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神子少女と魔剣使いの焔瞳の君  作者: おいで岬
第2章 竜の鉤爪〜target〜
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第9話 お嬢様炸裂

 昨日の道中はなんとも気まずかったが、取り敢えず町に着いて良かった。ここはシチミヤという町らしい。


「ようやく着いたね。とりあえず宿を探そうか」


「えぇ、そうね。ここまで長かったわ……はぁ疲れた」


 どうやら八雲の機嫌は直ったらしい。昨日はひたすら無視されたからな。まぁ俺が悪かったのだが。

 一昨日の夜の情景が脳裏に浮かぶ。八雲の肌はとても白く、腕や脚は細かった。まだこれから成長期を迎えそうな感じの子供さが残る体つきで、とても華奢だった。


 ……って、何考えてんだ俺は。八雲はまだ十四歳だぞ。


「それにしても、よく頑張ったね」


 八雲の頭を撫でてやる。八雲は恥ずかしそうな、嬉しそうな顔をした。

 正直、箱入り娘にしてはかなり頑張ったと思う。もし途中で音をあげたら契約解除かな、なんてことを考えていたのだが、ここまで来れるとは中々根性がある。


「オルト、あそこに地図があるわ」


 八雲が看板を指差す。そこに近寄って見てみると、シチミヤには何軒か宿屋があるのが分かった。


「ここにしましょ!」


 八雲が指したのは、町で一番大きな宿屋だった。……高級そうだ。取り敢えず実物を見てから泊まるか決めよう、と思いながら宿屋に向かって歩く。

 すれ違う人が時々こちらを見てくる。恐らく俺の服装がこの辺りでは珍しいのと、八雲の髪飾りが変わった形な上に高価そうだからだろう。


「お! いいじゃない。入りましょ!」


 目指した宿屋の前に来た。大きさも高級さもこの町一番の様だ。まぁ高級といってもシチミヤ自体がそんな大きな町ではないので、都会やリゾート地のものに比べれば劣るのだが。


「八雲、泊まるだけだしここじゃなくても良くないか?」


「えぇー良いじゃない。ここまで頑張ったご褒美よ! お金ならあるし!」


「ちょ、あんまそういう事大きな声で言うな。周りに聞かれてるぞ」


 八雲は何か問題でも? と言いたげな顔をする。


「あのなぁ……。自分の里でチンピラに追いかけ回されたの忘れたのか? 金持ってそうな人は狙われるんだよ」


「でもオルトがいれば大丈夫じゃない?」


「厄介ごとは無い方がいいだろ。それに俺がいない隙を狙われる可能性だってある」


「やだ! 今日は絶対ここが良い! 久々にフカフカの良いお布団で寝たいーー!」


 うわぁ、お嬢様モード炸裂だ。これだから箱入り娘は……。さっきは凄いと思ったのに、前言撤回だ。


「ダメだ。あっちにしよう」


「ヤダヤダヤダーー!」


 その時、人溜まりの方から怪しい視線を感じる。横目でそちらを見ると、茶色のローブを着た怪しい男がこちらを見ていた。フードを深めに被っている。


「……分かったよ」


「やったあー!」


 結局俺達はその宿に泊まることにした。

 手続きを済ませて少し休憩してから、町を散策する。


「わぁーー美味しそう! あ、あれ可愛い!」


 八雲ははしゃいでいる。初めて外の町に出てきたからか、疲れているはずなのにテンションが高い。


「オルト、はい!」


 八雲が食べ物を差し出してきた。小さな丸い玉が四つ、串に刺さっている。二人分買ってくれたらしい。


「これは?」


「みたらし団子!美味しいわよ!」


 今まで旅途中で買い食いすることがあまり無かったため、地方の菓子などについては知らないことが多い。勧められるままに食べてみる。


「うん、美味しいな。初めて食べた」


「でしょ?」


 八雲はニッコリと笑った。そして次は何食べようかなぁーと言いながら周りを見回す。


「あ、八雲ちょっとこの店寄るね。買い出しするから五分だけ待って。一緒に入る?」


「ううん、ここで待ってるわ」


「どこにも行かないでよ」


「はぁい」


 生返事をする八雲。本当に大丈夫かな、と思いながら俺は店に入る。

 旅に必要な消耗品を手早くカゴに入れてさっさと買い物を済ませた。二人分いるためお金も今までの二倍かかるが、一継さんからの送金があるためお金の心配はしなくて良かった。


 そして店を出る。……しかし元いた場所に八雲の姿が無かった。


「うわ、マジか」


 血の気が引く。さっきのローブ男の姿が頭をよぎった。


「まだ明るいのにもう仕掛けてきたか?」


 少しの焦りを感じながら辺りを見回すと、店の横の細い路地から猫の声が聞こえた。まさか、と思い覗き込んでみると──しゃがんで猫を撫でている八雲がいた。


「……八雲?」


「あ、買い物終わった?」


 俺はふぅ、と溜息を吐く。良かった、無事だった。

 撫でられている猫は気持ち良さそうにゴロゴロと喉を鳴らしている。


「終わったよ」


「じゃ、次はあっちのお店に入りましょ!」


 八雲は立ち上がって猫に手を振り、町中へと駆け出した。楽しそうだなぁ、と思いながら八雲を見守る。

 それからしばらく彼女の買い物に付き合い、宿に戻った。






「そろそろお風呂入って寝るわね。また明日! ちゃんと起こしてね」


「はいはい。おやすみ」


 宿は二部屋取ってある。食事を終え、後は各自風呂に入って寝るだけだ。八雲に挨拶して部屋を出ると彼女は鍵をかけた。


「さて……そろそろ仕掛けてくるかな」


 取り敢えず隣の自分の部屋に入り、風呂に入って明日の準備をする。ひと通りやる事を終えると、八雲の部屋側の壁に耳を当てた。


「……まだ大丈夫みたいだな」


 俺は八雲が部屋にいる事を確認すると、今度は部屋の扉を僅かに開けた状態にしておく。さらに窓も少し開ける。その状態で、剣の手入れをしながら時が来るのを待った。


 そして、待つこと一時間。


「……?」


 誰かこちらへ向かって来る。気配は一人だ。扉の隙間からそっと見ると、女性従業員だった。八雲の部屋に入っていく。


「……あいつ、ルームサービスでも頼んだのか?」


 特に怪しい人物では無さそうだ。俺は椅子に腰を下ろし再び手入れを再開する。

 するとすぐにまた別の気配を感じた。


「……来たな」


 複数の気配がこちらに向かって来ている。二人か。おそらく昼間のローブ男と仲間だろう。

 気配を殺して扉の隙間から様子を伺うと、二人の男がこちらへ歩いて来ていた。そして八雲の部屋の前で立ち止まり、鍵をピッキングで素早くこじ開けて一人、ローブの男が中に入る。もう一人は扉の前で見張りらしい。


「さて、行きますか」


 次の瞬間、八雲の悲鳴が聞こえた。それと同時に、俺は見張りに襲いかかる。手刀がクリーンヒットして男は崩れ落ちた。

 そして八雲の部屋の中に入る。そこには──頭から血を流して倒れている女性従業員とその傍に八雲、そして刀を片手に持ったローブ男がいた。涙目の八雲がこちらに気づく。


「! オルト!! 助けて!」


 声に反応してローブ男が振り向くと同時に、俺は彼のみぞおちに拳をお見舞いする。呻き声をあげてローブ男は倒れた。

 それを見て安心した様子の八雲。俺は彼女達の方へと近寄る。すると、八雲はハッとした様子で倒れた女性従業を見る。


「ごめんなさい、今治すから!」


 八雲は女性従業員に治癒能力をかけ始めた。


「ちょ、何してんだ!」


「何って……怪我を治してるのよ」


「馬鹿! 一継さんにも簡単に人前で使うなって言われてるだろ! そのくらいの傷なら術をかけなくてもすぐに治る」


「でも……!」


「へぇ……治癒能力があんのかい嬢ちゃん」


 後ろから、ローブ男の掠れた声が聞こえた。振り向くと先ほど倒れたはずのローブ男が立っている。彼はローブを脱ぎ捨てた。すると分厚い服の下に、鋼腹巻がチラリと見える。


「しまった……!!」


 俺は剣を抜き、男に斬りかかる。男は躱すが、剣は肩に擦りよろめく。その隙に首を狙って剣を突き刺そうとした。その時、


「ダメ!! 殺さないで!!」


 八雲の叫び声。その言葉に、俺は刺す直前で剣をつい止めてしまった。


「嬢ちゃん優しいね。サンキュ」


 その一瞬を利用して男は剣先から逃れ、煙幕を放つ。煙に巻かれる直前、男は口角を上げていた。


「クソっ!」


 部屋の中に煙幕が充満し、何も見えなくなる。俺はすぐに手探りで窓を開け、煙幕を逃した。

 すると、既にそこに男達の姿は無かった。


「八雲……」


「……ごめんなさい。でも、オルトに人を殺して欲しくなかったし、怪我をしている人を放っておけなかったの」


 八雲が泣きながらこちらを見る。


「……」


 八雲のしていることは人として正しい。しかし、その純粋な思いがこれから俺たちを苦しめることになるだろう。恐らくローブ男から八雲が治癒能力を持っているという情報が流れる。治癒能力を狙ってきっと色んな奴らがこれから襲いに来るはずだ。


「いや……良いよ。それより八雲は怪我大丈夫?」


「え、えぇ……私は大丈夫」


「今日はもう寝よう。明日は早朝に出発するよ」


 そう言って俺は気絶している女性従業員を抱え、部屋を出ようとする。取り敢えずこの人を宿の人に引き渡さなければ。


「あ、あの!」


「? どうした?」


 急に八雲が呼び止める。何事かと俺は振り向いた。


「その……ここじゃ怖くて寝られないから、そっちの部屋で一緒に寝たいな……なんて」


 涙目で顔を赤くしながら恥ずかしそうに言う八雲。先ほど襲われた所為で、一人で寝るのが怖くなってしまったらしい。

 俺は思わずクスリと笑ってしまった。


「分かった。じゃあこの人を宿の人に預けたら戻って来るから待ってて」


「うん!」


 八雲がホッとしたような顔をする。それを見て、何だか妹みたいで可愛いなぁなんて思ってしまった。

 何にせよ、これで金持ちを匂わせる行為には懲りただろう。




 従業員を引き渡して自分の部屋に戻ってくると、八雲は布団の上で既に寝息を立てていた。





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