


 以前は俺と話す時だいぶ八雲が見上げる形になっていたが、その角度がだいぶ緩和されている気がする。とは言ってもまだまだ身長差はあるので、八雲が上目遣いなことに変わりはないが。年齢が年齢なので、成長期なのだろう。


「この調子でオルトに追いつくわよ!」


「いや、それは無理じゃない?」


 そう言えば体つきも女性らしくなってきた様に見える。いや、誤解しないで欲しいが決してジロジロ体を見ている訳ではない。要するに、出会った当初はまだ子供だと思っていたのだが、旅を続けるうちにだんだんと大人へ近づいてきていたのだった。


「おし、バッチリ取れたぞー」


「任務完了です」


 セファンと琴音が宿から出てきた。無事に寝床が確保できたので、次は情報収集だ。俺達は繁華街へと向かう。

 エリザベートの話によると、ここヴォルグランツの少し北にコンクエスタンスの実験場があるとのことだ。詳しい場所が分かると良いのだが。





 ──そんな希望も虚しく、実験場に関わりそうな情報は全く掴めなかった。さすが裏の秘密組織だけあって、簡単に手掛かりは出てこない。昨日町についてから丸一日以上聞き込みを続けているが、全く手応えが無かった。

 今日も既に日が暮れかけており、収穫無しで終わりそうだ。成果が出ないことに落胆しながら、大通りの端にあったベンチに八雲とセファンは腰掛けている。


「はぁ、全然有力情報が出てこないわね。もう適当に北に向かって探してみる?」


「闇雲に探しても見つからないと思うよ」


「サンダーの鼻ならなとかならねーかな!?」


「私が風太丸と索敵に行ってきましょうか?」


「もし明日もダメだったら琴音、頼んでいいかな? 相手が相手だからかなり見つけるのは難しいだろうし危険も伴うけど」


「あれ、俺は無視!?」


 セファンをスルーしつつ琴音に頼む。彼女はコクリと頷いた。するとその時。


「……何かお探しかい?」


 後ろの方からしゃがれた声がした。振り向くと、そこには黒いローブを羽織った老婆が立っていた。腰は曲がり身長は俺の半分くらい、顔面は皺だらけで年季の入った杖をついている。目つきは悪く、口は不気味に笑っていた。


「あ、いえ……」


「この町の北の方に妙な建物って無いですか? 民家でも工場でもなんでも良いんですけど」


「ちょ、八雲!」


 怪しさ満点の老婆に臆することなく質問する八雲。もう少し警戒して欲しい。


「ほほぅ、妙な建物かい。……わたしゃ、この町に何十年も住んでるがそんなものは知らないねぇ」


「じゃあ、最近この町で変わったこととか起きてないですか? 何でも良いんですけど」


「変わったことかえ? 嬢ちゃん、何を知りたいんだい?」


「えっと……私達は世界で起きてる『異変』を追ってるんです。変な災害とか戦争とか、あとは神子の変化とか。ちょっとしたことでも良いんですけど、何かありませんか?」


「……この町は変わってしまったよ。神子はもう暫くいないし、それを信じる者もおらん。それに……アリオストという国自体がもうダメなんじゃ」


「どういうことです?」


「アリオストはもうアリオストではない」


「……?」


 意味深な言葉を発して老婆は俯く。俺と八雲は怪訝な顔をして目を見合わせた。


「……それよりも」


 老婆が口を開く。ゆっくりと、そして不気味に顔を上げ、目を見開いた。

 次の瞬間、突風が吹く。足元から俺の顔面に向かって強風が吹き抜け、被っていたフードを勢いよく退ける──顔が晒された。


「アッハァ! やっぱりそうだぁ!! お尋ね者のエルトゥールじゃないかぁ!!」


「!!!」


 俺の顔を見るや否や、老婆がしゃがれた声で高笑いしながら叫んだ。その大声に近くにいた人々が一斉にこちらを見る。


「ほれ、ここに指名手配犯がいるぞぉ! 捕まえろぉ! 見つけたワシと賞金は山分けじゃあ!!」


「逃げるぞ!!」


「ひゃー!」


「マジかよぉ!!」


 嵌められた。最初から老婆は俺の正体を疑って近づいてきたのだ。指名手配犯を捕まえた際の賞金狙いで。

 俺達はすぐさま踵を返して一目散に走り出す。周りの人々が反応して追いかけだした。

 直後、琴音が煙玉を投げる。


「今のうちです!!」


 放たれた煙玉は地面に当たると同時に煙幕を噴射し、辺り一面を灰色に染める。煙で人々の視界が遮られているうちに俺達は脇道へと入り、クネクネと何回も道を曲がって老婆のもとから離れていく。人々が俺の名前を叫ぶ声もだんだんと聞こえなくなってきた。


 しばらく走って人通りの少ない路地で立ち止まる。ここまで来れば大丈夫だろう。八雲は息を切らしていた。


「はぁはぁ……ま、まさかお婆ちゃんがあんなことするなんて」


「何だよあのババア! とんでもねーことしてくれやがって!!」


「一般人ならここまでは追ってこないでしょう」


「助かった、ありがと琴音」


 琴音は無言のまま、しかし少し照れ臭そうに微笑みながら頷く。


 そして琴音にお礼を言ったその時、背後に気配を感じた。




「──何をしている」







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