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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第7章 実験場
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第99話 フィオラの決意

 正気に戻った町人達の前でアレハンドロがフィオラのことを神子を言ったため、皆にフィオラが神子であることがバレてしまった。動揺する町人と涙目でオドオドしているフィオラ。


「あ、あわわわぁ。どどどどうしよう……わ、私が神子ってぇ、し、知られちゃいましたぁ。はわわわ……し、シンシアどうすればいいですかぁ……?」


「え、えっとですね……」


 フィオラとシンシアはどう対応すべきか分からず慌てている。


「……もういっそのことちゃんと公表しちゃえば?」


「「えぇ!?」」


 俺は町人からもらった縄でアレハンドロを縛りながらフィオラに提案する。フィオラとシンシアは目を丸くしてこちらを見た。


「最近は神子との関係が疎遠になって神子信仰自体が衰退してる。だから町の人達との距離を縮めてお告げをちゃんと聞いてもらうために、前に出てみたらどう? 実際そういう試みをしている神子もいるよ。それにもう既にフィオラが神子ってのはバレてるから隠すも何もないし」


「えええ……でもぉ……」


「キフネの町はコンクエスタンスの策略でだいぶ疲弊してる。神子として町に活気を取り戻すために、前に出てお告げの力で皆を導かないと」


「なるほど。突拍子もない発想ですが……確かにそうかもしれませんね」


「し、シンシアぁ……」


 モジモジしながらフィオラは周りを見た。町人達はざわついている。神子の正体を知ってしまい困惑している様だ。


「……ふむ。面白いことを言いますネ」


「「「!!」」」


 下を向くと、先ほどまで気絶していたアレハンドロが切った唇から血を垂らしながら不敵に笑っていた。


「おやおや、みなさんいい顔をしますネ。ちょっと一瞬気を失ってしまったみたいですが……こう見えて意外と丈夫なのですよ、私」


「……あんたには聞きたいことがある」


「ふむ、エルトゥール。そうでしょうネ。聞きたいことは山ほどあるでしょうネ? ですが残念ながら期待には応えられませんよ」


「手荒な真似はしたくないんだけど」


「拷問でもしてみますか? それも良いでしょう。コンクエスタンスの組織に仕える身として、情報を漏らしたりは決してしません。あぁでも……せっかく私を追い詰めたのです。良いことを教えて差し上げましょう。なんせ、私は慈悲深いので」


「……?」


 アレハンドロは一度下を向いて目を瞑った後、再びこちらを見上げた。


「ここでの実験は失敗してしまいましたが……アリオストは私の実験の成果でとてもいい感じに仕上がっていますよ。是非行ってみてください」


「アリオストが……!? 一体何をした!?」


「それは行ってのお楽しみですネ」


「……さっきユニトリクとコンクエスタンスに繋がりがあると言ってたな? どういう意味だ?」


「ふむ、それもお答えできませんネ。まぁでも何となく気づいているのではないですか?」


「……!!」


「……さぁ、お喋りは終わりです。そろそろサヨナラの時間ですネ」


「待て、まだ聞きたいことが……」


 その瞬間、アレハンドロの懐が光った。それを見て俺は血の気が引く。


「──!!!」


 咄嗟にすぐそばで見ていたフィオラとシンシアを抱えてアレハンドロから飛び退く。直後、アレハンドロの体が爆発した。


「ひええぇ!?」

「ひゃあ!」


 俺は氷の壁をアレハンドロ周りに張る。壁は爆炎と相殺し、炎を吸収しながら崩れた。爆発はすぐに収束する。周囲の町人も安堵の声をあげた。誰も巻き込まれた人はいない様だ。


「じじ自爆しちゃいました……」


「口を割るくらいなら死を選ぶ、ということですか……恐ろしい忠誠心ですね」


「二人共大丈夫?」


「「はい」」


 二人を下ろし、アレハンドロの方を見る。爆発で全てが吹き飛び、小さな塵しか残っていなかった。


「……となると」


 もう一人のコンクエスタンスの情報を持つ者、ケーキ屋の店員の方を見る。先ほど気絶させた場所で彼女は寝転がって──いなかった。


「!?」


 周りを見回してもどこにも彼女の姿は無い。


「……逃げられた!」


 失態だ。そんなに早く目覚めることはないと思っていたのだが、アレハンドロ同様彼女も結構頑丈だったらしい。俺は落胆する。

 するとその時、町人の一人が近づいてきた。若い女性だ。


「あの……」


「は、はいい?」


 話しかけられてフィオラが肩をビクッと上げる。


「さっき聞こえちゃったんですけど、あなたが神子様なのですか?」


「あ……え、ええっとぉ……」


 フィオラが助けを求める様にシンシア、そして俺を見た。俺達はフィオラに頷く。するとフィオラが困惑した顔をし、そして女性の方を向いた。


「……は、はいぃ。わ、わわ私が……キフネの神子ですぅ」


「! そうだったのですね!」


 すると女性の表情がぱあっと明るくなった。


「あの、私……神子様にずっと会ってみたかったんです! 昔、神子様のお告げのお陰で父と母が命を助けられてからずっと憧れていました! 感謝を伝えたくて、お仕えしたくて……でもなかなか家の都合でできなくて。だからお会いできてとても嬉しいです!」


「あ、は、はいぃ。いえそんな……とんでもないぃ」


「それに今、私達をキフネ病から救ってくださったんですよね!? よく分からないけど、皆憑き物が取れた様に身も心も軽くなりました!」


「はうぅ、で、でもぉ。アレハンドロを倒したのはぁ、こ、こちらのオルトさんですしぃ……」


「キフネ病を治したのはフィオラだし、フィオラのお陰でアレハンドロが倒せたんだよ」


「え、えぇぇ……」


 顔を真っ赤に染めて戸惑うフィオラ。若い女性は変わらず憧れの眼差しをフィオラに向けている。すると、老年と中年の男性二人も近寄ってきた。


「会話から何となく状況は分かりました。神子様、感謝致しますぞ」


「本当にありがとうございます。この町と人々はあなたに救われました」


 二人がお辞儀をする。


「あ、いえ、ええっとぉ……そ、そんな私は……」


「フィオラ様」


 シンシアがフィオラの肩を叩いた。フィオラとシンシアは目を合わせ、そしてフィオラは目を伏せた後深呼吸する。覚悟を決めた顔つきになったフィオラは男性と向き合った。


「……いえ、皆無事で何よりです。むしろここまで何もできずにすみませんでした。どうぞ頭を上げてください」


「神子様……」


「申し遅れましたが私がキフネの神子、フィオラ・フィオリです。こんな頼りない神子ですが……あなた方は私を神子と認めてくださいますか?」


「そんなとんでもない! 勿論です!」


「そうですとも!」


「どうか、私達を導いてください!」


 町人三人の言葉に、ガチガチに固まっていたフィオラの表情が少し緩んだ様に見えた。


 その時、小さな獣の走る音が聞こえる。


「……葉月!?」


 振り向くと、葉月がこっちへ走ってきているのが見えた。八雲達に何かあったのだろうか。しかしその表情から切迫したものは見受けられない。


「どうした葉月?」


 ジャンプして胸に飛び込んできた葉月を優しく抱きかかえる。


「キュ、キュキューキュ!」


「……な、何て言ってるんですぅ……?」


 真剣モードからオドオドモードに戻ってしまったフィオラが聞いてきた。


「分からない。八雲はちゃんと理解できるみたいなんだけど……八雲に何かあったのか?」


「キュ!」


 すると葉月は俺の腕から飛び降りて変化した。妖艶な女性だ。手にはサーベルを持っており、反対側の手で髪を弄っている。


「……誰だ?」


 葉月は再び変化した。ボロボロの姿の琴音だ。


「琴音がやられたのか!?」


 すると今度はセファン、そしてサンダーに変化する。どちらも怪我をしていた。俺はそれを見て青ざめる。


「皆やられた!? 八雲は無事なのか!?」


「キュ!」


 八雲に変化した葉月は笑顔でVサインを作った。どうやら八雲は無事らしい。それを見てホッとする。


「えっと……敵襲があって琴音とセファンとサンダーが怪我をしたけど、撃退して八雲は無事ってことか?」


「キュ、キュー!」


 元の姿に戻って嬉しそうに鳴く葉月。ということは八雲は今皆を治療中で、なかなか帰ってこない俺達を葉月が呼びにきたってことか。

 しかしまさか襲撃されたとは。琴音があそこまでやられるとは、かなり手強い相手だったのだろう。竜の鉤爪だろうか。


「え、えぇっと……や、屋敷に取り敢えず戻った方が良いってことですよねぇ……?」


「うん、俺はすぐ戻る。フィオラはもう少し皆と話しててもいいよ」


「い、いぇ……わわ私も行きますぅ……」


「分かった。急ごう」


「はいぃ」


 キフネの町人と神子のこれからについて話し合うべきことはまだたくさんあるが、ひとまず俺達は屋敷へと急いで帰ることにした。





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