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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第7章 実験場
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第97話 少年と鎧犬

 私とセファンは目を疑った。琴音が木から落下し、うつ伏せの状態で地面に倒れている。


「「琴音!?」」


 叫ぶが琴音は動かない。木の上でメルヴィが自身の左手から流れる血を舐めながら、妖艶に微笑んでいた。


「さーて、この高さから落ちちゃえば無事ではないでしょ。呆気なく死んじゃったかしら?」


「嘘……でしょ……!?」


「そんな……アッサリ琴音が死ぬ訳ねえよ!」


「ふふ、威勢が良いわね。でもそうしてられるのも今のうちよ? 次はおチビちゃん、あなたの番よ」


「誰がチビだ!!」


 メルヴィは目を細めてセファンを見ながら木から降り、華麗に地面に着地する。


「さて、その前にお楽しみタイムといきましょう。裏切者はどんな風に血をぶちまけてくれるかしら」


 そう言ってメルヴィはサーベルの先を倒れた琴音に向ける。舌舐めずりをし、どう斬ろうか思案しているらしい。


「な……やめて!!」


「くそ……そんなことさせるかよ!!」


 セファンとサンダーがすぐさま結界から出てメルヴィの方へと走りだした。この結界は外からの物質は遮断するが、中からは自由に出られる仕様になっている。


「あら、女の楽しみを邪魔するなんて無粋な男ね。じゃあお望み通りあなたを先に切り刻んであげるわ」


 メルヴィはサーベルを構え、そして向かってくるセファンへと跳躍する。


「サンダー!!」


「ワウ!!」


 セファンが叫ぶと同時にサンダーが巨大化する……と思いきや、サイズは一回り大きくなった程度で牙が伸び、頭部と背を覆う岩の鎧が出現した。


「あらそのワンちゃんそんなことできるの? 素敵な防具ね」


「ありがとよ!!」


 サンダーは加速し、メルヴィ目掛けて噛みついた。しかしその鋭利な牙は空を切る。メルヴィは軽々と身をかわし、横を通り抜けようとするサンダーを斬るためサーベルを振った。


「させねえ!!」


 突如サンダーとメルヴィの間に岩の壁が生える。振り下ろされたサーベルは岩に当たり弾き返された。


「あらやだ、刃こぼれしちゃったじゃない」


「うおりゃあぁ!」


 続いてセファンが飛び膝蹴りをかます。サーベルが弾き返されたことでできた隙をつき、メルヴィの懐へとキックが迫った。しかしそれはサーベルを持っていない左手で脚を掴まれることにより阻まれてしまう。脚を掴まれたままセファンは体勢を崩し、手を地面についた。


「ぐっ!」


「残念でした。さぁ、真っ赤な血を撒き散らしてちょうだい!」


 メルヴィがセファンへとサーベルを振り下ろす。その瞬間、石の針がメルヴィ目掛けて十本飛んできた。離れた位置からのサンダーの攻撃だ。メルヴィは振り下ろそうとしたサーベルを上げ、針を撃ち落とす。


「うおお!」


 直後、セファンは拘束されていない方の脚を勢いよく振り上げ、メルヴィの腹を蹴る。


「あう!」


 衝撃でメルヴィは左手を離し、セファンは解放されると同時にサンダーの方へ逃げた。


「やるじゃない。油断してたわ」


「せ、セファン凄いわ……竜の鉤爪幹部とちゃんと戦えてる……!」


 今までは巨大化したサンダーの上に乗ってサポートに徹していたセファン。だが今はサンダーと共にコンビネーションを駆使して敵を攻撃している。


「オルトに毎朝特訓つけてもらった甲斐があったな、サンダー!」


「ワウ!」


「……でもご愁傷様。その程度じゃ私には到底敵わないわね」


「ま、負け惜しみか!?」


「あら、そんな見苦しい真似私はしないわ。あなた自身、実力の差くらいもう分かっているでしょう?」


「ぐ……」


 メルヴィが少し目を鋭くしてセファンを見る。セファンとサンダーは姿勢を低くして構えた。セファンの頬を汗が伝う。おそらく恐怖を押し殺して戦っているのだろう。


「さあ、まずはワンちゃんの司令塔であるおチビちゃん。あなたから血祭りにしてあげる」


 メルヴィが掌をセファンに向けた。低音と共に衝撃波が発せられる。セファンはすぐさまジャンプして転がり、衝撃波を避けた。セファンがいた位置の地面が抉れる。


「うおおー怖えぇ! すっげえヒヤッとしたよ!!」


 メルヴィは衝撃波を発したと同時にセファンとの距離を縮め、そして次波を発射した。間近で衝撃波を見て怯んでいるセファンは避けきれない──その時サンダーがセファンの後ろ襟を咥えて引っ張る。


「ぐええ!!」


 サンダーのお陰で無事に衝撃波を回避したセファン。襟を引っ張られた衝撃で咳き込む。サンダーはセファンを見ながら鼻を鳴らした。


「げほ……あ、ありがとサンダー。ってかその攻撃本当に厄介だな。うぅ、何か耳が変だ。痛いし」


「お褒めに預かり光栄だわ。それにしても頭の良い忠犬ですこと。邪魔立てするならあなたから血祭りにしましょうか?」


「グルルル……」


 どうしよう。このままではセファンとサンダーが殺される。琴音もここからでは無事かどうかも分からない。頼みの綱のオルトはまだ帰ってこない。しかし私には状況をひっくり返すことができるだけの力が無い。


「お願いオルト……早く戻ってきて……!」


 その時メルヴィが踏み出した。今度はサンダーが標的だ。斬りつけようとしたがサンダーはヒラリと避ける。しかし次の瞬間、メルヴィが衝撃波を繰り出そうとした。それを察したセファンはそうはさせまいと後ろから殴ろうとする。


「ふふ、そうくると思ったわ」


「!?」


 セファンの動きを読んでいたメルヴィは振り返り、そして掌をセファンに向ける。衝撃波が放たれた。マズイ、あれは避けきれない。セファンは咄嗟に両耳を押さえた。


「ガウッ!!」


「あら」


「サンダー!?」


 サンダーがセファンに覆い被さり庇った。衝撃波がサンダーの背中に当たり、岩の鎧が砕け散る。鎧のお陰で体が粉砕されることは無かったが、あの衝撃波の威力だ。かなりのダメージだろう。サンダーは力なく倒れこむ。


「サンダー!? 大丈夫か!?」


「飼い主を守るために自ら犠牲に……泣けるわね」


「……ふっざけんなよ!?」


 セファンがメルヴィに殴りかかる。しかし怒りに任せた攻撃をメルヴィは余裕の表情でかわす。パンチをことごとく避けられ、セファン自身の疲労がたまっていくだけだった。


「さ、遊びは終わりよ。良い色の血を見せてちょうだい!」


「やなこった!」


 メルヴィはサーベルでセファンを何度も斬りつける。セファンはギリギリでかわしているが、だんだんと剣先がかするようになってきた。頬、首、腕、足、脇腹など各所に浅い切り傷が入り、血が流れる。


「いい感じになってきたわね。こうやってちょっとずつ傷つけていたぶるの本当にゾクゾクしちゃう」


「この変態め!」


「ありがと」


 セファンはメルヴィに完全に遊ばれている。

 するとメルヴィがニヤリと笑った。その直後、


「!!」


 セファンの額が割れ、血が噴き出した。


「セファン!!」


「痛ってええ!」


 セファンの顔と服が血に染まる。目にも血が入ってしまっていた。その姿にメルヴィはウットリとしながら舌舐めずりをする。


「ま、前が見えねえ……ってか何かフラフラする……」


「ふふ、何だかんだで結構出血してるもの。血が足りなくなってきた証拠ね。はぁ、良いわぁその姿。たまんない、最高。食べちゃいたい」


「遠慮しとく」


「あらん。また振られちゃったわね。じゃあそろそろ思いっきり血をぶちまけてもらおうかしら」


 蹌踉めきながら目を擦るセファンに向かって剣先を向けるメルヴィ。トドメを刺す気だ。


「セファン、逃げて!!」


「逃げられないわよ!」


「……くそぉっ!」


 鋭いサーベルのヤイバがセファンに迫る。セファンが真っ二つにされてしまう、そう思った時──





「!!?」




 突然、黒い物体がセファンとサンダーの体を攫った。それは空へと舞い上がる。



「「……風太丸!?」」



 嘴でセファンの服を咥え、足でサンダーを掴んだ風太丸が上空を飛んでいた。



「無様な姿をお見せしてしまってすみませんでした」



 聞き慣れた声がして私は視線を下げる。すると琴音がそこに立っていた。




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