プロローグ lost days〜消えない傷〜
あぁ何故、俺ばかりがこんな酷い目に合わないといけないのだろうか──。
雨の日の夜は、ふとこんな事を考えてしまう。それはあの日つけられた傷が疼いて嫌なことを思い出してしまうからだろうか。
背中にこの傷がつけられてから十年。もうそれなりの月日が経っているというのに、今だに雨の日の夜に一人でいるとこうして頭の中をグルグルと憂鬱な思いが巡る。
嵐が来ているらしく、窓に当たる雨音がだんだんと大きくなっていく。灯りを点けていない薄暗い部屋の中、鳴り響く雨音を俺は一人窓辺に座って聞いていた。
こうして一人孤独に考え事をすると、どんどんネガティブなことばかり思いついてしまうことは分かっている。精神的に良くないので、こういう場合は酒場の様な賑やかな場所に行って気分を紛らわした方が良いのだ。だが今は嵐で外出するには危険だし、そもそも行く気にもなれない。そして残念ながら寝ようにも寝付けない。
「はぁ、何なんだろうな」
脳裏に過去に見た地獄の光景が浮かぶ。死に物狂いで狂気から逃げて、やっとの思いで掴んだ平穏な日々もまた壊されて……。
俺が一体何をしたと言うのだろうか? ただ普通に暮らしていただけではないか。あの平和に暮らしていた日々の中では人に恨まれるような事なんてしていない……と思うのだが。いや、もしかしたら気づかぬうちに何かやらかしていたかもしれないが、ここまでの仕打ちを受けるような事はしていないと思う。……たぶん。
──では、何がいけなかったのか。
生まれた家がいけなかったのか?
俺の家系特有の、この燃え盛る炎の様に紅い焔瞳のせいなのか……?