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8.不幸の上に成り立つ幸せ

 ――聖女だって、言いそびれちゃった。

 デルタとゲイルがソザンヌ家に来るなら、カロリナに話しておくべきだった。


 でも、ここにいる間は、聖女でいたくなかったのだ。

 だからといって、隠し続けてきたのはいけなかったと反省する。


 すぐに私は、呼ばれるだろう。

 カロリナには部屋を出るなと言われたけれど、玄関へと向かう。

 そこには、デルタとゲイル――そしてジュレイルの姿があった。


「お待ちしておりました。我が屋敷に足を運んでいただけるとは、光栄でございます」

 ソザンヌ家の当主と思われる、風格のある男性がデルタ達に頭を下げる。

 横にいるカロリナも、当主と一緒に頭を下げていた。


「ときに騎士様。聖女様の姿が見えませんが」

「えぇ、そのことなのですが。今回立ち寄ったのは、俺達の聖女がここにいるからです」

 当主が尋ねれば、ゲイルが答える。


「騎士様……それってどういうことですの?」

 カロリナがもじもじしながら、上目づかいでゲイルを見つめた。


 『俺の聖女』という言葉は、告白の決まり文句だ。

 二十代前半でキリリとしたゲイルに、カロリナは心を奪われたみたいだった。

 完全に勘違いしてしまっている。

 

 出るタイミングを窺っていたら、ジュレイルと目があった。

 ジュレイルの視線の先に私を見つけ、ゲイルがこちらへとやってくる。

 見つかってしまったならと、私もゲイル達の方へと進んだ。


「お迎えにあがりました、聖女様」

 騎士のマントをひるがえし、正式な礼をとって、ゲイルが私の前に膝をつく。

 デルタも同じように、私の前で膝をついた。


「ありがとう2人とも。もう頭を上げていいわ」

「「はっ」」

 普段は私の保護者のような2人だが、公の場では私の方が立場が上だ。

 私を守るように、2人の騎士が側に控えた。


「お姉ちゃん……聖女ってどういうこと?」

「ごめんなさい、カロリナ。騙すつもりはなかったの」

 苛烈なまでの瞳で、カロリナが睨んでくる。

 やはり怒らせてしまったらしい。


「この屋敷に手紙を出したのは、私の騎士達よ。妹であるカロリナと、私を会わそうとしてくれたの。聖女とか関係なく、姉として扱ってくれたのが嬉しくて……ずっと言えなかった」


「嘘つき! 嘘つき嘘つきっ!」

 弁明した私に、カロリナはヒステリックに叫ぶ。

 狂気すら感じる様子に、その場の空気が凍り付いた。


「そうやってお姉ちゃんはいつも、私がほしいものを何てことない顔して、手に入れていくんだ!! 私がどんなに頑張って手に入れたものも、お姉ちゃんにとっては全然価値がないものなんでしょう!?」


「カロリナ、落ち着いて」

 手を伸ばせば、それを振り払われる。

 よろけた私を、ジュレイルが抱きとめた。


「ソザンヌ家の養子の件も、本当は気づいていたんでしょう!? 私があの日、お姉ちゃんを倉庫に閉じこめて、お姉ちゃんのふりをしてこの家にもらわれたってこと!!」

「えっ……?」

 私を倉庫に閉じ込めたのが、カロリナ?

 疑いもしていなかったことに、衝撃で言葉がでなくなる。


「ソザンヌ家の人達は私を引き取ってくれたわ! でも本当は皆、お姉ちゃんを望んでた! 精霊使いの家柄だから、お姉ちゃんみたいな子がほしかったんだって、何度も言われたわ!!」


「落ち着きなさい、カロリナ」

 なだめる当主の後ろに、精霊が出現したのが見えた。


『はじめまして、聖女様。僕はソザンヌ家と契約してる精霊だよ。僕の占いで、次の聖女はあなただって以前から知っていたんだ』

 水のような質感の鳥。

 目が合えば、私に話しかけてくる。


『聖女を家から出すことは相当な名誉だからね。幼い君をソザンヌ家に引き取り、先祖の不名誉で落ちぶれた家を復興させるつもりでいたんだよ』

 さらりと暴露された、養子縁組の事情。

 鳥の精霊は、とても人間くさい動作で肩をすくめた。


『けど連れてきてみれば、精霊は見えないし。おかしいと思ったら、君になりすました別人だった。慌てて本物の君を迎えにいったら、すでに教会に引き取られてしまっていたんだ。突き返すわけにもいかなくて、そのまま養子にしたの』


 しかし、カロリナはわがままし放題で 嫉みの感情が強かった。

 屋敷にいる精霊達に、悪影響を与えていたらしい。


『彼女はかけられた愛情に、報いることをしない。当然だと受け入れ、もっと欲しいと強欲にねだる。だから欲しいものを欲しいだけ与えて、適当に過ごさせていたんだよ。ちょっと不幸を感じただけで、強い絶望の臭いを振りまくからね』


 鳥の精霊の声は、カロリナには聞こえない。

 精霊は嫌そうに顔をゆがめ、その主である当主は何も言わなかった。


「なんで、どうしてお姉ちゃんがいつも大切にされるの!? この間まで、私幸せだったのに! 皆から大切にされて……お姉ちゃんさえいなければ、私幸せだったのに!」


 カロリナは、私への憎悪をはき出し続けていた。

 血走った目で、かみつくような声で、私をなじる。


 聞きたくなかった。

 そんなふうに思われていたなんて、知らなかった。

 耳をふさいで、目を伏せる。


 そのとき、パァンと乾いた音が響いた。

 顔を上げれば、ジュレイルがカロリナの頬を平手打ちしていた。


「なっ、なっ!?」

「お前の幸せは、リディの不幸の上に成り立つのだな。ならば、たとえリディの妹でも我の敵だ」

 戸惑うカロリナを睨みつけ、それからジュレイルが私の手を取る。


「行こう、リディ。ここは長居する場所じゃない」

「ちょ、ちょっとジュレイル!?」

 引っ張られていく私の後ろで、ゲイルとデルタが当主にお辞儀をする。

 こうして私のソザンヌ家での滞在は、幕を閉じたのだった。

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